表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/112

    ι・ブレード、始動 ③


ι(イオタ)・ブレード。

晶はその名に、聞き覚えがあった。


父親はHAホープアームズの開発を行っており、今はメシア専属の開発者である。

HAの開発により、世界に貢献している父親を何処か尊敬しており

晶はいつしかHAに興味を抱き、パイロットの道を歩みだした。


しかし、父親はHAについて語ってくることは多くても機密事項には決して答えない。

当然であった、子供といえど軍の機密に関わる事項を漏らすわけにはいかないのだから。

だが、晶はどうしても父親が持つ機密事項が気になったのだ。

隙を見て、父親のデータを盗み見したことがあった。


その時に、『ι・ブレード』と呼ばれるHAに関するデータを少しだけ見たことがある。

当時は開発段階であり、実用化にはまだまだ時間がかかると言われていた。


開発コンセプトは『生きたHA』。

つまり、機械が自主的に判断を行いHAを動かす『AI機能』の搭載を目的としていた。

しかし、どうもただの『AI』とは別物であり、文字通り機械に意思を持たせるという

奇妙なコンセプトであったことを晶は記憶している。

……あのHAを、父親が開発したというのだろうか。


「貴様に扱える代物ではない、速やかに立ち去れ」


「動かない機体なんて邪魔なだけだろう、俺が引き取ってやると言っているんだ」


バキュンッ!

ゼノスが銃を発砲させると、またしても男の体は銃弾を弾いた。


「警告はしたぞ、ガジェロス」


やはり、ゼノスはその男を知っているようだ。


「面白い、俺を本気で止められると思っているとはな」


ガジェロスと呼ばれた男は、例の右腕を天高く掲げて見せた。

右手からは、奇妙な赤い槍が飛び出し、無数の触手が飛び出す。

容赦なく、ゼノスに襲い掛かった。


「下がれっ!」


「うわぁっ!?」


呆然と立ち尽くす晶と木葉を突き飛ばし、ゼノスは高く飛び上がる。


「あ、晶くん……」


「だ、大丈夫だ……少なくともあのゼノスって奴は悪い人じゃないだろ」


木葉は晶に身を寄せて、小刻みに体を震わせていた。

何処へ逃げても怖い思いばかりしてしまう、木葉の負担は相当大きくなっていた。


晶自身もまた、あの男の姿を見てしまうと恐怖心に駆られてしまう。

どうしても、あの時の場面が頭に過ぎってしまい、足がすくんで動かなかった。


ふと、上を見上げるとそこにはあの男が生み出した触手が無防備のゼノスに襲い掛かろうとしていた。

――また、人が死ぬ?


「木葉……見ちゃダメだ―ー」


だが、そんな不安とは裏腹に銃声が鳴り響く。

ゼノスは迫り来る触手を1本ずつ撃ち落して見せた。

あの身のこなしといい、メシア所属である事は嘘ではない。


それにしても、ゼノスという男は人間離れした動きだ。

あんな跳躍、普通の人間にできるはずがない。

あっという間に、ゼノスはガジェロスの背後を取った。

ゼノスの足は容赦なくガジェロスに襲い掛かろうとしたが、

咄嗟に反応したガジェロスは例の右腕でそれを受け止めようとする。

すると――


ズガァンッ!


ゼノスの足が右腕に触れた途端、爆発が発生する。

何が起きたのか、理解できなかった。


今のは、明らかにゼノスという男の足から発生したようだ。

だが、二人には傷一つ見当たらない。

まるで爆発ことなど気にしていないようだ。


「な、何なんだよあの二人?」


木葉は、ただ晶にしがみつくだけでもはや言葉すら発する余裕すらない。

ここは一刻も早く、コックピットの中へ向かうべきだ。

その瞬間、目の前にゼノスが突き飛ばされてきた。

ガンッと壁に体を叩き付けられ、一瞬だけ顔が強張る。

だが、決して怯まずにガジェロスという男を睨み付けていた。


「……まだここにいるのか、守っている余裕はないぞ」


「あの男何なんだよ、ι・ブレードってあの機体のことだろ? 開発はもう終わってたのかよ?」


「何故、お前がι・ブレードのことを知っている?」


晶はしまった、と思い口を塞ぐがもう遅い。

うっかりと、父親のデータを盗み見した事を宣言してしまったようなものだ。


「よそ見をするとはいい度胸だな、ゼノスっ!」


「詳しく、話せ」


ガジェロスの右腕からは、赤い槍が突き出されていた。

真っ直ぐとゼノスへ伸びて行くが、それに構わずその場から動こうとしない。


「ま、待ってくれ……あ、あいつが――」


「話せ、と言っているんだ」


ゼノスは晶をその鋭い眼光で睨み付ける。

その気迫に押された晶は、ただ戸惑うばかりだった。


ズドンッ―ー


鈍い音が響き渡る。

ゼノスの右手が、赤い槍に貫かれていた。

止め処なく溢れる血が、傷の深さを物語っている。


だが、ゼノスは表情一つ変えようとせずに晶から目を離そうとしなかった。

……この男が何を考えているかわからないが、今は正直に話すしかない。


「親父のデータを、見たんだ。 未乃みない 健三けんぞうって、知ってるだろ」


「……お前が未乃 晶なのか?」


何故、この男が自分の名を知っているのか?

晶は驚きを隠せずにいた。

横目で、ガジェロスの様子を伺うと

今度は無数の触手がゼノスに襲い掛かろうとしていた。

このままでは、全滅してしまう――


「そうだよ、俺が息子だよっ! もういいだろ、早くあいつを何とかしてくれっ!」


決死の思いで、晶は叫んだ。

だが、その叫びも虚しく……無数の触手は容赦なくゼノスに襲い掛かった。

ドスンドスンッと鈍い音を立てながら、体中に触手が突き刺さる。

体をよろけさせながらも、ゼノスはまだ晶から目を離そうとしなかった。


「……乗れ、ι(イオタ)に」


「え―ー」


次にゼノスの口から告げられた言葉は、思わず耳を疑いたくなった。

あの機体に……乗れ?

この状況で、一体何を言い出しているんだ?


「ι・ブレードを動かした者はいない、だが……お前なら、動かせるかもしれん」


「な、何を言って――」


晶は、ただ混乱するばかりだった。

一番最初は逃げろと言われていたはずなのに

今度はどういうワケか、『あの機体』に乗れと言い出した。


「終わりだ、ゼノス……っ!」


その間にも、ガジェロスという男はゼノスに迫っていた。

この男、何を考えているのかさっぱりわからない。

あれだけの猛攻を受けながらも、何故晶にそれを告げたのか。

むしろこのままでは、ゼノス自身が危ないというのに。


「ι・ブレードを奪われるわけにはいかない、あれは正真正銘……お前の父親が開発したHAだ」


「……!」


父親が開発したHA。

晶の父親は、HAに関してはとても熱心だ。

開発した機体については、晶にも楽しそうに自慢をしていた。

まるで自分の息子を自慢する親のように。


そう、晶も自慢されたかった。

パイロットとして腕を上げて、父親が誇れる息子になってやろうと。

だからこそ、その道を歩んだ。

父親のHAに対する愛は、家族愛に等しい。

それをこんな得体の知れない男の手に、渡すわけにはいかない――


「……乗ればいいんだろっ!」


「よく言った、未乃 晶」


こうしている間にも、ガジェロスが目の前にまで迫り来る。

右腕のバケモノを大きく振りかぶり、その掌には鋭いキバを持つ巨大なバケモノの口があった。

今、まさにゼノスの頭を食いちぎろうとしていた―ー


ズドォンッ!

再び、爆発音が轟く。

晶と木葉は衝撃で吹き飛ばされ倒れた。


砂煙が晴れると、そこにはゼノスがガジェロスの顔面を殴り飛ばしている光景が目に入る。

サングラスは粉砕され、口からは血を吐出しながら宙へと舞い……ドサッと地面に叩き付けられた。


「その娘は俺に任せろ、絶対に死なせはしない」


全身から生々しく血を流しているゼノスの姿は、とてもじゃないが直視できなかった。

……木葉を一緒に連れて行くわけにはいかない。

親友との約束を破る形にはなってしまうが、あのゼノスという男は信用できる。

木葉を任せても大丈夫だ、という安心感があった。


「行け、未乃 晶」


「……ああ、行ってやるさっ!」


晶は、必死でι・ブレードへ向かって走り出した。

階段を駆け上がり、コックピットに到着するまでひたすら走り続ける。

まだか、まだかと晶は息を切らしながらも長い階段を上り続けた。


「あのガキ……させるかぁっ!」


ガジェロスの叫び声が聞こえだした。

ふと、下を向くと赤い槍が猛スピードで晶に向けて前進していた。

鉄をも貫き、スピードを落とさずにグングンと距離を縮めていく。


コックピットまであと少し……飛べば何とか届くはずだ。

晶は思いっきり踏み切り、高く飛び上がる。

そしてコックピットへと飛び移ろうとした瞬間――


グシャリ、と赤い槍が右足を貫通した。

尋常ではない痛みが走った。


「うぐっ―――」


声にもならない激痛に苦しみながらも、何とかバランスを崩さずにコックピットの中に移りこむことは成功した。

ハッチをすぐに閉め、操縦席へと座る。

中はシミュレーターと大差はない、HAのコックピットは共通的な作りではあるし、操作もほとんど変わらない。


「ごめん木葉……傍にいてやれなくて」


一言ぐらい、何か告げてから行くべきだったか。

今更ながら木葉の事を頭に浮かべていた。


「クッ……やっば、こんなんじゃ操縦に集中できねぇ――」


木葉のことだけではなく、ガジェロスに貫かれた右足からも容赦なく激痛が襲いかかる。

せめて止血ぐらいはするべきだと、晶は袖を引きちぎり包帯を巻こうとした。


『……パイロットを認証しました』


「え?」


突如、機械の音声がコックピット内から鳴り響いた。

おかしい、まだ起動どころかスイッチの類を何もいじっていない。

一体どうやってパイロットを認証したというのだろうか?


『パイロット適性診断、開始します』


機械的なアナウンスと共に、コックピット内からは無数のコードが出現した。


「な、なんだこれ――うわぁっ!?」


コードは一斉に晶に纏わりつき、何やら赤い光を放ち始めた。

コードの先は鋭利な金属となっており、晶の体内に直接突き刺さったが、不思議と痛みは感じない。

麻酔か何かかけられているのだろうか、それとも足の痛みのせいで感覚がなくなってしまっているのか?


『診断結果、E。 続いて、パイロットメンテナンスに移行します』


「……何の診断なんだ、これ?」


Eと聞くとあまりいい評価とは思えない。

もしや文字通りパイロットとしての腕を診断しているのだろうか。

そうだとしたら笑えない、教師のあの一言を思い出した。


『戦場に足手まといはいらん。 どうせ、死ぬだけだ』


体が小刻みに震えた。

ゼノスという男に言われるがままに、ι・ブレードに搭乗したものの

落ちこぼれである晶が、このHAをうまく扱うことができるのだろうか?


奪われまいと、必死で乗り込んだものの……E.B.Bにやられてしまうのがオチではないか?

いや、外には仲間がたくさんいるはずだ。

いざとなったら合流して、事情を話せば力になってくれるだろう。


『パイロットメンテナンス終了しました』


機械のアナウンスと共に、無数のコードは晶から離れていった。

ようやく解放されたかと思うと、晶は胸をなでおろした。


体が妙な感じだ、それに何故か足の痛みも感じない。

晶は自らの足を確認すると、目を丸くして驚いた。


……傷が、治っている?

信じられない、どうしてあれほどの傷が一瞬で?


ズドンッ!!


「うわっ、な、なんだ?」


外から何か衝撃を感じた。

まさかあのガジェロスという男が生身で仕掛けているのだろうか。


……あのバケモノなら有り得なくはない、一刻も早くこの場から離れるのが得策だろう。

ι・ブレードの発信準備を行いながら、晶はコックピット内に置かれていたパイロットスーツを発見する。

晶はこれを見て、またしても胸をなでおろした。


パイロットスーツなしでHAに乗るのはリスクが高すぎる。

HA操縦の際はありとあらゆる衝撃が直接的に襲い掛かる上に、移動中はかなりのGがかかるのだから。

いくら体を鍛えていると言えど、下手すると操縦中に気を失ってしまう恐れだってあった。

サイズはちょうど自分にぴったりだった、運が良かったと言えるだろう。


ズドンッ!


また、コックピット内が揺れた。

この衝撃だけでも、晶は内心ビクついていた。

戦場に出たらこんなものじゃすまない、それに直撃でもしてしまったらそれこそ終わりだ。

……本当に、大丈夫なのだろうか。


ガタンッ


今度はコックピットが小さく揺れだした。

これ揺れ方が、何か違う。

恐らく、リフトが動作したのだろう。

遠隔操作でも可能ではあるのだが、誰かが外部から操作したに違いない。


『リフト動作確認、最終チェックを開始します』


機械の自動チェックが開始された。

これはウィッシュにも搭載されている機体のメンテナンスシステムだ。

制御系等のチェックはすべて機械で行われており、異常をきたしていれば自動で修復される。

パイロットは診断結果を待つだけでいい。


『システムオールグリーン、出撃に問題ありません』


まだ一度も動いていないという情報から多少不安はあったが、どうやら無事動いてくれそうだ。


『メインカメラ映像、出力します』


アナウンスと共に、コックピットのモニターから外の映像が映し出された。

約260度を見渡せる広範囲のモニターは、まだ真っ暗なままだ。

リフトから地上にあがっている最中だ、決して故障ではない。


『ι・システム、起動します』


「い、ιシステム?」


ふと、聞きなれない単語がアナウンスされた。

何の事だかさっぱりわからない。


ズキンッ!


すると、突如晶の頭に頭痛が襲い掛かった。


「な、なん……だ、これ――」


ただの頭痛とは違う、頭の中から刺激されているような激しい痛みだ。

未知なる激痛に耐えきれず、晶は両手で髪を強く毟る。

だが、それで痛みが引くわけでもない。

それどころか頭痛は増して、全身から汗が噴き出すほど痛みが強まった。


「うぐああああっ!!」


コックピット内に、晶の悲痛な叫びが響き渡る。

すると、その叫びが通じたのかピタリと頭痛が止んだ。


『ιシステム、正常に起動しました』


「ハァ……ハァ……なんだったんだ、今の」


息を切らしながら、晶はぐったりと頭を下げた。


「……そ、そうだ。 まずは通信を」


仲間達と今のうちに連絡を取ろうと、晶は無線の周波数を合わせようとした。


『――た、――――か?』


「ん……?」


周波数を合わせている最中、ふと何かの音を拾い上げた。

気になった晶はその周波数に合わせて、その会話の内容を確認する。


『ι・ブレードは現在、地上に向けて逃走中。 ガジェロス・G・ジェイローに追跡を任せている』


「これって……」


間違いない、ガジェロスの仲間の通信だろう。

晶は黙って、その内容に耳を傾けた。


『E.B.Bはどうだ、誘導できそうか?』


『問題ない、メシアの連中も片づけておいた。 こいつならば、ι・ブレードといえど一筋縄ではいかないはずだ』


「E.B.Bの誘導だって……正気かっ!?」


その会話の内容は、あまりにも信じがたい内容だった。

そう、この二人は……E.B.Bを誘導しているというのだ。

それも、『ι・ブレード』を狙うために。


『一般人を巻き込んでるんだ、失敗は許されないぞ』


『ガジェロスなら上手くやるだろう、それにこんなシェルター地区一つぐらい大した被害ではない』


「な、何言ってんだこいつら……?」


思わず、耳を疑いたくなる内容だった。

誰かが悪戯で流しているんじゃないかと思いたくなるほどだ。

……まさか、E.B.Bはシェルターを破ってきたワケじゃないのか?


『そのガジェロスは一度失敗している、ここで逃がしたら始末書じゃすまないぞ』


『わかっているさ、証拠は全て消す。 そしてι・ブレードは……我々が回収しよう』


「ふざけんな……っ!」


ガンッと晶は拳を振り下ろした。

晶は知ってしまった、この騒動が事故ではないことを。

何者かに仕組まれた、『意図』して起こされた事故だということを。


許せなかった。

シェルターの人は、E.B.Bの恐怖から逃れてのびのびと生活していた。

なのに、その権利をこいつらが奪い取った。

『ι・ブレード』を盗むためだけに――


クラスメイトだって殺された、『あの男』に。

助けに来てくれた隊員だって――


ふと、コックピットに光が差した。

晶はふと、モニターを確認しようと顔を上げた。

……そして、言葉を失った。


高台に出された晶は、その位置から街の全貌を確認できた。

既に、知っている街の姿がなかった。


地上には大量発生したE.B.B。

逃げ惑う人々。

破壊しつくされた建物、燃え盛る火炎。


ただ、目の前に繰り広げられた地獄絵図に、絶望した。

ふと、目に留まったのは何かに群がるE.B.Bの姿だ。

そこには見覚えのある、濃緑色のカラーリングの機体が見えた。

……間違いなく、学校が保有するHAだ。


やられて、しまったのか。

一機だけではない、複数の機体が同じように無残な姿となっていた。

E.B.Bは蟻ように群がり、機体をグチャリ……グチャリと、音を立てながら食していた。


「まさか……そんな―――」


全滅、したのか。

学校から出撃された他のHAは見当たらない。

あるのは変わり果てた姿のウィッシュだけ。

あの中には、親友である竜彦だって含まれていたはずだ。


「晶……晶なんだろ!?」


突如、コックピット内に通信が入った。


「た、竜彦……生きているのか?」


間違いなく竜彦の声だった。


「馬鹿野郎……何で出てきちまったんだ、木葉をどうしたんだっ!」


「……ご、ごめん竜彦、俺やることがあって……でも木葉は大丈夫だ、メシアの人にちゃんと保護された」


だが、竜彦は再会を喜ぶどころか晶にそう怒鳴り散らした。

晶は、ただ力なくそう返すだけだった。


「……悪い、怒鳴っちまって」


「それより何処にいるんだよ、え、援護にいくぞ……」


戦場に出てしまった以上、戦うしかない。

覚悟はしていた、晶は竜彦だけでも助けようとそう告げた。

近くにいるはずだが、竜彦のHAと思われる機体は見当たらない。


「無駄だ、晶」


プシュンッと、モニターに突如コックピット内部の映像が送信された。


「……っ!」


晶は、思わず目を背けた。

そこに映し出された映像は、無数のE.B.Bに這いつくばられた竜彦の姿が映し出されていたのだ。

そう、竜彦は既にE.B.Bにやられていたのだ。

恐らく、倒れているウィッシュのどれかなのは間違いない。


「……最後に、お前と逢えて嬉しかった」


「バカ野郎……今、今助けてやるからっ!」


「無駄だよ、もう俺は……助からない。 みんな、クモのバケモノにやられちまったんだ」


ブシャリッ、竜彦の体から次々と血が噴き出していく。

とてもじゃないが、直視できなかった。

晶は目を閉じて、ひたすら震えるだけだった……。


「……俺の分まで、木葉の事を頼んだぞ。 約束だぞ、晶――」


「た、竜彦……待てよ――」


プツンッ――


そこで、映像は途切れた。

通信はもう、繋がっていない。


……竜彦は死んでしまった。

あの状況では、助かるはずがない。

もう手遅れだった。


皆、成績優秀でメシアの基準値だって超えていた。

なのに、あの竜彦でさえも……簡単にE.B.Bに殺されてしまったというのか。

何故、どうしてこうも簡単に――


「……ふざけんなよっ!」


ぶつけようのない怒りを、晶は操縦桿にぶつけた。

ガンッガンッ! と、強くコックピット内が揺れる。

両手で頭を抱え、ただ現状に絶望するだけだった。


どうしてこんなことが、起きてしまったんだ。

誰もが平和に過ごしていたはずなのに。

シェルターの住民は、E.B.Bの恐怖から逃れ、明るい未来を抱いていたはずだ。

……たった一機を奪う為だけに、これだけの人が犠牲になった。


クラスメイトが死んだ。

仲間だって死んだ。

親友も、死んでしまった――


許せない。

街を滅茶苦茶にした奴らを。

仲間を殺したE.B.Bも

何もかも、許せなかった。


ふと、コックピットの中に赤い光が灯った。

まるで、晶に同調するかのように点滅する。


「……俺に力を貸してくれ、ι・ブレードっ!」


応えるかのように、コックピットに光が点滅した。

もはや晶に恐れる心はない。

この地区を滅茶苦茶にしたE.B.Bを殲滅するため

そして、この事故を意図的に引き起こした奴らをこの手で倒すために


晶は、パイロットとして、戦士として立ち上がった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ