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    激戦の代償 ③


晶が目を覚まし三日程経過した。

目を覚ましてからはしばらく激しい頭痛が続いたものの、医者からの検査には身体的な問題も見つからずに、すぐに退院することが出来た。

その後、晶はすぐに艦長に呼び出され第7支部へと足を運んだ。


リューテを通じて晶は、自分がアヴェンジャーに捕らわれた事を伝えていた。

その件について、艦長にまで話が届いたのだろう。

いずれ自ら艦長に報告するつもりだった、アヴェンジャーの目的について。

……特に、父親の存在とアッシュベル・ランダーについては、早急に伝えなければならないと考えた。

作戦会議などに使われる会議室、一般パイロットである晶にはほとんど縁がない場所ではある。

この扉の前に立つと、シラナギに連れられて初めてブリッジルームの扉の前に立ったことを思い出した。

緊張感が高まり、晶は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

そして、ゆっくりとその扉を開いた。


その先には、いつも見慣れているフリーアイゼンの艦長……ゲン・マツキと

フリーアイゼンを助けてくれたソルセブンのイリュード・ブラッシュが座っていた。


「来たか、未乃 晶」


「ほう……彼が例のパイロットか。 悪いな、まだ体も本調子じゃないだろうに」


「……いえ、それよりも早急に伝えなければならないことがあるので」


「そこまで固くなることもあるまい、そこに座るといい」


イリュードに指示を受けて、晶は静かに椅子へと腰を掛ける。

流石にメシアの艦長二人を前にしたプレッシャーは尋常ではない。

とてもじゃないが、平常心を保てという方が難しいだろう。


「まず、よく生きて帰ってきた。 正直あの状況で君が生きていたことは奇跡としか思えんよ」


「俺も、よくわからないんです。 どうして、生き延びたのか……」


G3にやられた時の記憶は、未だにはっきりとしていない。

覚えているのは赤い光に包まれた事と、誰かの声が聞こえた事だ。

……あの声、フリーアイゼンを助けに行ったときにも聞こえていた。

ιシステムに関連する事なのか、それともただの幻聴なのか――


「アヴェンジャーの拠点については、我が部隊で捜索を行った。 結果、第S級に値する汚染区域にメシア所有のものではない施設が発見されたよ。

お前を逃したことにより、奴らが我々の動きを先読みしたのだろう。 だが、何も手掛かりが残されていないわけではない、奴らの尻尾は必ず我が部隊を掴んで見せよう」


「すまないな、イリュード艦長。 本来であれば我々が行うべきであっただろうに」


「アヴェンジャーはもはや我々共通の敵だ、今は本来の役割等言っている場合ではない事態だろう」


「うむ、その通りだ。 晶……すまないが、知っている事を全て我々に話してくれないか。 我々としても彼らの目的がわかればアヴェンジャーの動きも掴みやすくなるはずだ」


「……わかり、ました」


より一層、空気の重さを感じた。

このまま正直にアヴェンジャーの目的を話してしまうと、どうなるだろうか。

今までは、早急に伝えなければならないという思いでいたが、ここで一つ……嫌な結論を頭に思い浮かべてしまった。


アヴェンジャーの狙いは、あくまでもアッシュベル・ランダーという個人一人。

昔は偉大な科学者と世界的に名を上げていたが、今となってはエターナルブライトの出現により、天才から奇人という評価に代わってしまった人物だ。

それでもHA開発者としてメシア内では活躍を続け、本部においてもその発言力の強さは健在ではあるが

……考えたくない事だが、一人の命でアヴェンジャーの無意味な争いが止まるというのであれば、アッシュベルの命を差し出すというメシアの方針も、有り得てしまうのではないかと考えた。

メシアに限っては、そんな事がないと考えたい。

人類の希望となるべく組織が、そんな方法で世界の平和を保とうなんてするはずがないだろう、と信じたい。

だが、万が一という事もある……以前にゼノスから聞いたように、G3のような殺人兵器を隠してしまうという裏の顔も知ってしまった。

そんな方法をメシアがとってしまったら……結果的に、アヴェンジャーとやっている事が変わらない――


「……どうした、晶」


「いえ……何でもないです」


疑うな、信じろ。

少なくとも、艦長はそんな悪い人ではないはずだ。

晶はようやくその重い口を開いた。


「アヴェンジャーの人達は……ある一人の男に復讐する為に集われた組織だと聞きました。

G3のパイロットである男から聞いたので、間違いはないと思います」


「一人の男? たったそれだけの為に、これほどまでのテロ行為を?」


「その男とは?」


「……アッシュベル・ランダーです」


「なんだと……?」


その時、ゲンは表情を一変させる。


「自分もそこまで詳しい話は聞けていません……ただ、あの人は右腕がE.B.Bのように変化していました。

それはアッシュベル・ランダーの手によってエターナルブライトの実験台にされた、と告げられました」


「エターナルブライトによる人体実験……っ!?」


「……あの男が、そのような事を?」


二人は驚きを隠せずにいた。

メシア内では、今までエターナルブライトによる人体実験に関する記録は一切残されていない。

有り得るとするのであれば、それはι・ブレードのように秘密裏で行われたという事実につながってしまう。

だが、何の為にそのような実験が行われたのか?

エターナルブライトによる影響は既に世に知れ渡っているはずだ。

あらゆる生命体をE.B.Bに変化させ、E.B.Bは例外なく人類に襲い掛かる。

……そのような代物を、人間に使うという発想自体が有り得なかった。


「アッシュベルは、かつての私の友だ。 彼は確かに奇人ではあるが、決してそのような非人道的な行為を行うような人間ではない。

何かの間違いである……と、信じたいが」


「いや、俺は噂程度には聞いたことがある。 アッシュベル・ランダーは裏で何をしているかよくわからないと、陰で言われ続けている人物だ。

メシアの本部内でも彼を危険視する人物は例外なく存在していた。 ……しかし、確証はないがな」


「……私が、彼に尋ねよう。 それに敵の言葉である事も事実だ、全てを鵜呑みにするわけにもいかん」


ゲンはその真実を受け止めきれずにいた。

かつての友が、そのような事を手を出していたとはとてもじゃないが考えたくはない。

もし、その事が事実であれば……今すぐにでもその行為を辞めさせるべきだ。

友として、友人の過ちを正さねばならなかった。


「少なくとも……右腕がバケモノになった男と、写真ではありますがE.B.Bのように姿を変えた少女を……この目で確認しています。

人体実験が行われていたという事実は、間違いない……と思います」


晶はあの時、父親に見せられた画像を頭に過ぎらせると思わず背筋をゾッとさせた。

それだけではない、あのE.B.Bと化した少女の画像のせいで……夢にまで出て来てしまったのだから。


「しかし、妙な話だな。 何故一人の男に復讐する為に、メシアの兵器を奪う必要がある?

アッシュベルを敵に回すとしても、何もメシア全体を敵に回すわけではあるまい。 俺ならば、暗殺といった手段をとるがな」


「何か他にも狙いがあるとも考えられる。 それこそ、メシアを敵に回さねばならないほどのな」


晶の心配はどうやら無駄に終わったようだ。

言われてみれば、確かに個人に復讐する為にここまで大規模な活動をするのもおかしい。

感情的になりすぎて、そんな肝心なところが抜けてしまっていた。


やはり、艦長は冷静に、的確に状況を判断出来る人物だ。

例え味方の言葉であろうと、それを鵜呑みにして過激な行動に移ったりはしない。

艦長達なら信用できる、だから話してもいい。

晶は覚悟を決めて、父親の事についても明かした。


「……それと、アヴェンジャーには……俺の父親もいました」


「未乃 健三が? どういう事だ、彼はメシア所属の開発者のはずだぞ」


「まさか……裏でアヴェンジャーと繋がりを持っていたというのか?」


「わかりません……父親は、ι・ブレードをアッシュベルに対抗するために開発されたと言っていました。

そして、最初からパイロットは俺が選ばれる事になっていたみたいなんです」


ありのままに、晶は艦長達に伝えた。

あの時、アヴェンジャーを抜け出した時点で父親と敵対する事は目に見えていた。

……いずれ、戦うことになるのかもしれない。

だが、それでもやはり肉親の相手は辛い。

出来れば戦いを避けたいというのが、晶の本音であった。


「やはり、メシア内部にアヴェンジャーと通ずる者がいたか」


「認めたくはないが、事実のようだな。 まさか、未乃 健三がテロ組織に力を貸すとは……」


二人はやはり、複雑そうな表情を見せていた。

メシア内部から、アヴェンジャーと通ずる人物が現れたという事実だけでも衝撃的だというのに

優秀な技術者である未乃 健三が、そのような組織に力を貸しているという事実が信じられなかった。


「晶、父親の事を話すのは辛かったであろう。 だが、よくぞ我々に話してくれた」


「……俺、大丈夫です。 父親を敵に回す覚悟は、ちゃんと出来てますから」


何処か、不安が籠った一言ではあったが、目はしっかりと艦長と合わせていた。

今の父親は、間違っている。

どんな理由であれど、アヴェンジャーの行為は許すわけにはいかない。

今はそうやって、自分を納得させることしかできなかった。


「俺から話せる事は、以上です」


「わかった、戻ってゆっくり体を休めるといい」


晶は立ち上がると、艦長二人に一礼をして静かに会議室を後にする。

……恐らく、これからはアヴェンジャーとの戦いになるのだろう。

もはや、アヴェンジャーの存在は無視できるようなレベルではない。

話し合いで解決しない以上、屈服させるしか手段はないのだ。

複雑な気持ちになりながらも、晶は会議室を後にした。










支部内にある休憩室に、晶は足を運んだ。

自販機で飲み物を購入し、ソファーへと腰を掛ける。

現状、フリーアイゼンは改修作業に入っていて身動きが取れないとリューテから聞いてはいた。

その為、当分の間はソルセブンの元で晶はパイロットとして働く事となる。

フリーアイゼン以外の艦の元で働くのは、少し不安に感じた。

今までι・ブレードで数々の戦果を上げている以上、その評価に値する行動をしなければならない。

それだけで晶には相当のプレッシャーがかかっていた。


ゼノスはゼノフラムが大破した以上、当分の間はレッドウィッシュで活動を行うと聞いている。

あの爆発で生き残れたという話を聞いた時は、思わず耳を疑った。

しかもその回復力を凄まじく、今となっては怪我もほぼ完治しているらしいがまだ病室で寝かされていると聞く。

正直信じられない話だ、人の事を言えないがゼノスは一体どうやって生き残ったのだろうと疑問に感じていた。

だが、最も深刻な事態と言えるのはシリアの事だろう。

激しい戦いの中、何とか生き延びたのだが……足が動かなくなってしまった。

それはもう、二度とHAに搭乗できない体となってしまったという事だ。


この三日間は絶対安静と言われて、病室から出る事はなかった。

だからゼノスにも、シリアにもまだ逢っていない。

今頃、シリアはどうしているのだろうか。

正直晶は、病室へ足を運ぶのに戸惑っていた。

シリアに何て声をかければいいのか、わからない。

いくら気が強いシリアでも、この事実をそう簡単に受け止められるとは思わなかった。

少なくとも、晶であれば絶望に陥って誰とも話したくない、と感じるはずだ。


「……行こう」


悩んでいても仕方がない、晶は自販機の前へと向かい追加で炭酸飲料水を購入する。

よく、シリアが好んでいた飲み物だ。

こんなもので気を紛らわす事が出来るとは思わないが、せめてもの気持ちだ。

手ぶらで向かうよりかはいいだろうと、晶は購入した。


数分ほど歩くと、シリアの病室の前まで辿り着く。

晶がゆっくりと扉を開くと、ベッドで上半身だけを起こすシリアの姿が目に入った。

何処か悲しげな表情で、空を眺めている。

……やはり、あの様子だとショックは相当大きいだろう。

今は行かない方がいいのではないか、と考えた。

シリアにしてやれることなんて、何もない。


逆に無神経なことを言って、傷つけてしまう可能性もあった。

……だが、いつまでも距離を置くわけにもいかない。

晶は勇気を振り絞って、病室へと足を運んだ。


「お、来てくれたのか晶」


「は、はい……」


「今はプライベートだぞ、口には気をつけろよ」


「え、あ。 そ、そうだった、な」


何処かぎこちなく、晶は話す。

何故か緊張してしまって、うまく言葉が出なかった。


「お、差し入れか? 流石アタシの部下だよ、ありがとな」


晶が手に持っていた飲み物に気づき、シリアは手を伸ばした。

まるで猛獣にエサを与えるような手つきで、晶は飲み物を渡す。


「どうした? アタシの顔に何かついてるか?」


「い、いや……何も」


「……ま、座ってくれよ」


シリアは近くにある椅子を指さしてそう言う。

晶は無言で、椅子に腰を掛けた。


「フリーアイゼン、護ってくれたんだよな。 ありがとな、晶がいなけりゃ今頃皆死んじまってたよ」


「……でも――」


「どうしたんだよ、もっと誇っていいんだぞ。 皆晶には感謝してるよ、よく頑張ったじゃないか」


「あ、ああ……」


シリアは気丈に振る舞っていた。

晶の目から見ても、無理をしているのは痛いほど伝わってくる。

だからこそ、言葉が上手く出てこない。

一体、何の為にここへ来たのだろうと思ってしまうほど……本当に、何を言えばいいかわからなかった。


「アタシさ……足、感覚ないんだよね。 笑っちゃうよな、意気込んでアヴェンジャー相手にしてたら呆気なくやられちまって……このザマだよ」


「……な、治るの、か?」


晶はそう口にした後に、表情をハッとさせた。

今、物凄く自分の口にした言葉に後悔した。

何でこんなことを聞いてしまったのだろう、恐らく一番触れてはいけない部分だったはずなのに。


「検査の結果聞いてさ、ほぼ絶望的なんだってさ。 もうパイロットは諦めろとも、言われたよ」


「……」


晶は言葉を失った。

恐らく医者から告げられたのだろう、少し考えればそんなことはわかるはずだったのに。

かけるべき言葉が、全く見つからなかった。

下手に励ますことも、今の状況について語る事も、何を話してもシリアを傷つけてしまう。

一生懸命かける言葉をグルグルさせても、何も出てくることはなかった。


「……晶はさ、何でパイロットに志願したんだ?」


「え?」


「ほら、学生の時は成績は常にビリで落ちこぼれだって自ら言ってたじゃないか、それでも続けてた理由って何だ?」


「……親父がさ、HAの技術者だったんだ。 それで、HAに興味を持って親友と一緒に親父が認める程のパイロットになってやろうと思って」


「へぇ……きっかけは木葉だと思ってたんだけどなぁ。 ちょっと意外だったよ」


「その時は、そんなに人類だとかE.B.Bだとかは……意識してなかったからさ」


その当時は確かに、人類を守るだとかは意識をしたことはそんなにない。

ただ、父親がHA技術者という事に憧れて、自分はパイロットを目指そうとしただけの事。

そんな単純な理由であったが、今では木葉を守る為……人類の為に戦おうといった志で動いている。


「アタシも似たようなもんさ。 昔姉貴がパイロットになるっていって家を飛び出して行ってね……アタシは姉の後を追ってパイロットになったんだよ」


「お、お姉さんがいるのか?」


「まぁね……ただ、姉に憧れたとか、そんな理由じゃないんだけどさ。 ……アタシさ、昔E.B.Bの襲撃で家族を失ってるんだ」


「え――」


晶はまたしても言葉を失った。

……まさか、シリアにそんな過去があったとは想像もつかなかったからだ。


「変な話だけどさ、どうして人類守る為に飛び出した姉が、アタシらを守ってくれなかったんだって思っちゃってさ。

家を飛び出して以来……ずっと顔も見せずに、アタシらが襲われた時も……その後も、ずっと顔を見せてくれなかった。

だからちょっと、姉が嫌いなんだよ。 だからね、姉が役立たないなら……アタシがパイロットになって、姉以上に活躍してやるって意気込んでたんだ」


「……そう、だったのか」


「後はそうだね……昔からちょっと、飛行機とかにも憧れててさ。 HAで空に飛びたいなって気持ちもあったんだけどさ。

姉貴の影響で結構、HAについての知識は豊富だったから、可変機の試作だとかフライトパーツがどうこうとか、そんな資料を目を輝かせて読んでたよアタシ」


「あ、ああ……その気持ち、よく、わかる――」


シリアは楽しそうに自分の事を語るが、晶はやはりぎこちない。

慎重に言葉を選んでしまっているせいか、いつもの通りに話せていなかった。


「……アタシなら、大丈夫だからさ。 こんな体になっちまっても、何とか戦場に復帰できないか一生懸命方法を探すよ。

だからさ……晶が、アタシの分まで頑張ってくれよ。 何度もフリーアイゼンのピンチを救ってきた晶になら、安心して任せられるからさ」


シリアは、笑顔で晶にそう告げる。

だが、晶は頷くことが出来なかった。

とてもじゃないが、シリアのその思いを背負って戦うことは……できない。

深く考えてしまい、ただ黙って俯くだけだった。


「ほら、しっかりしな。 アタシを気にして晶までが落ち込むことはないだろ? なぁに、心配ないさ。 アタシを誰だと思ってるのさ?」


「……シリア、さん」


「だーかーら、いつまで『さん』付けをするんだと……あーもう、どうして晶はそうなのかねー、別にアタシを友達だと思って喋ってもいいんだぞ?」


「……ご、ごめん」


晶はシリアを励ますどころか、逆にシリアに励まされてしまっていた。

これでは、本当に何のために来たのかわからない。

何か、何か言わなくてはと必死で思考をグルグルと回転させた。


「……上手く、言えないけどさ。 シリアの足をどうにかする事、一緒に考えるよ。 医者は絶望的だって言っているけれど……治らないとは言ってないしさ」


なんて無責任な事を口走っているのだろう。

だけど、晶はそんな言葉しか口に出すことが出来なかった。

ひょっとしたらシリアを余計に傷つけてしまうかもしれないというのに。


「おいおい、言うんだったらもっと自信満々に言えよ。 でも、気持ちは嬉しいよ。 ありがとな、晶」


「……あ、わ、悪い」


怒られてしまったが、結果的にはシリアは笑ってくれた。

……少しでも、気を和らげることはできたのだろうか。


「アタシはもういいからさ、木葉の事ちゃんと見てやれよ。 ……シラナギから、話聞いてないか?」


「シラナギさんから? 何の話ですか?」


「……いや、聞いていないならいい。 とにかく、木葉の支えこそ晶しかいないんだからな。 今まで心配かけた分、一緒にいてやれよ?」


「そ、そうだな……わかったよ」


「ほら、早くいったいったっ!」


晶はシリアに言われるがままに、病室の外へと出ていく。

最後に少しだけシリアの表情を確認すると、やはりどこか寂しい表情を見せていた。

……思った通りだ、やはり辛いのだろう。

こんな形で、パイロットとしての生命を絶たれてしまえば……納得できるはずがない。

そんな姿を見送って、晶は病室を後にした。






ガンッ!!

誰もいないなった事を確認し、シリアは壁に思いっきり拳を叩き付ける。

シリアは俯いたまま、もう一度拳を叩き付けた。


「動け、動けよ……アタシの足。 こんなところで、終わりたくねぇよ……アタシ、まだまだパイロット……やりたいんだよ……もっと、パイロットさせてくれよ――」


両手を顔に覆い、シリアはそう呟いた。

あまりにも理不尽な結末を受け入れる事が出来ずに、何処にもぶつける事の出来ない悔しい思いを今まで抑え続けていた。

誰にも当たらずに、自分の中で封じ込め続けて、物にあたる事で解消させようしたが、それでも振りきれない。

頬を伝って、ポタリポタリと水滴が一つずつ垂れていた。

……晶の前で決して見せなかった、悔し涙。

仲間に余計な心配をかけさせまいと、気丈に振る舞っていたがそう長続きはしないだろう。

だが……そうしなければ、仲間は皆自分の事を心配する。

特に晶のようなタイプは余計に神経を使わせてしまうことを、シリアはよくわかっていた。

だからこそ、誰もいないときを見計らってこの思いを発散するしかない。

しばらくは、そうやって乗り越えていくしかなかったのだった――


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