ゼノフラムの意味 ②
当時、HAの技術は発展途上にあり、メシアで行われている事は主力機である『ウィッシュ』の改良が中心となっていた。
その中でも、新たなHAの開発に試みる者は少なかった。
特にフラムのような発想は斬新であり、フラムの今までの実績から評価されメシア内では最も注目されている。
フラムはこれまでに汎用機の改良に携わっており、メシアのHA技術発展に貢献してきた人物の一人だ。
対大型E.B.B専用OverHopeArmsの開発は、OHAプロジェクトとしてチームが立ち上げられ、本格的な開発が進められていった。
開発室では、OHA開発に向けてのフラムとゼノスの激しい討議が繰り広げられている。
どういう訳か、ゼノスはフラムにちょくちょくと呼び出されて、様々な案について意見を求められるようになっていた。
ゼノスは技術者としては素人ではあるが、パイロットとしては、もはやベテランの域に達している。
優秀なパイロット視点からの意見も参考程度に聞いておきたいらしい。
だが、実際話を聞いてみると……
「私はね、ロケットパンチという武器は実に有用的だと考えているのだよ、あれはライフルの発展と考えてもいいね。
君はどう思う? OHAに実装するのもありだと思わないか?」
「悪いが、賛同できないな」
「どうしてだ? 君はどうもわかっていないようだね、やはりロボットと言えばロケットパンチは必須なのだよ。 まさにロマンの塊ではないか?
後はそうだな、やはり目からビームも出るようにするべきだろう。 どうだね、プラズマを利用すればそれっぽいのが出せるんじゃないか?」
「お前は一体、何を目指しているんだ?」
「ならばミサイルはどうだ? しかし普通に搭載するのも面白くはない……ロボットにも色気を持たせるというのはどうだろうか、名付けてお――」
「……それ以上はやめろ」
「つれないな、君は。 中々私の天才的な発想に賛同をしてくれないようだね?」
楽しそうに語るフラムの姿を見て、ゼノスはどこか呆れていた。
突然呼び出されたかと思えば、その内容はまるでロボットに憧れた少年と話しているように錯覚する。
だが、彼女は決してふざけてはいない。
大真面目に、ゼノスに語っているのだ。
今までの話を、間違って肯定でもしてしまえば、その武装が実現してしまうほどの技術力を持っているのだから。
彼女は自分が実現可能な事しか話さない、そういう人間だという事はゼノスは理解できていた。
「やはり大型E.B.Bを相手にするには、ありったけの武装を積み込む必要があるだろう。
いっそミサイルポッドを積むのはどうだ? 他の武装をほぼ諦める事になるかもしれないが」
「なるほど、やはり君と私の発想は似ているな。 私もその案は既に考えているのだよ、両肩を全てミサイルポッドを積んでしまおうという案だがな。
両肩を開いてミサイルを全弾当てれば、圧倒的な火力を誇るのは間違いないぞ」
「しかしミサイルポッドを積むだけならウィッシュにだって可能だ。 現にウィッシュ10体使って、ミサイルを一斉射撃して大型を倒した記録も存在する」
「君は甘いね、私の予定では武装はこれだけ積む予定なのだよ」
フラムはゼノスに紙を突きつけてそう言う。
無言でゼノスは髪に目を通すと、思わず目を疑った。
「ミサイルポッドにキャノン砲にガトリング砲? それに、なんだ……このブーストハンマーというのは」
「それが目玉なのだよ、先程のロケットパンチで思いついたんだがね、鉄球に超出力のドライブを搭載するのさ。
チェーンで繋ぐ事によって、圧倒的かつ凶悪な飛び道具に化ける……というわけだ、もちろんE.B.Bの装甲なぞいとも簡単にぶち破ってくれるだろう」
まさかこれだけの武装を全部積もうというのか、ミサイルだけでも相当負荷が大きいというのに。
武器の数に驚かされているが、それ以上に目に留まった兵器がそこに記載されていた。
「……更にここに書いてある『反エネルギー圧縮砲』、これはなんだ?」
「ふ、それこそ対E.B.Bにおける究極武装……つまり、OHAの切り札というわけだな。 通常、主砲……いわゆるビーム兵器と呼ばれるものはエターナルブライトを圧縮した時に生み出される超エネルギーを一気に射出させている。
だが、エターナルブライトの超圧縮を行う装置は凄まじく大がかりな装置が必要となり小型化が出来ない代物なのだ、それ故主砲というのは戦艦ではないと搭載はできなかったのだよ。
しかし、この武装はその常識を覆す素晴らしい代物なのだよ」
「素人の俺でもその辺りはわかる、だが一体どうやってHAクラスで実現させるつもりだ?」
「やれやれ、君はパイロットの癖に技術面の知識もあるときたか。 これでは説明している側も面白くないね」
フラムはため息をつきながら、ゼノスにそう言った。
「……悪かったから続けてくれ、俺もその先までは想像つかん」
「そ、そうか。 ならば続きを話すぞ?」
何故だか勝ち誇った顔を見せるフラムを見ると、今度はゼノスがため息をつく。
そんな事はお構いなしに、フラムは説明を続けた。
「実はかなり強引にエターナルブライトを圧縮させる方法があるのだよ。 通常、ビーム兵器は動力源となるエターナルブライトと圧縮装置の二つで成り立つ。 だが、私は両方ともエターナルブライトを使う方法を編み出したのだよ。
エターナルブライトを研究している技術者から、エターナルブライト同士のエネルギー反発について一度聞いたことがあってな、そのエネルギーを使ってエターナルブライトを圧縮させようと考えたのだよ。
どうもエターナルブライトは、個体によってエネルギーの大きさが異なるのだが、実はエネルギーの蓄積を行うことができるらしい。 実際一部の戦艦ではエネルギーを蓄積させた物を使って、より強力な主砲を放つ技術が採用されていると聞く。
だが、その状態でエネルギーが蓄積されていないエターナルブライトにエネルギーが十分に蓄積させたエターナルブライトを触れさせると、互いのエターナルブライトがエネルギーを均等に分けようとする働きが発生する。 いわゆる熱平衡みたいなものだな。
その時に、凄まじいエネルギーを移動させるせいかはわからないが『更に超エネルギー』が生み出されるのだよ、わかるかね?
つまり私は、そのエネルギーを圧縮に使えるのではないかと考えたのだよ」
「……その話は聞いたことがあるな。 だが、そんな都合よくエネルギーの圧縮はできるとは思わん」
「その通りだ、第一エネルギーの移動が発生する際は凄まじい爆発が起き続けているようなものだ、普通の使い方をしていてはHAが大破するどころの話ではない。
そこを、実現可能にさせるのが私の仕事さ……だが、安心したまえ。 エネルギー圧縮の時間を抑えられれば何とかできるかもしれん。
……ま、これがもし実現してしまえば……OHAは戦艦クラスの活躍が可能となるわけだ、素晴らしいと思わんかね?」
相変わらず、無茶苦茶な事を平然と言っているフラムには驚かされた。
しかし、これを本気でやり遂げようとするフラムの姿勢には感心する。
いや、彼女なら実現してしまうのだろう。
ゼノスはそんな事を感じ取っていた。
「……やはりお前には、驚かされるな」
「今更私の凄さに気づいたか、愚かだな君は……私はOHAでこの世界を変えて見せよう。
こいつがメシアの次期主力に採用されれば、今までのE.B.B討伐の常識がひっくり返るぞ。
わざわざ戦艦を用意して大規模な戦闘を展開する必要もない……楽しい未来が待っているさ」
「歴史を動かすHA……か。 どうせならちゃんと名前でも付けてやったらどうだ、記念になるんじゃないか?」
「ふむ、私としてはOHAで十分だと思うが……確かにありかもしれないな。 ちょっと待て、私が考えよう」
ふとフラムが天井を見上げて、しばらく考え込んだ。
冗談で言ったつもりだったのだが、どうやら本気にしてしまったらしい。
「……太郎だ」
「太郎?」
ゼノスは思わず首をかしげて聞き返した。
もしかして、それをOHAの名前とする気なのだろうか?
「OHAの生みの親は私だろう、つまり必然的にOHAは私の子供となる。 以前に子供が出来たらどのような名前を付けようと考えていた時期があってな……
昔日本の名に憧れていたこともあり、『太郎』と名付けようとずっと決めていたんだ、どうだ? 素晴らしい名前じゃないか?」
「……別に悪いとは言わないが、それだったらアンタの名でも入れたらどうだ。 少なくとも、太郎よりしっくりくると思うぞ」
「自分の名をつけろというのか、全く君はおかしなことを言うな。 何故OHAに私の名をつけなければならないんだ?」
「だが、過去には新しく発見した惑星に自分の名をつける例もあるぐらいだ、別に悪くはないだろう」
「……君がそこまで言うなら、考えておこう。 OHA『フラム』か」
フラムは再び天上を見上げて、考え込んだ。
どうもフラムはゼノスの言うことに、あまり反発しないようだ。
ゼノスの提案を真に受けて、真剣に悩んでいる姿が目に入る。
「君、いいかね」
「なんだ?」
すると、フラムは何か思いついたのかゼノスに声をかけた。
「君は以前、OHAの設計を見た時に無茶すぎる設計だの散々言ってくれた時があったね?」
「今更だな、それがどうかしたのか?」
「正直、今の私ではOHAは多少無茶な設計が入るのだよ、素人のメシア兵が乗れば下手すれば命を落とす危険性があるほどなのだ。
君は、そんな死すらも恐れずに私のOHAに乗ろうと、しているのだな?」
「勘違いするな、現状のウィッシュでは自分の実力が発揮できないと思っていた。
そこで、ウィッシュの限界を超えたアンタのOHAに注目しただけさ……悪いが、死ぬつもりはない」
不思議そうに尋ねてきたフラムに、ゼノスは迷いなく答えた。
決して死を覚悟して乗る、といった事ではない。
単純に、新型HAに興味を持った事と……人の負荷をすべて無視し、ただ性能だけを求め続けるHA。
そんなコンセプトに惹かれ、そのマシンを乗りこなしてみたい、と考えただけだ。
「やはり、君がパイロットとして選ばれたというのは私の幸福なのかもしれないな。
……よかろう、OHAの名には君の名前も刻ませてもらうぞ」
「何?」
「私が求めていたのは君のような素晴らしいパイロットなのだよ、君相手であれば遠慮なく思い切った開発が行えそうだ。
言っておくが、君の想像以上にOHAはクセが強くなるぞ。 だが性能は保障する……君の腕次第でOHAはいくらでも伸びると、断言できる」
「……それは、期待できそうだな」
「逆に言えば……このOHAは私と君、どちらかが裏切ってしまえば成り立たなくなるのさ。 君がこのマシンを乗りこなせなければ、メシアの連中は即不採用とするのは目に見えている。
だからこそ、一度私に協力すると言った以上……最後まで君を手放すつもりはない、途中で抜ける事は許さんぞ。
これはそう言った契約の意味も含めようかね。 なぁ~に、心配はいらない、金はとらないさ、君はただ黙って乗りこなせばいい」
「そんなことしなくても、俺は降りん」
「君ならそう言うと信じてたよ。 ま、とにかく……このOHAは『ゼノフラム』、と名付けさせてもらおうか。
これは君と私の契約でもあるし、たった今築いた君と私の絆、とでも言っておこうか」
フラムが真剣な表情で、ゼノスにそう訴えた。
何が何でもOHAを完成させてみせる、という意思表示なのだろう。
「……ゼノフラム、悪くない」
「しかし……やはりゼノスラムとかゼノスフラムに変えないか? 私だけ名前が思いっきり出ているのは気に入らないぞ」
「いや、いい。 このOHAは、ゼノフラムで決まりだ」
「君、少しでも私の話に耳を傾けたらどうだね? ……まぁ、君が気に入っているのならよしとするか」
非公式ではあるが、この日を境に新型HAは『ゼノフラム』と名付けられる。
互いの願いを叶えるための誓い、それは天才技術者と天才パイロットによる固い絆の証となった。
そして、数か月の月日が流れ……ついに『ゼノフラム』が完成した。
稼働実験当日、いつになく現場は慌しかった。
数人の整備士が念入りにゼノフラムの整備を行っている。
ゼノフラムのその巨体は、隣に並べられているウィッシュと比べると圧倒的な存在感だ。
フラムが想定した武装が全て詰め込まれており、ブーストハンマーはまるで足枷のようにチェーンで繋がれている。
「さあ、今日はただの稼働実験ではあるが、同時に上層部に対してのお披露目会としての意味も持っている。
一通り、ゼノフラムの武装を扱ってくれよ……くれぐれも、失敗だけはしないようにな」
「問題ない、アンタの設計にも……俺の腕にも不備があるはずがないさ」
「ほう、言ってくれるね……君のその言葉を、信じるよ」
その一言を聞いて安心したのか、フラムはゼノスにそう告げて立ち去って行った。
「ゼノスさん、そろそろ準備してください。 そろそろ整備も終わりますので」
「……ああ、わかった」
整備員から声をかけられると、ゼノスは用意されていた長い梯子を使ってコックピットまで登っていく。
長い距離をようやく登り終え、コックピットの中へと入り込んだ。
ウィッシュのコックピットよりも一回り大きい、当然ではあるが作り自体はウィッシュが基盤となっている。
開発中に何度も入った事もあり、流石に見慣れた光景ではあるが、今日はいつにも増して緊張感が高まっていた。
ここまで緊張するのは、初めてHAで実戦に出た時以来である。
知らない間に、プレッシャーを感じているのだろうか。
今日の稼働実験で、事実上ゼノフラムの評価が決められる。
ここで、高評価を得られない限り……ゼノフラムは開発中止とされ、メシアからの資金援助が望めなくなる。
HAは個人の資産で開発を続けられるようなものではない。
これまでゼノスは共にゼノフラムについての開発に積極的に参加していた。
始めは、ただ単純に凄まじい性能のHAに興味を退かれただけだった。
だが、フラムが楽しそうに技術を語る姿、熱意が伝わり、知らぬ間にゼノスまでもが開発の意見を出していく。
そんな事を繰り返しているうちに、ゼノフラムに愛着がわいてしまったのだ。
だからこそ、失敗は許されない。
必ず成功させ、フラムの『夢』へと近づけさせる。
『ゼノフラム』の名に懸けて――
「こっちは準備OKだ、リフトを上げてくれ」
『了解』
外の整備班に通信で告げると、ガタンッとコックピット内が揺れる。
巨大なHAが、リフト共に持ち上げられていった。
リフトの上がる音だけを耳にし、ゼノスは目を閉じて精神を集中させる。
別に敵と戦う訳でもないのに、尋常ではない緊張感が走り続ける。
全く、自分らしくない。
ゼノスは思わず自分にため息をついてしまった。
「問題ない、いくぞ……ゼノフラム」
ガタンッ!
リフトが止まると、モニターからは太陽の光が差す。
周りは野球場のように広がる観客席があった。
公開稼働実験と言えど、流石に一般人の立ち入りは許可されていない。
メシア関係者の数人が、ポツンと座っているだけだった。
『さあ、実験を始めるぞ。 まずは移動だ、なるべく全速力を叩き出せ。 多少小回りは効かないが、お前の腕ならカバーできるだろう』
「了解した」
フラムが直々にゼノスに指示を出していた。
ゼノスは早速、スロットルをゆっくりと押し込んだ。
ガタガタガタっ!
機体が発進されると同時に、コックピットが激しく揺れ始めた。
……ウィッシュに搭乗している時とは比べ物にならない、凄まじい揺れだ。
「……何だ、この振動はっ!?」
ゼノフラムは、凄まじい推進力を叩き出し突き進んでいた。
あの巨体が出せるような速さではない、この揺れの激しさと凄まじいGは流石のゼノスでもそう簡単に耐えきれるものではない。
……文字通り、パイロット負荷をまるで考えられていないHAだった。
『ちゃんと前を見ろ、ここで壁にぶつかったら大恥だぞ』
フラムの指示を耳にすると、ゼノスの目の前には巨大な壁が迫っていた。
「くっ!」
このままではぶつかってしまう、何とか操縦桿を持ち振り切ろうとする。
ガガガガガガッ!!
スロットルを引いて、大きく右回りをしているにも関わらず、ゼノフラムはほんの僅かにしか曲がれていなかった。
……小回りが利かないどころではない、明らかに欠陥ではないのか? と、思わずゼノスは疑った。
ブレーキを駆使して、ゼノスは強引に壁を曲がらせてようやく停止させることに成功する。
『見たまえ、この凄まじいスピードにお偉方は度肝を抜かれているぞ。 ハッハッハッ、やったなゼノス』
「……どういう事だ、ここまで操縦性が悪いとは聞いていないぞ」
『君がカバーしてくれると言っただろう。 それとも、降りるか?』
「冗談じゃない……乗りこなして見せる」
あの女、はめやがったな、と心の中でつぶやきながらも、ゼノスは負けじとそう言い切った。
すると、突如周りにE.B.Bのバルーンが数対出現した。
ゼノスはガトリングを構えて、バルーンを撃ちぬいていく。
「……射撃の精度に問題はないな、いやむしろウィッシュを遥かに凌駕している」
『当たり前だ、なめてもらっては困る。 次もよろしく頼むぞ』
フラムの合図で、今度は上空からバルーンが数対射出された。
あの距離ならば、キャノン砲を使えという事だろう。
ゼノスは迷わず2連キャノン砲を構えて、発射させた。
見事、全発命中させてバルーンは見事散っていった。
『流石だな、順調ではないか。 次はミサイルだ』
「……了解だ」
次に現れたのは、巨大な鉄板だ。
今度はあれを破壊しろ、と言っているのだろう。
ゼノスは壁の間近くまで機体を移動させた。
相変わらず激しい揺れが伝わるが、今度はスムーズに停止することが出来た。
それと同時に、両肩に搭載されているミサイルポッドを全弾発射させる。
煙で一瞬視界が見えなくなったが、煙が晴れた頃にはきれいさっぱりに吹き飛ばされた鉄板の変わり果てた姿が映し出された。
『いいぞ、お偉方もなかなか感心しているようだ。 次はメインイベントその1……ブーストハンマーを使うんだ』
「了解」
一時はどうなるかと思っていたが、稼働実験は順調に進められている。
このまま何も問題が起きなければ、ゼノフラムの性能が認められて更なる開発に踏み込むことが出来るはずだ。
そうすれば、近いうちに量産化させるのも夢ではない……メシアの新たな主力として立ち上がってくれるだろう。
次のターゲットが出現した。
同じように、鉄の壁だ。
ゼノスは壁へと向けて、ブーストハンマーを射出させた。
「……っ!?」
すると、ブーストハンマーは凄まじい速度で鉄の壁へと向けて直進していった。
一体何を積んだというのか、これほど巨体なHAがいとも簡単に引っ張られてしまうほど、凄まじい推進力で突き進みだしたのだ。
「クッ……制御できんっ!」
ゼノフラムは容赦なくハンマーへと引きずられていき、あっという間に鉄の壁を粉砕していく。
だが、ハンマーはその動きを止めずに容赦なく直進を続けていた。
「一体何を積みやがったんだっ!?」
『そのハンマーは特注品でね、通常の3倍ほどの出力を誇るのだよ。 大丈夫だ、もう一度引けば動きは制御できるさ』
言われるがままに、ゼノスはハンマーを強引に引っ張ると、ようやくハンマーは動きを停止させた。
……想像を絶するパワーに、流石のゼノスも冷や汗が止まらなかった。
『ハッハッハッ、凄まじい破壊力だ。 流石に君もこのモンスターには驚かされただろう?』
「……何てHAだ、想像を遥かに超えている」
フラムの言葉は文字通り、人体の負荷を無視した無茶苦茶な設計であった。
ゼノスが想像していた以上に、この機体を扱うにはかなりのリスクを負う必要がある。
……だが、ゼノスは無意識のうちにニヤリと笑みを浮かべた。
これこそ、自分の求めていたモンスターマシンなのだと。
フラムという人物は、本当にバケモノじみたHAを作り上げて見せた。
……確かに、これを使いこなせば相当凄まじいマシンになる事は間違いない。
必ず、自分の物にして見せる――そう、誓った。
『さあ、仕上げだ……反エネルギー圧縮砲を使いたまえ……奴らに、HAが繰り出す主砲の威力を見せ付けてやろうではないか』
「ああ、わかっている」
いよいよ稼働実験も締めを迎える時が来た。
やはりフラムは天才だ、かなり無茶な設計と言えど……確かにコンセプト通りの動きを見せているのは事実だ。
精密な射撃に、圧倒的な火力を誇るミサイルとハンマー……どれも、対大型E.B.Bに関しては有効だろう。
そして、このビーム兵器を力を見せれば……まさにメシア史上初の、対大型E.B.B専用HAとして認められるはずだ。
ゼノスは会場の端へと移動した。
ようやく移動にも慣れてきた、クセがいるがコツさえ掴んでしまえば容易く操作できる。
すると、大量の数のE.B.Bのバルーンが一斉に出現した。
……一撃で全て一掃しろと、言っているのだろう。
主砲クラスというぐらいだから、その一撃は凄まじく、観客席すら破壊しかねないだろう。
それを考慮して方角は、誰も人がいないところへ向けている。
あのフラムの事だ……凄まじい威力である事は容易に想像できた。
「……いくぞ」
ゼノフラムの胸部に、一つの砲台が姿を現した。
エネルギーの圧縮が始まると、紫色の光が集中し始めて徐々に赤色へと変化していく。
……本当に、HAサイズのビーム兵器を実用化まで持って行ったというのか。
自ら開発に携わっていたかと言えど、実物を目の前にすると驚きを隠せなかった。
だが、異変はその直後に起きた――
ビーーーーーー!!
突如、コックピット内で警告音が鳴り響いたのだ。
「何……?」
何が起きたのかとゼノスはサブモニターを確認する。
すると、明らかに出力が異常な数値を叩き出していた。
動力部の負荷がかかりすぎている、今の状態でオーバーヒートを起こしてしまったら―――
すぐに中断して冷却する必要がある、と考えたが
既にその判断は遅かった。
ズガァァァァァンッ!!
その時、ゼノフラムは凄まじい爆発を引き起こした。