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     空への願い ③


翌日、晶とゼノスの両名はソルセブン率いるイリュードの部隊と共にE.B.B討伐へと向かった。

アヴェンジャーの大きな動きはないと言えど、アヴェンジャーの介入の可能性は捨てきれない。

不自然に大型E.B.Bが出現した場合等には、今までの傾向からしてアヴェンジャーが出現する可能性も高かった。

不安は残るものの、メシア内でもトップクラスの性能を持つレギス級の戦艦が向かうのだ、おまけにスカイウィッシュ部隊やι・ブレードも存在する。

メシアの主力が集った艦がそう簡単に落ちるはずはないだろう。

ラティアは格納庫に並ぶメシアの試作機3機を眺めながら、そんな事を考えていた。


目の前に並ぶ新型HA3機は、全て第7支部にて開発され新型HAだ。

メシア内で一番注目を浴びているのが、前回晶達の危機を救った『レビンフラックス』

HA史上初の可変機機能を実現化しており、その実力は実戦でも証明された。

そして、残りの2機が今日ラティアがテストで使用する新型2機となる。

同じ外観をしており、見た目だけでは色が違う程度の違いしかない。


実はどちらもウィッシュの後継機として開発されている『ブレイアス』という名の機体だ。

ウィッシュと比べると、全体的に小型化が進められていて、ι・ブレードのようなスリムな体型に変化している。

勿論、スペックの底上げがされており、その性能はフリーアイゼンで使用されていたカスタム機やレブルペインを上回る想定だ。

最大の特徴は換装モジュールにあり、ウィッシュでは戦場によって武装を使い分けていたが、ブレイアスでは換装モジュールを使い分ける事となる。

例えば射撃に特化した『スナイパー』や水中での戦いを想定した『マリン』等と、換装を用いる事で更なる汎用性を広げる事をコンセプトとしていた。

スカイウィッシュのように、ウィッシュにて換装モジュールが採用されている例もあり、それを元に更なる改良が加えられているという。

但し、換装モジュールの開発にはまだまだ時間が必要とされ、まだ一部の試作品しか仕上がっていなかった。


ブレイアスは2機同時に開発されており、どちらも根本は同じ機体ではあるが、違いが存在する。

赤いブレイアスは飛行機能を搭載しており、換装モジュールなしでの飛行での活動に特化させたHAの試作機として開発された。

もう一つの青いブレイアスは、通常のウィッシュと同様地上での活動に特化させている。


「あの子、大丈夫かしら……」


そんな新型を目の前にしても、ラティアはシリアの事が頭から離れる事はない。

ブレイアスの試験が開始される時刻も迫っている、いくら訓練と言えどこの調子では大きな事故に繋がり兼ねない。

だが、わかっていてもどうしようもなかった。


「……いえ、今は集中するべきだわ。 あの子の事は、今だけでも……忘れないと」


ラティアは自分に強く言い聞かせると、静かに青いブレイアスのコックピットへと向かっていった。









シリアは病室で、青い空を静かに眺めていた。

今、部屋には誰一人いない。

驚くほど静かだった。

その静けさは何処か心を不安にさせる。

一人になると、嫌な事ばかりを考えてしまう。

静かなのは、あまり好きではなかった。


「……姉貴」


無意識のうちに、シリアの口からこぼれた。

姉に酷い事を言ってしまったのは、わかっていた。

だが、現状の自分を見ると……とてもじゃないが、姉の事等気にかけている暇はない。

今は自分の事で、精一杯なのだ。

次に姉と逢ったらちゃんと謝ろう、そんな事を頭に考えるが……実際に再会したら、きっと昨日と同じ事になる。

どうして、このタイミングで姉が帰ってきたのか。

せめて、シリアの足がまだ動いている時期であれば―――


ガチャリ……

突如、病室の扉が静かに開く。


「……何だよ、ライルか? それともリューテか、まさかヤヨイ?」


窓を眺めながら、シリアは相手を確認もせずにそんな事を呟く。

強引に入ってくるシラナギを除くと、真っ先に浮かんだ人物はその3人だった。


「私だよ、Drミケイルだ」


「ん……ああ、おっさんか」


「き、君まで私をおっさん呼ばわりするのか……やれやれ、せっかく君に朗報があるというのに」


「朗報? 何だよ、まさか姉貴の事じゃないだろうな?」


「いやいや、そんなはずないだろう……そうだな、例えばどうだ? 君の足を……治せる、と私が言ったら?」


「……っ!?」


その時、シリアの目の色が変わった。

今まで何処か魂の籠っていない瞳であったが、その言葉を耳にした途端

まるで火が灯ったかのように、シリアの目に情熱が取り戻された。


「嘘、じゃねぇだろうな?」


「ああ、本当だとも……私は君の辛い表情を見て、何か方法がないかとずっと考えてきた。

君のような優秀なパイロットを失うことはメシアにとっても痛手だし……何よりも、今まで戦ってきた友だって、君の表情を見て辛い思いをしてきていた」


「アタシの足、治るのか? もう一度……パイロットに、できるのか?」


「確実に治る保証は、残念ながらない。 しかし、方法は確かに存在する。 どうだ、私を信じてみないか?」


「ああ、信じる……頼む、アタシの足を……治してくれ。 このままだと、アタシ……どうにかなっちまいそうなんだよ」


それはシリアの切なる願いだった。

もう二度とパイロットに戻る事ができないと言われてから、その現実を受け止めきれずにただ絶望する毎日。

唯一の救いが空を眺める事にあった。

毎日空を眺めては、救いを求め続け……ひたすら祈った。

その願いが今、叶おうとしている。


「いいだろう、私を信じるがいい……君の足は、必ず治して見せるぞ」


Drミケイルが手を差し伸べると、シリアは手を握り返す。

シリアの表情には、自然と笑みが浮かんでいた。

何日ぶりの笑顔だろうか、どれくらいこの足の事を苦しんでいただろうか。

何十年間も悩み続けたかのような感覚に陥っていた。

もし、足が治るのであれば……どんなに危険なリスクを負ってもシリアは受けるだろう。

シリアにとって、今より最悪な状態など存在しないのだ――









第7支部内の建物を、リューテはグルグルと見回っていた。

現状の第7支部は、E.B.Bの討伐に大半の兵士が出撃しており、警備が手薄となっている。

そんな中、新型機の稼働実験が行われる事に胸騒ぎを感じていた。

今までのアヴェンジャーの傾向からして、これを狙わないはずがない。

とはいえ、第7支部のセキュリティは厳重であり、アヴェンジャーはそう簡単に侵入はできないだろう。

……それでも、リューテは何かをしていないと落ち着かなかった。


「……ん?」


ふと、制御室の付近を歩き回っていると、何やら話し声が聞こえてくる。

警備兵の者が連絡を取り合っているのだろう、と思ったが何処か聞き覚えのあるその声に足が留まった。

そしてリューテは、扉の前に耳を傾けた。


「えー色ですかぁ? そんなに赤がいいんじゃないんですかー? やっぱ赤似合ってますしね、可愛いと思いますよ?

うんうん、迷わず決めちゃってくださいっ! 私がお勧めしているんだから、自信持っちゃってくださいねっ!!」


シラナギの声だ。

その一言を聞いただけで、リューテは思わずため息をつく。

迷わずリューテは制御室の扉を開けた。


「シラナギ、また軍の回線を私用で使ったな」


「わ、わわわっ!? リュ、リューテじゃないですかぁっ!?」


シラナギは大袈裟なリアクションを取って驚いていた、いや彼女の場合素なのだろう。


「あまり不審な動きは見せるなよ、今日は新型の実験もあってアヴェンジャー介入の可能性も高いからな」


「だって、友達の事気になっちゃったんですよ。 ほら、晶くん達が向かった先って私の友達が近くに住んでるんです。

ちょっとだけーって思ったら、服の話題ですっごく盛り上がっちゃってー楽しかったですよ?」


「……一応皆には黙っておくから、次からは控えてくれよ」


どうせ何を言っても無駄だろうと、リューテはため息をつく。

シラナギは呑気にはーいと返事をして、制御室を後にした。


「妙だな……何故、制御室に誰もいない?」


普段であれば制御室には何人かの警備担当の者が存在するはずだが、今日は誰一人そこにいない。

だからこそシラナギが勝手に使ったのだろうが……明らかに、おかしい。

いくら大半の部隊が討伐へ向かっていると言えど、この部屋に人を置かないはずがないだろう。

念の為リューテは、装置を操作して第7支部全体の様子を確認していった。


「……これは?」


一部分、モニターが真っ暗になっている個所があった。

その個所は……新型が保管されている格納庫周辺。

リューテの嫌な予感が、的中した瞬間だった――








コックピットの中で、ラティアは深呼吸をした。

別に緊張をしているわけではない。

ただ妹の事ばかりを頭に過ぎらせてしまっていた。

少しでも気持ちを落ち着かせようと、気を紛らわせようとしていただけだ。


『準備はできたか?』


「ええ、問題ないわ」


通信機からはフラムの声が聞こえた。

ブレイアスの開発にはフラムが携わっており、今回の実験の責任者となっている。


『どうした、不安なのか? お前らしくないな、ラティア』


「あら、貴方にもそう見えるかしら? ふふ、そうね……ちょっと、嫌な事があってね」


『気を付けるんだぞ、いくら危険が少ない実験だと言っても何が起こるかわからん。

くれぐれも、怪我だけはするんじゃないぞ』


「ええ、ありがとうフラム博士」


よほど昨日の件のショックが強かったのだろう。

通信機越しからでも、この不安が伝ってしまうほどだった。

今はとにかく、稼働実験に集中しなければならない。

モニターから目の前にハッチが開かれたのを確認した。


「ブレイアス、出るわよ」


ラティアはスロットルを押し込み、ブレイアスを前進させる。

いつも見慣れている、広いドーム状の会場へと足を踏み入れた。

ブレイアスの武装はライフル1本サーベル1本バルカンと、基本的な武装しかない。

今回は換装モジュールを使った実験も行われない為、文字通り動作確認をするだけだ。

だが、単純な事であってもこの手の作業はベテランクラスでないと依頼されない。

戦い慣れている者の動作データでなければ、まともな検証が行えないからだ。

今日は連続して新型2機と既存機ウィッシュのデータを取り続け、最終調整を行う為の試験となる。


ビーーっ!

すると、コックピット内で警告音が鳴り響いた。


「……これは、HAの反応?」


レーダーを確認すると、確かに稼働中のHAの反応が1機あった。


明らかに、この会場へと向けて急接近してくるHA……しかし、単機なのが気がかりだ。

アヴェンジャーの襲撃、を考えたが……レーダーが正常である事からレブルペインではない事がわかる。

すると、ドーム状の試験会場に空中から飛び込んでくる一機のHAが姿を現した。

……外見はレブルペインであるが、妙だ。

頭の部分だけ、何故かウィッシュのパーツが使用されている。

だが、レブルペインである事から……アヴェンジャーである事は間違いない。

レブルペインは、サーベルを構えて仕掛けてきた。


「そう、仕掛けてくるのね……っ!」


ブレイアスはライフルを構えて、数発撃ち込んだが全て軽々と回避されてしまう。

グングンと距離を縮めていくレブルペインを迎え撃とうと、サーベルを構えた。

すると、突如レブルペインがモニターから姿を消した

いや、消したわけではない。

死角へと回り込まれたのだろう。


「その程度でっ!」


ブレイアスの死角はある程度把握できている、基本的にウィッシュと変わりはないのだから使い心地がほとんど変わらなかった。

相手の動きからしておおよその位置はわかっている、ラティアはサーベルで先手を打とうと斬りかかろうとする。

……だが、レブルペインの姿はそこにはなかった。


「……っ!」


その瞬間、レブルペインが上空から急降下してきた。

ガキィィンッ!! と、金属音が鳴り響く。

何とか反応できたラティアは、サーベルの一撃を受け止めた。


『へぇ、流石はエースは伊達じゃねぇってことだな。 よく受け止めやがったな』


「貴方、何者よ?」


『ケッ、そんなのテメェの頭で考えろっ!』


レブルペインに蹴りを一発入れられると、機体は大きくぐらついた。

その間にレブルペインは距離を取って、離れていく。

……パイロットの声は、まだ少年だった。

恐らく晶やシリアと大差がない年齢だろう。


『ラティア、すぐに応援をよこす。 そいつの相手を頼むぞ』


「ええ、わかっているわ……一人でノコノコと飛び込んでくるなんて、マヌケね」


『丁度いいや、ビリッケツもいねぇみたいだし……新型とやらをぶち壊すってのも楽しそうだな』


「私を甘く見ると後悔するわよっ!」


何が目的かはわからないが、敵として現れた以上は相手にするしかない。

上手くいけば、パイロットを捕えてアヴェンジャーの事を聞き出せる可能性もある。


「そこよ」


バァンッ! バァンッ!

レブルペインの動きを誘うようにライフルを数発撃ち込んだ。

だが、レブルペインはそれを理解しているかのように誘いには乗ってこない。

むしろ、上手くライフルを交わしてあっという間に接近戦に持ち込まれてしまった。


『おいおい、なっさけねぇな……あんな子供騙しに引っかかると思ったのかぁ?』


「そうやって人を見下す態度、気に入らないわね」


ガァンッ!!

その瞬間、ライフルの弾が命中し、レブルペインの右腕が吹き飛ばされた。


『チッ……テメェ、やるじゃねぇかっ!!』


レブルペインは右腕を失ったまま、ブレイアスへと向けて突進していく。

片手を失ってもなお、戦いを継続しようとするのか。

ブレイアスはサーベルを構えた。

だが、レブルペインは速度を上昇させ続けている。


「強行突破する気……? いえ、何か裏があるわ」


レブルペインはいくらスペックが高い機体と言えど、それを上回る性能を持つ新型に出力が叶うはずがない。

あのパイロットは、この場面で強引に押し切ってくるようなバカではないと、ラティアはわかっていた。

しかし、全く速度を落とさずにレブルペインは徐々に距離を縮めていく。

あの速度では制御も容易い事ではない……そうなると、やはり強行突破を――


「……迎え撃つしかないわっ!」


相手が何をしようが、今の状態でこちらから仕掛ける事はできない。

ラティアは集中して、レブルペインの動きを伺う。

速度を緩めず接近を続けていたレブルペインは、ついの剣の間合いにまで接近していた。

ここでラティアは、サーベルを力いっぱい振り回す――

同時に、レブルペインはブレイアスを飛び越していった。


ラティアは思わず目を疑った。

あの速度で、そのような事をしてしまえばいくらパイロットスーツがあると言えど、尋常ではないGが襲い掛かるはずだ。

それに、下手すれば制御しきれずHA同士で衝突する危険性も、単純に押し負ける危険性だってあったというのに。

彼は、それを平然とやってのけたのだ。


「な、何て無茶をっ!?」


『壊れちまえよ新型ぁぁっ!!』


あっという間に背後を取ったレブルペインは、速度を継続させたままサーベルでブレイアスを押し出し、切り裂いた。

ガキィィィンッ!!

激しく火花が散らされ、金属音が響き渡る。

勢いよく吹き飛ばされたブレイアスは、幸いどの部分も大破には至らなかった。

だが、いくら新型と言えどダメージが全くないわけではない。

機体の損傷は予想以上に大きかった。


「何なのよ、あのパイロット……?」


アヴェンジャーにはこんな無茶苦茶なパイロットが存在するのかと思うと、ラティアは思わず恐怖した。

メシア内でもそうそうあのようなパイロットは存在しないというのに。

すると、レーダーにもう1機のHAの反応が出現した。


「……この反応、まさかっ!?」


ズガァァァンッ!!

突如、格納庫方面で大きな爆発が発生する。

容赦なく広がる煙の中から、空に向けて一機のHAが飛び出す。


……『ブレイアス』だ。

今日の稼働実験対象となっていた、もう1機の赤いブレイアス。

その機体、何故か爆発の中から……空高く舞い上がっていた。


『あれぇー? お姉さんとそっくりな香りがするぅ……ウヒヒ、何だかとっても懐かしい感じ……ひょっとして、お姉さんなのかな?』


通信機からは、今度は少女の声が聞こえてきた。

この喋り方といい、笑い方といい……思わず寒気を感じる程の気色悪さだ。


「……まさか」


『そういう事、だ。 さて、俺らも仕事なんでな……テメェの相手も飽きたし、帰らせてもらうぜ』


『ウヒヒ、お姉さんがどうしてもっていうなら……愛してあげてもいいよ?』


「冗談じゃないわ、絶対に逃がさないわよっ!」


これ以上、アヴェンジャーに新たな戦力を与えるわけにはいかない。

例え一人でも、何とかして見せる。

ラティアはそう誓った。


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