ゼノフラムの意味 ③
ゼノフラムの起動実験から一週間経過していた。
順調に進められていたかと思いきや、最後は致命的なアクシデントが起きてしまった。
反エネルギー圧縮砲を使用する際、内部で生み出されるエネルギーが想定以上の値に達してしまい
結果、凄まじい爆発が生み出されたのだ。
当然ながらゼノフラムは半壊し、実験は中断された。
設計の都合上、ゼノフラムにはまともな脱出装置が搭載されていない。
パイロットのゼノスは、文字通り爆発に巻き込まれてしまった。
正直助かる見込みは、あるはずがない。
内部からの爆発は容赦なくコックピットを巻き込んでいるはずだ。
ある程度熱に強いと言われるパイロットスーツを装着していると言えど、所詮気休め程度でしかない。
ほぼ生身に近い状態の人間が、爆発に巻き込まれて生きていることなど、有り得ないはずだった。
……だが、ゼノスは生きた。
半壊状態のゼノフラムで、全身に大火傷を負った状態で気を失っていた。
病院に運ばれたゼノスは、集中治療を受けて一命を取り留める。
それからのゼノスは、尋常ではない回復力を見せつけた。
今では意識をはっきりと取り戻し、全身に負っていはずの火傷も……いつの間にかほぼ完治していたのだ。
「……驚いたよ、まさか君が生きているとは思いもしなかったからね」
病室で横たわっているゼノスに対して、フラムがそう呟く。
ゼノスは何も答えずに、黙り込んでいた。
「君の胸、見せてもらったよ。 ……まさか、そんな身体でパイロットをやっていたとはね」
ゼノスの胸部に巻かれた包帯を、フラムは解いていく。
すると……そこには剥き出しになったエターナルブライトが埋め込まれていた。
その周囲はまるでE.B.Bのようなおぞましい姿に変化していき、徐々に領域は広がりつつある。
……一部分だけ、明らかに人の体ではなかった。
「君の身体、E.B.Bそのものに近い状態だよ、そのコアが破壊されない限り君の身体はエターナルブライトが持つ生体情報を元に再構築される。
だが、尋常ではない再生を繰り返せば、やがて君は完全なE.B.Bへと姿を変えるぞ。 ……わかっているのか?」
「……それを承知の上に、パイロットをしている」
「何故、私に黙っていた?」
「アンタが知る必要はない」
「君はバカかね? いくら死なない身体と言えど、コアが無事である保証も……君が人の形を保てる確証は何もないのだぞ?」
「俺は死なない、E.B.Bになるつもりもない」
間髪入れずに、ゼノスは強く言い切った。
だが、現実には胸部を中心に徐々に異形へと変えている姿が目に移る。
とてもじゃないが、その言葉に説得力の欠片も感じなかった。
「……ゼノフラムの事だがね、私は開発の中止を申し入れたよ」
「爆発の事故の影響か?」
「そうではない、政府のお偉方は課題点がまだまだあるにしろゼノフラムの性能を確かに認めていたよ。
君の腕があったからこそ、ゼノフラムの持つ本来の性能を見せつけることが出来たのだよ……その点は、感謝する」
「ならば、何故だ」
「私はね、正直人の命を軽く考えすぎていたよ。 君が凄腕のパイロットと聞いて、どんな無茶な設計でも君ならばゼノフラムを乗りこなすだろうと考えていた。
だがね……君に情を抱きすぎたのだろうな、あの爆発を見た時……私は絶望したよ、優秀なパイロット……いや、親しき友人を一人失うことに恐怖してしまったのだよ。
私は、意図せずとも君の命を軽んじて……君をただの実験台としか考えていなかったのだよ、そんな自分を私は許せないんだ。
おかげで君が目を覚ますまでの数日間……私はどれだけ自分を呪ったのだろうな……どれだけゼノフラムに恐怖を感じたのだろうな」
普段見せた事のない、寂しそうな表情でフラムはそう語った。
ゼノフラムのコンセプトは対大型E.B.Bであり、多少無茶をしてでも大火力の武器を搭載しなければならない。
それを運用させるには、パイロットの安全性など考えていては実現できる代物ではなかった
だが、そこでゼノスという男が姿を現した。
彼は無茶な設計である事を承知で、ゼノフラムのテストパイロットを引き受けてくれた。
実績から言ってもパイロットとしての腕は確かではあり、どんな無茶なHAでも簡単に乗りこなすだろうと信用していたのだ。
ゼノスを危険な目に逢わせる、と言った自覚は全く感じていない。
ただ、優秀なパイロットがフラムの持つ対大型E.B.Bの思想を叶えるきっかけとなってくれる。
人命は二の次に考える程、何時しか開発に夢中になっていた。
だが、現実はそうではない。
あの爆発を事故を起こすまで、フラムはゼノスを失うことなんて考えていなかった。
「君が生きて入れくれたことは、喜ばしいよ。 正直私はホッとしている、自らが生み出したHAで死人を出さなかったことをな。
だが……それでも、君の身体を知ってしまえば尚更ゼノフラムに乗せるわけにはいかない。 君は、あの機体に乗るべきではないんだ。
……例え命を落とさないとしても、人を辞める事になるぞ」
「俺はゼノフラムに乗る、アンタの夢を叶えてみせる」
「何故だ? 君は死ぬことも、人でなくなることも恐れないというのか?
……冷静に考えたまえ。 所詮ゼノフラムは私の自己満足でしかないのだよ、大型E.B.BなんてわざわざHA単機で処理する必要はない。
現行のウィッシュ部隊でも、戦艦一隻でもあれば討伐はできる程我々の技術は既に進んでいるのだよ」
「だが、俺はアンタと誓った。 『ゼノフラム』の名に懸けて」
ゼノスの一言で、フラムは思わず言葉を失った。
ゼノフラムは、ゼノスとフラムの契約でもあり絆でもある。
人体の負荷を無視し、限界まで性能を求め続けるHAと
死を恐れずに、そのバケモノマシンを乗りこなすパイロット。
その二人がいなければ成立しない、決して途中で降りるのは許さないと誓った事を、律儀に守っているのだ。
だが、それだけではない。
ゼノスはゼノフラムを開発していた時の、まるで子供の用にはしゃいで語るフラムの姿を見てきた。
何度も交わしてきた開発に関する相談、時には度肝を抜かれるような大胆な発想を聞かされることもあった。
始めはただ、興味深い新型の発想に惹かれて乗りこなしてみたいと思っただけかもしれない。
しかし、知らない間にフラムが語る夢はゼノスの夢にもなっていた。
ゼノフラムを必ずメシアへ認めさせ、採用させる。
フラムが望んだ、次期主力機としてメシア全体への活躍を実現させる為に
例え自分の身を犠牲にしようとも、やめる気はなかった。
「君はこうしている間にも、エターナルブライトに身体を蝕まれている。 その浸食をわざわざ早めるような真似を、私はしたくない。
……今は私の夢よりも、君を失わない事の方が大事なのだよ。 何故、それを理解しない?」
「アンタこそ、そう簡単に夢を捨てるのか?」
「君を犠牲にして叶えるほどでは、ないと言っている」
「なら、誓いを破るというのか?」
「私は非道になるつもりはない、ゼノフラムの開発は中止だ」
「……俺はやめない、アンタがやめようとも俺はゼノフラムの開発を続ける」
ゼノスの決意に、迷いはなかった。
だが、フラムはそうではない。
人の命を失うことを恐れて、人を殺しかけた自分の技術を恐れた。
例えゼノスが不死身であっても、他のパイロットが全てゼノスと同じとは限らない。
命の重みを認識した途端、フラムはゼノスを実験台にしようとした自分の非道さに恐れた。
いくら夢を叶えるためとはいえ、『人の犠牲』を得てまで叶えるつもりは、これっぽちも存在しない。
……だからこそ、フラムは開発中止を決意したのだ。
「君は本当に、聞き分けのない男だな。 ……勝手にするがいい、君と私の契約もここまでだ。
どうしても君が続けるのであれば、ゼノフラムの名を捨てろ」
「……捨てない」
「……勝手にしろ」
最後にフラムがそう告げて、静かに病室を後にした。
その時のフラムの表情は、はっきりと記憶に残っている。
いつも冷血な表情を見せていた彼女が、酷く悲しい表情を浮かべていた。
それからゼノスは、一度もフラムと顔を合わせる事はなかった。
メシアではOHAの開発の中止が正式に決定されたが、半壊したゼノフラムはゼノスが引き取った。
例えフラムが諦めようとも、ゼノスは諦めない。
ゼノフラムで数々の大型E.B.Bを討伐し、フラムが再び夢を取り戻すことを願った――
あれからフラムには、一度も顔を合わせていない。
もう随分前の事なのだが、あの時の事がまるで昨日の事のように思えてくる。
ゼノフラムは、一番の問題となった反エネルギー圧縮砲を取り除いてゼノスが設計をし直した。
以前に、フラムが考案した設計よりもスペック自体は落としているがそれでも数々の戦果を上げてきた。
だが、ゼノフラムは再び、大破してしまった。
G3を破壊する為と言えど、その犠牲はかなり大きい。
また、夢から遠ざかってしまった。
……しかし、ゼノスは諦めつもりはない。
何とかして再びゼノフラムを復活させ、戦い続けると誓った。
ガチャリ
突如、ノック音もなしに病室の扉が開く音がした。
何かと思い扉へ目を向けると、そこには懐かしい姿見える。
……白衣を身に纏った、フラムの姿があった。
「まさか、君との再会がまた病室になるとはな」
「……フラムか」
「君の胸を、見せたまえ」
フラムは椅子へと腰を掛けて、ゼノスにそう告げた。
あの時と同じように胸部に巻かれた包帯を、ゼノスは解く。
……ゼノスの身体は以前よりも、遥かに浸食されていた。
「……君は後いつまで、人間のままでいられるのかね」
「さあな、少なくとも……俺は死ぬまでE.B.Bになるつもりはない」
「相変わらず無茶を続けているというのに、よくもまぁ人の形を保っていられるものだ。
しかし、驚いたぞ。 まさか君が本当に、あの名を捨てずに使い続けているとはな」
「アンタとの誓いだ、当然だろう」
「君は本当に律儀な男だ、その誓いなぞ私が既に破っているだろうに」
「だが、夢は潰えていない」
「……全く変わっていないな、君は」
「アンタこそな」
5年前に、互いが相容れぬまま別れたというのに、二人はその事を気にしていない。
それどころは、ゼノスの元気そうな姿を見てフラムは笑っていた。
「ただ君、ゼノフラムを壊したそうだな。 全く、君は本当にHAブレイカーだな」
「G3を破壊させる為だ、やむを得ない」
「もう少し丁寧に扱ったらどうだね、君のゼノフラムでの戦いは映像データで拝見させてもらったがあまりにも無茶すぎるぞ」
「元はと言えばアンタの設計のせいだ、嫌でも無茶をせざるを得ない」
「……やれやれ、それを言われると私は反論できないではないか」
そう呟くとフラムは立ち上がった。
「さて、君の元気そうな姿が見えたし……失礼させてもらうよ」
「そうか、見舞いに感謝する」
「……それと、一応言っておくがね。 私はゼノフラムの開発を中止にした身だ、大破したゼノフラムの改修を手伝うつもりはない」
「わかっている、アンタの協力を得ずともゼノフラムは復活するさ」
「後ね、無駄だと思うが聞いておこう。 ……ゼノフラムから、降りる気はないのか?」
「当然だ、俺は降りない」
「やはりそうか、なら失礼するよ」
それを告げる為に病室に訪れたのか、フラムは数分もしないうちに病室を立ち去っていく。
あの後ろ姿は、5年前に別れた時と酷似している。
ゼノスの身を、心配しているのだろう。
例え不死身に近い身体だとしても、E.B.Bへと変化しつつある身体で戦い続けているのだから。
「……アンタは本当に、夢を捨てたのか?」
既にいないフラムに対して、ゼノスはそう呟いた。
カツンカツン、と乾いた音を響かせながらフラムは廊下を歩んでいた。
ゼノスはあの時以来、本当にゼノフラムで戦い続けている。
開発資金も出ていなかったというのに、一体どうやってあの機体の開発を続けたのか。
……フラム自らが言い出した『契約』を、律儀に守り続けているのには正直驚かされた。
本来であれば、今更そんなものを守る必要性はない。
ゼノフラムに乗り続ける理由だってないはずなのに、ゼノスはそれでも戦い続けていた。
その姿を見る度に、フラムからはモヤモヤとした気持ちが晴れずに複雑な心境を抱く。
本当であれば、ゼノフラムからは降りてほしいし、あの機体を破棄してほしいというのが願いだ。
だが、ゼノスは本気でゼノフラムへ乗り続けている。
あの男の事だ、今更素直に降りてくれるはずもなかった。
「あーっ!! やぁーーっと見つけましたよぉーっ!!」
すると、何処からともなく女性の声が聞こえた。
振り向くとそこには、全力で駆け出してくるナース服の姿が目に入る。
「フラム博士ですよね、おはようございまーすっ!!」
「あ、ああ……そうだが」
突如目の前に現れた少女は、フラムにとっては面識がなかった。
見た感じここの病室で働いている看護婦に見える。
「私、フリーアイゼンの医療班を務めてるシラナギ・ソノって言いますっ!
あ、パイロットの健康管理もメンタルケアも全部私がしてるんですよー、凄く大変なんですからねっ!?」
「……その医療班が、私に何の用だ?」
「よくぞ聞いてくれましたーっ! 実はフラム博士にお願いがあるんです、聞いてくれますかっ!?」
「は、話だけは聞こう」
かなり強引な形で話を進められて、流石のフラムでもシラナギ相手ではたじたじとなっていた。
しかし、医療班の者が技術者のフラムに何を願うというのだろうか。
「フラム博士はゼノフラムの開発者なんですよね?」
「ああ、そうだ」
「なら、ちゃちゃっとゼノフラム直しちゃってくださいっ! もう、あのバカゼノスったらゼノフラム壊しちゃってるんですよー?
修理には莫大な費用が掛かっちゃう話ですし、今フリーアイゼン内でも揉めてるんです。 フラム博士の名を使えば、きっと何とかできるんじゃないかって思ったんですっ!」
シラナギの言葉を聞いて、思わず開いた口がふさがらなかった。
まさかいきなり現れてゼノフラムの修復をお願いされるとは。
おまけに費用まで当てにされている。
「……君、あのマシンは既にメシア所有のHAではないぞ。 開発費用から修理費が下りる事はない、それに私はあの――」
「知ってます、ゼノスはいつも語っていましたよ。 ゼノフラムに乗っているのはある人の願いを叶えるためだって。
ゼノフラムってすごいんですよーいつもいつもフリーアイゼンのピンチを救ってくれました。
あ、最近は晶くんのι・ブレードがもっと凄くて隠れがちなんですけどね、ちょっと嫉妬してるかもしれませんっ!」
「だがね、ゼノスの状態をわかっているのかね? 彼は――」
「そんなの関係ないんです、ゼノスは命懸けで乗り続けてるんですよっ!? 貴方の夢の為に、ずっと戦ってるんですっ!
なのにどうして、夢を諦めてるんですか? 叶えましょうよ、ゼノスはずっと頑張ってきているんですよ?」
「ひ、人の話を聞きたまえ……それでも私は――」
「貴方が諦めていないって、ゼノスは信じてるんですよ? お願いです、協力してくださいっ!
あ、私凄くしつこいですよ? 貴方がうんって言うまでずっと付き纏うつもりですからっ!!」
何ともまぁ迷惑な話だと、思わずフラムはため息をついた。
ゼノスも聞き分けのない男ではあるが、今目の前にいるシラナギという者はそれ以上だ。
だが、シラナギの言葉は何処かモヤモヤしたフラムの心に響く。
フラムはとうに夢を捨て、誓いを破った。
ゼノフラムに関しては、ゼノスが勝手にやっている事。
もう、自分には関係のない話だ。
そんな言葉でいつも、自分を説得していたが……何処か、違う。
時々、自分の言葉に疑問を感じる事もあった。
途端に、フラムの言葉が詰まってしまった。
「……知らん、勝手にしろ」
フラムはそう言い残すと、シラナギを無視して再び歩みだした。
だが、シラナギは追ってくる様子はない。
てっきりしつこいぐらい追い続けてくるものだと思っていたが。
「ゼノフラムの復活は、私やゼノスだけの願いじゃないんですよー? フリーアイゼン、皆の願いなんですからねっ! そこ、重要ですからっ!!」
シラナギは、最後にフラムにそう告げた。
願いも何も、関係ない。
……それで、ゼノスの身体が蝕まれて続けるのを許していいはずがない。
恐らく、知らないのだ。
ゼノスの事だ、あの体のを事を……隠しているのだろう。
フラムだって、爆発事故が起きる前までは全く知らなかったのだから。
フラムは自室へと戻った。
山積みとなった仕事を全て片づけなければならない。
目の前に積まれた資料の山を目にすると、思わずため息をついた。
「……私の夢……ゼノフラム、か」
今となってはその名の意味は、既にないようなもの。
それをゼノスは守り続けている。
とうに破られた誓いと絆が込められた名を、使い続けていた。
夢を、本当に諦めたのか。
その問いに答えるのであれば――
「諦めるはず、ないだろう」
5年間、合間合間に見直し続けたゼノフラムの設計書を、フラムは広げた。
決してゼノフラムの開発を、完全に諦めたわけではない。
だが、今の技術力では実現するには程遠かった。
5年前に比べれば、比較的に安定感も増して……あの悲劇を引き起こした『反エネルギー圧縮砲』だって改善されている。
しかし、それでも課題点はたくさんある。
この設計書をまだ世に出すわけにはいかない。
……あの時、もっと強くゼノスを止めるべきだった。
ゼノスは本当にゼノフラムに乗り続け、開発を続けていたのだ。
あの言葉に嘘偽りはなかった、わかっていた事ではあったが……今更それを痛感する。
フラムは夢を捨てきれていない、だがそれ以上に……人の命を失う恐怖が勝り
更に非人道的な行為を行おうとしていた自分にも、恐怖していた。
「……本当に夢を諦めきれたら、もっと楽ができるだろうに」
フラムはため息をついた。
ガチャリ
その時、自室の扉が開く音がした。
普段こんなところに足を運ぶ人物はいないはずだ。
しかし、誰であろうと今は相手にする気分にはなれない。
「誰だ、私は今忙しい。 後にしてくれないか」
「俺だ、悪いが少しだけ時間をくれ。 すぐに済む」
「君……?」
その声を聞き、すぐにゼノスだと分かった。
何故、わざわざこんなところに?
フラムは振り返った。
「まだ絶対安静じゃなかったのかね、一体何のようだ?」
「……アンタに伝えてない事があるんでな。 こっそりと病室を抜け出してきた」
「何だね、簡潔に話したまえ」
「俺は、アンタが非道な人間だとは思っていない。 この身体が不死身だからと言ってアンタの機体に搭乗したわけではない。
実験台になることを承知したわけでもない……アンタの技術力を信じた。 あの時は、結果的に大事故に繋がったが……それでも俺は、アンタの腕を信じている」
フラムは表情を、ハッとさせた。
ゼノスの一言は、まるで今の自分の心境を的確に見抜いているような言葉だ。
……今更のように、それを告げるのか、と思わずフラムは笑った。
「……それだけだ、仕事の邪魔をしたな」
それだけ告げると、ゼノスは部屋から立ち去ろうとする。
「だが、正直私は君の負荷を全く考慮していなかった。 どうして、私の技術を信じれると言い切れるんだ?」
「あの時の爆発、凄まじいエネルギーが発生していたというのに最小限に抑えられていた。
普通ならあの辺り一面が吹き飛ばされていてもおかしくなかっただろう……それだけだ」
「おかしなことを言うな、君でなければ確実に即死だったのだぞ。 わかっているのかね?」
「死人は出ていないさ」
「……やれやれ、君の屁理屈には呆れるよ」
フラムはゼノスの言葉に、思わず呆れてしまった。
何故、あれだけ危険な目に逢ったというのに、技術を信じるだの言うのか。
それだけではない、ゼノスは決してフラムを責める事はなかったのだ。
思えばあの時も、自分の身よりもゼノフラムの開発を優先していた。
「君はどうしても、ゼノフラムで戦いたい……そうなのだな?」
「そうだ、アンタが何を言おうと……アンタの夢を終わらせない」
「……仕方がない奴だ」
フラムは席を立ちあがり、目の前に広げていた紙の束を手にする。
そして、ゼノスに静かに渡した。
「正直、私は夢を捨てきれなかったのだよ。 実は、こっそりと新たな設計を進めていた。
……本当は何度も捨てようと思ったさ、だけどそう簡単に捨てられるものじゃない……夢とは、そういうものなのかもしれないな」
「……フラム、もう一度誓え。 お前が夢を諦めていないのなら、それを俺に証明しろ」
「なるほど、私の力を借りたい……と?」
「……ああ」
ゼノスは力強く頷く。
正直、フラムの中にはまだ迷いが生じている。
ゼノスが何と言おうと、あの事件はフラムの暴走が招いた結果。
技術者として、人命を無視した非人道的なHA設計の結末であった。
その事実は決して変わりもしないし、フラムは背負い続けなければならない。
例え死者がでなかったとしても、大切な友人を危険な目に逢わせてしまったのだから。
だけど、それでもゼノスは乗り続けた。
ゼノフラムの名に込めた二人の契約という名の絆を、律儀に守り続けていた。
「いいだろう、私が君に『真のゼノフラム』を……提供して見せよう」
「……ああ、頼んだぞ」
ゼノスは、フラムと固い握手を交わした。
一度途切れてしまった絆が、再び固く結ばれた。
新たなゼノフラムに、変わらない願いと夢を託して
二人はまた同じ道を、共に歩んでいくことを誓った。