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    激戦の代償 ②

気が付くと、辺り一面は真っ暗な空間だった。

自分が何処にいるのか、立っているのかどうかすらわからない空間。

ここは一体、何処なのだろうか?

ふと、あの激しい頭痛が綺麗に消え去っている事に気づく。

頭の中が締め付けられるような、激しい頭痛。

晶が意識を失う寸前まで、その痛みは続いていた。


その時、何度も誰かの声が聞こえていた。

空耳、だったのか。

それとも、誰かの通信……或いはι・ブレードが全く別の通信を拾ってしまっていたのかはわからない。


「私と共に戦え、晶」


突如、何もない空間から父親が姿を現した。

ふざけるなっ!

心の底からそう叫びたかったが、声は出なかった。

一人の男に復讐を果たす為、罪のない人々を大勢巻き込んでいくアヴェンジャー。

何故父親は、そんな組織に身を置いているのか理解できない。


父親は、純粋なHA開発者だった。

人類の未来の為に、HAの開発を進めて、その技術を子供である晶に自慢げに話してくれてていたのに。

その技術を、アッシュベル・ランダーへの復讐の為に使っているのだ。


ザーーーッ……

すると、目の前がテレビの砂嵐の映像のように乱れだした。

何処か、ιシステムにおける危険察知発動時と似ている。

次に映し出された光景は、病室だった。


ベッドには、黒い髪の女性が窓を眺めている。

顔ははっきりと見えない……だが、何処か懐かしさを感じる姿だ。

窓を眺めていた女性は、ふとこちらに気づいたのかゆっくりと振り返った。


―――っ!

晶は、言葉を失った。

女性の顔は、既に人間ではなかった。

何度も見てきた、あの悍ましいE.B.Bの姿に酷似していたのだ。

……この人も、アッシュベル・ランダーの被害者、なのだろう。

グチャリ……気味の悪い音を立てて、女性の体は徐々にその形をバケモノへと変えていく。

メキメキと、体の内部を突き破り昆虫のような長い脚が生えだし

腕が二つに分かれたかと思うと、刃物のように鋭さが増し、肌の色も紫色へと変化を遂げた。

思わず晶は腰を抜かした。


人が……E.B.Bへと変化する瞬間を、見てしまった。

これは現実なのか、それとも幻なのか?

今の晶にそれを判断する術はなかった。

だが、今は目の前に起きたことに恐怖するだけだ。

バケモノへと姿を変えた女性は、ゆっくりと晶へ歩み寄ってくる。

晶は逃げようとするが、腰を抜かして思うように体が動かせない。

徐々に距離を縮めていき、バケモノは晶の首にその鋭い刃物と化した腕を突きつけた。


「やめろぉぉぉっ!!!!」








「きゃっ!?」


ふと、晶は体を起こし上半身を起こした。

……目の前には目を丸くして驚いている木葉の姿があった。


「……ここ、は?」


さっきのバケモノ……いや、E.B.Bは何処へ消えてしまった?

よく見ると、さっきの病室とは少し異なっている。

おまけに何故か自分はベッドで寝ていたようだ。

ズキッ―――


「う……なんだ、この痛み――」


「あ、晶くん? だ、大丈夫っ?」


またしても、例の頭痛に晶は襲われる。

激しい痛みに耐えきれず、片手で頭を押さえた。

だが、そんな事をしても痛みは和らがない。

慌てて木葉は倒れそうになった晶を支えてくれた。

アヴェンジャーの拠点で目を覚ました時も、同じだった。

あの時確か、ガジェロスがιシステムの後遺症だと言っていたことを思い出す。


「……あ、ああ、何とか……なる、さ」


木葉のおかげかわからないが、少しだけ頭痛が収まってきたのは確かだ。


「も、もう大丈夫だ」


「あ、う、うん」


木葉は少しだけ顔を赤くさせて頷いた。

すると、木葉は無言で晶の事をギュッと抱きしめた。


「……木葉?」


「……よかった、晶くんが生きててくれて……本当に、よかった」


その一言を聞き、晶は表情をハッとさせる。

ずっと晶の身を案じててくれていたのだろうか。

木葉はそのまま泣き崩れて、晶から離れようとしなかった。


晶はあの時G3に負けて、拠点へと連れて行かれた。

そしてそこから脱出を計り、無事フリーアイゼンの元まで戻ってきたのだ。

そこまでの空白期間で、どれだけ木葉が心配していたのかが痛いほど伝わってくる。


「心配……かけちまったな。 ごめん……俺、全然木葉を守ってやれなくて……」


「……いいの、無事帰ってきてくれたのなら。 もう、死んじゃったのかと思ってた。 二度と、逢えないと思ってた……」


「他の皆は、どうしているんだ? ――そうだ、アヴェンジャーはっ!? それにE.B.Bもっ!?」


晶はようやく、状況を思い出したかのように叫んだ。


「目を覚ましていたか、晶」


「よく生きて帰ってきてくれたわね」


すると、リューテとヤヨイが病室へと入ってきた。


「リューテさんにヤヨイさん……? フリーアイゼンは、どうなったんです?」


「それについては私から説明しよう」


「その前に、お邪魔だったかしら?」


「へ?」


晶が間抜けの声をあげると、木葉が顔を真っ赤にさせて晶から離れた。


「あ、い、いや違いますっ!! こ、これはその、あのっ!」


「若いものね、いいじゃないそんなに否定しなくても」


ようやく晶は意味に気づいたのか、顔を真っ赤にさせて否定する。

ヤヨイは微笑みながら、そう言った。


「……では、始めさせてもらうよ」


「お、お願いします……」


この様子を見る限りでは、あの激戦を何とか切り抜けたと考えていい。

とにかく、現状がわからなければどうしようもない。

後でこちらも、知っている限りの情報を共有する必要があるだろう。

アヴェンジャーの活動目的……未乃 健三の存在。

今後の活動にキーになる事は間違いないだろう。

ひとまず晶は、リューテの話に耳を傾けた。









シリアの病室の前に、軍服を身に纏った金髪の長い髪の女性が立っていた。

青い瞳で、何処か寂しげな表情で扉を見つめている。

この先には、シリアが眠っている。

激しい戦いの中、脱出ポッドで何とか生き残ることが出来た。

その姿を一目だけでも確認しようと、ここまで歩んできた。


「おう、なんだお前? シリアの知り合いかぁ?」


「貴方は?」


「俺はエイト。 フリーアイゼンのメカニック担当さ。 お前は?」


「私はスカイウィッシュ部隊隊長を務める『ラティア・レイオン』です、今後ともよろしくお願いします」


「おおう? ラティア・レイオン……?」


エイトはうーんと、その場で考え込んだ。

ラティアの表情は重い、このまま察してしまうのも時間の問題だろう。


「……私の事は、シリアには黙っていてください」


「あーっ! わかったわかった、お前もしかして家族かぁ? シリアのファミリーネームって確かレイオンだろ?」


「……絶対に、言わないでくださいね」


「何だよ、家族なら逢えばいいだろ?」


「ごめんなさいね、失礼するわ」


ラティアはそう告げると、静かにその場を立ち去ろうとする。

シリアはラティアの実の妹だ。

6年前に家を飛び出して以来、一度も顔を合わせていない。

その空白期間もあってか、シリアと逢うことに戸惑っていた。

その時――バタンッ、と病室の扉が開いた。


「ん、ライルか? どうした――」


「エイトかッ!! ……クソ、クソッ!!」


突然出てきたかと思えば、ライルはエイトの両肩を掴んだ。

その様子は尋常ではない、もしやシリアの身に何か起きたのではないかとエイトは感づいた。


「どうしたんだ?」


「……シリアの、シリアの足が……動かねぇらしいんだ」


「なっ――マ、マジなのかっ!?」


「――っ!?」


立ち去ろうと歩いていたラティアが、足を止めた。


「あの子の……足が……?」


まさか、そんな事が――

気が付くとラティアは、駆け出していた。


「あの子……どうしていますか?」


「な、なんだ? 誰だ?」


「ああ、何かシリアの家族らしいぜ? よくしらねぇけど、姉か何かだと思うけど」


「……教えてください」


「家族なら直接逢ったほうがいいんじゃねぇか? ……多分、見たほうが早い」


ライルは顔を俯かせながら、病室の扉を開けようとする。

だが、ラティアはライルの腕を掴んだ。


「待って……開けないで」


「何言ってんだ? アンタ家族だろ? 今、あいつには支えが必要だ……実の家族に逢えれば、あいつの気持ちが少し――」


「……ごめんなさい、失礼するわ」


尚更、今シリアと逢う訳にはいかない。

少し間を置くと、ラティアは扉の先を確認せずに立ち去っていく。

ライルは引き留めようと手を伸ばしたが、エイトに止められた。


「な、なんだよ……どうして、逢わないんだ?」


「俺が聞きてぇさ……とりあえず、あいつシリアに逢いたくねぇっぽいからさ。 事情は知らんけど、黙っててくれって言われたんだ」


「シリアの家族か……でもあいつ、E.B.Bで家族亡くしたんじゃなかったのか?」


「とにかく、今はシリアの様子見たほうがいいだろ。 ライルはどこ行こうとしたんだよ」


「ああ、医者がおせぇから連れ出してこようと思ってな。 今はシラナギが付きっ切りで見てる……」


「……俺も中へ入る。 お前はさっさと呼び出して来いよ」


「ああ、わかった」


一体シリアが今どうしているかなんて、想像もつかない。

足が動かなくなったシリア……もし、今の医学で治せないとするのであればパイロットとしての復帰は、絶望的だろう。

二度と、HAを操縦できる体ではなくなる。


シリアはHAが大好きだ。

長い付き合いとなるエイトには、よくわかる。

自分専用のウィッシュがほしいと、エイトに相談を持ちかけられたこともあり

自らを示す黄色のカラーリングに自分用にカスタマイズした『イエローウィッシュ』が完成された。

その時の嬉しそうなシリアの表情は、今でもはっきりと覚えている。

イエローウィッシュを失った事にショックを受けるかもしれない、とエイトは考えていた。

だが、事態は想像以上に深刻だったのだ。


「全く……そんな体で生きちまった事が、逆に辛いだろうな、アイツ」


エイトは、扉を開き静かに病室へと入っていった。










支部内の医務室にて、Dr.ミケイルの姿があった。

端末を操作して、何か調べ事をしているようだ。

その内容は……『エターナルブライト』についての資料であった。

エターナルブライトの流通ルートが、はっきりとそこに記されている。

世界各地には、エターナルブライトはまだまだ出現をし続け、世界中に流出され続けている。

今となっては、E.B.Bに対抗する為にはエターナルブライトの存在は必須。

メシアの各地では、E.B.Bの発生を防ぐためにもエターナルブライトの回収が頻繁に行われているのだ。


「……なるほど」


資料を目に通して、Drミケイルは頷いた。


「さて、あまり長居していては気づかれてしまうな」


必要な情報だけ抜き出すと、Drミケイルは端末の電源を落とす。


「全く……何故私がこんな面倒事を頼まれてしまうのか。 どーせならシラナギくんを利用するべきだったな、何だかんだで彼女は単純だし」


ため息をつきながら、Drミケイルは静かに医務室を後にした。


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