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     計画始動の時 ③


第7支部の会議室に、フリーアイゼンのクルー達が集められた。

フリーアイゼンの医療班に属していたシラナギ・ソノが、アヴェンジャーと繋がっていた事により、イリュードが緊急招集をかけたようだ。

晶がこの場へ訪れたのは2回目。

しかし、今回は前回とは事態が大きく違っている。

重苦しい空気が圧し掛かってくるのを、晶は強く感じていた。


「……悪いが、お前達の身柄は拘束させてもらうぞ」


浮かない表情をしながら、イリュードは静かにそう告げる。

晶は表情をハッとさせた瞬間――バンッ! と、卓を強く叩く音が響く。

隣に座っていたシリアが、不満そうな表情で立ち上がっていた。


「どういう事だ、説明しやがれっ!」


「やめろ、シリア。 俺達の中からアヴェンジャーに繋がる者が出てきたのも事実だ」


「冗談じゃねぇよ……こっちだって、あのバカに裏切られてショック受けてんだっつーのに――」


ゼノスに宥められると、シリアは力なく項垂れて、そのまま椅子へと座った。

シリアの言う通り、フリーアイゼンのクルー達はシラナギがスパイだったことにショックを受けているはずだ。

それだというのに、味方であるメシアから疑われてしまえば、シリアのように取り乱すのは無理もない。


「お前達を疑うのは心苦しいがね、事態が事態なだけに形式だけでもそうさせてもらうぞ。

……Dr.ミケイルが殺害された件についても、アヴェンジャーの仕業であると考えられている。 故にお前達が疑われているのだよ」


「バカ言うんじゃねぇよ、アタシ達は散々世界の為に戦ってきてんだぞ、それにアヴェンジャーとだって何度も交戦してんだぞっ!?」


「しかし、それ自体が我々の目を晦ませる策の一つとも言える。 ただでさえメシアは今、大混乱に陥っているのだ。

少なくとも、事態が収まるまでは身柄を拘束させてもらうぞ……それでいいか、ゲン艦長……」


「……」


晶はちらりと、ゲン艦長の表情を伺った。

無言のまま、何も語ろうとせずに、目を閉じている。

フリーアイゼンの艦長として、クルー達の無実を証明しなければならない。

だが、今はそれを証明する手段がないのだろう……晶はその事を思うと悔しく感じた。

イリュードの言う通りメシアは大混乱に陥っている。

メシアからスパイが発覚した事と一般人である木葉が攫われた件にDr.ミケイルが殺害……そして先週から続くオートコアによるι・ブレードの暴走により

メシア内部は対応に追われて、統率が全く取れない状況に至っているといた。


この短期間で、色々な事が続けて起こりすぎていた。

少しずつ、何かが動き出している。

これから、今までにない程のかつてない大事件が待ち構えている気がする、晶は一人そんな事を感じていた。

すると突如、会議室に存在する通信機器が鳴り響き始めた。

……ただの通信ではない、これでは司令官クラスの者からの通信だ。

メシア本部からの通達だろうか、イリュードは通信を受信した。


「こちら第7支部ソルセブン艦長のイリュードだ」


その瞬間、会議室に存在した巨大なスクリーンに映像が出力され始めた。

映し出されたのは、一人の老人だった。


『初めまして、フリーアイゼンの諸君。 丁度、招集をかけられているタイミングだと思っておりましたよ』


「……何者だ、何故ここにフリーアイゼンのクルーが集められた事を?」


『ホホホ、少し考えればわかる事ですよ。 貴方も現に疑っているではありませんか、他にスパイが存在しないかどうかを。

簡単な話ですよ……スパイはシラナギ・ソノだけでは、ございませんから 』


「まさか、アヴェンジャーっ!?」


イリュードがそう叫んだ途端、モニターに映された老人は不気味にほほ笑んだ。


『そうです、私がアヴェンジャーを統括する責任者、とでも言いますか』


「……ジエンス・イェスタン」


ボソリ、とゼノスがその名を呟く。

あの反応を見る限り……ゼノスは、その人物を知っているように見えた。


『ほう、ゼノス・ブレイズですか。 いい加減貴方もこちらに戻っては如何でしょう?』


「――っ!?」


ドクン……晶の心音が一気に高まる。

ゼノスが、アヴェンジャーのスパイ?

シラナギに続き……ゼノスまでもが、そうだというのか?

……そんな事、ない。

ありえない、と思いたかった。

だが、否定はできなかった。

あの信頼できるシラナギが、晶の為に、木葉の為に尽くしてくれた人物が……アヴェンジャーの一員だったのだから。


「俺は戻らない。 貴様のやり方は世界を乱し、誰も救われない。 俺は俺のやり方で、アッシュベルを捕えて見せる」


ゼノスはモニターの老人から目を逸らさずに、そう告げる。

……その言葉を、信じていいのだろうか。

嘘を言っているようには、決して見えない。

しかしそれは同時に、ゼノスが『アヴェンジャー』と繋がりを持つことを自白した事と同じだった。


『人を平然と裏切り、自分の目的に手段を択ばない男……そんな貴方が、果たしてフリーアイゼンで仲間と共に戦えるのでしょうか?』


「俺は仲間を信じてきた、だからこいつらも……俺を信じてくれている」


『ほほう、素晴らしい決意ですね。 ですが、その決意も残念ながら無駄に終わってしまいますね…… 』


「どういうことだ?」


『……フリーアイゼン艦長 ゲン・マツキ殿、貴方にお願いがございます』


ジエンスは不気味に微笑みながら、改まってゲンに告げた。


『私と共に、戦いましょう……真の悪を討つ為に』


思わず、晶は耳を疑った。

いや、会議室にいる全員が同じ事を考えただろう。

ゲンも流石に、驚きを隠しきれていなかった。

……アヴェンジャーの首謀者であるジエンスが、どういう訳かフリーアイゼンに協力を求めてきたのだ。


「我々に共に戦えと?」


『ええ、そうです。 我々の目的は貴方もご存じの通り……アッシュベルに復讐を果たす事です。

我々はほとんどの者が、彼の編み出した人体実験の被害者なのですよ』


「……アッシュベルを討つ事に、協力しろというのか?」


『いえいえ、そんな小さな目標ではありませんよ……我々の目的はただ一つ、メシアの破壊です』


「何っ!?」


メシアの、破壊?

一体何を言い出すのだろう、と誰もが思っただろう。

それは即ち、現状世界の中心となっているメシアという組織を潰す事を意味している。

同時にそれは、世界をE.B.Bから守る手段を失くす、と言っているのと同じだった。

そんな事が、許されるはずがない――

父親は、こんな事を行う為に……アヴェンジャーへと身を潜めているというのか。


『ええ、我々の望みは世界の変革です。 今の世はメシアによって腐りきっています……

それはアッシュベルを始めとし、メシアが内部から腐り始めているからなのございますよ。

もはや、手遅れなのです……メシアは一度崩壊しなければ、立ち直る事はできないでしょう』


「崩壊の先には絶望しかない、それにアッシュベルがまだ『人体実験』に携わっている証拠は何一つ見つかっていない。

貴様の申し出に答える訳にはいかん」


『ホホホ、未だにアッシュベルの肩を持ちますか。 流石に友を裏切る行為はできないですかな?』


「友の無実は私が証明するっ! 貴様にアッシュベルの何がわかるというのだっ!?」


『いえいえ、わかっていないのは貴方ですよ。 自分が騙されている事にも気づかずに、アッシュベルの言動に惑わされているだけでございます。

かつて我々が、騙され……体を好き放題改造させられたように、ですね』


「友を侮辱するか、貴様……っ!!」


ゲンは強く拳を握りしめ、力の限り怒鳴った。

確かにアッシュベルは奇人ではある。

だが、そのような非人道的な行いをするような人間ではないのだ。

例え誰が何と言おうと、ゲンは艦長としてではなく……友として、アッシュベルの事を信じていた。


『……どうやら、時間の無駄でしたね。 失望しましたよ、貴方ほどの人物が私情に捕らわれ判断を誤ってしまうとは……。

貴方達が生き残る、唯一の道を自ら閉ざしてしまったのですから』


「どういう意味だ……貴様」


『やはり、貴方には何も価値がありませんでした。 正直あの時、皆殺しにしておくべきでしたよ。

これで貴方は私と共に生きる選択肢を失いました……非常に、残念ですがね』


ジエンスは何処か悲しげな表情を見せながら、そう呟く。

だが、その表情はとてもじゃないが心の底から悲しんでいるようには見えない。

むしろ、心の何処かではこちらを嘲笑っているかのように感じた。


「貴様に何ができるというのだ」


『……ほう、私は本気ですよ。 もう少しで、貴方にもそれがわかるはずです』


ガタンッ! 突如、会議室の扉が開かれた。

一人のメシア兵士が、慌しくイリュードの元へと駆けつけてくる。


「大変ですっ! メシアの支部各地で、アヴェンジャーの襲撃が確認されましたっ!!」


「何……? どういうことだ、奴らにそれ程の戦力が……?」


「メシアの中に……何人かのアヴェンジャー兵が紛れておりました。 その者達が次々と襲撃を――」


「っ!?」


ニヤリ、とジエンスは笑みを浮かべた。


『ホホホ……どうです、今から貴方が土下座でもすれば……考え直してあげてもいいのですよ?』


「……」


ゲンは深く考え込んだ。

このタイミングで、メシア支部各地にアヴェンジャーの襲撃が確認された。

恐らく、ずっと前からアヴェンジャーが忍ばせておいたのだろう……シラナギのような内通者を。

それはアヴェンジャーが、本気でメシアの崩壊を狙っていることの証明だった。

だが、いくら内部を乱したと言えどメシアがその程度で崩壊するはずがない。

例えメシアの頭である本部へ襲撃をかけるにしても、本部の護りはそう簡単に崩せるものとは考えられなかった。

……だとすれば、この男はメシアを超える程の戦力を手にしていると考えられる。

それをわからずに、アヴェンジャーを敵に回すのは……あまりにもリスクが高すぎた。

――迷っている暇はない。


「貴様の思い通りになると思うな、その程度の脅しで……我々を止めようとは愚かだな」


『……最後のチャンスでしたが、仕方ありませんな。 これより我々は、メシア本部へ襲撃を掛けます。

そこで……メシアの終わりを見届けるといいでしょう。 ま、貴方がこちらへ来ようが何をしようが……我々を止める事は、不可能ですよ。

愚かなのは自分だったという事を、嫌でも理解させてあげましょう』


それは、事実上メシアに対する『宣戦布告』だった。

……ついに、人類同士での……メシアとアヴェンジャーの『戦争』が始まろうとしていたのだ。


「我々を見縊るなよ……アヴェンジャーッ!」


プツンッ、ゲンは一方的に通信を遮断した。

……このままアヴェンジャーの行為を見逃すつもりはない。

ゲンは、立ち上がった。


「イリュード艦長、奴の言葉は本気だ。 今は我々同士で争っている場合ではない……一刻も早く、アヴェンジャーを止める事が先決だっ!」


「……その通りだ。 フリーアイゼンの改修は完了している……勿論、我々も同行させて頂くぞ」


「……諸君、よく聞いてくれたまえ。 これより先は、E.B.Bとの戦いとは違うっ! 今回我々は、『アヴェンジャー』の討伐を行うっ!!

今の世の中で、本来であれば人類同士で争っている場合ではないのかもしれない……だが、その考えがあの男の暴挙を許してしまったのだ。

奴らの野望は、必ず我々の手で阻止する……ここで、アヴェンジャーとの戦いを終わらせるのだ。

人と戦う事に怖気づいた者は、この場に残れっ!! 本気で戦う意志がある者、迷わずに戦える者のみ……私の後に続けっ!!」


ゲン艦長は力強くそう告げると、静かに会議室を後にしていく。

……晶は、一番初めにE.B.Bに襲撃された時の事を思い返した。

あの時は、突然E.B.Bの襲撃を受け……素人であるパイロット候補生達が、戦場へと駆り出されようとしていた。

怖気づいた者は教室に残れ、教師がそう言ったが……竜彦を始めとして、全員が覚悟を決めて戦場へと旅立っていった。

そして、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。

……同時に、晶はその時心に大きなトラウマを背負ってしまった。

教師に、パイロットとして認めてもらえなかった事を、思い出してしまったのだ。


今の自分を考えると、正直ちゃんと戦えるのか不安で仕方がなかった。

ι・ブレードの暴走でたくさんの命を奪ってしまった時、あれほど戦うのが嫌だと思った事があっただろうか。

……俊の前では確かに、守り抜く事、戦い抜く事を決意した。

だが、相手が同じ人だとしても……戦えるのか。

今まで何機ものアヴェンジャーのHAを落としてきたが、今回の戦いは……状況が異なっている。

こんな事を考えてしまう時点で、晶は戦場に出ない方がいいのかもしれない……と考えた。


「……晶」


ゼノスが、静かに声をかけてきた。


……ジエンスという男は言っていた。

アヴェンジャーに戻って来いと。

それは、ゼノスがアヴェンジャーのスパイという事を証明したことになる。

そして、ゼノス自身もそれを肯定していたのも事実だ。

……また、シラナギのように裏切られてしまうのだろうか。

そんな事を、晶は頭の中にグルグルとめぐらせていた。


「戦うぞ、奴らの手には木葉が渡っている。 このまま戦いが激化したら、木葉が無事でいられるとは限らない」


「この、は……?」


ドクンッ――

晶の心臓音が、再度高まる。

……シラナギは言っていた。

晶に木葉は任せられない、だからシラナギが守ると。

木葉は、どう思ったのだろうか。

同じことを、考えていたのだろうか――


「……晶っ!」


パシンッ――

突如、右頬に激痛が走った。


「考えるな、戦え。 迷ったら俺を頼れ、お前の道を俺が示してやる……だから、ついて来い」


ゼノスは厳しい表情で、晶にそう語りかけていた。

……やっぱり、ゼノスはゼノスだった。

ジエンスの言う裏切り者なんかではない、ゼノスは味方だ。

晶の強い、味方なのだと再認識した。


「ありがとう、ゼノス」


晶は戦う事を、決意した。

木葉を助け出すためは勿論、他にもやる事はたくさんある。

……裏切ったシラナギを、説得する事。

そして、間違った父親を……自らの手で正す事。

戦う理由に、迷う必要はなかった。

難しく考える事はない、自分には強い意志があるのだから。

……かつてない戦いを前にして、晶は戦い抜く事を誓った。


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