『G』の再来 ③
アヴェンジャーの戦艦内。
ブリッジルームには数名のクルーが存在していた。
同じ服を身に纏い、表情一つ変えずに黙々と作業を進めている光景は何処か不気味さが漂う。
モニターには戦況が映し出されていた。
各地における激しい戦い、分布図、被害状況等……全てジエンスが監視をし、的確な指示を送り続けている。
「メシアの限界が、そろそろ見えてきたようですね」
徐々に優勢になっていくのを確認すると、ジエンスはそう呟いた。
「これ以上奴らが抵抗しないよう……圧倒的な力の差を、見せてあげましょう」
「システム稼働……パイロット共に異常はありません、いつでも出すことが出来ます」
クルーの一人がジエンスに応えるよう、そう告げるとジエンスは無言で頷いた。
「艦はそのまま進めてください……このままメシア本部へと、先行しましょう」
「了解です」
「ついにメシアが滅ぶ時が来ました。 この期に及んでもアッシュベルは姿を現さないとは、余程自分の身が大事なのでしょうね……。
ですが、奴が身を隠せるのも時間の問題……いずれ私が頂点に立った時、貴方は私の前に引きずり出されることでしょう」
ジエンスは不気味に微笑んだ。
その笑顔にはいつものような、老人の優しい笑みはない。
本性を映し出すかのように、本心に満ちた笑いが浮かんでいた――
突如出現した巨大な戦艦とアヴェンジャーの兵器の数々。
更なる進化を遂げた『G4』の出現により、メシアの戦況は一気に悪化した。
フリーアイゼンとスカイウィッシュ部隊では戦線の維持が困難となる中、『G4』の侵攻を食い止めていたが
晶は群青色のレブルペインの襲撃により、『G4』から強引に遠ざけられてしまった。
G4の性能は以前よりも遥かに増しており、一筋縄でいく相手ではない。
メシアが生み出した悪夢は、再びこの手で封印しなければならないのだ。
目の前に立ちはだかるレブルペインは、サーベルを抜刀し両手に構えていた。
ι・ブレードの機動力と危険察知があれば、レブルペインから逃れる事は簡単にできるはずだ。
無理に戦う必要はない……晶は自分に強く言い聞かせていた。
『さてさて、ここならばガジェロスの邪魔にもなりませんし……思う存分戦えますよ』
「シラナギさん、G3……いや、G4の事を知らないはずないですよね? 貴方だって、あのHAがどれ程危険な存在かわかっているはずです……
それでも、アヴェンジャーを正しいというんですかっ!?」
『その悪夢の兵器は何処から生み出された物ですか? 根源は全てメシアにあります、だからこそメシアは……危険なんですよ』
「そんなの屁理屈ですよ、自分が都合のいいように解釈しているだけですっ!」
『そうかもしれませんね……ですがそれは、晶くんにだって言える事ですよ?』
「――っ!?」
自分が都合のいいように解釈――
咄嗟に口にした言葉ではあるが、シラナギの言う通りであった。
晶は、今までずっとそのようにして戦い続けてきたのだから。
無理やり自分を納得させて、自分の正しさを貫こうとι・ブレードと共に戦っていく。
晶の中の『正義』が、揺らいだ瞬間だった。
だが、同時に頭の中からふと、ゼノスの言葉が過ぎった。
考えるな、戦え。
迷ったら俺を頼れ。
お前の道を俺が示してやる。
だから、ついてこい。
ゼノスは道を示してくれた、迷っている晶の背中を押してくれた。
晶の中に、迷いはもうないはずだ。
自分の意志を貫くだけの強さを、もう手にしている。
昔の自分とは、もう違うはずだ――
「……うおおおぉぉっ!!」
ι・ブレードが凄まじい速度で突進すると同時に、ムラクモを抜刀した。
ガキィィィンッ!! レブルペインのサーベルが、ι・ブレードの重い一撃を受け止めた。
ムラクモが弾かれると同時に、危険察知でレブルペインが一瞬にして間合いを詰めてくる映像が映し出される。
ι・ブレードは即座にブラックホークを二丁構えて、2発だけ放ち空高く飛び上がっていく。
『ようやく、その気になってくれましたか?』
だが、シラナギは予測をしていたのか待ち構えるかのようにレブルペインは上空に立ちはだかった。
「どけよっ!!」
同じようにι・ブレードは、ムラクモを抜刀した。
またしても金属音を響かせ、一撃が受け止められる。
グググッと晶は強引にムラクモでレブルペインを押し出そうと、スロットルを限界まで押し込んだ。
『ここは通しませんよ、どうしても通りたければ……貴方の強さを、私に示してください』
「俺の、強さ?」
『簡単な話ですよ、私と全力で戦って……勝てばいいんです』
ガァンッ! その瞬間、レブルペインは一瞬にしてι・ブレードを突き放した。
グラリと視界が揺れ、晶は機体のバランスを取り戻した瞬間に危険察知が発動する。
ι・ブレードへと向けてグレネードが投げ込まれた。
晶は咄嗟にブラックホークで撃ち落そうとすると、コックピットが青く灯る。
レブルペインが上空から急降下をし、飛び蹴りを放った。
ガァンッ!! コックピットに激しい衝撃が走る。
レブルペインの勢いが弱まることなく、そのまま加速を続け……ι・ブレードは地へと叩き付けられた。
「クッ……シラナギ、さん――」
『もう限界が来ちゃいましたか? その程度の力で、木葉ちゃんを守れるはずありませんよー?』
「力、力ばかり言って……何なんだよ、力がどうしたってんだよっ!!」
晶はムラクモを力強く振るうも、レブルペインに軽々と避けられてしまう。
だが、晶は怯まずにブラックホークを二丁構えて数発レブルペインに向けて発砲した。
「シラナギさんに勝てば木葉を、メシアを守れる力があるっていうのか? そうじゃないだろっ!?」
『そんな難しく考えないでくださいよ、私の望みはただ一つ……貴方との、決闘ですよ』
「け、決闘?」
『はい、フリーアイゼンの数々の危機を救ってきたエースの力、それを私に示してくださいって言うだけですよ』
「……シラナギ、さん?」
『うふふ、やっぱり血には逆らえないですね。 戦場で戦う貴方の姿を見てると、私の力がどれ程『ι・ブレード』に通用するか、試したくなるんですよ。
……どんなに綺麗事を並べても、私は戦う事が大好きなんですよ。 だから早く……貴方の本気を、見せてくださいよ。 そして本気になった貴方を、私が徹底的に潰してあげますから』
ゾクリ、と背筋に寒気が走った。
シラナギの言動や強さに恐怖を感じたわけではない。
同じような感覚を、つい先程感じ取った。
それは晶を圧倒的な力で落とそうと攻めてきた、あのレブルペイン……俊と戦うときと同じ感覚だ。
シラナギから放たれるプレッシャーと、俊と戦うときに感じたプレッシャーが見事に一致してしまった事に恐怖を感じた。
今目の前にいるシラナギは、もう晶の知るシラナギではない。
その時、コックピットが赤く灯った。
一回だけではない、晶から湧き上がる感情を察知したのか……或いは晶に語りかけているのか。
3,4度赤い光が、点滅するかのように光った。
「世界が再び混乱に陥るかもしれないって言うのに……何で、何でシラナギさん……アンタまでっ!!」
バギィンッ!! その時、晶のブラックホークがレブルペインのサーベルを打ち砕いた。
晶の中から怒りという感情が、湧き上がっていた。
だが、不思議と冷静さを保っていられている。
コックピットの光から温もりを感じた。
まるでι・ブレードが、晶の怒りを宥めてくれているかとさえ錯覚してしまう。
いや、もしかすると事実なのだろう。
「アンタもアイツと同じなのかよ……人を見下し、自分の欲を満たす為に他人を平然と見捨て傷つけるっ!」
『うふふ、相変わらず純粋な子ですね。 そういうところ、大好きですよ?』
レブルペインは砕けたサーベルを捨てて、もう一本のサーベルを両手で構える。
バァンッ! バァンッ! 晶はブラックホークをひたすら放ち続けた。
下手に接近をしてしまうと死角へ飛び込まれてしまう。
危険察知があると言えど、その特性を理解した者から見れば危険察知に攻撃を読ませる事さえ仕出かしてくる。
アヴェンジャーで今まで戦ってきたパイロット達は、そのような奴らばかりだ。
シラナギも例外ではない、性能面では劣っているはずのレブルペインでι・ブレードと渡り合えるほどの腕だ。
無闇に突っ込んで勝てるような相手ではない。
ブラックホークを放ち続ける中、カチッ……と、嫌な音が耳に飛び込んできた。
またしてもブラックホークの弾が切れてしまった。
その瞬間、レブルペインは一気に間合いを詰めて斬りかかってきた。
危険察知で見えてはいたが、決して映像の通りにはいかない。
晶は神経を尖らせ、レブルペインだけに集中した。
ガキィィンッ! コックピットが青く灯ったのを察して、晶は何とかレブルペインの一撃を受け止めた。
同時に、ゾクリと背筋が凍りつくような感覚に襲われた。
「な、なんだ?」
思わず晶は手を止めて、周りを見渡す。
……それは、シラナギも同じだった。
戦場ではHA同士による激しい戦いが繰り広げられている。
その上空を、一つの黒き巨大な戦艦が通り過ぎていく。
だが、注目すべきはそこではない。
巨大な戦艦から、何やら塔のような建物が戦場へと降ろされたのだ。
建物にしては妙だ、巨大ではあるが羽のような物に纏われおり、まるでその身を隠しているようにも見える。
ι・ブレードのコックピットが青く灯っていた。
何かを知らせようとしている。
晶が感じた寒気の正体は、あの巨大な塔みたいなものから感じられたのだろう。
『……あれは? 一体誰が――』
シラナギが言葉を漏らした途端、ふと巨大な建物の羽がその身を明かすかのようにゆっくりと開かれていった。
その羽は、まるで鳥が持つ翼のように美しく広げられた瞬間――晶は、ようやくそれが建物ではない事に気づいた。
「HA……なのか? あれ、が?」
翼に隠されていたのは巨大な胴体に巨大な腕と明らかに人型をしたロボット。
何十門と設置されている砲台の数々、王冠をイメージさせるようなヘッド部の装飾にレブルペインのような赤き瞳。
突如戦場の降り立った建物の正体は、紛れもなくHAだった――
G4に捕らわれたゼノスは、窮地に立たされていた。
逃げる術を失ったゼノフラムの前には、今も尚エネルギーを充電し続けるG4の姿。
至近距離で圧縮砲を受けてしまえば、とてもじゃないで無事では済まされない。
戦艦の主砲と同等クラス、いや下手したらそれを上回る火力を目の当たりにしたゼノスには、少しずつ焦りが見え始めていた。
頼りのラティアもサマールプラントに捕まってしまい、文字通り自分しか頼れる者はいない。
まさに絶体絶命の状況に至っていた。
『ゼノス……貴様の悪運もここまでだ。 いくらテメェの体内にE.B.Bがあろうが、ゼノフラムの大爆発の中を何度生き残ったとしても……圧縮砲から逃れることはできねぇ。
ゼノフラムもろとも、テメェを焼き尽くしてやるよ』
「……」
『どうした、テメェでも恐怖を感じる事があるのか? いつもみたいに言い返してみろよ……『俺は、諦めない』とかよぉっ!』
「その圧縮砲、フラムの技術をそのまま流用しているだろう。 アイツも鼻が高いだろうな、早速自分の技術が流用されたと今頃大喜びしているだろう」
『未乃 健三が言っていた、彼女はメシアが誇れる『天才』であるとな……だが残念だったな、メシア自らが生み出した新技術に……テメェは殺されてちまうんだからな』
「やはり未乃 健三が設計したか……しかし、圧縮砲の特性を知りながらも……何故そのような設計としたのか、考えていた」
『……何を言ってやがる?』
こうして話している間にも、圧縮砲のチャージは進められ続けている。
だが、ゼノスの表情からは不思議と焦りが消えていた。
「サマールプラントは複雑な設計な上に、胴体部では圧縮砲を実装する事が不可能だったのだろう……だからこそ、無理やり頭部にむき出しの状態で設置をした。
貴様の敗因は、その剥き出しにされた圧縮砲のエターナルブライトにある」
『敗因、だと? 笑わせるな……今更テメェに何ができるっていうんだ?』
「あるさ」
ニヤリと笑みを浮かべたゼノスは、コックピット内からバズーカを取り出し、コックピットのハッチを開いた。
その瞬間、ゼノスは俊敏な動きでバズーカを担ぎ外へと飛び出す。
圧縮砲の圧縮により凄まじい熱気と風が吹き荒れているが、パイロットスーツのおかげで何とか熱には耐えることが出来た。
あまり時間に余裕はない、ゼノスはコックピットからゼノフラムをよじ登っていき、G4のヘッド部を狙える位置へと移動する。
コックピットまでの退路を確保し、エネルギーの充電がされているヘッド部の圧縮砲へと向けた。
「フラムの技術を強引に取り付けたのが、仇となったな」
ゼノスはスコープ越しから狙いを定め、トリガーを引いた。
バシュゥゥンッ! バズーカから発射された弾が、真っ直ぐと圧縮砲へと向けて飛ばされていく。
それを確認すると、ゼノスは俊敏な動きでコックピットへと向けて戻った。
カッ―――
一瞬だけフラッシュのように白い光で視界が覆われた。
間に合ってくれ、ゼノスはそう願いながらコックピットへと飛び込んだ。
椅子へと飛び込み、ハッチを閉めた瞬間――ズガォァァァァァァンッ!! と、コックピットが激しく揺れる程の凄まじい爆発が引き起こされた。
圧縮砲は、エネルギーを充電している最中は荒ましいエネルギーが生み出される故に、外部から少しでも衝撃を受けてしまうとオーバーヒートを引き起こす危険性が高い武装だ。
フラムは長年に渡ってエネルギーを蓄積する方法を改良に改良を重ねて、ようやく実現されたのはゼノフラムの圧縮砲だ。
過去に起きた過ちを二度と起こさぬように、ゼノフラムに取り付けられた圧縮砲はある程度衝撃の対策がされている設計となっている。
故にコアとなるエターナルブライトを剥き出しにせずに、E.B.Bのようにまるでコアを隠すかのように内部へと取り込んでいた。
幸いG4の圧縮砲は急造だったせいか、そのような点が一切考慮されていない。
HAのコックピットには故障等のあらゆる可能性を考慮し、対E.B.B用の兵器と非常食等といったものを用意する事が義務付けられていた。
ゼノフラムも例外ではない、対E.B.B用のバズーカやライフル、グレネードといった武装がコックピット内に用意されていた。
小型専用のバズーカと言えどエネルギー充電中に、外部から衝撃を与えるには十分すぎた。
その結果、あの頑丈なG4は自ら取り付けた兵器により大爆発を引き起こした。
爆発に巻き込まれ、ゼノフラムのメインカメラが破損したのか、モニターの映像が途切れていた。
すぐにサブカメラに切り替えようとゼノスは操作を行う。
爆発によってゼノフラムを拘束していたサマールプラントは焼き尽くされていたが、ゼノフラム自身も無傷とはいかなかった。
何処が損傷しているかを把握すべく、チェックを始めるが……G4を前にしてそのような余裕はない。
『ゼノス……貴様ぁぁぁっ!!』
通信機からガジェロスの怒声が飛び込んできた。
再度モニターから映し出された映像は、既に半壊したG4の姿が映し出される。
だが、あの凄まじい耐久力を誇るG4の事だ。 まだ動くことはできるだろう。
「G4を捨てて投降しろ、命まで奪うつもりはない」
『テメェ……ふざけた真似をしやがって!! またしても生身で、貴様はぁぁぁっ!!』
「コックピットに武装を常備させるのは常識だろう、それを知らないというのなら学生からやり直せ」
G4から無数のサマールプラントが飛び出し、ゼノスは回避しようと操縦桿を動かすが操作が効かなかった。
どうやら爆発によって制御系に異常をきたしたようだ。
ブーストハンマーも使えない中、強引な移動手段は行えない。
身動きが取れない状態のまま、ゼノスはガトリングでサマールプラントを撃ち落し続けた。
半壊したG4は土煙を起こし、巨大な槍を片手にゼノフラムの元へと突進を仕掛けてきた。
『貴様だけは落とすぞ、ゼノフラムっ!!』
ガトリングで応戦をしようとしたが、カチッと嫌な音が響く。
ついにガトリングの弾まで切れてしまった。
二連キャノン砲で捕えようとしたが、土煙のせいで上手く照準を捕えることが出来ずに徐々に距離を縮められていく。
「まだそこまで、動けるとはな」
もはや打つ手はないか、とゼノスは身構えた。
バシュゥンッ!! その瞬間、目の前に青き閃光が走る。
突如G4から爆発が引き起こされ、動きが停止した。
ゼノフラムの背後には、レールガンを構えたブレイアスの姿があった。
『うおおおおぉぉぉっ!!』
上空からレビンフラックスが舞い降り、ブライトソードでG4の片腕を切り落とす
だが、同時に無数のサマールプラントが飛び出しレビンフラックスを拘束した。
『鬱陶しいハエが余計な事をしやがって……っ!!』
『私の妹に、触れるなっ!!』
バシュンバシュンッ! 二丁のレールガンがサマールプラントを撃ちぬいたが、またしても無数のサマールプラントが飛び出しシリアは身動きが取れずにいた。
『サマールプラントがある限り……俺はまだ戦えるぞ、ゼノス』
「……クッ」
人質を取られた以上下手に手出しをすることもできない。
おまけに武装のほとんどを失ったゼノフラムに戦う術はほとんど残されていなかった。
『ゼノス、貴方大丈夫なの?』
「……すまん、もう動く事はできん」
『圧縮砲も、使えないの?』
ゼノスは出力を確認すると、ゼノフラムの負荷は極めて限界が近い。
だが、上手く出力を制御すれば後一発は辛うじて放てるだろう。
「使える」
それだけ確認すると、ゼノスは簡潔に告げた。
『わかったわ……なら、私があの子を救い出す。 そしたら、貴方がG4にとどめを刺して』
「……了解」
今はラティアを信じよう、ゼノスはG4の動きに注意しつつ圧縮砲のエネルギーチャージを開始させようとする。
その瞬間、突如辺りが黒い影に覆われた。
ふと、ゼノスは寒気のようなものを感じ取った。
上空を確認すると、先程見た黒き巨大な戦艦が通り過ぎている。
戦艦からは、真っ白な巨塔のようなものが降ろされた。
『あれは……? まさか、あのHA――』
「HA、だと?」
ガジェロスが、確かに言った。
あの羽に覆われた巨大な塔のような建物を、HAと。
しかしHAにしてはサイズが大きすぎる。
ゼノフラムよりも遥かに巨大なHAは、まさに異様な存在感を放っていた。
G4が現れた時とは比較できない程のプレッシャーを感じ取った。
あれが……アヴェンジャーの切り札なのだろうか。
巨大なHAは着地をした途端、その身に纏っていた翼を開き始める。
美しい鳥のように広げられた翼の下からは、まさにHAだという事を証明するかのような人型兵器を姿を現した。
『ゼノス、テメェらにもう勝ち目はねぇ。 女王が降臨した以上、メシアは確実に滅ぶぞ』
「女王……あのHAの事か?」
『G4とは比較にならねぇ……最強にして最悪の兵器を、ついに奴は解放しやがったな』
「……」
ゼノスは、目の前に聳え立つ巨大なHAを見上げた。
ヘッド部に潜むレブルペインのような赤い瞳を目にして、思わず背筋に寒気が走る。
「最強にして、最悪の兵器……これがアヴェンジャーの、切り札……?」
巨大なHAの登場により、戦場が一時的に静粛に支配される。
翼を持つ女王の降臨に、誰もが驚きを隠せなかった。