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     歪んだ感情 ③


ある日、少女は不思議な老人と出会った。

少女はとある施設に引き取られ、施設内に閉じ込められて生活を送っていた。

そこはメシアが秘密裏に作り上げた隔離施設、エターナルブライトによる治療を受けた子供達が集う施設だった。

エターナルブライトによる人体実験はこの施設を中心に進められ、子供達はまるでモルモットのように実験材料として消費され続ける。

E.B.Bへ化してしまう子供、或いは体の一部がE.B.B化してしまった子供、コアを失い死んでしまった子供……たくさんの被害者が日々生み出され続けた。


施設内に友達はいない、他の子供は一緒に遊ぶことが多いが、少女は一人で不気味に笑い続けるだけだ。

研究員は彼女の事を忌み嫌う、いつも不気味に笑い何を考えているかわからず、時には不思議な言動で相手を惑わせる不気味な少女。

突然発狂したかのように叫んだかと思えば、今度は赤ん坊のように泣き喚き暴れまわり、施設内を荒らしまわった事もある問題児。

施設内の子供からも怖がられ、誰一人近づくことはない。

サンプルとしてデータの採集は十分に行われた、もうあの子に用はない。 殺してしまえ。

研究者の出した結論は、残酷な一言だった。

彼女を必要とする者は、誰もいない。

両親に捨てられた少女が殺されても、誰も悲しむ者はいないのだ。


そんな残酷な未来が待っている事も知らず、少女は一人でニヤニヤと笑みを浮かべ、施設内をブラブラと歩き回っていた。

少女はふと、足を止めた。

施設内では見たことがない背の高い男を目にした。

白髭に覆われた顔に目が見えない程深くかぶった真っ黒な帽子、少し長めの杖を片手にゆっくりと歩み寄る。

気品のある動作から、何処か執事を連想させる老人は、帽子を脱いで丁寧に頭を下げた。

何処からどう見ても普通の老人ではあるが、少女は感じていた。

この老人は何処か普通ではない、とても不思議な力を持っていると。


「おや、私の顔に何かついておりますかな?」


「うん、真っ白なお髭。 手入れが大変だよね、私が一本残らず毟り取ってあげるよ」


「ホホホ、それはなりませんな。 これは私のいわばトレードマークのようなものでして。 これがなければ、私の友人が私に気づかなくなるかもしれませんぞ?」


「いい、気づかれなくていい。 皆から無視されちゃえ。 誰にも気づかれずに、必死に声を荒げて存在をアピールするの。

私は、ここにいるよ。 気づいて、気づいて。 ねぇ、気づかないの? ねぇねぇ、気づいてる?

ううん、気づかないよ。 だって私はここにいないんだもの、だから皆、気づかないの。 アハハ、アッハッハッハッハッハッ!!」


少女から発せられてるとは思えない、奇声のような笑い声が施設中に響き渡った。

通り過ぎていく施設の人間は、誰一人振り返らない。

むしろ、また始まったのかとうんざりとした表情を見せる者さえいる。


「……貴方はご両親に捨てられました。 だから、この施設に閉じ込められているのです。

このまま閉じこもっていては、ご両親は貴方の声に一生気付く事はございませんよ?」


「ママ? ママが来ているの? ママ、ママッ! ねぇねぇ、ママがいるの? ねぇっ!」


老人が『両親』という単語を口にした途端、少女は血眼になって老人へとしがみ付き叫んだ。

だけど、老人が口に出す前にすぐに気づいてしまった。

母親はここにはいない、決して迎えに来てくれないだろうと。


「貴方はまだ幼い、故にご両親を求め続けている。 それは子供としては当然であり、貴方が持つ当たり前の願いなのです。

何故、貴方が捨てられたのか? それはもう、貴方はただの『人』ではなくなったからなのですよ」


「ううん、違う。 私は私だよ、貴方の言うように『人』でなくても……私は変わっていない。 ママは、それに気づいていないだけ」


「これはこれは……中々面白い。 是非、私も貴方を見習わなくてはなりませんな」


「ねぇねぇ、どうすればママは気づいてくれると思う? 私、ママに気づいてもらいたいの」


「うーむ、難しい質問ですね。 答えになるかはわかりません、ですが貴方に道を用意する事はできます……どうです、私の元で働きませんか?」


「はたらく……働くって、何? ねぇ、どうすればいいの?」


老人をゆっさゆっさと揺らしながら、少女は必死で訴える。

大好きな母親の顔を浮かべながら、ニヤニヤと不気味な笑顔を浮かべて。


「そうですね、簡単に言えば悪い人をやっつける仕事ですよ。 いいですか、例えばこの施設にいる研究員……この方々は貴方のような不幸な子供を生み出した元凶です。

彼らは放っておけば、ますます貴方のような不幸な人間が増えてしまう……ならば、悪い事をする前に始末してしまえばいいのです」


「始末? 具体的には、何をすればいいの?」


「貴方はHAに乗って……私と共にメシア……いえ、アッシュベル・ランダーと戦ってほしいのです。

子供である貴方にこのような事を依頼するのは、とてもおかしなことではございますが……今の私に、それ程余裕は残されていないのですよ」


「戦う? それって、いっぱいいっぱい悪い人と戦って、強くなればいいってこと?」


「その通りです。 賢い子でとても助かりますよ」


老人がニッコリと微笑むと、少女も同じように笑う。

抑えきれなくなった少女は、再度発狂したかのように奇声を上げて笑い始めた。


「私ね、ママにずっと愛され続けてきたの。 なのにママは、私は私なのに、私に気づくかなくなって……私を愛さなくなった。

今度きっと、私がママを愛する番なの。 だから私、ママを愛してあげたい。 ねぇ、ママを愛してあげるには、どうすればいい?」


「愛ですか? 老人の私めには、厳しい質問ではございますな……相手が気づかないのであれば、一方的に感情をぶつけるのも手の一つとも言えるでしょう。

例えばお互い意識をしない男女がいたとして、男性が女性に好きだという感情をぶつけた時……ひょっとすると、女性の感情が揺れ動くかもしれませんぞ」


「戦って戦って戦い続けて強くなれば、ママは愛してくれるの?」


「ホホホ、きっと笑ってくれますとも。 さあ、私と共に……世界を変えるのです。 悪しきメシアを滅ぼし、世界に真の平和を取り戻すのですよ」


「強い、強い人、ママが好き。 ママ、愛する強い人。 強い人……好き、好き。 ウヒヒ……ママ、愛してあげる。

私、強い人といっぱい戦って、いっぱいいーっぱい愛してあげるからぁぁぁっ! アハハ、アッハッハッハッハッハッハァッ!!」


少女……『フィミア・アミネス』が戦闘狂へと変貌した瞬間だった。

ただひたすら『愛』に飢え『愛』を求め戦い続ける。

いつしかフィミアは母親の事を忘れ、強い人間と戦いを交える事に固執していた。









アヴェンジャーの大群が押し寄せる中、上空を凄まじい速度で駆け抜けて行く一機のHAの姿があった。

飛行形態へ変形したレビンフラックスは、空から敵を惑わすように攻撃を仕掛け続ける。

ライフルの嵐を浴びながらも、華麗に回避をし続けて被弾を免れていた。


「なんちゅー数だよ……さっきよりも増えてんじゃねぇかっ!」


凄まじいGが体に襲い掛かるが、シリアは速度を落とすことなく回避へ専念する。

やはり上空と言えど単機での突撃は無謀すぎた、一度立て直そうとシリアは下がろうとした。

その瞬間……ゾクリと背筋に寒気が走る。

映像通信を告げる音が、コックピット内へと響き渡った。


「あいつ……いい加減にしろよなぁぁっ!!」


ガンッとボタンを叩き付けるかのように、シリアは映像を受信する。

やっぱりか、と言わんばかりに赤いドレスを身に纏ったフィミアの姿が目に入った。


『アッハッハッハッハァッ!! よかった、ちゃんと戻ってきてくれたぁっ!!

そうだよね、お姉さんと私は運命の赤い糸で固く結ばれているんだもの……ウヒヒ、たっぷりたっぷり……愛してあげるからぁぁっ!!』


「悪いけどな、お前に逢いに戻ってきたワケじゃねぇんだっ! いい加減テメェも痛い目に逢わないとわかんねぇらしいからな……アンタを、叩き潰すっ!!」


飛行形態を維持したまま加速を続けると、背後にはトリッドエールが凄まじい速度で近づいてくる。

例の巨大なサーベルを片手に追いかけてくる様子は、まさに恐怖そのものとしか言えない。

だが、シリアはいつまでも逃げ続けるつもりはなかった。


「これでも食らいやがれぇぇっ!」


シリアは機体を宙返りさせると同時に、無数のミサイルを放った。

同時に人型へと変形させ、新しく補充したサーベル2本を合体させて一つの大剣へと変化させる。

バンバンバンッ! と、あっという間にミサイルが撃ち落されると、トリッドエールは巨大なサーベルを片手に猛スピードで突進を仕掛けてきた。


『ねぇねぇ、私の愛を受け止めて見せてよ……ウヒヒィィッ!!』


「さっきみたいに剣は折らせねぇぞっ!」


トリッドエールがサーベルを振るうと同時に、レビンフラックスはサーベルを力強く振るう。

ガキィィィンッ! 金属音が響き渡り、火花が散る。

トリッドエールの速度とサーベルの凄まじい回転刃に、レビンフラックスはサーベルごと吹き飛ばされた。


『ウヒヒ、お姉さん好き……大好き大好きぃぃぃぃっ!!』


無防備となったレビンフラックスにライフルが向けられる。

シリアは何とか凌いで見せようとスロットルを限界まで押し込む。

その間に、ライフルから無数の弾が乱射された。

辛うじて回避の間に合ったレビンフラックスは飛行形態へと変形し、トリッドエールの背後へと回り込んだ。


「恋愛したいんなら、アタシじゃなくてもっとマシな相手選べってのっ!」


『ウヒヒ……こんなの凄く、久しぶり。 私の愛がここまで抑えきれないなんて……やっぱりお姉さんは、運命の人なんだねっ!』


ブォンッ! 巨大なサーベルが振り回されると、シリアは即座に下へと回り込んだ。

サーベルが弾き飛ばされる以上、下手に飛び込んでしまえば返り討ちに逢うのは目に見えている。

だからといって遠距離であの速度に狙いを定めるのは至難の業。

だが、今は攻めるしかないとシリアはトリガーを引いた。

バァンッ! バァンッ! 2発の銃声が響き渡ると、トリッドエールはくるりと宙で踊るかのように弾を回避する。

同時に、銃声が響き渡り容赦なくライフルも弾が襲い掛かる。


少しでも気を抜けば落とされかれない……あのパイロットは言動こそ不可解であるが、腕は確かに本物だ。

しかし、機体の性能は決してレビンフラックスは劣っていない……文字通り、純粋にパイロットとしての腕が問われる事となるだろう。

銃声が響き続け、徐々に距離を縮められサーベルの間合いを詰められていく。

シリアは機体を人型へと変形させ、再び合体させたサーベルを構えた。


「来いよ……アンタの愛とやら、へし折ってやるっ!」


『ウヒヒ、照れなくていいのに……いいよ、お姉さん。 私と一緒に、いこうよっ!!!』


迫りくるトリッドエールが、更に速度を上昇させて突撃してくる。

正直これ以上スピードは上がらないと思っていたが、あのHAはまだまだ限界には達していないようだ。

このままバカ正直に受け止めてもはじかれるだけなのはわかっている。

だが、あの速度であれば小回りが効くはずがあるまい。

まんまとシリアの罠にはまったフィミアは、そんな事をお構いなしにサーベルを片手に流星の如く突進してきた。

その瞬間、シリアは横へとバーニアを吹かせてトリッドエールの背後を捕えようとする。

このまま無防備となったトリッドエールを、サーベルで地上へと叩き落してやろうと振り下ろす。


「落ちろぉぉぉぉっ!!」


シリアが力強く叫んだ途端……突如、トリッドエールの背後から爆発のような音が響き渡る。

ズゴォォォォンッ! バーニアから紫色の光を噴き出したかと思うと、トリッドエールは爆発的な速度を叩き出し、視界から姿を消した。


「な、何だ今の加速は? あんなもん……HAが出せる速度じゃねぇぞ……パイロットだって無事なはずが――」


『アッハッハッハッハッハッハッハァッ!!!』


しかし、シリアの予想とは裏腹にフィミアの奇声が通信機越しに響き渡る。


「ど、何処だ? 何処にいやがる……?」


レーダーを確認しようとするが、レブルペインのせいで今は使い物にならない。

かといってモニターからではトリッドエールの姿が見えない。

いつにも増して神経を集中させ、トリッドエールが仕掛けてくるタイミングを見計らおうとした。


『愛してる、愛してるよお姉さぁぁぁぁぁぁんっ!!』


通信機からフィミアの声が入り込むと同時に、ふと影のようなものを目にする。


「上かっ!?」


シリアはサーベルを構えて、上空を警戒した。

紫色の光を放ちながら、凄まじい爆音を巻き散らかしトリッドエールが迫りくる。

あの異常な速度、もはや飛行形態ですら逃げ切る事は出来ない。

ならば、とシリアはサーベルを両手でしっかりと構えた。


「何が愛してるだ、クソ……っ!!」


こんなもの、愛でも何でもない。

ただの一方的な暴力の、何処に愛情があるというのか。


『アーッハッハッハッハッハッハァッ!!』


ガキィィィィンッ!! 凄まじい金属音と共に、レビンフラックスはグググッと地上へ向けて押し出された。

巨大なサーベルがキュルルルルと刃を高速回転させ、激しく火花を散らす。

ミシミシと音を立てながらも、シリアはサーベルを手から離そうとしない。


「持ってくれ……頼むっ!」


シリアの願いも虚しく、サーベルにミシミシとヒビが入っていく。

速度で押し出そうとスロットルを限界まで押し込んでも、トリッドエールの凄まじい出力には敵わない。

やがて、レビンフラックスのサーベルはバキンッ! とへし折れ、宙へと舞い上がった。


「クッ……っ!!」


衝撃が走ると同時に、僅かにだがトリッドエールも衝撃で弾き飛ばされる。

だが、そのわずかな隙が生じてもシリアはトリッドエールから逃れる事は出来なかった。

再度巨大なサーベルを片手に、凄まじい速度で迫りくる。


『アハハ、最高……最高に幸せだよ私ぃぃぃっ! だって、お姉さんとこんなにも愛し合えてるんだからぁぁぁっ!!』


「クソッ……こんなところで、終われねぇんだよ……っ!!」


僅かな望みをかけて、シリアはライフルを構える。

迫りくるトリッドエールを退けさせようと放つが、宙でパフォーマンスでも披露するかのような動きについていく事ができない。

あまりにも凄まじい速度を叩き出してるせいか、トリッドエールの装甲は剥され続けていた。

何度もライフルを放つが……カチッと、背筋がゾッとするような音が聞こえてきた。


「弾切れっ!?」


その瞬間、目の前に巨大なサーベルを大振りしたトリッドエールの姿が飛び込んだ。

ここまで、なのか――

シリアは目を強く閉じ、咄嗟に顔を伏せた。

バァァンッ! その時、地上からトリッドエールを一発の弾丸が槍のように貫いていった。


『ウヒヒ……ヒ? あれ、あれ……?』


「な、なんだ?」


目を開けると、目の前でトリッドエールから煙が噴き出し徐々にバランスを崩し地上へと落ちていた。

何が起こったのか理解できずに、シリアはただ呆然としていた。


『私の妹に、手を出そうとするからよ』


「姉貴、姉貴なのかっ!?」


シリアは地上を確認すると、そこにはスナイパーライフルを構えたブレイアスの姿があった。


「アタシを……守って、くれたのか?」


『今まで、ずっとこうしてあげることが出来なくて……悔しかった。

だからね、今度は絶対に貴方を守るって決めていたの。 ……だからね、もっと私を頼りにしていいのよ?』


「姉貴……悪い、助かった。 あ、ありがとな……」


今頃ラティアの援護がなければ、シリアのレビンフラックスは無事では済まなかっただろう。

下手をすれば、命を落としていた危険性も十分にあり得た。


『……アハハ、アッハッハッハッハッハッ! お姉さん、お姉さん……ねぇ、どうして……どうして、私を愛してくれないの?』


「そんなもん、自分で考えてみろよ。 好きでもねぇ奴に殺意全開で愛を語られても、それはただの恐怖でしかねぇだろうがっ!」


『いらない、私いらない。 私を愛してくれない人、嫌い……私以外に愛されてるお姉さんなんて、大嫌い……』


ブォンッ! トリッドエールから再び、紫色の光が噴き出す。

ライフルの一撃を受けながらも、まだ戦えるというのか。


『シリア、使ってっ!!』


ブレイアスが空高く舞い上がったかと思うと、接近用に所持されていた小型近接武装であるスラッシュナイフを渡された。

あくまでも臨時用であり心許無い武装ではあるが、何も持たないよりかは遥かにマシだ。

モニターに映されたフィミアは、先程のように笑っていない。

目を力強く開き、口元だけを少しだけ釣り上げ、戯言のように何かを呟いていた。


『こんなに、こんなにいっぱい愛してあげてるのに、どうして愛してくれないの? ねぇ、私の事好きだよね?

お姉さん……好きだよね、好きと言ってよ。 ねぇ、ねぇねぇ……お姉さん、お姉さん……』


先程までとは違い、フィミアは何処か冷静さを取り戻していた。

それは今まで愛がどうこうと叫んでいたフィミアとは違う。

通信機から見えるその瞳は、何処か悲しさに包まれており……寂しいと訴えていた。

だが、シリアはフィミアを好きになる事は出来ない。

受け入れる事が、できるはずがなかった。


「……アンタなんか、大嫌いだっ!」


その時、フィミアの口が気持ち悪いぐらいニヤリと釣り上った。

フィミアは何故、『愛』という感情に拘り続けるのだろうか。

彼女の行動は何処か矛盾している。

戦う事で愛を求めるが、当然ながらそんな行為で成立する愛があるはずがない。

ならば、彼女が口にする『愛』とは――


『アハハ、アッハッハッハッハッハァッ! アーーッハッハッハッハッハッハァッ!!

やっぱり、やっぱり誰も私を愛してくれなぁぁいっ!! 私は誰にも気づかれずに、誰にも愛されなぁぁぁいっ!!

でもいいの、それでいいのぉぉっ!! 私を見てくれないのなら、愛してくれないのならぁぁぁ……無理にでも、私に気づかせて……愛してあげるだけなんだからぁぁぁぁっ!!』


トリッドエールは再び空へと舞い上がった。

先程よりスピードは落ちているものの、それでも驚異の速度を保っているのは事実だ。

トリッドエールは、死ぬまでシリアを追い続けるだろう。

どちらかが破壊されない限り、戦いが終わる事はない。


「姉貴っ!!」


『ええ、わかっているわっ!』


ブレイアスは空中で留まり、スナイパーライフルをレールガンへと換装させる。

シリアに迫りくるトリッドエールに対して、一発だけ放って見せた。

バチィンッ! 電撃が走ると共に、弾丸がトリッドエールの右腕を弾き飛ばす。

巨大なサーベルを握りしめたまま、右腕は地上へと向けて落下していく。

だが、トリッドエールは自ら腕を拾い上げて強引に巨大なサーベルを回収する。


『離れなさいっ!!』


もう一発レールガンを放つと、今度は右腕を盾代わりにされ直撃を免れた。

二丁銃を構え撃ち続けるものの、ブレイアスは空中に留まる事が出来ずに徐々に地上へと落下していく。


『シリア、逃げてっ!!』


まだトリッドエールが動ける、いくらナイフを渡したからと言えどとてもじゃないが今のレビンフラックスでどうにかなる相手ではない。

ラティアの悲痛の叫びが、コックピット内に飛び込んできた。


「……姉貴、アタシはこいつを止めなきゃならねぇ。 よくわかんねぇけどさ、アイツ……本当は寂しいんだと思うんだ」


『何を言っているのよ? 貴方は命を狙われているのよ、早く逃げてっ!』


「ちょっとだけ、似てると思ってさ。 アイツが語る『愛』と、アタシが『姉』を恨んでいた時、がさ」


フィミアは叫んでいた。

誰にも愛されない、誰も気づいてくれない、と。

それはかつてシリアが、姉が助けに来なかった事を恨んでいた時と重なった。

どうして助けに来てくれなかったのか。

絶対に助けてくれると約束していたのに。

しかし、実際姉は自分をちゃんと助けてくれていたのだ。

なのにシリアは一方的に姉の事を嫌い、徐々にその感情は恨みに変化していった。

その感情の変化と、フィミアの語る『愛』が……何となくだが、重なってしまったのだ。


トリッドエールは凄まじい速度で近づいてくる。

巨大なサーベルを片手に、狂った笑みを浮かべながら。


『ウヒヒ、お姉さんお姉さんお姉さん……愛して愛して愛して愛して愛してぇぇぇっ!!! 私の事を、愛してよぉぉぉっ!!!』


「アタシはアンタの事、嫌いだけどさ。 同情だけはしてやる……だから、さ」


レビンフラックスは片手に持っていたナイフを、強く握りしめた。


「ちょっとだけ、痛みを受け止めてやる。 その代わり、アンタも――」


トリッドエールがサーベルを大振りにした瞬間、レビンフラックスもナイフを構える。

その場から一歩も動かずに、ただじっとしたまま――


「痛みを知れぇぇぇぇっ!!!」


バシュゥゥンッ!! 金属音が砕ける音が、響き渡る。

レビンフラックスの左腕が、綺麗に切断されていた。

だが、同時にトリッドエールの頭部にレビンフラックスのナイフが刺さる。

頭部からは火花が散り、ギギギギと鈍い音が響き渡った。


『アアアアアアアアアアっ!!! 見えない、見えないよぉぉぉっ!!! どこ、何処なの……何処なのお姉さぁぁぁぁんっ!!!』


「チッ、相変わらず耳が痛くなる声だしやがって……こっちだっていてぇんだよっ!」


シリアはトリッドエールを拘束しようと、後ろから押さえつけようとする。

その時、下からスナイパーライフルを構えるブレイアスの姿が見えた。


「撃つな、姉貴っ! アタシに任せてくれっ!」


『どうするつもりなのっ!?』


「ちょっと、目ぇ覚まさせてやるだけさ」


シリアはナイフでトリッドエールが持つ大型サーベルを強引に突き放す。

すると無理やり正面を向かせて、トリッドエールとレビンフラックスは対面した。

その時、レビンフラックスの胸部からハッチが開かれた。


『な、何してるのシリアっ!?』


「いいんだ、アタシの好きにさせてくれっ!」


『ダメよ、危ないわ。 ここは戦場のど真ん中なのよ、そんな無茶は――』


プツンッ――

姉との通信を強引に絶ち、シリアは大きく深呼吸をした。


「悪い、姉貴……」


一言だけ姉に謝ると、シリアはコックピットから身を乗り出した。


「出てこいよ……アンタの根性、叩きなおしてやるからっ!!」


シリアはトリッドエールへ向けて、力強くそう叫んだ。


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