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     暴走 ②


第7支部にて、警報が鳴ってから数時間が経過した。

メシア兵が使用する宿舎の空き部屋で、木葉は心配そうに窓から外の様子を眺める。


「……大丈夫、なのかな」


あれから特に大きな騒ぎが起きているようには見受けられない。

不安は残るが、木葉はベッドに横になってため息をつく。

フリーアイゼンが襲撃を受けた騒動後、木葉は第7支部にて保護されていた。

元々は避難区域へ引き渡される予定だったのが、今はフリーアイゼンが身動きを取れない状態である。

未だに自分が今後どうなるのかが見えずに、不安が隠しきれない状況だ。


晶が死んだと聞かされてからの木葉は、精神的に相当追い込まれていたのは言うまでもない。

帰る家もなく、家族や友達は全てE.B.Bの襲撃で失い、晶までも失ってしまえば……追い込まれない、という方が無理な話であろう。

晶は、自分が死にかけたというのに……今でも、世界の人々の為にE.B.Bの討伐をする為、アヴェンジャーと戦う為に再びι・ブレードに乗っている。

本当はもう戦ってほしくない、パイロットを辞めてほしいと思っていた時もあった。


だけどそれは、木葉は晶を失うのが怖いから、もう危ない目に逢ってほしくないから、といった思いだ。

実際、晶は自らパイロットになる事を選んだ上に、パイロットとして戦うことにもはや恐怖心を抱いていない。

学生時代の時から、晶のパイロットに対する情熱も知っていたし、一生懸命頑張ってきた姿をずっと見守ってきた。

せっかく叶った晶の夢を、壊したくはない。

だから木葉は、そんな晶をずっと支え続けたい、そばにいてあげたい、力になってあげたい。

それをどうにかして叶える方法がないかを、ずっと悩んでいた。


「やっぱり、これ……なのかな」


布団の近くには山積みになった教材の数々。

シラナギからの提案にもあった、フリーアイゼンの正式なクルーとなる事。

フリーアイゼンは人員不足で、現在まともなオペレーターがヤヨイ一人しかいない。

ヤヨイの負荷が相当大きいと、シラナギが以前に話してくれたこともあった。

戦況オペレーターとして働くことが出来れば、晶と離れ離れになる事もなく……共に戦うことが出来る。

だが、自分にそんなものが務まるのだろうかと、木葉は悩んだ。

やはり避難地区で大人しくしているのが、一番なのかもしれないと、再びため息をついた。


「……晶くん、まだ帰ってこないのかな」


ここのところ、晶と会話をする機会が減ってしまった。

立て続けに色々な事が起こりすぎて、晶は随分と悩んでいるように見えた。

そんな状態で、自分の悩みを打ち解けるのは晶に申し訳ないと思う。

だが、一人で悩んで答えが出ないのであれば、直接晶に相談するのが一番だろう。

勿論、シラナギに相談するのも一つの手ではあるが、彼女は強引な上にオペレーターを目指すために木葉に尽くしてくれるだろう。

しかし、そういった強引な方法で自分を納得させたいとは思えない。

ちゃんと考えて、自分の納得いく答えがほしい、と考えた。


シラナギのやり方や性格が悪い、とは言わない。

ただ、木葉は後押しがほしいのではなく……もっとじっくり考えてみたい、というだけだった。


「晶くんも頑張ってるんだから、私も何かしないと……」


木葉は胸に仕舞い込んでいたナイフのケースを握りしめた。

……護身用として持っていたナイフだが、今となっては身に着けているのが少し怖い。

二度も、このナイフで自殺を図ろうとしてしまったのだから。

だけど、身に着けていないと何処か落ち着かない。

結局木葉は、首飾りの代わりにナイフをぶら下げ続けるのであった。








旧メシア基地のポイントに、シリアは到着した。


「こ、ここか?」


全速力で飛ばしてきたこともあり、身体の負担は相当大きい。

最初は初めての空に感動を覚えていたが、段々とそんな余裕はなくなっていた。

相変わらず足に力が入らない上に、時々激しい痛みが足全体に走る時がある。

ミケイルが少し言っていたが、治療後は定期的に足の神経全体に痛覚が走る事が多々あると聞いた。

慣れないうちに足を使い続けると、その痛覚が悪化して、最終的には気絶するほどの激痛へと達すると脅された事も覚えている。

その程度で降りるわけには行かない、ラティアの代わりに新型を取り返しに来たのだから――


レビンフラックスは人型へと変形し、地上へと着陸する。

レーダーには確かにHAの反応がある……フラムの予想は正しかった。

だが、油断はできない。

アヴェンジャーの奴らが、逆にこのように堂々と自分の場所を晒しているのは何か理由があるはずだ。

罠の可能性も十分に考えられる……かと言って、このまま突っ立っていても時間の無駄ではあった。


「しゃーない、炙り出してやるか」


レビンフラックスは、二丁のライフルを構えた。

HAの反応がするポイントに目掛けて、発砲する。

ガガァンッ! と、瓦礫が崩壊するが……特に相手側の動きはない。

今度はグレネードを投げようと、シリアは準備をしようとしたところ―――


バシュンッ!

突如、一機のHAが上空へと目掛けて飛び上がった。

あの赤い機体、見たことない形だ。

となると、新型のブレイアスはあのHAである事は間違いない。

同時に、レビンフラックスへと映像通信が入り込んだ。


「げ……まさか」


シリアは嫌な予感を感じさせながらも、映像を受信した。


『アッハッハッハッハァッ!! 生きてた、生きてた生きてた生きてたぁぁぁっ!!!』


「やっぱり、テメェかよ……っ!?」


サブモニターには、目が血走らせて発狂している『フィミア』の姿があった。

復活早々厄介な相手に当たってしまったと、シリアはため息をつく。


『ねぇねぇ、どうやって足を治したの? やっぱり愛の力? そうだよね、私達やっぱり運命の赤い糸で結ばれてるんだよ。

ウヒヒ、ずっと、ずっと一緒だよお姉さん……もう、絶対に逃がさないから……ウヒ、ウヒヒヒヒヒィィッ!!』


「な、何でアタシの足の事を……?」


『ねぇ来てよお姉さん……その新しい玩具、試したいんでしょ? ウヒヒ、ゾクゾクしてくるね……私も新しい玩具で、お姉さんを試してあげるぅぅっ!!』


その瞬間、有無も言わさずブレイアスは高速で接近してくる。

シリアはすぐに上空へと舞い上がり、飛行形態へと変形させた。


「冗談じゃねぇよ、HAは玩具なんかじぇねぇっ!!」


『アッハッハッハッハァッ!! すごーい、はやぁぁいっ!! 私じゃ、追いつけないよぉぉぉっ!!!』


スロットルを限界まで押し込んでいるものの、ブレイアスは負けじとレビンフラックスの背後を追い続ける。

バンッ! バンッ! と、ライフルが発砲され続け、シリアは辛うじて避け続けた。


「いちいちうるっさいんだよっ! これでも食らってろっ!!」


シリアは機体をぐるりと旋回させると同時に、ミサイルを放った。

バシュンバシュンッ、と飛ばされていく2本のミサイルはブレイアスへと向けて飛ばされていく。

だが、ブレイアスは迫りくるミサイルから距離を取りながらライフルであっという間にミサイルを撃ち落していった。


『ウヒヒ、こんなものじゃ私を愛せないよ? アハハ、アッハッハッハッハァッ!』


「チッ、相変わらず気持ち悪い奴だな」


ギュンッとシリアは機体を旋回させ続け、ブレイアスの背後を取った。

それと同時に機体を人型へ変形させ、2本のソードを構える。


「さっさとくたばっちまえよ、この変態っ!!」


シリアは最大まで機体を加速させ、一機にソードでブレイアスを切り裂く。

轟音と共に、凄まじい速度でレビンフラックスは直進していった。

バキィィンッ! 鈍い音が響く。

ブレイアスからは煙が吹き出し、徐々に地へと墜落していった。


『アハハハ、アッハッハッハッハッハァッ!! お姉さん、お姉さんっ!! いいよ、今のすっごく良いっ!!

お姉さんがそこまで愛してくれるなら、私はもっともっと、いっぱい愛してあげるねっ! アッハッハッハッハァッ!!』


「テメェは二度とアタシの前に現れんな――」


その時、シリアは別方向から紫色の光を見えた。


「あれは――」


咄嗟にシリアは飛行形態へと変形させ、スロットルを最大まで押し込んだ。

凄まじい速度で前進していった後、紫色に光がバシュンッと飛ばされていく。

地上を確認すると、一機のレブルペインがロングレンジキャノンを構えていた。


「ロングレンジキャノンだって? 何でそんなことに……」


シリアが地上を確認していると、バンッ! と銃声が鳴り響く。

コックピットが激しく揺れ、機体がバランスを崩し始めた。


「まずい……っ!」


何とか持ちなおそうとシリアは操縦桿を握りしめ、機体を上昇させる。

サブモニターには被弾を告げるメッセージが表示されていた。

装甲面は問題ないにしろ、飛行形態の場合は機動性を確保するために、精密な設計がされている。

その代償か、ちょっとした振動でもすぐにバランスを失ってしまうのだ。


「嘘だろ……この速度でアタシに当てたのか?」


変形している最中はシリアは決してスピードを緩めていない。

全速力で飛ばしていたところを、一撃で狙われたようだ。


『よう、新型を傷つけられた気分はどうだ?』


「気にすることないさ、アタシが倍以上にして返してやるっ!」


地上にはレブルペインの姿があった。

何故か頭と腕のパーツにウィッシュのものが使われているようだが。

シリアは地上へ向けて機体を降ろそうとした瞬間――


ズガァァァンッ!

突如、地中から赤い鉱石のようなものが飛び出した。


「な、なんだっ!?」


『……これが噂のオートコアか、本当に出てきやがったな』


「オートコアだって? アンタ、詳しく聞かせてもらうよ」


『嫌なこった、少しは自分で調べてみるんだな』


コアと言われると、何処となくE.B.Bのコアと形は似ている。

いや、そのものだろうか……。

しかし、そうだとしても独りでに地中から飛び出してくるのは妙だ。

E.B.Bのコアは生物がエターナルブライトによってE.B.Bにさせられた際に出来上がる物のはず。

あれが、ただのE.B.Bのコアだとは思えなかった。


すると、オートコアは一人で自在に動き回り始める。

レーダーの反応から見ると、大型E.B.Bの反応と全く同じだ。

見た目や形から判断しても、とてもじゃないがE.B.Bとはかけ離れた外観だというのに。

どちらかというと、エターナルブライトの形に近いと言える。


「どっちにしろ、E.B.Bである事に変わりはない……始末させてもらうよっ!」


シリアは照準を合わせて発砲をするが、オートコアは俊敏な動きで回避をする。

ならば接近戦で捕えようと、シリアは変形をしてソードを構えた。

速度を上げ、距離を徐々に縮めていくが小刻みかつ不規則な動きに振り回され、中々捕えることが出来ない。


「クソッ、めんどくせぇったらありゃしねぇぞ……どうすりゃいいんだっ!?」


シリアは機体を停止させて考え込む。

せめて動きの法則性でもわかれば、マシになるのだが――

その瞬間、地上から凄まじい速度でブレイアスがサーベル片手に迫っている姿を捕えた。


『お姉ぇさぁぁぁんっ!!! アハハ、アッハッハッハッハァッ!!』


「しつけぇな、クソっ!!」


サーベルとソードがぶつかり合い、火花が飛び散る。

狂ったかのように猛攻してくるブレイアスのサーベルを、シリアは強引にソードで抑え込んだ。

その時、ガァンッ! と激しくコックピットが揺れた。

地上からレブルペインが射撃をしてきたのだ。

その隙にブレイアスはギュンッと猛スピードで離れて行った。


「新型と言えど、流石に2機相手は厳しいか……いや、アタシがなまっただけか――」


煙を噴き出しているものの、ブレイアスはまだまだ動ける状態にあるようだ。

あの状態ではオーバーロードを引き起こす可能性も考えられるが、あのフィミアはそんな事お構いなしに突っ込んでくるだろう。

その時、レーダー上にもう1機のHAの反応を確認した。


「な、誰だ?」


シリアは方角を確認すると、そこには見慣れたHA……ι・ブレードの姿があった。

ムラクモを片手に、こちらへと向けて接近をしてきている。


「晶……? 来てくれたのかっ! アタシだよ、シリアだっ!」


『え、シリア……?』


ι・ブレードへと通信を入れると、間違いなく晶の声で返事が来た。

新型が盗まれたと聞いて、援護に来てくれたのだろうか。

ι・ブレードがいれば、今の不利な状況を簡単にひっくり返せるはずだ。

例の『オートコア』というのを仕留める為にも、仲間の協力は不可欠と言えるだろう。


「話は後だ、今はアタシと共にこいつらをやっちまうぞっ! 協力してくれるか?」


『だ、ダメだっ!』


「ダメだ? 何がだよ?」


『逃げてくれ、今のι・ブレードは――』


ι・ブレードは凄まじい速度を落とすことなく、シリア機へと向かって突進をしてくる。


「お、おい……奪われた新型はあっちだぞっ!?」


『新型とかそんな事よりも、早く逃げてくれっ!』


ガキィィンッ!

ι・ブレードが速度を緩める事なく、ムラクモをレビンフラックスへと向けて振るう。

シリアは間一髪でサーベルでムラクモの一撃を受け止めた。

だが、サーベルで受け止めただけでブレイアスの時とは比較的にならない程の強い振動が伝う。

更にι・ブレードが加速を止めることなく、レビンフラックスは勢いのまま押され続けていた。


「どういうことだ晶っ! まさか、アンタ――」


『違う……俺じゃないんだっ! ι・ブレードがE.B.Bのコアに乗っ取られちまってるんだよっ!』


「E.B.Bの、コアだって?」


シリアはふと、先程のオートコアの存在を思い出す。

良く見れば、ι・ブレードの胸部にはそれと似たようなものが取り付けられていた。

……晶がこの場で嘘をつくはずもない、ι・ブレードが乗っ取られたというのは本当の事だろう。


「クッ……事情は知らないけど、ちょっとだけ我慢しろよっ!!」


シリアも負けじとスロットルを限界まで押し込むと、少しだけι・ブレードの力が弱まる。

その隙を狙って、ι・ブレードを蹴飛ばして強引に突き放す。

更に飛行形態へと変形して、シリアはできる限り遠くへと離れて行った。


『……ラティア、手伝えっ!』


「ゼノスか? アタシはシリアだよっ!」


『シリアだと? 足は治ったのか?』


「説明は後だろ、それよりもι・ブレードが乗っ取られたって本当か?」


『ああ……このまま民間区域に入れば、ι・ブレードは無差別に人を殺し続ける。 どうにかして、ここで食い止めるぞ』


「ど、どういう事なんだよ……何でそんな事態に?」


シリアの頭の中はこんがらがるばかりだ。

だがそれはゼノスや晶も同じだろう。

どういう訳かシリアが戦場に出てきているのだから。


『アッハッハッハァァッ!! お姉さん、お姉さんっ!!』


そして再び、聞くのも嫌になってくるほどの声がコックピット内に響き渡る。

うんざりとしながらシリアは迎え撃とうとソードを構えた。

だが、ブレイアスはレビンフラックスを素通りしていく。

何かと思いきや……その先には俊敏に動き回るオートコアの姿があった。

ブレイアスは両手でオートコアを捕え、宙へと高く飛び上がっていく。


『アッハッハッハッハァァッ!! とったぁ、とったよぉぉっ!!

お姉さん、今度はもっともっと私を愛してねっ!! 私も、いっぱいいっぱい愛し合う準備してくるからぁぁっ!!』


「オートコアを捕えた? 一体何に使う気なんだ?」


ブレイアスはそのまま、戦域を離れて速度を上昇させていく。

ここで逃がしてしまえば、新型の追跡は難しくなるだろう。


『シリア、あいつは放っておけっ!! 今はι・ブレードを止める事が先決だっ!』


「……チッ、わかったよっ!!」


やむを得ないか、とシリアはι・ブレードへ注目する。

その後、スカイパーツを身に着けたレッドウィッシュが姿を現した。


『すぐに止めるぞ、奴らを見失う前にな』


「言われなくとも、そうするさっ!」


E.B.Bに乗っ取られたι・ブレードを止めるべく、ライフルを構えた。

理由はわからないが、HAをただの殺戮兵器とするわけには行かない。

こんな形で晶と戦う羽目になるとは思わなかったが、戦うしかない。

ι・ブレードの性能は、十分に理解している。

恐らく新型であるレビンフラックスでも苦戦を強いられるのは必至だ。

必ず止めて見せる、シリアはそう誓った。


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