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第15話 計画始動の時 ①


第7支部付近の街外れに、とあるジャンクパーツショップが存在した。

店は小さく客の出入りは少なく、一部の常連客だけで何とか経営を行えている個人商店である。

外見は古臭いというよりかは、既にガタついてきており、建物自体の劣化が素人目でも分かる程だ。

青く塗った屋根は色が剥げてしまっていたり、あちこちにサビが目立つ。

店中に張られていたと思われるもう何十年も前の広告のポスターも、その形をほとんどなくしていた。


そんな店に、一人の少年……白柳 俊が足を踏み入れた。

サビついたドアノブを握りしめ、ギギギギと嫌な音を立てながら俊は扉を開いて店の中へと入り込む。

中には本当にガラクタとしか思えない代物ばかりが置かれていた。

ボロボロの電化製品にPCのケースやパーツの類、更には使用用途すらよくわからない部品の数々。

店の商品はほとんど埃がかぶっており、とてもじゃないが売り物とは思えない程手入れがされていない。

唯一埃がかぶっていなかったのは、店長と思われる人物が偉そうに座っているレジだけだった。

髭面にサングラスに無駄に高い鼻の中年親父が、大欠伸をしながら新聞を読んでいる。


「ケッ、まるで大昔にタイムスリップしたみたいだな」


「おう兄ちゃん、お客かい? そりゃ俺っちにとっては褒め言葉よ」


皮肉のつもりだったが、どうやら通用するような相手じゃないらしい。

俊はため息をつきながらも、店長の元へと歩み寄っていく。


「こんなガラクタだらけの店に客なんて来んのか? さっさと引退しろよ、じーさんよ」


「若造が調子をこくんじゃねぇぞ? 俺っちが若かったら今頃お前アレよ、アレ。 ほら、なんだ、病院送りだ、な?」


「あーわかったわかった、悪かったよじーさん。 テメェの強さはわかったから、さっさと本題入らせてもらうぞ」


「言わずともわかっとるわい、おめぇさんアヴェンジャーの一員だろう?」


店長がそう言うと、俊の表情は一瞬だけ強張った。

何故、このような中年男に一瞬にして自分の正体がバレてしまったのか。


「そう怖い顔しなさんなって、ここは滅多に客がこねぇんだよ。 だからおめぇさんが正体隠そうが、こっちは大体わかっちまうって事よ」


「チッ、調子が狂う奴だな……なら、俺がここに来た理由もわかってんだろうな?」


「勿論さ、俺っちはおめぇさんの顔を見た途端に思わずキュンと来ちまったぜ……」


「ああ、そうかよ? そりゃおめでてーこったな」


「おめぇさんのHA、何処においてあるんでい?」


「ここからちょっと離れた岩陰に隠している。 騙し騙しに使ってきたけどそろそろ限界が近くてな、いい加減新しいもんでもよこしてもらおうとしたんだがよ……

そしたら何故か、こんなボロ臭くて胡散臭ぇショップで直してもらえってな。 全く、ひでぇ話だと思わねぇか?」


俊はため息をつきながら店長に愚痴をこぼした。

だが、そもそも俊は新型HA支給の話を何度も受けていたが、自らそれを全て断って来ていたのだ。

毎度口癖のように『そんなもんに頼らなくても、ι・ブレードぐらい落としてやるよ』と突き返し、今のレブルペインをずっと使い続けていた。


「いやいやおめぇさん、ツイてるよ。何せ俺っちに改修を依頼するんだからな」


「おいおい、まさかこんなボロくせえジャンクパーツでも使おうってのか?」


「バカ言うんじゃねぇよ……HA用パーツは別に存在するさ。 どうだいおめぇさん……腕には自信があるんだろ?

おめぇさんのHA……とんでもねぇバケモンに仕上げてやるよ、乗り心地は保障しねぇ代わりに格安で引き受けてやるぜ?」


「へいへい、そいつぁ期待できそーなこった」


どうせ中年親父の戯言だろうと、俊は軽く聞き流していた。

アヴェンジャーからの情報によれば、そこそこ腕のあるメカニックマンと聞いている。

だが、俊にとっては精々レブルペインを元に戻してくれれば上出来としか思っていなかった。


「……おめぇさん、違法パーツって知っているかい?」


「違法パーツだぁ?」


突如、店長はニヤリと怪しく微笑みながら俊にそう問いかける。

俊はその単語に少しだけ興味を示した。


「メシアのD支部でのみ開発されていた極秘のHAがいくつか存在するって話を聞いたことがあるだろう。 おめぇさんなら『G3』が一番馴染んでいるだろうな。

G3はサマールプラントによる熱源探知機能で、メシア兵を皆殺しにしちまったまさにメシアの負の象徴……負の遺産、と呼ばれる代物さ。

勿論、D支部で開発されていたのはG3だけじゃねぇのさ。 こっそり、開発中のとんでもねぇHAの数々も、それを機に開発中止となった……」


「……へぇ、楽しそうな話だなおい」


「おめぇさんなら乗ってくれると思ってくれたぜ、やはり俺っちの目に狂いはなかった。

D支部で使われていた新型HAの技術は、どれもメシアの手によって意図的に禁じられた技術ばかりだ。

理由は何故か? それは、とてもじゃないが常人が扱えるようなHAじゃなかった、ということなんだ」


「常人が使えるHAではない……つまり、常識はずれの性能を持っていたという事か?」


「例えるなら……ι・ブレードがそうだろう。 あれは、メシアが禁じた違法パーツと性能が酷似している。

実際は別物っぽいらしいけどよ、俺っちから見てみりゃ違いなんてありゃしねーよ」


「ι・ブレード……ビリッケツが乗るHAが、常識を超えたHAだぁ?」


言われてみれば確かにι・ブレードは常識を覆すほどの機動性を誇っている。

更には危険察知と呼ばれる代物も備えており、俊ですらも相当集中しなければι・ブレードを相手にできない程だ。

だが、問題はそこではない。

そんな代物を、平然と扱っている晶に驚きを隠せなかった。


「今の俺っちならば、おめぇさんのHAをι・ブレード以上のバケモンに変貌させてやるよ。

どうだい、俺っちに任せてみる気になったか?」


「……おもしれぇ、やってみろよ。 常識を覆す究極のHA、テメェの手で作ってみやがれ。

そしてこの俺が……徹底的にι・ブレードをぶっ潰してやるよ」


「よっしゃっ! ならばすぐに作業に取り掛かろう。 俺っちに任せれば、三日もあれば十分さ」


「……じーさん、楽しみにしてるぜ」


俊はそれだけ告げると、ニヤリと笑みを浮かべた。

自分が晶に劣っているはずがない、あの晶がバケモノを扱えるのであれば……自分に扱えないはずがない。


「個人的にメシアの事が気に入らねぇんでな。 アヴェンジャーにはもうちーっと頑張ってもらいてぇのよ。

トップが無能なメシアなんて一度滅んじまえばいい、俺っちはそんな風に考えているのさ」


「テメェが手を貸す理由なんざに興味はねぇ。 俺はただ、あのビリッケツを徹底的にぶっ潰してやるだけだ。

甘っちょろい考えと半端な覚悟で戦場に出てくる奴には、圧倒的な力で屈辱の敗北を味合わせてやる……」


俊は拳を強く握りしめ、そう呟く。

ι・ブレードを、圧倒的な力で葬り去る場面を頭に浮かべながら……。










第7支部の遥か北を進んだところに、旧メシア基地が存在した。

E.B.Bの襲撃により破棄された基地は、アヴェンジャーの手によって再利用されている。

そこに、奪われたブレイアスとレブルペイン、そしてシラナギが奪ったウィッシュの3機が存在していた。

施設内の一室にて、4人の人物が集っていた。

第7支部から脱走してきたシラナギと木葉。

ご機嫌そうに鼻歌を交えているフィミア。

そして……ガジェロスの姿があった。


「予定より早かったな、シラナギ」


「あら、サングラス変えたんですか? 前見た時と形が違いますよ?」


「そこに触れるな、思い出しただけでも腹立たしい」


シラナギは不思議そうに頭に?マークを浮かべる。

ガジェロスはこれ以上語るつもりもなく、目を逸らした。


「他の2機は奪えなかったのか?」


「うーん、セキュリティが強化されちゃってましたので。 ちょっと手間かかりそうだったので諦めました。

勿論、強引にシステム全体落とすといった手もありましたけど時間があんまりなかったですし」


「……まぁ、あのブレイアスがあれば十分だろう」


「アハハ、違うよ。 あれは、ブレイアスじゃないよ」


満面の笑みを浮かべていたフィミアは、突如ガジェロスにそう伝える。


「どういう事だ? 別の新型だという事か?」


「ううん、あれはね、私がお願いしたの。 お姉さんを追い回せるような圧倒的なスピードが欲しいって。

そしたらね、ジエンスちゃんが健三ちゃんにお願いしてくれたの。 そしたらすぐに生まれ変わっちゃった」


「……改造した、ということか」


「だからね、あれはブレイアスなんかじゃないよ。 ちゃんと私が名前つけたの、ウヒヒ。

皆親しみを込めて呼んでね、あれは『トリッドエール』って言うの」


「うんうん、よかったです。 私がお勧めした赤はフィミアちゃんにぴったりなHAだったってことですねーっ!

それじゃあ、トリッドエール生誕を祝ってぱーっと騒ぎましょうーっ!!」


「アハハ、私お祭り大好きだよ。 一緒に騒ごうね」


二人で勝手に盛り上がってるのを無視して、ガジェロスはため息をつく。

こんな奴らがアヴェンジャーの一員である事が未だに信じられない。

しかし、フィミアもシラナギも凄腕のパイロットの一人ではある。

特にシラナギは、5年間のブランクを感じさせない程の凄まじい腕前だ。

あの天才的な俊と同等……いや、もはやそれを超えているのかもしれないと感じた。


「……ん」


ふと、ガジェロスは視線を感じた。

ぱっと振り向くと、端っこでガジェロスの事をぼーっと見つめている木葉の姿があった。

こちらに気づくと表情をハッとさせて、目線を逸らした。

木葉の事は覚えている、ι・ブレードを求めて学校を襲撃している際に……晶の近くにいた少女だ。

自分の姿を見るなり子猫のように体を小刻みに震わせ、バケモノを見るかのような目は今でも印象に残っている。

だが、今の木葉の目はそうではない。

何処か遠くを見ており、ガジェロス自身を見ても恐怖心を抱いているようには見えなかった。


「小娘、俺の顔に何かついているか?」


「……ううん、何も」


目を逸らしながら、木葉は返事をする。

声は震えていない、怖がっていないというのか?


「お前、以前とは雰囲気が変わったな」


「え……?」


「俺を見て何とも感じないのか、この右腕を目にしても」


ガジェロスは包帯を解き、E.B.B化が進んでいる右腕を晒す。

だが、木葉は恐怖心も抱かずにじーっとその変わり果てた右腕を眺めるだけだった。


「……声が聞こえるの。 助けを呼ぶ、悲しい声が」


「声……だと?」


「だれかきて、たすけて、くるしい、いたいよ……こんな事ばかり言ってた。 きっと、貴方が奪った私の友達の声だよ」


ガジェロスは木葉の言葉に戸惑った。

そんな声、聞こえるはずがない。

いくらこの右腕でたくさんの人を殺したからと言えど、そんな事はあり得ないはずだ。


「でもね、私……貴方を恨めない。 だって……凄く悲しそうな顔してる、この右腕から聞こえてくる声は、貴方の声自身でもあると思ったの」


「……何を言っているんだお前は?」


「貴方、とても可哀想……」


木葉は、異形と化した右腕をそっと両手で抱きしめながら、涙を流した。

思わず、ガジェロスの背筋に寒気が走った。


「やめろ……っ!!」


右腕を大きく振るうと、木葉はバタンと地べたへと倒れた。

木葉はそのまま動かずに、可哀想可哀想……と呟き続けている。


「ガジェロス、やめてくださいっ!」


シラナギがすぐに木葉を抱きかかえて、ガジェロスに怒鳴りつけた。


「どうしたんだその女……明らかに、異常だぞ」


「この子も、アッシュベルの被害者なんです。 だから、私が連れてきました。

少しだけ調べてみましたが、木葉ちゃんは過去に大きな病気を抱えていましたが、手術を受けた際に完治しているんです」


「……それとこれが、どう結び付く?」


「フィミアちゃんを見ればわかると思います……エターナルブライトは、時には人の心も壊してしまうみたいなんです」


「何……?」


ガジェロスは思わず耳を疑った。

これまでエターナルブライトの症状を確認したことがあったが、精神面についてはエターナルブライトの影響はないと思っていたからだ。


「勿論、全てがエターナルブライトに原因があるとは言いません。 詳しい事はわかりませんが、人の心を増長させ、壊しやすくする……といった事だと思います」


「信じられんな」


「木葉ちゃんはずっと不安定な状況に陥っていました。 私達の襲撃で家族も友達も全てを失い、唯一の支えが晶くんだったのです。

そしていつしか晶くんに依存をしていました。 晶くんが行方不明になった時……何度も自分の体を傷つけて、自殺を計っていました」


「そんな事が……」


思わず、言葉を失ってしまった。

ガジェロスは多少の犠牲は仕方ないと割り切り、アヴェンジャーとして時には非道な行いを平然とやってのけた。

だが、今の目の前に非道な行動による犠牲者が現れてしまったのだ。


「……俺達が、彼女を不幸にした」


ガジェロスがそう呟くと、シラナギは曇った表情を浮かべる。

どんな理由であれど、アヴェンジャーの手によって晶と木葉は故郷を失ってしまったのだ。


「……その通りですね。 どんな形であれど、私達は木葉ちゃんの心を壊すきっかけとなってしまいました」


「勘違いするな、シラナギ」


ギロリ、と強く睨み付けてガジェロスは言った。


「人の心は壊れやすい、それはエターナルブライトの力でも何でもねぇ。 俺達があの少女を追い込んだんだ。

……その罪だけは、認めろ。 だが、どの道こいつが被害者なのは変わりがねぇ……いずれE.B.B化が進み……取り返しのつかない事となる。

これ以上、俺達のような人間を増やさない為にも……多少の犠牲は仕方ない。 だが、責任を全てアッシュベルに押し付けるのは気に入らねぇな」


「貴方の言う通り、ですね。 人の心を壊す件は撤回しましょう、ただ……罪は償います。 そして、木葉ちゃんを連れてきた責任も取ります。

貴方も協力してくれますよね、ガジェロス」


「その子は任せる。 俺はそいつの全てを奪った張本人だ、何をしてもその子を傷つけてしまうだろうよ」


「……はい、わかりました。 ところで言っていいですか?」


「何だ?」


「やっぱりゼノスとガジェロスって、似てるとこありますよね?」


「勝手に言ってろ」


くだらない、と思いつつガジェロスは施設の外へと出て行く。

ι・ブレードの速度なら、あのブレイアス……もといトリッドエールにも追いつけたはずだが、追ってくる様子はない。

とは言えど、メシアへこの位置を特定するのは時間の問題だ。

一刻も早く本拠地へと移動する必要があった。


「早瀬 木葉、か。 俺達が不幸にしちまった一人の少女……か」


目的の為に手段を選ばずに、アヴェンジャーは活動を続けている。

その行動の中で、多くの犠牲者を生み出してしまった事は多々あった。

だが、生半可な戦い方をしていては……いつまでも『メシアの闇』に辿り着くことはできない。

一秒でも早く、メシアの闇を中心に広がっていく『エターナルブライト』の人体実験を、阻止しなければならなかった。

その中心人物である『アッシュベル・ランダー』を叩く事、それがアヴェンジャーの最終目的となる。

間もなく、ジエンスを中心に進められていたアヴェンジャーの計画も……始動が近い。


「ゼノス、メシアへ行ったお前は……今でも俺達を『敵』とみなすのか? 真に討つべき敵は、お前でもわかっているはずだろうに」


ガジェロスは空を眺めながら、力なく呟いた。


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