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    メシアの遊撃部隊 ②


資料を読み続けると、ι・ブレードに秘められている最新技術が次々と明らかになった。

まずは装甲、圧倒的な機動性を実現する為に極限の軽量化が行われているようだ。

貧相な外見に見えるのは、この影響と思われる。


だが、装甲には聞き覚えのない金属が使用されていた。

まだウィッシュにも採用されていないと思われる『白紫輝合金はくしきごうきん』というらしい。

一般的にHAに使用されているのは『紫輝合金しきごうきん』と呼ばれるエターナルブライトを元に加工される代物だ。

それを採用することにより、装甲面と軽量化の両立が図られたと思うが、

まだまだ試作段階であり課題はいくつか残されているという。


羽根型のバーニアが二つ搭載されているのは、疑似的な飛行を可能とするため。

自在に飛び回ることはできないが、これによって空中でも高稼働を実現することができた。

晶がι・ブレードを動かしていた時に、直角に近い不自然な動きができたのも、あの羽根のおかげだ。


頭部につけられていた触覚のようなもの、ウィッシュ等からの無線通信の音を拾う為に設けられており

戦場において負傷を負ったパイロットを探し出すために、試験的に導入されたようだ。

晶の場合、偶然にもとんでもない会話を拾ってしまったのはこの機能のおかげである。


他にもι・ブレード専用武器として搭載された『ムラクモ』。

白紫輝合金はくしきごうきん』を何十枚にも重ねて、刀作りの鍛冶のような手順で作られた。

その圧倒的な切れ味はもはや言うまでもない。


ιシステムについても、不完全なものを試作で導入したと思われる。

無人機を想定しておきながら、わざわざコックピットを用意したのも納得ができた。

ならば、パイロットが限定される理由は何か?

そもそも何故、晶にι・ブレードを起動できたのかどうか?

ただの実験機であれば、パイロットを限定する意味はないはずだ。


ゼノス自身もこの資料には目を通しているはず。

実験機とわかれば、晶自身にあんな質問を投げかけたりはしなかっただろう。


考えても仕方ない、と晶は資料を静かに棚へ置いた。

ふぅ、とため息をつくと横になって天井を眺めた。


……これから、自分はどうなってしまうのか。

本当にこのまま、パイロットとして採用されるのか。

もし、採用されなかったら?


生活はどうなる、学校どころか帰る家すら存在しない。

父親のもとへ向かうか、親戚に引き取ってもらうのか。

木葉はどうなる? 家族は無事なのか?

生き残った人々は、今後どうやって生活していけばいいのか。

晶は一人、不安を抱えた。


コンコン


「うわっ、ど、どうぞ」


突如、ノック音が響くと晶は慌てて返事をした。


「失礼しまーす」


ガチャリ、ドアを開けながら明るい声が飛び込んできた。

全身が驚くほどピンクな少女が、病室へとやってきた。


セミロングのピンク色の髪。

薄いピンク色の、多分ナース服。

片手にはカルテを持っている、もしかして看護師なのだろうか?

それにしても目が痛い、晶は思わず苦笑いをした。


「どうしたんですかー? 白衣の天使がやってきたんですよー、もっと喜んでくださいっ!」


「な、何ですか貴方?」


何処に白の要素があるのかと突っ込みたかったが、あえて晶は触れない。

看護師にしては随分と軽いノリだ。


「何言ってるんですかー、これから大事なパートナーになるかもしれないんですよ私達っ!」


「い、いやだから名前を……」


グッと晶の右手を両手で握りしめて、キラキラと目を輝かせながら少女はそう言った。

パートナーとは何のことなのか、どうもまた苦手なタイプの女の子が現れてしまったようだ。


「ハッ――、失礼しましたっ! 私、フリーアイゼンの医療班を務める『シラナギ・ソノ』ですっ!

主にパイロットの方々の健康管理、メンタルケアを担当しているのですっ!」


「い、医療班?」


言動からしても危なっかしいこの少女が、そんな役を務めているのか。

晶は途端にパイロットとして活動をすることに不安を覚えた。


「実はゼノスさんから、根暗で内向的で落ちこぼれなどうしようもない子がいると聞いたので駆けつけてきたのですっ!」


「だ、誰が根暗だっ!」


というかあのゼノスという人は、晶をそんな風に見ていたというのか。

途端に人間不信に陥りかけた。


「ちなみに私が9割ほど貴方の見た目から勝手に判断しました、です」


「よ、余計なお世話だっ!」


随分と失礼なことを平然と言う人だ。

こんなのがクルーで大丈夫なのだろうかと晶は不安に思う。


「でも、目覚めてくれてよかったです。 このまま起きなかったら、あの子に申し訳がなかったのです……」


突如、シラナギという少女はシュンと俯くとそんなことを呟く。

随分とテンションの差が激しい、疲れないのだろうか。


「……あの子って木葉のことですか?」


「大正解ーっ! 流石未来のパートナーね、息がぴったりじゃない?」


いちいち反応に疲れる。

どうもこの艦のクルーには、まともな女の子がいないように感じた。


「あ、あの。 木葉に、逢わせてもらえま……すか?」


「はいはい、私にまっかせてくださーい! 木葉ちゃんなんて3秒で召喚しちゃいまーすっ!」


晶はふと、木葉の様子が気になってシラナギにそう頼んだ。

すると、シラナギはいちいち軍隊のように両足を揃えて敬礼をすると

マンガのようなグルグルダッシュで病室を出て行った。

まるで、嵐のような人だった。


数分後、3秒と宣言しておきながら3分かけて (それでも早いが)シラナギは木葉を連れて戻ってきた。

手を引かれて俯いたまま、木葉が病室へと入り込む。

何処か、様子がおかしい。


……無理もない、あの被害状況を見てしまえば笑顔でいることなんて無理だ。

それにあんな怖い思いをさせてしまった、晶はただ歯を食いしばるだけだった。


「木葉、無事だったんだな」


「あ、晶……くん?」


ハッと、晶の声に気づいて木葉は顔をあげる。

目には涙を浮かべていた。


「はいはい、この通り私の適切なケアのおかげで晶くんは不死鳥の如く蘇りましたーっ! はい、拍手ーっ!」


この子はもう少し空気を読んでほしい、晶はシラナギと目を合わせてため息をつく。

そして、木葉ともう一度目を合わせた。

だが、晶から目を逸らしてしまう。


「……晶くんが無事で、本当に良かった」


「あ、ああ。 心配かけちまったな」


そう告げると、木葉は俯いたままコツコツと歩み寄り

近くの椅子へと腰を掛けた。

ずっと俯いたまま、晶と顔を合せなかった。


「あのね、晶くん。 よく、聞いてね」


「……ああ」


何となく、告げようとしていることは理解できた。

だが、晶はそれ以上は語らずにただ頷く。


「クラスメイトで生き残ったの、私達だけなんだって。 それだけじゃない、あの地区の人が……ほとんど逃げ遅れちゃったんだって」


木葉の口から告げられる一言が、胸の奥深くに突き刺さる。

晶はただ拳を強く握りしめるだけだった。


「……『アヴェンジャー』」


「へ?」


突如、木葉は単語を呟く。

何の事かわからず、晶は戸惑った。


「その人達が、第4シェルター東地区を……意図的に、襲撃したの」


「まさか――」


晶はあの時拾った通信を思い出した。

大型のE.B.Bをあの地区に誘導したという男二人の会話。

……ι・ブレードを狙った奴らだ。

何故だ、何故それだけのために無関係の人が巻き込まれなければならなかったのか。


「竜彦くんも……死んじゃった、んだよね」


「……ああ」


「どうして、かな……私達はただ、普通に暮らしていただけなのに

何も悪いことなんて、してないのに――」


木葉は両手を顔で覆い、泣き崩れた。

隣で黙っていたシラナギも、ただ悲しい表情で二人の様子を伺うだけだった。


『アヴェンジャー』


復讐者を名乗る彼らは、一体どうして『ι・ブレード』をそこまでして奪おうとしたのか。

関係ない一般市民を巻き込んでまで、することだったのか?

人類の天敵である『E.B.B』を使ってまで。

同じ人間がやっていいことじゃない。

絶対に、許せない――


「木葉……俺、ここでパイロットになれるかもしれないんだ」


「……晶くん?」


ふと、木葉は顔をあげた。

涙や鼻水で、せっかくの綺麗な顔が台無しになっている。

晶は木葉と目を合わせた。


「俺一人でできることなんて、限られているかもしれない。

だけど、許せないんだ……E.B.Bも、その『アヴェンジャー』って奴らもっ!

俺……悔しいよ、あんな奴らにクラスメイトが……親友の命が奪われちまったことがっ!」


ただ、力強く晶はそう叫んだ。

手は震えていた、恐怖からじゃない。 ただ、悔しかった。

理不尽な襲撃にただ、ぶつけようのない怒りを抱いた。


「……わかった」


泣き止んだ木葉は、両腕で涙を拭きとろうとする。

さり気なく、シラナギがハンカチで涙をぬぐった。

涙と鼻水でグチャグチャになった顔を、優しくふき取る。

シラナギは木葉に微笑むと、木葉もまた笑顔で返した。


「晶くんの夢、だもんね。 私、応援するよ? でも、約束してね。

絶対に、死なないで。 無茶だけは嫌だよ……もう、誰も失いたくないから――」


木葉の手は小刻みに震えていた。

本当は不安で仕方がないんだろう、晶がパイロットになることが。

昔から、木葉は晶に関してそんな不安を抱いていた。


パイロットは常に死と隣り合わせ、一瞬の油断で命が失われる事を木葉は理解している。

戦場に出て行った『竜彦』が、いとも簡単に死んでしまったのだから。

晶は、そっと震える手にそっと手を伸ばそうとした。


すると、横から真っ白な手が晶の視界に飛び込む。

ハッ、と晶は顔を向けるとそこにはシラナギの顔が視界に入った。

丁度目があった、一瞬固まったがシラナギは静かに微笑んだ。

その手で晶の手首を掴み、木葉の手をしっかりと握らせた。


「……ああ、約束する」


「……頑張ってね、晶くん」


木葉が微笑むと、晶も照れくさそうに微笑み返した。

……これ以上、木葉を悲しい目には合わせない。

晶は戦い抜く事を、改めて決意した。


「うん、思った以上にメンタル面は大丈夫そうじゃない。 よかったじゃない、これならパイロット審査も通りそうだよ」


ようやく喋る機会を得たと思ったのか、シラナギは晶の肩をポンポンと叩きながらそう言った。

しかし、意外な一面を見た気がする。

やはりメンタルケアを担当していることだけあって、しっかりしているところはあるようだ。

最初は不安ばかりだったが、晶は少しだけシラナギの事を頼りになる人だと感じた。


トゥルルルル


突如、電話の音が聞こえだした。

シラナギは手慣れた手つきで受話器を手にする。


「はいはいー、どうしましたー?」


何か逆じゃないか、それ。 と、心の中で突っ込みを入れる。


「うーん、大丈夫だと思いますよ。 思ってた以上に元気そうですし。

はいはい、わかりましたー連れて行きまーす」


ガチャリ、とシラナギは受話器を置く。


「はい、それじゃいきますよー晶くんっ!」


「ま、ままま待ってくださいっ! い、いきなりなんですか?」


シラナギは何の説明もなしに、晶の腕を引っ張ると病室をそのまま出て行こうとする。

晶は慌てて、シラナギにそう尋ねた。


「あーそうだった。 ほら、艦長と面会? 何か直接話したいんだってー」


「か、艦長と?」


何故そんな大事なことを告げずに連れて行こうとするのか。

この人やっぱり、どこか抜けていると晶に再び不安が襲い掛かった。


「木葉ちゃんは部屋に戻ってていいからねー、それじゃレッツゴー」


「う、うわちょっと――」


有無も言わさず、晶は強引にベッドから引きずりだされる。

そのまま病室の外へと連れ出されるのであった。










シラナギに連れられ、数十分は歩き回っている。

流石に中・小型に分類される戦艦でも、とてつもない広さだ。

こうやって移動しているだけでもかなりの距離がある。


これからブリッジルームへ連れ行くと、と告げられて案内されているのだが

流石に二日も寝たきりだった体には堪える。

晶は少しだけ疲れを見せていた。


後からシラナギに聞かされた話では、どうやらこの部隊へ晶を採用させるかどうかを

艦長が直々に判断するといった話があったらしい。

その為に、どんなパイロットか確認するために呼び出されたという。


「あったあった、ここだよー」


シラナギはふと足を止めると、そこにはやたらひろい幅の階段があった。

その先には大きな扉、ロックはされているようだ。 左に暗証番号を入れる為のキーロックが存在する。

ピョンピョンッと、一段抜かしでシラナギは階段を上って暗証番号を入力した。

ガーッと音を立てて、大きな扉が開かれる。


「じゃ、いこっかー」


「は、はい」


晶は戦艦に乗り込むことはもちろんの事、ブリッジルームに入る事自体も初めてだ。

壮大な扉があいた途端、緊張感が走った。

ゆっくりと階段を上り、扉の奥深くへと進む。


そこには巨大なスクリーンと数々の機器が広がっていた。

想像以上に広く映し出された空の映像に、ただ圧倒される。

丁度、高台に立つ男の後ろ姿が目に入った。

群青色のマントに焦げ茶色の短髪の男だ。


「来たか」


その男が、振り返った。

歳は若くないが、何処か近寄りがたいオーラを放つ風貌。

その鋭い目は、獣のように晶を捉えていた。


「私がフリーアイゼンの館長を務める『ゲン・マツキ』だ」


晶は、その場に立っているだけの艦長に圧倒された。

流石はメシアの軍隊を率いる艦長としか言いようがない。

ゼノスやシラナギと違い、風貌からして明らかに違うのがわかる。

今までどんな激戦でも乗り越えてきたベテランである雰囲気を、ヒシヒシと感じ取っていた。


「……未乃です。 未乃 晶です」


「艦長、この少年こそ俺が推奨する『ι・ブレード』のパイロット候補だ」


最初からそこにいたのか、ゼノスは立ち上がってそう言った。

ここでパイロットとして採用されるかどうかが決まる。

そう思うと、晶の中には更なる緊張感が走った。


「まだ子供ではないか、どう見ても戦闘慣れをしているよな目をしていない」


「しかし、素質はある。 アンタも報告は受けただろう?」


艦長だというのに、敬語も使わずにゼノスはそう告げる。


「まぐれの実績など、あてになるか」


しかし、艦長は聞く耳を持たなかった。


「貴様、まさか実力で成果を上げたと思っていないだろうな」


艦長は、晶を睨み付けながらそう告げる。

目を、逢わせることができなかった。


晶自身もわかっている、成果をあげれたのはあくまでも『ι・ブレード』の性能のおかげ。

とてもじゃないが、自分の実力だと胸を張ることができない。


「シミュレーターの結果が悪くとも、実戦に出してみれば基準値以上の活躍をするパイロットについてはよく聞く。

だが、貴様の成績は論外すぎる。 そんな腕でパイロットだと? 戦場を甘く見ているとしか思えんがな」


艦長から告げられる言葉に、晶はただ俯き、拳を握りしめるだけだった。

反論できるはずがない、事実だ。

……結局、パイロットなんて夢だったのか。


「ゼノス、貴様がこいつを推奨する理由はそれだけか? 実績が全てと言われても、私は認めんぞ。

死人を増やすだけだ、こいつが死ぬだけじゃない。 下手をすれば仲間を巻き込む危険性もあるんだぞ」


その通りだった。

例え晶自身に危険が及ぶ危険性があっても、それによって仲間の足を引っ張る事もあるはずだ。

だから戦場に足手まといはいらない、教師にも同じことを言われている。

否定することが、できなかった。

迂闊に『次も頑張ります』だとか、そんな事はとてもじゃないが口に出せなかった。


「確かにアンタの言う通りだ、こいつは『ι・ブレード』の性能で戦績を収めたのは言うまでもない」


ゼノスの口からも、その言葉が告げられてしまった。

晶はただ落胆するだけだった。

少しでも、認めてもらえたことを喜んでいたのに。

結局、ι・ブレードの性能でしかない。

……無理なんだ、自分ではパイロットなんて無理だったんだ。

晶はそう言い聞かせて、全てを諦めようとしていた。


「だが、勘違いするな。 こいつは機体の性能を上手く引き出して生き残ったんだ」


その言葉に、晶はハッとさせて顔を上げる。


「未乃 晶は初陣にも関わらず、『ι・ブレード』の持つ性能を即座に理解し、うまく利用したんだ。

こいつは情報もなしに新型HAを扱い、見事E.B.Bの襲撃から逃れて戦果をあげた。

パイロットとしての腕はこの際おいておこう、だが機能を利用する面は間違いなく一流だ」


ゼノスが艦長にめがけて、無表情にそう訴えていた。


「ほう、ならば貴様は偶然ではなく……あくまでも実力で戦果をあげた、と主張するか」


「そうだ、それにこいつは的確に俺の指示に従った。 初陣でここまで的確に指示を聞ける奴は早々いないだろう。

一般の学生ならビビってしまって実力を発揮できずにいるか、パニックに陥ってまともに命令を聞けない。

少なくとも、冷静に状況を理解し、的確に判断をするだけの力はあるんだ」


「指示を、的確に?」


「まさか指示をすれば誰でもその通りに動ける、とは言わないだろうな。

少なくとも俺は、指示通りに行動する力も『パイロット』として必要な能力だと判断している」


もはや、ゼノスの言葉は屁理屈のように聞こえなくもない。

だが、晶にとっては嬉しかった。

学校で今まで、誰にも褒められたこともなくシミュレーターでも満足いく結果がだせずにいたのに。

初めて、自分を誉めてくれる人が現れたのだから。


「機体の性能を前提に話すのもいいが、ただの素人がそこまで的確に動かせたのは、性能だけではない。

だから俺は、こいつに『パイロット適性』があると言っている」


「だが、認めることはできん。 少なくとも、教育施設に送り込んで実戦向けの訓練を十分に積ませる必要がある。

悪いが今は、死ぬだけだ。 どんなに素質があろうと、この部隊のパイロットとして受け入れることはできん」


しかし、ゼノスの説得は虚しく艦長は晶を採用しなかった。

少なくとも、パイロットの腕に関する問題だけは認めてくれたようだが

だからといって採用するかしないかは別問題だ。


……しかし、夢に一歩前進したと思っていい。

これから、訓練所で成果を上げることができれば……メシアに採用されるのだって夢じゃないんだ。


ビーーーービーーー


突如、ブリッジルーム全体からサイレンが響く。

真っ赤な光が点灯され、緊急事態が発生したことを告げていた。


「艦長、政府からの要請です。 2時の方向にE.B.Bの群れを確認しました。

現在、四機のウィッシュが交戦中。 至急、援護をよこせとのことです」


オペレーターを担当している女性から、静かにそう告げられる。


「各員、戦闘配備につけ。 民間人は部屋から絶対出さないようにしろ、パイロットは至急、出撃準備をしろ」


艦長は冷静に、クルー達にそう告げた。

晶はどうしていいかわからずに、辺りをキョロキョロとするだけだ。


「未乃 晶、貴様の出撃は許可しない。 そこで戦況をずっと見ていろ」


「ι・ブレードはださないんです?」


「ならん」


シラナギが、艦長にそう告げると即座に首を横に振る。

晶は言われるがまま、その場を立ち尽くすだけだった。


「……悪いな、俺の力不足だった」


「え?」


すり違いざまに、ゼノスはそう告げた

謝る必要なんてないはずだ、艦長の判断は正しい。

未熟なパイロットを戦場に出すわけにはいかないのだから。


「ま、まだチャンスはあるかもしれませんよー? そんなガッカリしないでくださいよ」


「……いえ、いいんです。 俺だってそう簡単にパイロットやれるって思ってませんでしたから」


「木葉ちゃんと約束したでしょ、パイロットになるって。

悔しくないの? 艦長に認められなかったことが」


「そんなこと、言われても――」


悔しいかどうか聞かれれば、悔しくて当たり前だ。

最初は散々認められなかった挙句、役立たずとはっきり明言されたのだから。


晶はただ、艦長の言葉を受け入れるしかできなかった。


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