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     迷う少年 ②


シリアの病室にて、ヤヨイとリューテの姿があった。

足の治療が終わった直後に、HAで無茶な戦いを重ねたせいで再度入院を強いられたシリアであったが幸い、1,2週間体を安静にしていれば問題はないとミケイルに告げられている。

今では体を慣らすために、少しずつリハビリを重ね続けていた。


「よかったわ、貴方の足が治ってくれて。 Dr.ミケイルには感謝しないといけないわね」


「私も驚きが隠せないよ、一体どんな治療を行ったんだろうね」


「アタシもよくわかんねーんだけどさ。おかげでパイロットに戻れたどころか……ついに念願の空に飛べたからな、あの人には本当感謝してるよ」


少し前まで絶望に陥っていたシリアは、今ではすっかりと笑顔を取り戻せていた。

足の治療だけではない、今まで距離を置いていた姉とも、少しだけ分かち合えた事に喜びを抱いている。


姉は何もしなかった、メシアに入っても助けに来てくれなかった、ずっと顔を見せてくれなかった。

そんな想いを重ねた結果、姉であるラティアを恨むようになってしまったシリアであったが、今は違う。

ラティアの気持ちを理解し、今までどんな気持ちで過ごしてきたのかを理解できた。

両親を失ったのはシリアだけではない、ラティアもまた被害者なのだ。

家族を助けに駆けつけてくれたラティアは、目の前で両親を助けることが出来なかった。

その時のラティアの事を考えると、自分が今まで姉を恨んできたことを恥ずかしく感じる。


「あ、姉貴の事何か聞いてないか?」


「あら、スカイウィッシュ部隊の隊長さんのことかしら?」


「彼女なら別室で入院中さ、命に別状はないらしいから安心するんだ。 全く姉妹揃って何をしているんだか」


「そ、そうか……」


ラティアが無事である事を聞いて、シリアはホッと胸を撫で下ろした。


「あ、晶はどうだ? あいつ、大丈夫か?」


晶は突然制御不能となったι・ブレードに乗っていたはずだ。

ゼノスとシリアの二人掛かりで、何とか機体の動きを止める事は出来たが事態は最悪な結果を招いてしまった。

例え、晶自身に非がなかったとしても……責任を感じないはずがない。


「部屋に籠ったっきり出てこないみたいだ、ご飯もろくに食べてないらしい」


「無理もないわ……あんな事件を引き起こしてしまったんですから」


「……そう、だよな。 クソッ、なんでι・ブレードがあんな事に――」


「今メシアでは大問題になっているさ、私達は晶の人間性は理解しているし……あれがι・ブレードの暴走である事は理解できる。

しかし、他の者はそうではない。 一般市民からしてみれば、メシアのHAが無差別攻撃をしてきたのと同じだしね……アヴェンジャーでも、HA単機であんな事をしたことはなかった。

それにメシア内でも晶自身がやった事を疑う声は強い……だからこそ、私達はオートコアの解析を急いでいるんだけどね」


「それは今話すべきことではないわ、何とかしてあの子を立ち直らせてあげないと……今頃、きっと自分の事を責め続けてるはずだわ」


ヤヨイは悲しそうな表情でそう呟いた。

どんな理由であれど、晶はHAで民間区域を襲撃してしまったのは事実。

晶が自分を責め続けて、自らを追い詰めて行くんじゃないかと心配していた。


「なら、アタシが行くよ。 晶には足が動かなくなった時に世話になったからな。

アタシの元気な姿を見れば、ちょっとだけ励みになるかもしれねぇしさ」


「それは構わないが、歩けるのか?」


「平気平気、逆に寝たきりの方が回復が遅くなるって」


「でも休んでた方が……」


「大丈夫さ、HAに乗るわけでもないしさっ!」


二人が止めるのを無視して、シリアはゆっくりと両足でベッドから立ち上がろうとする。

ぎこちない足取りで、松葉杖を持たずに一歩ずつ歩んでいった。


「ヘヘッ、松葉杖なしでここまで歩けりゃ上等だろ。 んじゃ、いってくる――」


シリアは笑いながら、ドアノブを握りしめた瞬間――

バタンッ! 突如、扉が開かれシリアは顔面を強打した。


「い、いってぇぇっ!? な、なんだよっ!?」


真っ赤になった鼻を両手で押さえながら、扉の先を確認するとそこにはライルの姿があった。


「おい、大変だっ!!」


「お前、いきなりアタシにぶつかっといて一言もなしかっ!?」


「お、おおシリアか、悪いな。 でも、それどこじゃねぇんだっ!」


「どうしたんだ、ライル」


ライルの緊迫した様子を見る限りでは、何かよからぬ事が起きてしまったと推測はできる。

うすうすと嫌な予感はしていたが、リューテは尋ねた。


「シラナギの代わりに晶に食事運んでやったらよ、あいつ……部屋にいねぇんだよっ!」


「なっ―――」


ライルから告げられた一言を聞いて、シリアは思わず言葉を失った。











第7支部から離れた個所に存在する民間区域。

支部の近くという事もあって、シェルターの実装はまだされていない個所だ。

商店街にはたくさんの人が賑わい、まるで世界の状況を忘れているかのように楽しんでいる姿が目に入った。


「……こんなとこ、来るんじゃなかったな」


充てもなく、フラフラと商店街を歩いていた晶はそう呟いた。

部屋に閉じこもっていた晶は、あの時……ι・ブレードで破壊してしまった民間区域の事ばかりをグルグルと思い返していた。

別の事を考えようとしていても、あの映像がはっきりと映し出される。

寝ようとするときも、時には夢に出てきて被害者達が晶を責め続けていた。


かつて、アヴェンジャーに襲われた第4シェルター地区と、今回の事件が晶の中で重なっていく。

あの行為を平然とやってのけたアヴェンジャー達を、許せなかった。

だから晶は、E.B.Bとも戦い……アヴェンジャーとも戦い続けた。

だが、今度は自らの手でそんな事態を引き起こしてしまったのだ。

本来守らなければならなかった人々を、無差別に殺す残虐な行為。

E.B.Bに乗っ取られていたから仕方ない、そんな言い訳が通用しないのはわかっている。

だからこそ苦しみ、悩み、絶望していた。


晶が何をしようが殺された人々が生き返るわけでもない、街が元に戻るはずもない。

たくさんの人々の命を奪ってしまった事に、晶は恐怖心を抱いていた。

ι・ブレードは、例のE.B.Bコアによって制御を奪われた。

あの時晶が、しっかりとコアを撃ち落せていれば……こんな事態に陥る事はなかったのだ。

もっと自分に腕があれば――と、自分を強く恨んだ。


元々成績最下位の晶が戦えていたのは全てι・ブレードの性能と、危険察知という能力のおかげであり晶自身の功績ではない。

かつてゼノスはそうではないと言ってくれたが……今思うとそんなものは慰めでしかないと痛感した。

結果的に、自分はメシアの足を引っ張ってしまった……メシアは人類の希望として、今まで人々を不安にさせないように最善の努力を尽くしていたというのに

それを全て、無駄にしてしまったのだ。

こんな自分が、ι・ブレードに乗ってE.B.Bやアヴェンジャーと戦い続けていいのか。

晶はこのままパイロットしてやっていく事に、疑問を抱き始めていた。


気が付いたら第7支部を勝手に離れて、フラフラとこんな街へと足を運んでいたが……ここへ訪れた事に今頃後悔し始める。

こんな平和な街の姿を見てしまえば、晶は嫌でも惨劇を思い出してしまう。

この平和な情景を壊してしまった事を、痛感してしまうのだ。


「キャーッ!」


「バケモノだぁぁぁっ!」


突如、晶は人々の悲鳴を耳にした。

一体何の騒ぎかと思いきや、晶は思わず目を疑った。

そこには、紫色のボディの、一つ目をした不気味な姿の生物の姿がある。

……急遽、商店街に複数のE.B.Bが出現していたのだ。


「何で……E.B.Bが?」


この付近のE.B.B討伐は常に第7支部が行っているはずだ。

なのに何故――

グシャリ……E.B.Bから赤い槍のようなものが突き出されると、民間人の一人が串刺しにされていた。


ドクンッ――

心音が高まり、体中から汗が噴き出した。

晶は、かつてクラスメイトが殺されていった光景を思い出す。

ガジェロスの手により、次々と生徒が串刺しにされていき、ゴミのように放り投げ捨てられていったあの光景を――

その時、凄まじい嘔吐感が襲い掛かり、思わずしゃがみこんで晶は吐き出した。

何で、何でまたこんな場面に――


「おい君、大丈夫か? 早く逃げなさい」


近くにいた若いスーツ姿の男が、晶に声をかけた。

だが、晶は何も反応を示さない。

目の前で起きたことが信じられなくて、口を両手で押さえて、ただ目を見開いたまま動かなかった。


バンッ! バンッ!!

民間人の何人かが、一斉にE.B.Bに向けて銃を発砲する。

E.B.Bは悲鳴を上げて、逃走をし始めたが、更に何人かの住民が発砲する事により、ようやくE.B.Bは動きを停止させた。


「……終わったようだな。 君、立てるか?」


「……は、はい」


この時晶は、今この場で何が起きたのかを理解できていなかった。

ようやく我を取り戻した晶は、サラリーマンの男の力を借りて立ち上がる。


「これで今日は3回目だな……全く、メシアの奴らは何をしているんだろうな」


「3回目……? そんなにE.B.Bが出現しているんですか?」


「何だ、君はシェルター出身か? シェルターのない街ではこんなの日常茶判事さ。

いくらメシアがE.B.Bを討伐したところで、こういった小型サイズまでには手が回っていないんだろうね。

……おかげで、シェルターがない街の人は、自分で身を守る為に銃を持ち歩いているのさ」


サラリーマンの男は、晶に銃を見せつけながらそう言った。

晶は言葉を失った。

自分達が住んでいた区域では、こんな事態は一度も起きていなかったというのに。


「君もここに長居するつもりなら武器を所持しておくといい。 後、E.B.Bについて勉強をしておくことだな。 奴らはコアを撃たない限り死ぬことはないしね」


「……あ、は、はい」


サラリーマンの男はそう告げると、そのまま立ち去ってしまった。

晶は先程殺されてしまった人に目線を向ける。

そんなに多くの人だかりはできておらず、住民の一人が携帯で連絡を取り、後は素通りする人々が大半だ。

……あのサラリーマンの男のいう事は、間違いなかった。

出なければ、人々が死体を見て何もリアクションを起こさないはずがない。


「嫌ねぇ、また被害者が出てるじゃない……」


「メシアはどうしてシェルターを実装してくれないのかしら? そうすればこんなE.B.Bに怯える毎日もなくなるのに……」


「大体HAばかり生産してもE.B.Bを全滅させるなんて不可能だろうに……メシアってE.B.Bの事ちゃんとわかってないんじゃないか?」


「メシアになんて頼るのが間違っているのよ、最近ではアヴェンジャーってのにHAを次々と奪われ続けてるのよ、もううんざりしちゃうわ。

そんなとこが人類守ろうだなんて偉そうな事を言っているんだから」


「そうそう、先週なんてHAが民間区域を襲撃って言う前代未聞の事件があったそうじゃないか。

あんなのアヴェンジャーでもやらないよ、何考えてるんだろうねメシアは」


「ここの近くで起きたのよね……また襲ったりしてこないかしら、私引っ越そうかな」


呆然と立ち尽くしていると、晶は次々と一般市民の会話を耳にした。

思わず、耳を塞ぎたくなった。

それは晶が思い描いていたメシアとは、かけ離れていた話だったのだから。

メシアは人類の希望であり、人々に信頼を得る為に最善を尽くしてきたという。


だが、現実はどうだろうか。

少なくともこの場にいた人間は、誰一人メシアを信頼している様子がなかったのだ。

それどころかメシアに批判的な意見を述べ、不満を持つ人々が大半を占めている。

……一体、どうして?

メシアは人類を守る為に戦っているはずなのに、人々は守られてないと……思っているのだろうか――


「……クソッ!!」


晶は夢中になって駆け出した。

HAで無差別に人を殺してしまった事だけで、頭がいっぱいだったというのに。

更に人々のメシアに対する声まで聞いてしまった。

知らない方がよかった、知るべきではなかった。

メシアは人類の希望、E.B.Bの脅威から世界を守る為に存在している。

それなのに人々は――

晶は悩み、苦しみ、絶望した。


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