空への願い ④
第7支部の手術室にて、Drミケイルとシリアの姿があった。
数日前に診断を受けた時は、足については絶望的だと言われた事を今でもはっきりと覚えている。
だが、突然ミケイルがシリアの足を治すことが出来ると言った。
正直、シリアは不信感を全く抱いていないわけではない。
手術の話は突発的に飛び込んできた上に、周りにはシラナギのような助手もいなかった。
単純な人手不足、という話であれば何の問題はないのだが。
治療方法については一切聞かされていない点も気がかりではあった。
しかし、ミケイルは長年フリーアイゼンの船医を務めていた上に、優秀な医者の一人ではある。
今は、再び歩けるようになればいいと望んだ。
もう一度パイロットとして、立ち上がる為に。
病室で眺め続けていた空に、羽ばたくその日を迎える為に……ミケイルの言葉を信じた。
「治療には30分の時間を要する、だがすぐに動けるようになるわけではない。
少なくとも2、3日は絶対安静の上、様子を見る……そして少しずつリハビリを重ねて行けば……やがて元の生活に戻れるだろう」
「……今すぐやってくれ。 アタシはこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ」
「わかった、始めるぞ」
ビーーーッ! ビーーーッ!
ミケイルが頷いた途端、突如支部全体にサイレンが鳴り響いた。
「何の騒ぎだ?」
「E.B.Bの襲撃……いや、今は確か姉貴が――」
第7支部にて、今日は新型HAの稼働実験が行われるという話を聞いていた。
アヴェンジャーがその新型を狙って襲撃をしてきた可能性は十分に考えられる。
「緊急事態だ、万が一の為に避難の準備を――」
「いや、やってくれ。 アヴェンジャーだったら、こっちまで攻め込んでくるはずがないだろ?」
「ならん、今は様子を見るべきだ」
「頼む……姉貴や他の兵だっているんだろ? どーせ30分だろ、すぐにやってくれっ!」
シリアは顔を俯かせながら、ミケイルに訴えた。
だが、何者かから支部が襲撃された以上……呑気に足の治療をしている場合ではない。
それにアヴェンジャーではなく、E.B.Bの襲撃であったら尚更の事だ。
……しかし、ミケイルとしてもできる限り治療を急がせたい理由があった。
「いいだろう、何があっても私を恨むなよ」
「ああ、わかっているさ」
シリアの願いを聞き入れ、ミケイルは力強く頷いた。
だが、その時に……ニヤリと不気味に微笑んだミケイルの表情に、シリアは気づかなかった――
空高く舞い上がった赤いブレイアスは、特に動きを見せずに静止したままだった。
まるで地上の青いブレイアスを見下すかのように。
今までも地上から、空を飛ぶE.B.Bの相手をしてきたこともあったが……今回はHAだ。
その機動性はレビンフラックスに劣るものの、地上から捕えるのは難しい。
おまけに目の前に立ちはだかるレブルペインのパイロットは、只者ではない。
『ラティア、一旦レビンフラックスに乗り換えろ。 そのブレイアスではアレに追いつけん』
「そんな事をしていたらすぐに逃げられてしまうわ、このままあのコソ泥を撃ち落す」
『君ならやれる、ということかね?』
「違うわ、やってみせるよ」
『……くれぐれも無茶だけはしないでくれ。 ブレイアスはまだ万全な調整はされていないのだからな』
「ええ、わかっているわ」
迷ってる時間はない、ラティアはスロットルを限界まで押し込んだ。
赤いブレイアスは凄まじい速度で空を駆け抜けていく。
だが、地上を走るブレイアスも速度は負けていない。
狙いを定めて、ライフルを数発発射させるが……軽々と避けられてしまう。
すると、ラティアは背後を追いかけるHAの反応に気づいた。
……先程のレブルペインだ。
ブレイアスの出力なら追いつかれる心配はないが、あのパイロットの事だ。
何を仕出かすかが想像できないだけに、恐ろしい。
『ねぇねぇ、お姉さんと似てるけどちょっと違うよね? ねぇ、誰なの? 教えてよ』
「今すぐブレイアスから降りなさい、話はその後たっぷり聞いてあげるわ」
『アハハッ、私追いかけっこは大好きなの。 でも……お姉さんの愛、ちょっと確かめようかな?』
「愛? 何を言っているの、この子……」
ブレイアスを奪ったパイロットの言葉は、何処となく不気味さを感じさせる言動だ。
すると、赤いブレイアスはピタリと急停止した。
ラティアはその隙を逃さず、ライフルを発砲させようと構えようとする。
ガァンッ!!
すると、背後から銃声が響き、右手からライフルが弾き飛ばされた。
『おいおい、あいつが遊んでやるっつってんだから付き合ってやれよ? んなつまんねーことすんなって』
「クッ……貴方ねっ!?」
背後を振り向くと、片腕を失ったレブルペインの姿があった。
警戒していたとはいえ、一瞬の隙を狙われてしまったようだ。
『俺を気にしている暇あんのか?』
その言葉を耳にした瞬間、空から赤いブレイアスが高速で接近してきていた。
ラティアはすぐに回避へ移ったが、ブレイアスは強引に軌道を変えて突進を続ける。
迎え撃つしかないと、サーベルを構えた。
激しく火花が散り、機体は数メートルに渡って押し出される。
ようやく動きが止まったところ、ラティアは横に回り込んで回し蹴りをかました。
吹き飛ばされた敵機を目で追いかけたところ、ギュンッと上空へと舞い上がっていく。
それを追いかけるように、ラティアも空高く飛び上がった。
ガキィンッ! と、サーベル同士が激しくぶつかり合う。
ラティアの登場するブレイアスは飛行機能がないと言えど、全く空中制御ができないわけではない。
一定の距離を飛び上がり、落下するまでの間であれば十分に空でも戦えた。
『アッハッハっ!! 凄い、凄くゾクゾクするぅぅっ!! お姉さんと戦ってる時を思い出しちゃったぁ……ウヒヒ、流石お姉さんのそっくりさんだね』
「まさか、シリアの事を言っているの?」
『ねぇねぇ、興奮してこない? 戦いを通じてお互いの愛を確かめ合うなんて、HAでしかできないことだよ?
アッハッハッハァッ!! だからね、愛してあげる……いっぱいいっぱい、私が愛してあげるからぁっ!!』
「冗談じゃないわ……そんなの、愛でも何でもないわっ! 貴方、勘違いしてるわよ」
『抑えきれない感情をぶつけ合い……お互いの命を削るこのゾクゾク感……これって、愛に決まってるじゃない? アッハッハッハッハァッ!!』
狂気に満ちたその笑い声を耳にすると、思わずラティアは身を震わせた。
……何が彼女をそうさせているのだろうか、何が彼女を狂わせているのか?
その瞬間、赤いブレイアスが機体を密着させ、抱きかかえるかのように動きを拘束した。
『つーかまえた……アッハッハッハッハァッ!! ねぇねぇ、ロマンチックだよね。 こうやって見つめ合うのって』
「離れて……近寄らないでっ!」
『絶対に離さないんだからぁぁ……地獄の底まで、連れてってあげるぅぅぅっ!!』
赤いブレイアスは突如、ラティア機を拘束させたまま急降下し始める。
グングンと速度を上げていき、コックピットも凄まじいGが襲い掛かりラティアは一度気を失いかけた。
このまま突き落とされれば、無事では済まない。
どうにかして切り抜けようと、ラティアは拘束された腕を強引に動かし、相手の両肩部を掴んだ。
「地獄に行くのは……貴方だけよっ!」
落下の直前、力強く操縦桿を動かした瞬間に……グルリと、ブレイアスが半回転した。
ズガァァァァンッ!!
赤いブレイアスが、凄まじい衝撃で叩き落された。
「捕えたわよ、大人しく投降してっ!」
赤いブレイアスの動きを抑え、ラティアはそう叫んだ。
その瞬間……凄まじい速度で接近してくるレブルペインの姿を捕えた。
ガァァンッ!!
宙からの飛び蹴りを受けた青いブレイアスは、激しく吹き飛ばされる。
だが、空中で機体の制御を行い倒れる事はなかった。
やはり、あのレブルペインの仕業だった。
『流石にやるじゃねぇかよ、ソルセブンのエースさんよぉ?』
「しつこい男は嫌われるわよ、いい加減にしなさい」
『いちいちうるせぇ奴だな……テメェ、そろそろ死んどくか?』
ドスをきかせたレブルペインのパイロットの声に、思わず寒気を感じた。
先程までの軽い口調ではなく、殺意そのものを感じさせたその一言に。
「……私は、負けないわ」
アヴェンジャーにこれ以上、好き放題させない為にも。
ラティアはここで倒れる訳には、いかなかった。
だが、その願いも虚しく……コックピット内に、警告音が鳴り響いた。
「制御系に異常……? そんな――」
ブレイアスの状態はまだ万全ではなく、実戦に耐えられるような調整はまだされていなかった。
激しい戦闘行為を行い続けてきたのだ、こうなる事は想定できたはず。
その瞬間、レブルペインがサーベルを片手に最大速度で接近してくる。
ブレイアスは無抵抗で切り上げられて、吹き飛ばされていく。
コックピットから通じる強い振動に、ラティアは一度気を失いかけた。
『ん、何だ動けねぇのか? チッ、だったら面白くねぇ……命だけは助けてやるよ、じゃあな』
「……まち、なさ――」
意識が朦朧とする中……突如頭部から、ズキンっと痛みが走る。
ヘルメットが割れていて、頭部からは血が流されていた。
幸い機体に大きな損傷は見当たらなかったが、ラティア自身はそうではない。
意識が朦朧とする中、赤いブレイアスは空高く飛び上がり高速で消え去っていった。
『ラティア、無事か? 今救援をよこした、ブレイアスはどうなっている?』
「……ごめん、なさい。 逃してしまったわ」
『その怪我は……あれほど無茶をするなと言っただろう。 逃がしたブレイアスはもういい、それより君の怪我を――』
「いえ……すぐにレビンフラックスで追いかけるわ」
『君、まだそんな無茶を――』
「駄目よ、あれを渡すわけ――には――」
ラティアはそこで、意識を失った――
ラティアは、後からやってきた2機のウィッシュにブレイアスごと回収された。
二人の兵士の手によって、気を失ったラティアがコックピット内から連れ出される。
だが、まだ僅かに意識はあるようだ。
大至急、ラティアは医務室へと連れていかれようとしたが――
「……待って、私は、まだ……戦えるわよ」
「いえ、そんな状態で貴方を向かわせるわけには」
「そうですよ、その身体ではレビンフラックスの負荷に耐えきれるはずがありません」
「お願い、行かせて……」
ラティアは強引に二人の兵士から離れて、そう言った。
兵士は戸惑ってる間に、ラティアはレビンフラックスの元へと歩み寄っていく。
フラフラとした足取りを見ていると、今すぐにも止めるべきなのだが、あの必死な表情を見ていると中々兵士達の足は動かなかった。
「ラティア、新型の事はもういい。 もう一つのブレイアスがあれば、開発に支障はでないさ」
格納庫にはフラムの姿もあった。
心配して駆けつけたのか、息が上がっている。
「いいえ、私のミスだもの……私が償わなければ」
「君はまだ、過去を引きずっているのかね」
フラムは静かに呟くと、ラティアは黙り込んだ。
「……わかっているのなら、私を止めないで」
「断る……私のHAで死者を出すわけには行かない。 万全な状態ではない君を、あの機体に乗せるつもりはないさ」
「邪魔しないでよ、今ならまだ追いつけるかもしれないわ――」
「アタシが、乗る……っ!」
その時、ラティアの耳に聞き覚えのある声が飛び込んだ。
いや、その人物はこんなところにいるはずがない。
何かの間違いだろうと、ラティアは戸惑いと隠せなかった。
だが、目を向けた先には……シリアの姿があった。
両足に固定具のようなものを取り付けた状態で、立っていたのだ。
「シリア……貴方、歩けるの?」
「今はそんな事、どうでもいいだろ……アタシがあいつら、捕まえてやるから」
シリアは姉を押しのけて、レビンフラックスの元へと走っていこうとする。
だが、途中でバランスを崩したのかバタリと地面へと倒れてしまった。
「やめろシリア、今のお前は歩くのがやっとなはずだろう」
遅れて、ミケイルが姿を現しシリアにそう言った。
一体どんな治療を受けたのかわからないが、一日や二日で足が完治するとは考えにくい。
……シリアが明らかに無理をしているのは、倒れている様子から見てもわかりきっていた。
「姉貴に、任せてられっかよ……何も、何も守れなかったくせに――」
フラフラとした足取りで、シリアは立ち上がろうと力強く踏ん張る。
誰の力も借りずに、本当に自分の両足で立ち上がっていた。
「シリア、無茶をするな――」
「いや、待て。 少しでいい」
シリアを止めようとミケイルが駆け出そうとしたところ、フラムが止めた。
フラフラと向かっていくシリアの背後に、ラティアがゆっくりと迫っていたからだ。
医者からも、二度とパイロットへ戻る事が出来ないと言われたはずなのに。
シリアは再び、大地へ立つことが出来た。
その足で、自らパイロットに戻る為に……HAへと向かって歩き出しているのだ。
とてもじゃないが、ラティアはその姿を見ていることが出来なかった。
ラティアは体をふらつかせながらも、シリアの後を追って……静かに後ろから、抱きしめた。
「ごめんね……私の力不足で、貴方を凄く傷つけてしまった。
私がもっとしっかりしていれば……貴方がパイロットになる事も、歩くだけでこんな辛い思いをしなくて、すんだはずなのに――」
「……何だよ、今更。 姉貴面、すんなよ……アタシの事は、もう放っといてくれよ。 今までだって、アタシをずっと避けてきたじゃないか――」
「ううん、放っておけないわ……私が、バカだったの。 ずっと、ずっとシリアと逢うのが怖かった。
だって、姉として何もしてあげられなかったし……約束も守ってあげれなかったし、最低な姉だとわかっていたんだもの……」
「そうだよ、姉貴はそうやってずっとアタシから逃げてたんだろっ!! アンタなんて、大嫌いだ……お願いだから、アタシに関わらないでくれっ!!」
「いいえ、もうシリアを傷つけさせないわ。 戦いで苦しむのは私だけでいい、もう……貴方に辛い思いをさせないんだから」
ラティアの意識は段々と遠のいていく。
血を流しすぎたのか、腕の力も徐々に弱まっていった。
こんな状態でレビンフラックスで再出撃しようとしていたのか、と今更自分の愚かさに気づかされる。
どうして、今まで自分はここまで妹を避けてしまっていたのだろう。
自分の臆病な行動が結果的にシリアをパイロットにさせて、その結果足を失わせてしまった。
……しかし、シリアは諦めずに再び立ち上がっていたのだ。
フラフラになりながらも、パイロットを続けようとレビンフラックスへと向かおうとする姿に……思わず心を打たれた。
これ以上……シリアに辛いを想いをさせたくない、その思いだけでも……シリアへと伝えたかった。
「だから、何度も言っているんだアタシは……今更すぎるんだよ、勝手に家に出て行ったときは……まだ姉貴を許せていたのに。
アタシ達がE.B.Bに襲われた時、顔も一つ見せてくれなかった。 アタシがパイロットになった時も、現場が一緒になった時も……ずっとずっと、避けていたじゃないかっ!!
もう遅すぎるんだよ……今更そんな、姉貴面すんじゃねぇよっ!!」
やはり、シリアはラティアを恨んでいた。
家を出て以来、ずっと顔を合わせてくれなかった姉に対して……段々と不信感を抱き、それが恨みへと変化した。
何を言っても、許されない事はわかっている。
だが、姉として……自分の失敗を、妹へ償わせるワケにもいかなかったのだ。
「いくら謝っても仕方がないという事は、わかっているわ。 あの時……私は、貴方しか助けられなかった」
「……アタシ、しか?」
その時、シリアは表情をハッとさせた。
「私が向かった時には……両親はもう、遅かったわ。 もう少し早ければ……助けられたのかもしれないのに。
バカよね、私……ずっと、ずっと両親を助けられなかったことを引きずっていて……私は、貴方と逢う事をずっと避けていたの」
「姉……貴? アタシを、助けてくれた……のか?」
「でも、結果的に貴方を不幸にしてしまったわ。 ……私がしっかりしていれば、貴方をパイロットにさせる事もなかったのに――」
「……バカかよっ! どうして、どうして黙ってたんだよ。 アタシは別に、両親を助けられなかった事を責めるつもりはなかったのに……!
ただ、来てくれなかったから……顔も見せてくれなかったら、だからアタシは――」
シリアがそう告げた途端、ラティアはふらりと地面へと倒れていった。
「姉、貴……? おい、しっかりしろよっ!?」
「これ以上は危険だ、ラティアを医務室へ運ぶぞ」
ミケイルはすぐに倒れたラティアを抱える。
「……まだ息はあるが、油断はできない。 君の姉については、私に任せてくれ。
……くれぐれも、無茶をするんじゃないぞ」
そう告げると、ミケイルは静かに格納庫から立ち去ろうとした。
「姉貴っ! 私、パイロットになった事は後悔していないっ!! だって、ずっと……ずっと空に憧れてたんだっ!
かつて姉貴と一緒に願った空に、ずっとずっと憧れを抱いていたんだっ!
だからな……夢、叶えさせてくれっ! アタシは……レビンフラックスで、空を飛びたいんだっ!」
気を失ったラティアに、その言葉が届いているかはわからない。
確かにシリアは、姉を追いかける事をきっかけにパイロットとなる道を歩んだのかもしれなかった。
だけど、今口にした言葉も全て事実なのだ。
もし、家族がE.B.Bに襲撃されていなくても……姉がずっと、一緒にいてくれていたとしても
シリアは自ら、パイロットの道を進んでいただろう。
姉の抱えていた重み、それはシリアからは想像できない程だった。
……ラティアはずっと、シリアを不幸にしたと思い込んでいた。
だけど、そうではない。 決してシリアは、自分が不幸になったと感じていなかったのだ。
「なぁ、新型の位置って特定できんだろ?」
「……いいのかね、君の体も万全ではないのだろう?」
「姉貴よりかは遥かに元気だと思うけどな」
「逃げた方角から察するに、メシア基地の跡地が存在する。 奴らは負傷しているはずだし、そこに留まっている可能性は十分に考えられる。
恐らくラティアも、そこへ向かうつもりだったんだろうな」
「わかった、サンキュー」
フラムにお礼を告げると、シリアはレビンフラックスへと向けて再び歩みだした。
驚く事に、先程よりもバランスがとれており、安定して歩けている。
「止めないんだな、お前は」
「無駄だろうと察しただけだ、応援を連れて行け。 くれぐれも無茶だけはするんじゃないぞ、いいかね?」
「ああ、わかってるさ」
ミケイルやフラムの言う通り、足が万全な状態ではない事はシリア自身もわかっている。
かといって、このままアヴェンジャーを野放しにするわけにもいかなかった。
アヴェンジャーの戦力が再び整ってしまえば、フリーアイゼンのような被害が再び生み出されてしまう危険性も高い。
……多少無茶をしてでも、新型は奪還しなければならなかった。
シリアはレビンフラックスのコックピットへと搭乗し、深呼吸をする。
何処か懐かしい香りを感じる……ラティアの香りだろうか。
「レビンフラックス、アタシの夢を……叶えてくれよっ!」
シリアの掛け声と同時に、レビンフラックスは飛行形態へと変形し……凄まじい速度で発進していった―――