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第18話 『G』の再来 ①


アヴェンジャーの拠点はもぬけの殻だった。

メシア本部を攻め落とす為、全戦力を惜しむことなく費やした。

拠点を守る必要はない、本部を奪い取ればそこが新たな拠点となるのだから。

事実上、破棄されたこの拠点には誰一人アヴェンジャーの人間は残っていない。

たった一人を、除いて。


拠点の地下深くにある監獄、アヴェンジャーの人間でもこの部屋の存在を知る者は少ない。

光もなく闇に支配された部屋は、僅かなランプで灯されているだけ。

食料も水もそこにはない、そんな場所に閉じ込められてから何時間程経過したのだろうか。

健三は、ジエンスの手によってこの監獄へと閉じ込められた。

今までジエンスに利用されていたことは承知の上だった。

しかし、あの男は健三の想像以上だったのだ。

ジエンスは本気で世界の指導者として立ち上がる為に、絶対的な力を手にした。

アッシュベルと対抗する為に用意した強力な兵器の数々は、当然ながら対メシアを想定しており……そう簡単に突破されるような代物ではない。

急いであの男を止めなければならない……だが、体は縄で拘束されており監獄も外から鍵で閉ざされている。

仮にこの監獄から脱出できたとしても、健三にはジエンスを止める術など存在しなかった。


ギギギギギギギギ

突如、監獄の重い扉が開かれる。

作戦は当に始まっているはず……今更誰がこの監獄に?


「ジエンス……か?」


視界がぼやけて、侵入してきた人物の顔がはっきりと見えない。

だが、白衣を纏った姿を目にすると……健三は途端に目を強く見開いた。


「ククク……ついに、見つけたぞ……健三君」


「貴様っ!」


監獄に突如姿を現した男。

それは、かの有名な天才科学者……『アッシュベル・ランダー』だった。


「君の後を追うのは中々大変だったよ、よくもまぁ私をここまで退けてきたものだ。

メシアにいながら、あのようなくだらない組織に身を売り……愉快な玩具まで用意したそうじゃないか」


「アッシュベル……貴様さえ、貴様さえいなければ明菜は――」


健三は、妻の名を呟きながらアッシュベルを睨み付けた。

あの男のせいで、未乃 明菜は――


「おっと、誤解しないでくれたまえ。 私は君を助けに来てあげたのだよ、いわば君は私の命の恩人だ。

何、あのような男の考えそうなことだ。 いずれ、こうなるとは分かりきっていた事だろう? 君もわかっていたのではないかね?」


「黙れ、貴様のせいでアヴェンジャーのような組織が生まれ、このような暴動にまで発展したんだっ!

貴様は何を企む……エターナルブライトで、何を成し遂げようと言うのだっ!?」


「ククク、誤解しないでもらいたいものだな……健三君」


アッシュベルはニヤリと笑みを浮かべ、健三に告げた。


「メシアの連中は、どうしても私を悪者に仕立て上げたいらしい。 奴らのおかげで、私は身に覚えのない事で人から恨まれるようになってしまったのだよ」


「何が言いたい……?」


「うむ、つまり人体実験を進んで行っていたのはメシアの連中の方だという事だ。 奴らはエターナルブライトの未知なる力を研究すべく、人をベースにした実験を繰り返し続けた。

彼らの目的は実にシンプルだ、エターナルブライトによって『究極の人類』を作り出そうと計画していたのだよ」


「究極の人類だと?」


「どんな病気にも打ち勝ち、どんな怪我も一瞬で治す。鋼の肉体を手にし、賢者のような英知を手にする。

というのがコンセプトだが……ま、簡単に言えば不老不死になりたかったのだろうな。

勿論、メシア全体がそんな愚か者ばかりではない。 あくまでも一部の阿呆が人体実験を繰り返しているだけだ」


アッシュベルの話は、思わず耳を疑いたくなるような事実ばかりだった。

だが、あの男の話は信用できない。

全てが真実だとは限らないのだ。

少なくとも、アッシュベルが『人体実験』を行っていたのは『事実』なのだから。


「上層部の奴らは何も知らないワケではない、その事実を知りながらも奴らは見て見ぬフリをしていたのだよ。 ま、中には本当何も知らない無能も混ざっているがね。

ジエンスという男もその事実を知っていたのだろう……メシアがいかにくだらない連中の集まりかというのをね」


「バカな……本当にメシアが率先して人体実験を……?」


「くだらんよ、何度やっても結果は同じだというのに懲りずに何度も何度も人をE.B.Bへと変化させる……余程、人類を進化へと導きたいようだな。

ま、そもそもな話……彼らは私の行ってきたことをサルのように真似てきたまでだ。 そういう意味でいうと、私が『キッカケ』になったという君の言い分は……正しいだろうがね」


「……その事実を私に話してどうする。 貴様は『悪』ではない、そう主張するというのか?」


「悪? ククク、君は昔から本当に面白い子だよ。 物事を全て善と悪で考える……ふむ、実に君らしいと言えば君らしいだろう。

だが、私には善も悪も存在しない。 私は私なのだよ、例え世間から恨まれようが大犯罪者として扱われようが、メシアの連中が私を陥れようと企んだとしても……どうでもいい、の一言に尽きる」


アッシュベルは、いつものような淡々とした口調でそう告げた。


「それはそうと、どうやらフリーアイゼンが君達の部隊と交戦中らしい」


「何だと……まさか、息子が――」


「今頃メシアでは、君の作った玩具で息子が必死でメシアを守っているだろう。 あのような、くだらない連中の為に……命を懸けて戦うか。

実に愚かしいな、親子揃って……君の言う『悪』の手助けをしてしまっているのだからな」


「……息子を侮辱するなっ! あの子は自分の信じる『正義』に従い、その信念を貫こうとしているだけだ。 それの何が悪いっ!?」


「敵の身でありながら息子を信じるか、やはり君達は実に面白い親子だよ。 おっと、こうしてのんびりしている時間はないな……」


健三の額に、銃が突き付けられた。

縄で拘束された状態では、この男から逃れる事は出来ない。

抵抗もせずに、健三はただアッシュベルを睨み付けていた。


「長年私から逃れ続けてきたようだが、それも今日で終わりだ……来てもらうぞ、未乃 健三」


やむを得ないか。

健三は抵抗せずに、大人しくアッシュベルの指示に従った。









アヴェンジャーの部隊は、その勢いが衰えることなく次々とその数を増やしていく。

フリーアイゼンとスカイウィッシュ部隊で、何とか戦線を維持させていたものの、徐々に数で押されていった。

最前線でι・ブレードが必死でアヴェンジャーのHAを切り裂いていく。

敵部隊が所持するロングレンジキャノンは、ι・ブレードの活躍もあってすぐに破壊された。

だが、それでも劣勢である事には変わりはない。


「クソッ……何て数なんだよ、あいつらどれだけの戦力を抱えていたんだ?」


『増援が欲しいところだが、今の本部の状況では厳しいだろうな』


「俺達で何とかするしかないのか……」


ゼノスと通信を交えている間にも、敵機の弾丸の嵐はι・ブレードへと襲い掛かる。

敵の激しい猛攻が続き、危険察知が間に合わない程の凄まじさだった。


『晶、あれを見ろ』


「あれは……戦艦っ!?」


モニターに映りこんだのは、ソルセブン程の大きさを誇る真っ黒な戦艦だった。

恐らくメシアの物ではない……アヴェンジャーが保有する戦艦だろう。

戦艦からは次々とレブルペインやウィッシュといったHAが出撃していく。

晶はその光景を目の当たりにして、顔が青ざめていた。


『……G3』


「G3? 何言ってるんだよ?」


『晶、圧縮砲を使う。 援護を頼むぞ』


「あ、ああ……」


晶はゼノフラムの姿を確認すると、頷いた。

ゼノスは確かに言っていた、『G3』と。

当時に記憶はうろ覚えではあるが、『G3』はゼノスが破壊したはずだ。

モニターに映るアヴェンジャーのHA軍に交えて、一つだけ目立つ巨体なHAが聳え立っていた。

晶が確認しようとした途端――


『圧縮砲、撃つぞっ!』


ズガァァァァァァンッ!! ゼノスの掛け声と同時に、ゼノフラムから真っ赤な光が地面を抉り一直線に突き進んでいく。

あっという間に多くのHAが圧縮砲によって吹き飛ばされ、辺り一面が砂煙で包まれていく。

煙が徐々に晴れていく中、圧縮砲の射程上に……無傷で立ちはだかるHAの姿があった。

いつか見た何十枚にも重ねられた分厚い装甲……どこかで見た覚えがある。


「……G3、なのか?」


しかし、細部は若干異なっている。

緑色から紫色に塗り替えられた配色に頭部に埋め込まれている赤い鉱石……まるでE.B.Bのコアのようにも見えた。

突如、巨大なHAの額が赤く輝き始めた。

光は徐々に強まっていき、額のコアは眩しい程輝き出す――


『あれは、圧縮砲っ!?』


「なっ――」


ズガァァァァァンッ!!

ゼノスが叫んだ途端、巨大なHAから真っ赤な光が槍の如く、突き進んでいく。

地面を抉り草木を焼き尽くし、敵味方機もろとも容赦なく吹き飛ばされていった。


「な、なんだ……どういう事だよ?」


晶は思わず呆然としてしまった。

ゼノフラムがやっとの思いで積み込んだ『圧縮砲』

それをいとも簡単に、敵のHAが放って見せたのだ。

あの技術はフラム博士が何年も時間をかけて完成させたはずなのに。


「ゼノス、ゼノスっ!? ど、何処だよ……何処行ったんだっ!?」


気が付いたら、ゼノフラムの姿がどこにも見当たらなかった。

あの光に巻き込まれた後……突如姿を消してしまったというのか。


『ゼノフラム、テメェはもう時代遅れの古い機体だ。 悪いがテメェらに、この『G4』を打ち破る事はできねぇ』


「お前は――」


忘れるはずがない。

ι・ブレードのコックピットから聞こえてきた声は、あの『ガジェロス』の声だった。

やはり、あれは『G3』……いや、彼は『G4』と言っていた。

どちらにせよ、あの機体が『G3』の復元である事は間違いなかった。


『ι・ブレード……今日はテメェを生け捕りにする気はねぇ。 悪いがその機体もろとも、死んでもらうぞ……クソガキ』


「……誰が、誰がお前なんかにっ!」


晶はムラクモを抜刀し、G4へと向けた。


『下がれ、晶っ!』


同時に、ゼノスの声が飛び込むと――ガァァァンッ!! と、激しく金属音が鳴り響く。

上空からブーストハンマーと共に、ゼノフラムが突進してきたのだ。

だが、G4は平然とブーストハンマーの一撃を受け止めて見せた。

そして、背中から無数のサマールプラントが飛び出す。

触手のような気味の悪い兵器は、相変わらず健在のようだ。

無数のサマールプラントは以前よりもスピードが増している。

周りの味方機を容赦なく破壊し、ゼノフラムやι・ブレードにもサマールプラントは襲い掛かってきた。


「クッ……また、こんなものをっ!!」


危険察知を駆使し、晶はムラクモでサマールプラントを切り裂く。

だが、サマールプラントは次から次へと襲い掛かってきた。

晶は振り切ろうと全力で空を駆け廻り、サマールプラントを凌いだ。

そこで地上のゼノフラムがサマールプラントに捕えられている姿が目に飛び込んだ。


「ゼノス……今、助けるっ!!」


ムラクモを構え、晶はι・ブレードを急降下させる。

グググッ、と強いGに襲われながらも必死で耐え抜いた。


「うおおおおぉぉっ!!」


ガキィィィンッ!!

ゼノフラムを拘束していたサマールプラント共に、晶はG4を切り裂いた。

だが、G4は表面上が軽く傷ついただけだ。


『目障りだ、消えろっ!』


G4は巨大な右手をι・ブレードへと向けた。

指が5本砲台のように開かれている。

晶が身構えようとすると、危険察知が発動した。

その映像には、あの指の砲台から真っ赤な槍のようなものがまとめて突き出される映像が打ち出された。

サマールプラント……のように見えるが、先程のよりも遥かに太く鋭い槍のように見えた。

ブラックホークを構え、晶は襲い掛かってくるサマールプラントを撃ち落そうとする。


バァンッ!! ブラックホークの弾丸が、サーマルプラントの先端をグニャリと曲がらせた。

だが、サマールプラントの勢いは止まることなく晶はやむを得ず再び空へと逃げる。

残りのサマールプラントに囲まれると晶は思い切りムラクモを振り回した。

ガガガァンッ! と金属音が響いたが、サマールプラントが壊れる事はない。


「何だよこれ……どうすりゃいいんだっ!?」


ガァァンッ!! すると、晶の目の前にブーストハンマーが通り過ぎた。

5本のサマールプラントがグニャリと変形させられると、蛇のように後ずさりをしてG4の元へと戻っていく。


『G3は以前にも増して武装が強化されているようだ』


「アイツを止めるにはどうすりゃいい?」


『動力部を狙う、攻撃を一点に集中させる。 行くぞ、晶』


「ああ、わかった!」


晶が力強く返事をした途端、ゼノフラムはガトリングを放ちながらG4の元へと急降下していく。

続いて晶はブラックホークを構えて、G4の動力部を狙おうとした。

その途端――危険察知が作動する。


突如、群青色のHAがι・ブレードに襲い掛かってきたのだ。

形状はレブルペイン……だが、ところどころカスタマイズされているように見える。

ガキィィィンッ!! 晶は咄嗟にムラクモで、レブルペインの一撃を受け止めた。

レブルペインはブーストを噴かせ、容赦なくι・ブレードを押し出そうとする。


「クッ……邪魔を、するなっ!!」


晶はググッとスロットルを押し込むと、ι・ブレードはその場に強く留まり、何とかレブルペインを弾き飛ばして見せた。

同時に――コックピットから青い光が発せられる。

次の瞬間レブルペインからグレネードが投げ込まれた。


「なっ――」


ズガァァァァンッ!! ι・ブレードは爆発に巻き込まれ、地上へと突き落とされた。

幸い上手く着地できたおかげで、機体の損傷は避けられた。

ズキンッ……またしても頭痛が襲い掛かり、レブルペインがサーベルで仕掛けてくる。

晶は後退し、ブラックホークをレブルペインに向けて数発放つ。

だが、レブルペインは軽々とブラックホークの弾を避けて距離を詰めていった。


『……少しは出来るようになったんですね』


「その、声は――」


ガキィィィンッ!! 晶はムラクモで、レブルペインの一撃を受け止めた。


「シラナギさんっ!!」


『また逢っちゃいましたねー、元気にしてますかー?』


「木葉を返せよ……何で、攫ったんだっ!!」


『言ったはずですよ、貴方に木葉ちゃんを任せる事はできませんと』


「ふざけるなよ……守りたい気持ちは同じだろうがっ!!」


『違います、晶くんはただ……ひたすら木葉ちゃんを、傷つけているだけですっ!』


レブルペインはι・ブレードを弾き飛ばし、背後へと回り込んだ。

危険察知で先を読んだ晶は必死で一撃を受け止めようとするが、呆気なくレブルペインから一撃をもらってしまう。

ガァァンッ! 強い衝撃がコックピット内へと襲い掛かった。


「シラナギさん……クソ、俺は……俺はぁぁっ!!」


自分の知るシラナギは、もうそこにはいない。

今目の前にいるのは、メシアの敵……メシアを裏切った『シラナギ』なのだ。

晶は自分に強く言い聞かせ、戦う事を覚悟した――


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