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     計画始動の時 ②

アヴェンジャーの拠点。

前の拠点が第S級汚染区域に作られていたように、新たな拠点も同様の場所が選ばれた。

世界的にE.B.Bの討伐を行っているメシアですら、手を付けにくい場所であり、アヴェンジャーが身を隠すには汚染区域に身を隠すのが都合がよかった。

元々D支部として使われていた施設を、アヴェンジャーが新たな拠点として活用していた。

恐らくE.B.Bの侵攻の激しさにより、メシアが破棄したのだろう。


しかし、メシアと言えどいつまでも汚染区域を放っておくはずがない。

今現在もアヴェンジャーの拠点を捜索する活動が続けられており、第S級汚染区域に目をつけられるのも時間の問題だ。

だが、アヴェンジャーの首謀者であるジエンスは、その事に焦りを全く見せていない。

何故ならば、今のメシアにそんな事をしている余裕がなくなったからだ。

フリーアイゼンに忍ばせておいたシラナギが動き出した事、そして……アッシュベルが裏で操っていたとされるDr.ミケイルの殺害。

その二つの事件が重なったことにより、メシアは大混乱に陥っていたのだ。

施設の地下に眠る格納庫に、二人の人影があった。

ジエンスと、健三の姿だ。


「ホホホ、シラナギさんはよくやってくれましたよ。 これで全てが整いましたよ」


「……これで、メシアに潜むアッシュベルを炙り出せるはずです」


健三は目の前に並ぶ2機のHAを前にして、そう言った。

ブラックベリタス。

晶達の住んでいたシェルター地区に、密かに開発されていたι・ブレードを真似て開発されたHA。

開発が中断されていたその機体は、健三の手によって改修されていたが……ようやく完成した。

ιシステムこそ搭載されてはいないが、性能だけでいえばオリジナルのι・ブレードを遥かに凌いでいる。

外観はι・ブレードと同様に通常のHAより一回り小さく、酷似した点は多い。

違いと言えば、全身が真っ黒なボディである事と……背中に装着されている黒い四本の剣だ。


もう一つのHAは、その圧倒的な大きさに驚かされる。

通常のHAとは比べ物にもならない程の大きさであり、見上げてもその全体像を確認する事は出来なかった。

その一部分だけ見える外観は、とても妙な形をしていた。

その本体は、鳥の羽のような形をした装甲に、まるでその身を隠すかのように包まれていたのだ。

異様な外観からか、その名は『フェザークイーン』と名付けられた。


「これこそ、私が求めていた絶対的な力ですよ。 未乃 健三、貴方はよくやってくれました。 感謝しておりますよ」


「……圧倒的な力を見せつければ、メシアも降伏せざるを得ないでしょう。 我々の要求通り、アッシュベルを差し出すしか選択肢がなくなるはずです」


だが、その性能を見せつけるという事はたくさんの命を奪うことに繋がる。

これ以上、アッシュベルによる被害者を生み出さない為と言えど、今更ながら健三は自分が生み出してしまった兵器に恐怖心を抱いた。

これまでにアヴェンジャーは、メシアに嫌がらせのように必要以上に兵器を奪い続け、徐々に戦力を高めた挙句、自らHAを開発する力を手にした。

時にはE.B.Bすらも利用し、無関係な人間をたくさん巻き込んでしまう事もあった。

しかし、もはやあの男を止めるには手段を選ぶ余裕すらないのだ。

アッシュベルは、必ず本性を現す。

いつか、自らの野望を果たす為に……世界中の人間を巻き込んでいくだろう。

かつて天才科学者と呼ばれていた男は、腐っても天才なのだ。

止めなければならない、アッシュベルという男を。

例え自らの手を汚そうと、世界から非難されようとも――

それが、息子を裏切ってまでアヴェンジャーについた……未乃 健三の決意なのだ。


「降伏? アッシュベルを差し出す? はて、何の事ですかな」


ギロリ、と鋭い目線が健三に突き刺さる。

思わず、ゾクッと背筋に寒気が走った。

ジエンスから、かつてない程の強大なプレッシャーを感じた。


「やるのであれば……徹底的に、ですよ。 我々なら不可能ではないはずですよ、未乃 健三……」


「……まさか、貴様――」


直感的に、悟ってしまった。

この男が何を狙い、何をしようとしているのか。

……なんてことだ、健三は自らの手で取り返しのつかない事態を引き起こしてしまった。

見切れなかったワケではない、この男の『野心』を。

だが、それでもアッシュベルを止める事を最優先に活動を続けてきた。

その結果、目の前に存在する『アッシュベル』より危険な男に……『絶対的な力』を与えてしまったのだ。


「メシア本部を襲撃しましょう……我々の力を示し、世界に『メシアの壊滅』を告げるのです。

そして……この私が、絶対的な力を持つ私が……新たな世界の指導者として立ち上がりましょう……異論はありますかな?」


「そんな事をすれば世界は大混乱に陥るっ! ようやくメシアの手によって、世界は安定してきているんだ……そんな勝手なことは許さんぞ」


「ほう、では我々が今まで行ってきた行いは『世界を乱す行為』ではない、と?」


「……っ!」


健三は、否定できなかった。

アヴェンジャーが今まで行ってきたことは全て、メシアに危害を加えるものばかりだ。

その結果多くの命が失われたのも事実であり、ジエンスが言う通り『世界を乱す行為』そのものだった。

だが――


「そもそもおかしいですね、何か勘違いをしておりませんか? 貴方の目的はアッシュベル・ランダーを殺してでも止める事。

即ちそれは、エターナルブライトの人体実験をこれ以上広めない為に……という事では?」


「だからと言って、メシアを壊滅させる必要はないはずだ」


「いいえ、それでも広まっていったエターナルブライトの人体実験は続くでしょうね。 例え、アッシュベル・ランダーを捕えたとしても……その命を奪ったとしても人体実験は続きます。

アッシュベルの後を継ぐ者が……必ずメシアの中から現れるでしょう。

今の腐りきったメシアは一度、滅んだ方が世界の為です。 ですから、私がメシアの代わりに世界を守ってあげましょう、という事なんですよ?」


「世界の支配者となる……それが貴様の本心か、ジエンス・イェスタン」


「そうです、今のメシアには有能な指導者がおりません……どいつもこいつも無能ばかりで役立たずなのですよ。

ですから、私が世界の絶対的な指導者に……なると言っているのです」


健三は咄嗟に、隠し持っていた銃を両手で構え、ジエンスの額に押し付ける。


「貴様に、指導者となるほどの器はない」


ギロリ、と強くジエンスを睨みそう言った。

だが、ジエンスは表情を何一つ変えずに、むしろ気味が悪い笑みを浮かべたままだ。

何がおかしいというのだ、銃を突きつけられているというのに。


「私に逆らう、という事ですね?」


「……っ!?」


突如、腹部に衝撃が走る。

抵抗する暇もなく、健三は猛スピードで壁まで突き飛ばされてしまった。


「グッ……ゲホッゲホッ――」


ガァンッ! と激しく体を叩き付けられ、呼吸困難に陥る中……目の前には異形の姿があった。

異形を繋ぎとめている蔦のようなものを辿っていくと、それはジエンスの体へ繋がっている。

……あれは、ジエンスの体を突き破り姿を現した『E.B.B』の姿だった。


「私もE.B.B化が進んでおりましたね……ですが、慣れてしまうと案外快適なんですよ。 体内を巣食うE.B.Bを、こうやって自在に操る事もできますから」


「人を……捨てたというのか」


「いえいえ、私は私なりに『人の形』を長年保てるような工夫をしたまでですよ。

こうやって体内にE.B.Bを繋ぎとめていれば、エターナルブライトを破壊されない限り私は死にませんし、活動できます。

私のE.B.B化した体の内部は、全て先程のE.B.Bがエサとして食い尽くしてくれます……それ故、外見には変化がありませんし、脳にまで異常が達しません。

きっとアッシュベルですら、このような暴挙を思いつくはずがなかったでしょうね」


この男、危険すぎる。

何故、今までこの男を野放しにしていたのか……平然とこの男の下についていたのか。

健三はジエンスに恐怖を感じた。

ここで殺さなければ、世界に未来はない。

アッシュベルどころの騒ぎではない……世界はもっと危険に晒されてしまう。

この男が支配する世界に、明るい未来があるはずがない――


「……好きには、させんぞっ!」


バァンッ!! 健三は迷わず、引き金を引いた。

銃弾はジエンスの額を貫いた。


「っ――」


ジエンスは静かに、バタリと倒れる。

……E.B.B化は脳にまで達していない。

ジエンスは確かにそう言っていた。

ならば、もう起き上がるはずはない。

しかし――


「野蛮ですね、そんなところを狙われてしまいますと……脳のE.B.B化が進んでしまうではありませんか」


「なっ――」


生きていた。

ジエンスは再び立ち上がり、微笑んでいた。

E.B.Bと同じなのだ、エターナルブライトを体内に埋められた人間は。

その『コア』となったエターナルブライトを破壊されない限り、再生し続ける。

再生が繰り返される事により、人の体は『E.B.B』へと変化を遂げていく。

その事を、健三は当然ながら知っていた。

だが、今更それに気づいたところで……遅い。

ジエンスのE.B.Bが再び飛び出し、無数の触手が飛び出される。

逃げようにも体の自由が利かずに、グルグルと無数の触手が絡みつく。

健三はあっという間にその身を拘束されてしまった。


「殺しはしませんよ、貴方にはまだまだ利用価値がありますからね。

ホホホ、次は私が世界の指導者となった時に……お会いしましょう――」


「……晶、すまない――」


自分が、間違っていた。

そう気づいた時には、全てが遅かった。

晶の言う通り、やり方を誤っていたのかもしれない。

だが、それを悔やんでももう遅い。

ジエンスが止まる事はない、このままメシア本部への侵攻を続行するだろう。

アヴェンジャーの者達は、何も考えずにジエンスに従い、復讐という強い意志だけで戦う。

戦いは止められない、メシアの崩壊の日が近い。

健三の技術が、メシアを追い込んでしまうというのか。


「明菜、息子を頼む――」


今は亡き、妻の名を呟き……健三は意識を失った――











健三は監獄へと閉じ込められた。

一人となったジエンスは、静かに司令室へと足を運ぶ。

健三は何処かジエンスに反感を抱くことが多かった。

だが、彼も自分の目的に手段を選ばない男……それ故、利用する事は容易かった。

おかげでジエンスの計画は予想以上に早く遂行することが出来る。

もはや、HAの技術力だけでいえば敵はいない。

ι・ブレードを開発した未乃 健三の技術力があれば、ι・ブレードそのものは必要なかった。

それどころか、今の未乃 健三はあのHA以上のバケモノを作り上げてくれたのだ。


しかし、ジエンスにはどうしても腑に落ちない点がある。

どうして健三は、ι・ブレードを必要以上に欲したのだろうか。

単純に息子が乗ったHAだったから、というわけではない。

少なくとも、今の健三でも生み出せない『ιシステム』を持っている点が重要と思われる。

ジエンスはその事に、非常に興味を抱いていた。

D支部の支部長が座っていたと思われる席へ、ゆっくりと腰を掛ける。

そこには司令クラス専用の通信機が一つ……。


「さて……彼らは果たしての判断はいかに」


不気味な笑みを浮かべ、ジエンスは通信を繋いだ。

――フリーアイゼンの艦長『ゲン・マツキ』に。


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