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    ι・ブレード、始動 ④


「いっけぇぇぇっ!!」


力強く、両手のスロットルを押し込んだ。

高台から、近森へと向かって機体を発進させた。


グォンッと、強烈なGが襲い掛かる。

一瞬呼吸困難に陥るほどだ。

HAホープアームズに掛かるGは、晶の予想を遥かに超えている。

シミュレーターでも、ここまでのGは再現できていなかった。


あっという間に地面へと辿り着いた機体を、何とか制御して両足で立たせる。

周りには既に、何体ものE.B.Bがι(イオタ)・ブレードを取り囲んでいた。

人の何倍もの大きさであり、巨大化を遂げてしまったE.B.Bだ。

小型で気色が悪い、クモのような形をしている。

学校内でみたクモと、同じタイプだろう。


『戦闘モードへ移行、『ムラクモ』使用可能です』


「ムラクモ……?」


聞きなれない単語だ、画面には刀のような形状が記されている。

……もしかして、あの巨大な剣のことか?


「大丈夫だ、やれる……」


今はただ、目の前のE.B.Bを片づけることだけに集中すればいい。


「行けよ、ι・ブレードっ!」


晶の掛け声と共に、ι・ブレードは長身の武器を抜刀させる。


ズバンッ!


E.B.Bの返り血が舞った。

濃い紫色の、不気味な液体が白銀のボディを染めていく。

E.B.Bは一瞬にして真っ二つになって、消滅した。


姿を現した紫色の刀身、やはり資料でも見たことがないタイプだ。

モニター越しで晶はその切れ味に、ただ驚かされるだけだった。


ズキンッ―ー


突如、頭痛が走った。

一瞬だけ晶は頭を抑えようととすると、突如視界に異変が起こる。


「な――」


一体何が起きたというのだろうか。

晶自身は身動きは取れず、視界が一方的に真っ白になっていく。

段々と、テレビの砂嵐のような映像が映し出されてきた。


音も何も感じない、一体自分の身に何が起きてしまっているのかわからない。

だが、砂嵐の映像は段々と中心を渦巻くように変わり果てた。

何処か見覚えのある機体が白黒の静止画として映し出された。


信じられないことに、これはι・ブレードの後ろ姿だ。

それだけじゃない、森へと着陸した今の地点と酷似しており、おまけにクモのE.B.Bすら確認できた。

……間違いなく、現状を映し出している。


一体何故、こんなものが?

やがて、静止画は静かに動き出した。

ι・ブレードの背後から、複数のE.B.Bが糸を吐き出している姿だ。

まさに今、ι・ブレードに直撃しようとしてした。


あんなものを食らってしまったら、機体の制御系に支障が出てしまう。

晶はスロットルを押し込もうとするが、身動きが取れずにいた。

動け、動いてくれっ!

願いは虚しく、ι・ブレードは白い糸に絡まれてしまった。


やがて、映像は音もなく消滅した――


「――はっ」


ふと、意識が我に返った感覚に陥る。

いつの間にか、目の前は通常通りのコックピットに戻っていた。

今の映像は一体――


晶は、不安に思いながらも機体を背後へ振り向かせた。

すると、まさに複数のE.B.Bが機体に向けて『糸』を発射させていた。


「う、うわああああっ!?」


急いで回避をしなければ

晶はグッとスロットルを押し込むと、機体は大きくステップをする。

だが咄嗟の操作でバーニアを大きく噴射させてしまい、勢いよく飛んでしまった。

シミュレーターでもよくやる失敗だ、これで何度落とされていることか。

その結果、ι・ブレードは大きく横転してしまった。


ズシンッとコックピットが揺れる。

その間にも、E.B.Bは容赦なく機体へと向かって集ってきた。


「……他の武器はっ!?」


『ブラックホーク、使用可能です』


今度は、銃が画面に出力される。

通常HAで使われるライフルとは形状が違う、リボルバー形式の短銃に見えた。


「くっ……間に合えっ!」


短銃は二丁積まれていた。

晶は迷わず二丁構えて、迫りくるE.B.B達に照準を合わせる。

短銃なら連射性能に優れているはずだ、何発も打ち込めば一発ぐらいは当たるはずだ。


ズドンッ! ズドンッ!


思った以上に強い衝撃が襲い掛かった。

弾はE.B.Bに目掛けて発射されたかと思えば、一瞬で2匹のE.B.Bが紫色の液体をぶちまけて破裂した。


「な、なんだこれ?」


どんなに小型といえど、シミュレーターのライフルですらE.B.Bが破裂することはなかったはずだ。

……見た目以上に、破壊力がある銃なのだろうか。

今は驚いている場合ではない、晶は怯まずに撃ち続けた。

何発かは見当違いの方向に飛ばされたが、迫りくるE.B.Bを何とかすべて撃ち落せた。


「ふ、ふぅ……危なかった」


意気込んで出撃したものの、やはり自分の実力不足は身に染みる。

今は機体が無傷なだけでも、幸運と言えた。


「今のうちに弾を補充しとかないと……」


予備の弾ならいくつか積んであるはずだ、E.B.Bの数が減った今を狙い補充した。

二丁合わせて16発、弾も限られているし無駄に撃ちすぎるワケにはいかない。


「見つけたぞ、ι・ブレード」


突如、コックピット内に通信が入った。

この声は、忘れるはずがない。


「……お前っ!」


この悲劇を引き起こした張本人……ガジェロスの声だ。

モニターには、濃い緑色のHA……ウィッシュが映し出されていた。


「お前だけは……お前だけは絶対に、許さないっ!」


復讐すべき相手を前にして、晶は力強くそう叫んだ。

学校が保有するウィッシュではあるが、パイロットは学生ではない。

……あの時、目の前でクラスメイトを虐殺した張本人だ。


生身の時は、あの男からは逃げ続けることしかできなかった。

恐怖に陥れられ、ただ殺されないようにと願いながら震えるだけ。


だが、今は違う。

お互いが、HAに乗り……平等な戦力を手にしているはずだ。


晶は、許せなかった。

ι・ブレードを奪う為に、無関係な人々を巻き込むやり方を

それを平然とやってのける、あの男を。

あの男のせいで、クラスメイトが死んだ。 仲間が死んだ。

親友が、死んだのだ。


「今すぐι(イオタ)から降りろ、ガキ」


「お前こそ出て行けよ……よくも俺達の地区を滅茶苦茶にしやがったな」


「知ったことか、全てはιを隠した政府の責任だ」


「勝手なこと言うんじゃねぇよっ! 何人が犠牲になったと思ってんだ?

よくも、よくも俺の仲間を……親友を殺したなっ!」


「素人が自惚れるな、殺すぞ」


「やってみろよ、バケモノがっ!!」


もはや晶の怒りが収まることはない。

感情に身を任せ、晶は機体を前進させた。

ムラクモを構えて、あのHAをぶった切ってやる――

そんな思いで、強くスロットルを押し倒した。


だが、突如モニターからウィッシュが姿を消した。


「なっ……」


晶は言葉を失うが、決して相手がその場から消えたわけではない。

瞬時に、視界外で移動したのだろう。

だが、咄嗟に晶は何処へ移動したのかを判断できなかった。


シミュレーターでのE.B.Bの動きとはワケが違う。

思えば実戦でHA同士で戦うことは全く想定していなかった。

晶の対応が、まるで追いついていない――


「終わりだ」


ズキンッ―ー


再び、晶の頭が頭痛に襲われる。

同じように視界が真っ白になり、砂嵐が現れた。


……まただ、また同じ現象だ。

今度も、似たような光景が映し出されていた。

ι・ブレードの背後に迫る黒い影、敵のウィッシュだ。

背後から、『ロングサーベル』を振り下ろそうとしている瞬間だった。


「間に合え――」


映像を頼りに、晶はひたすら後退しようと片方のスロットルを限界まで引き、もう片方を強く押し込んだ。


ギュンッ――


またしても、晶の体に強いGが襲い掛かった。

一瞬だけ視界が揺れて、モニターから目を離してしまったが、すぐに目の前を確認する。

すると、どういうワケかあんなに近くにいたはずのウィッシュから大分距離が離されていた。


「……何だよ、このスピードは?」


異常だ、ウィッシュではここまで出力が上がることはない。

体に負担が掛かるGにも、晶は納得がいった。

やはりこの『ι・ブレード』……尋常ではない性能だと確信した。


「逃がすかっ!」


遅れて、相手のウィッシュがライフルを構えたまま前進してきた。

バババババと、銃が発砲される。

何とか反応できた晶は、機体を横転させるが一時凌ぎにしか過ぎない。


ズキンッ!


再び、頭痛が襲い掛かった。

今度は、無防備となって倒れていたι・ブレードにグレネードが投げられる瞬間だ。

そして、高く飛び上がった頭上の先には、待ち構えていたかのように剣を構えた『ウィッシュ』の姿があった――


……明らかに、この映像はこれから起こる出来事が映し出されている。

未来を予知しているのか? とてもじゃないが、信じ難い。

だが、今まで2回映像を見た中で全て的中していた。

信憑性が高いのは、間違いない。


映像が終わった途端、晶の目の前にはグレネードが投げ込まれた。


「……動きがわかってれば、こっちからっ!」


晶はムラクモを構えて、天へと突きあげながら高く飛び上がった。

爆発と同時に視界が爆炎に包まれ、状況が確認できなくなった。

砂埃が上がり、自分が今何処にいるかすらも判断できない。


だが、晶はひたすらムラクモを突き立て、空高く飛び上がるだけだ。

あの映像が本物なら、確実に『アイツ』が姿を現すはず。


煙が晴れ、青い空が映し出された。

そこには、待ち構えていたかのように高く舞い上がった『ウィッシュ』の姿が、本当にあった。


「貫けぇぇぇっ!」


バキィンッ!


金属が砕け散るような、鈍い音が鳴り響く。

ムラクモは、ウィッシュの胴体を貫いていた。


「な、なんだと――」


通信機からは、相手が声を漏らしていた。

まるで現状が、信じられないかのように。


「くたばれぇっ!」


ガンッと、晶はウィッシュを地面へと向けて蹴り飛ばした。

勢いよく、ウィッシュは抵抗なく地面へと叩き付けられる。

動力部を貫いた、下手をすれば大爆発が起きる危険性もあった。

……パイロットも、無事じゃすまないだろう。


だが、罪悪感は何も感じなかった。

クラスメイトを、仲間を殺した奴だ。

そんなやつを、哀れむ必要なんてなかったのだから。


「貴様の力ではない……ιの力であることを忘れるなっ!」


通信機からは、あの男の叫びが響き渡る。

負け惜しみ……と、聞き流そうとしたができなかった。


晶は強く歯を食いしばった。

実力ではない、機体性能のおかげ。

否定できない自分が、悔しかった。


「ιはお前の手に余る存在……だ、必ず……奪ってみせるぞ―――」


ズガァァンッ!!


森を巻き込む、大爆発が起きた。


「うわあああぁっ!?」


逃げ遅れた晶は、爆発に巻き込まれ吹き飛ばされてしまう。

何とか機体を制御しようと、必死でスロットルを操作し、無事着陸することができた。


……森は、火に包まれてしまっていた。

あの爆発では、助かるはずもない。

人を、殺してしまった。


晶は自分の手をまじまじと見つめた。

……後悔なんてしていない。

誰かがやらなければ、悲劇が繰り返されるだけだ。

自分にそう言い聞かせて、晶は無理やり自身を納得させた。


『ワーニング、大型E.B.Bを確認しました。 速やかに迎撃態勢を整えてください』


「大型、だって?」


晶はレーダーを確認すると、無数に蠢く赤いマークの中に……確かに巨大なマークが存在した。

これは大型E.B.Bを現す表記だ。

通常より何十倍もの大きさを誇り、ウィッシュが10体揃って討伐作戦を展開するほどだ。

……いくらι・ブレードの性能が高いと言えど、たった一機で敵う相手ではない。


モニターに、黒い影が姿を現した。

想像を遥かに超える大きさだ。

学校どころではない、まるで街全体を飲み込んでしまうんじゃないかと思うほどの

巨大なクモのE.B.Bだった。


あのE.B.Bが、この街を滅茶苦茶にした元凶……

恐らく、誘導されてきたE.B.Bである事は間違いない。

このまま放っておけば、東地区以外にも大きな被害を及ぼしてしまう―ー


「……俺が、やるんだ」


無謀であることは承知だ。

だが、許せなかった。


理不尽に人の命を奪い続けるE.B.Bを。

これ以上、街を好きにさせない。

そんな思いで、機体を発進させようとした。


「一旦退け、未乃 晶」


ふと、通信機から男の声が聞こえだした。


「あの時の……?」


間違いない、あの時のゼノスという男の声だ。

ゼノスもパイロットであるはずだ、もしかして援護に来てくれたのだろうか?

ふと振り返ると、土煙をあげながら猛スピードで近づいてくるHAを確認した。


……またしても、見たことがないタイプだ。

遠目からでも目立つ真っ赤なボディは、ウィッシュのような量産機には見えない。

かといって、ほかの汎用機にもあのような形に該当する機体はないはずだ。

段々と姿を露わにしたHAは、ι・ブレードに比べて遥かに大型だった。


両肩にはミサイルポットに背中には2連キャノン。

両手にはガトリング砲といい……かなり重装備のHAだ。

それだけでも十分すぎるほど武器が積まれているというのに、背中には足枷のように巨大な鉄球がつけられていた。


正直素人目から見てもかなり無茶な設計をしてるとしか思えないHAだ。

相当機動性を犠牲にしているに違いない。


「あの怪物を仕留めるぞ、できるな?」


「え?」


突如現れたかと思えば、いきなり何を言い出すのやら。

晶はゼノスの言葉に、思わずキョトンと目を丸くした。


「やれるかと、聞いているんだ」


「……で、でも2機でどうやって?」


「怖気づいたのなら見ていろ」


ゼノスの言葉を耳にして、晶は歯を食いしばる。

怖気づいてなんて、いない。

一人でも、あのバケモノに挑もうとしたんだ。

臆病者なんて、言わせたくはなかった。


「やりますよ、俺できます」


「よく言った、俺の指示に従え」


ゼノスがそう言い放つと、赤い機体は轟音と共に前進した。

背中越しからわかったが、ブースターが三つも積まれている。

あれだけの数がないと、動かすことができないのだろう。

やはり、あまりにも無茶苦茶な設計としか思えない。


晶も同じように、機体を前進させた。


「お前はなるべくアイツの注意を引け、かく乱させるんだ。

ιの運動性ならばそれぐらい容易いだろう。 ただ、無茶だけはするな。 危なくなったらすぐに引け」


「わ、わかった……っ!」


「行くぞっ!」


ゼノスは、赤い機体を大型E.B.Bへと向けて更に加速させた。

相手の注意を引く……ι・ブレードの機動性を生かして、かく乱するんだ。


「いっけぇっ!」


晶は強く、両手のスロットルを押し倒した。

すると、信じられないほど機体が跳躍した。

まるで空を飛んでいるかの感覚に襲われる。


あっという間に、E.B.Bの頭上へと辿り着いた。

バケモノの三つの赤い瞳は、明らかにι・ブレードに注目していた。


ズキンッ――


またしても、頭痛が走る。

バケモノの口からは、想像を超える範囲に糸が巻き散らかされる映像が映し出された。

どう回避する……ひとまずは、後退だ。

映像が終わるまで時間はない、晶は迷わずスロットルを引いた。


グォンッ! と、猛スピードでι・ブレードが後退する。

すると、空へと向けて大型E.B.Bが糸を発射していた。


同時に、ズドンッ! と銃声が響く。

二つの弾丸が、大型E.B.Bの頭部へと直撃した。


「ギシャァァァァッ!!」


悍ましいバケモノの叫び声が、耳にキンッと響く。

思わず耳を塞ぎたくなるほどの、高音だった。


「脚を切れ、動きを止めろっ!」


「わ、わかったっ!」


ゼノスの指示に従い、晶はムラクモを使ってクモの脚を刻んだ。

いとも簡単に、脚は切断された。

またしても耳障りな叫び声が響き渡る。

怯まず、晶は次々と無数の脚を刻み続けた。

大丈夫だ、指示通り動けている……失敗はしていない。


ズキンッ!


再度、頭痛が発生した。

切断されたバケモノの脚が、一斉にι・ブレードに襲い掛かるとしている映像だ。

切り離されても動けるというのか、E.B.Bの生命力は底を知れない。


あの数では何処へ逃げても、脚の餌食になってしまう……。

一体どうすればいいのか、晶には考え付かなかった。


「ど、どうすりゃいいんだ――」


いくら先の行動が見えても、対処できなければ意味がない。

落ち着いて、考えてる時間はなかった。

虚しくも、映像が終わりを告げて意識は我に返る。


「……う、上だっ!」


とにかく、地面に転がっているはずの脚はここまで追ってはこれないはずだ。

晶は機体を空高く上昇させた。

すると、先程まで赤く灯っていたコックピット内が一瞬だけ青く灯った。


「な、なんだ?」


一瞬の変化に戸惑っていると、晶の目の前に突如『バケモノ』の足が出現する。


「なっ――」


反応しきれない――

上に逃げた先の行動までは、流石に読み取ることができなかった。

このままじゃ、やられる――

晶に成す術は、なかった。


「やられてたまるかぁぁぁっ!!」


力強く、晶は操縦桿を握ると、コックピット内が再び赤く灯った。


ガキィンッ!!


その瞬間、突如バケモノの脚が弾かれた。


「な、なんだ?」


モニターを確認すると、自機が何やら赤色の光に包まれていた。

この光……一体、何だというのか?


『ιフィールド・展開中 ιフィールド・展開中』


「ιフィールドだって……? まさか、バリアまで搭載されてるのか?」


晶は驚きを隠せなかった。

バリア技術は、シェルターでしか採用されておらず、HAへの実用化はまだまだ先だと言われていたはず。

だが、ι・ブレードにはその機能が搭載されていたのだ。

信じられなかった、まさにこの機体は最先端技術の塊なのだろう。


ババババッ!


無数の銃弾が、ι・ブレードを取り囲んでいた脚を撃ち落していった。


「大丈夫か、しっかりしろ」


「あ、ああ……平気だ」


「残骸は俺に任せろ、お前はあいつの注意を引きながら動きを止めてくれ」


またしても、性能に助けられた。

自分の腕のなさに愕然とするが、今はそれどころではない。


晶はゼノスの指示通り、E.B.Bの注意を引き付けながら脚を刻んでいく。

何度も頭痛を引き起こしながら、相手の動きをギリギリで回避していき、脚を刻んでいくの繰り返しだった。

太くて切断しきれないと思われた個所も、『ムラクモ』ならいとも簡単に切り裂いて見せた。

尋常ではない切れ味だ。

シミュレーター上での知識でしかないと言えど、通常のサーベルでもここまで綺麗に切れることないはずだ。

あっという間に、E.B.Bの脚は切断されその場から動けなくなっていた。


「退け、晶。 ミサイルを撃ち込む」


「わ、わかった」


晶はゼノスの合図を確認すると、真っ先に飛び上がりE.B.Bから離れた。

すると、赤いHAの両肩にあるポットが蓋を開ける。

無数のミサイルが、一斉にバケモノへ向けて発射された。

ウィッシュでも一隻積むのがやっとだというのに、二つもミサイルポットを積むなんて無茶苦茶だ。

だが、ゼノスという男は難なくその機体を制御して見せている。


E.B.Bは、ミサイルを全弾あびた。

流石にあれだけの数をまともに受けてしまえば無事ではいられない。

そう思ったが、E.B.Bの生命力はやはり異常だ。


かなりのダメージは与えられたものの、まだまだ息をしていて悲鳴をあげ続けていた。

容赦なくガトリングをありったけ撃ち続けてもなお、E.B.Bは蠢き続けている。

それどころか、体から新たな脚を生やし始めていた。


「ブーストハンマー、射出っ!」


ゼノスの合図と共に、足枷のようにつけられていた鉄球がE.B.Bの頭部へと向けて発射された。

ブォンッ! と轟音と共に、ハンマーは前進してゆく。


ただのハンマーではない、ハンマー自身にブーストが搭載されているのだ。

尋常ではない推進力を叩き出し、あの超重量なはずの赤い機体がハンマーへと引っ張られて動き出してしまうほどだった。

ハンマーは猛スピードで、E.B.Bの頭部へと目掛けて発射された。


グシャリッ


鈍い音を響かせながら、ハンマーは紫色の液体を散らしながら宙へと舞う。

だが、容赦なくブーストを発進させて、何度も何度もE.B.Bの頭部を狙い続けた。

段々と、E.B.Bの動きが鈍くなってきた。

その間にもガトリング砲と二連キャノンで、容赦なく赤い機体はE.B.Bを撃ち込み続ける。


……圧倒的な火力だ。

とてもじゃないが、HA単機でここまでの火力を実現できるはずがない。

あの無茶な設計だからこそ、誇る火力としか言えなかった。


「コアは頭部にある、ムラクモで突き刺せっ!」


「と、頭部を?」


「できないのか?」


「……やってやるさっ!」


ただ呆然と現場を眺めていた晶に、ゼノスがそう指示を出した。

赤い機体が容赦なく集中砲火を浴びせていても、E.B.Bの再生は止まる気配を見せていない。

完全復活する前に、『コア』を破壊しなければE.B.Bが死滅することはないのだ。


今、あの位置で素早く『コア』を貫けるのは長身武器である『ムラクモ』と、圧倒的な機動性を誇る『ι・ブレード』だけだった。

ゼノスの判断は適格だ、後は晶自身がやれるかどうかだけだった。


ムラクモを構えて、晶は空高く舞った。

狙いはただ一つ、バケモノの頭部だけだ。


「ι・ブレード、頼むっ!!」


晶の意思に応えるかのように、コックピットが赤く灯った。


「いっけぇぇぇっ!!」


ムラクモを下に突き刺すように構え、晶は一気に機体を降下させた。

凄まじい勢いで、明確に頭部を目掛けて落下している。

ブーストハンマーも丁度動きを止めて、ι・ブレードへ道を譲った。

後はそのまま、急降下するだけだ―ー


ズドンッ――


強い衝撃と共に、コックピットが大きく揺れた。

ムラクモは、E.B.Bの頭部を見事突き刺している。

動きが止まった。


晶はムラクモを持ったまま、機体を高く飛び上がらせる。

ブシャーッと、噴水のように紫色の血が舞った。

辺り一面が、紫色の液体に浸食されていく。


大型E.B.Bは、その体を液体に溶かされていくかのように形を失っていた。

静かに、晶は機体を着陸させて……ムラクモを鞘に収めた。


「……上出来だな」


「俺が、やったのか?」


「ああ、お前の手柄だ」


消滅していくE.B.Bを目にして、晶はただ呆然と眺めるだけだった。

落ちこぼれである自分が、初陣で『大型E.B.B』を討伐した。

一人ではないと言えど、たった2機で仕留めたという事実が信じられなかった。


「……うっ」


急に、頭がフラつき晶はコックピット内で倒れてしまう。

疲れがドッときたのだろうか。


「皆……仇は、とったぞ――」


今は亡き友に、天に向けて勝利を告げた。

晶は微笑むと、そのまま気を失った――


2作品目となります。

壮大なロボットの戦いを書いてみたくて、勢いで書いてます。

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