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    絶体絶命 ④


アヴェンジャーによる包囲網に捕らわれたフリーアイゼンに、もはや打つ手はない。

四方に配置されたロングレンジキャノンの集中砲火により、フリーアイゼンは今にも落とされようとしていた。

たった一機で無謀にも挑んできたシリアのイエローウィッシュは、既に大破している。

残りのゼノフラムと言えば、大型E.B.Bの相手に手こずっており、アヴェンジャーの相手をしている暇はない。

その様子を、G3の中でガジェロスは見物していた。


『ねぇねぇ、いいの? あの艦、貰っちゃうんじゃなかったの?』


「そうだな、今の状態であれば制圧だって簡単だろうよ。 こいつを奪うなり落とすなりしちまえばメシアの連中は黙っちゃいねぇ。 いよいよ、俺達は本格的にメシアと戦争する事になるだろうな」


『アハハッ、それ楽しそう。 私の新しい恋も、始まりそうだね?』


「しかしどういうつもりなんだろうな、いくらιを手にしたからと言えど動きが過激すぎるぞ。 ウチのトップは何を考えてんだろうな

……ま、テメェに言ったところでまともな答えは返ってこねぇか」


『ウヒヒ、いいの。 私は恋さえできれば、満足だから』


通信機から聞こえてくるフィミアの声を聞き、ガジェロスは呆れた。

彼女は昔はまともな人格だったのだが、ある日突然……人が変わったかのように『愛』に固執するようになったと聞く。

だが、アヴェンジャーの部隊にはそのような過去を持つ者は別に珍しくはない。

その全ての原因に、あの『アッシュベル・ランダー』が関わっているのだ。


ズガァァァンッ!!

突如、後方より謎の爆発が発生した。


「……何の騒ぎだ?」


シリアの可能性はない、あの爆発では例え脱出に成功したとしても『戦える』はずがない。

フリーアイゼンによる砲撃も考えられない……そうなれば、メシアの援軍が辿り着いたと考えるのが自然だ。


「今更助けが来たって遅い……既にフリーアイゼンは虫の息だ」


『メシアのHAが高速で接近中……っ! 信じられない速度ですっ!!』


『狙撃主が2機やられました、至急の迎撃をっ!!』


「……たった、一機だと?」


南に配属された別部隊から、ガジェロスの元に通信が入った。

すると、確かにガジェロスは肉眼で南部隊のHAが撃破されている姿を目撃した。

……信じられない、南の部隊とは相当の距離があるはずだ。

とてもじゃないが、HAが出せる速度とは考えられない。

仮にそこまでの速度を出せたとしても、パイロットの負荷が尋常ではないはずだ。

それにメシアの援軍にしては妙だ、例え最新型だとしても単独で行動するとは考えにくい。


『……ιです、ι・ブレードが接近してきましたっ!』


「ι……ι、だと?」


ガジェロスは思わず耳を疑った。

晶はアヴェンジャーの施設に監禁されているはずだ。

いくら見張りが少ないタイミングであっても……一般学生が簡単に脱出できるはずがない。


「……しかし、バカな奴だ。 そのまま逃げ回っていればいいものの……『G3』の恐怖を、忘れたとは言わせねぇぞ」


ガジェロスがこうしている間にも、次々と味方のレブルペインは大破されていく。

だが、以前のιでは、あそこまでの速度を出すことが出来なかったはずだ。

恐らく、未乃 健三が何かしら手を加えたと考えられる。


『アッハッハッハッ! ιだってっ! でも私、あの子は好きになれないかも。 残念だけど、好きになって、あげられない』


「ゴチャゴチャ言ってる暇があれば手伝うんだな……ここでιを逃がしちまうと後が面倒だ」


『ウヒヒ、しょうがないから愛してあげる』


G3とレブルペインは、ι・ブレードを追うように土煙を上げて発進していった。








俊との死闘を繰り広げた晶は、ようやくフリーアイゼンの元へと辿り着く。

……だが、既に手遅れと言っても過言ではない。

もはや、フリーアイゼンはその場から動くことが出来なかった。

咄嗟の判断で、狙撃主を全て仕留めたからといってフリーアイゼンが救われたワケではない。

……E.B.Bとアヴェンジャーをどうにかしない限り、助ける事は出来なかった。


「……クソッ、なんでだよ。 何で、こんなボロボロなんだよ……っ!!」


晶は悔しさのあまりに、操縦桿に拳を叩き付けた。

もっと早く、俊をどうにかできていれば……位置を特定できていれば……。

だが、悔やんでいる暇もない。

ここには『G3』の姿もあったのだから。

万全な状態ではないι・ブレードでは、勝機は薄い。

だけど、フリーアイゼンは最後まで諦めずに戦い続けていた。

その変わり果てた姿を見せ付けられて、晶は痛感した。


落ちこぼれのパイロットを受け入れてくれたフリーアイゼン……故郷を失った晶にとって、第2の故郷と言っても過言ではない。

護るんだ……無茶だとわかっていても、やりきるしかないんだ。

……全て、ι・ブレードで片づける。


『……随分遅かったな、晶』


「ゼノスさん……俺――」


『話は後だ、まずはあの厄介な大型E.B.Bをどうにかする。 手伝ってくれるな?』


「……ああっ!」


晶はモニター越しから見える巨大なE.B.Bに注目する。

一見ただの建物のようにしか見えないが、よく見ると表面上がドクンドクンと動いていた。

何故か横たわっているが、大型E.B.Bのその黒い表面は槍のような形に形状を変えてゼノフラムに襲い掛かっていた。

まるでサマールプラントのように見える……もしや、『同じ』なのか?


「コアは何処なんだっ!?」


『ここから真っ直ぐ迎え、先端にコアが存在する。 だが、奴の頑丈な皮膚をどうにかしなければコアを絶つことはできん』


「わ、わかった、とにかく向かうっ!」


ムラクモの解放を使えば、そんな皮膚を貫いて仕留める事が出来るかもしれない。

しかし、どのタイミングで使えるようになるかもわからない以上……迂闊にあの一撃に頼る事は出来なかった。


その時、危険察知が発動した。

大型E.B.Bの表面上から、巨大な黒い人の手が作り出されて、ι・ブレードに襲い掛かる映像……

何故、E.B.Bが人の手を?

考えている暇はない、晶はその手を避けながらコアの待つ先端部へと向かい続ける。

大型E.B.Bが作り出されるのは手だけではない、ゼノフラムを襲う『槍』や『剣』といった武器に形状を変えて襲い掛かった。

どれも人に関わるモノだ……晶は気色悪さを感じた。


『ブーストハンマーを使う……ブラックホークで援護してくれ』


「ムラクモは使わないでいいのか?」


『奴の表面を削るだけだ……いいか、コアが見えた瞬間に『ムラクモ』で突き刺せ』


「……わかりました」


大型E.B.Bによる猛攻を潜り抜け、ι・ブレードとゼノフラムはほぼ同時刻に先端へと到着した。

ゼノスの言う通り、先端部だけ不自然なほど膨れ上がっている。

周囲の黒い表面を、集めるだけ集めたのだろうか?

ゼノフラムからブーストハンマーが射出される。


ガンッ! ガンッ!! と、激しくぶつかるが大型E.B.Bにダメージはない。

晶も応戦しようとするが、その時危険察知が発動した。

大型E.B.Bから、黒い塊が一斉に飛び出したのだ。


「クッ……!」


無我夢中にムラクモを振り回し、晶は襲い掛かる黒い塊を弾いていく。

だが、ゼノフラムは黒い塊が降り注ごうと攻撃の手を緩めなかった。


「ゼノスさ――」


『構うな、ゼノフラムはまだ持つ……っ!』


あの黒い塊は信じられない程の高速で飛ばされている。

いくらゼノフラムの装甲と言えど、そう長く持つはずはない。

それだけではない、ゼノスは晶が訪れる前もたった1機でこの大型E.B.Bを相手にしていたはずだ。

もはやゼノフラムの限界は近いようにしか見えなかった。


ズキンッ――

またしても頭痛が襲い掛かる。

今度は……見覚えのある『赤い槍』が見えた。

――間違いない、『G3』がついに現れたのだ。


『やれやれ、手間のかかるガキだな。 今更テメェ一人が訪れたところで、戦況が変わるとでも思ったのか?』


「……クッ」


晶は唇を噛みしめて、黙り込んだ。

何も返す言葉はない、確かに晶が訪れた事で全てを救えたわけではない。

……ただ、少しだけフリーアイゼンの寿命が延びただけだ。

このままでは誰も救えない、皆……やられてしまう――

再度、危険察知が発動した。

レブルペインが猛スピードで飛び掛かってくる姿だ。

悩んでる暇はない、今は目の前にいる敵を討つしかない――


「いけよぉぉぉっ!!!」


晶はスロットルを限界まで押し込み、レブルペインに斬りかかった。

だが、呆気なく避けられてしまい、コックピットに青い光が灯る……。


『アハハ、動きがたーんじゅん、だよ』


ガァァンッ!!

レブルペインの蹴りを受けて、コックピット内は激しく揺れた。

たった一撃を受けただけだというのに、早くもι・ブレードからは警告音が鳴り響く。

その間にも容赦なく危険察知が発動し、サマールプラントはιを追い続けていた。


『晶、待っていろ……っ!!』


やむを得ず、ゼノスはゼノフラムを動かし『G3』の元へと向かう。

ダメージを受け続けてはいたが、まだ辛うじて動く。

ブーストハンマーを、G3へと目掛けて放った。

だが、G3は巨体とは思えぬ身軽なステップで軽々と避けていく。

更にはブーストハンマーに引かれて、行動が制限されているゼノフラムをキャノン砲で容赦なく撃ち続けた。


「ゼノスさんっ!!」


一瞬ゼノスに気を取られてしまったが、危険察知が発動し晶はレブルペインの襲撃を辛うじて避けきる。

しかし、レブルペインはあまり攻撃を仕掛けてこない。

今の晶を相手にするのであれば、いくらでもチャンスはあるというのに。


『……アハハ、ごめんね、君は愛せないの』


「愛せない……? 何を言っているんだ?」


『お姉さんはもっと強かった、でも君は弱い……誰かに支えられてないと、生きていけない、可哀想な人』


「お姉さん? まさか、シリアさんにしつこく付き纏ってたパイロットかっ!?」


だが、それにしては以前とは様子が異なる。

あんなに発狂していたフィミアは、今は驚くほど冷静だった。


「そうだ……シリアさんは、何処へ!?」


『お姉さんなら、私と一つになったよ……アハハ、アッハッハッハッハッハァッ!!』


「一つ……? ど、どういう意味だ――」


ズガァァンッ!!

突如爆発音が耳に飛び込んだ。

音の正体を確認すると……ゼノフラムが黒い煙を上げていた。


「ゼノスさんっ!?」


前に見たオーバーヒートと、同じだ。

すぐにでも助けに入ろうとするが、またしても危険察知に邪魔される。

大型E.B.Bの黒い塊が、またしても全体にばらまかれ始めた。


『何度もテメェは窮地に陥っているが、今度こそ終わりだな』


『この程度で、ゼノフラムが終わるとでも思ったか?』


G3はもはやまともに身動きが取れないゼノフラムに、巨大な槍を向けていた。


「クソ……クソッ!!」


何とかしてG3を突き放そうと試みるが、レブルペインが常に先回りをしてιの動きを抑え続けていた。


『アハハ、させないよ』


「退けよ……っ!」


『あの人も、死んじゃうのかな?』


「あの人、も? ……まさか、シリアさんは――」


その時、晶は悪寒を感じ取った。

フィミアの放つ言葉の意味は、よくわからない事だらけだ。

だが、晶はこの短いやり取りの中で一つの仮説に辿り着いてしまった。


『ウヒヒ……お姉さんは、もういないよ。 アハハ、アッハッハッハッハッハァッ!!』


「なっ―――」


晶の辿り着いた答えが、確信へと変わった。

信じられなかった。

まさか、あのシリアがやられてしまったというのか?


「シリアさん……嘘、だろ……? どうして、だよ……っ!!」


悔しかった。

せっかくフリーアイゼンを助けに来たのに、既にシリアが犠牲になっていたことが。

それだけじゃない、ここへ訪れた今の状況から見ても……既に『手遅れ』としか言いようがない状態なのだ。

何故、人同士がこんな争いをしなければならないのか?

本当の敵を目の前にしても……無意味に争いを生み出すアヴェンジャーを、許せなかった。


『アハハ、お姉さんはもっと強かった。 君は弱い、とてつもなく弱い。 だから、愛してあげられない』


「……許さない」


その時、コックピット内が赤い光が包まれた。

晶の高ぶる感情に反応するかのように、徐々にその光が強まっていく。


「メシアは……フリーアイゼンは世界の為にE.B.Bと戦い続けていただけなのに……シリアさんだって、命懸けでE.B.Bと戦い続けていただろうがっ!!

何でだよ……何で、同じ人間にやられなきゃならねぇんだよっ! おかしいだろ、そんなの……無意味に人が殺され続けても、お前達は自分が正しいと思ってるのかよっ!?」


『アハハ、そんなに構ってほしいの? だけど、君はどうしても愛せな――』


「退けよ……っ!!」


バシュンッ!

その時、レブルペインの右腕が切断された。


『……あれぇ?』


呑気にフィミアは、切り離された右腕を眺めていた。


「うおおぉぉぉっ!!」


ようやくレブルペインを突破した晶は、ようやくG3の姿を捕える。

そしてムラクモを構えて、G3へと斬りかかった。


ガキィィンッ!!


激しく衝突した瞬間、激しい金属音が響いた。

刃が装甲を切り裂くことはなかったが、尋常ではない出力でι・ブレードは

巨体であるG3を数十メートルに渡って押し出し続ける。


『晶……気をつけろっ!』


ゼノスの通信が入った途端、危険察知が発動する。

すると、大型E.B.Bがついに本体自らι・ブレードへ向けて突進してきたのだ。

今までは表面上の皮膚を使用していたというのに、何故今になってこのような行動を?

晶は上空へと飛び出し、大型E.B.Bの奇襲を何とか凌いでみせる。

同時にG3が大型E.B.Bの登場によって、僅かに隙を見せていたのを見逃さなかった。


「当たれぇぇっ!!」


その隙を逃すまいと、ブラックホークをG3の持つ武装へと向けて放つ。

バキィンッ!! 見事、G3の巨大な槍とキャノン砲を破壊して見せた。


『チィ……なめた真似をっ!!』


「よくも……よくもフリーアイゼンを……シリアさんをっ!!」


もう一度晶は、G3へと向けて機体を前進させようとする。

だが、危険察知にて再び大型E.B.Bが動き出したのを確認するとやむを得ず、一度場所を離れた。

その時に……コックピット内が青く灯った。

G3のサマールプラントが、ιに向けて襲い掛かったのだ。


『捕えたぞ……ιっ!!』


「クソッ……」


警告音が鳴り響いているが、ι・ブレードはまだ動きを止めていない。

……諦めてたまるか、晶はムラクモで纏わりつくサマールプラントを切り裂こうとする。

だが、こうしている間にも危険察知が発動し、更なるサマールプラントがιへと向けて襲い掛かってきた。

必死でスロットルを押し込み、強引にもサマールプラントから逃れようとした。


その時……サブモニターに『ムラクモ』の画像が出力されていた。

これは、あの時の――

ズキンッ……同時に危険察知が発動した。

サマールプラントを容赦なく放ち続けるG3の背後に、大型E.B.Bがιへと向けて突進してくる姿を捕える。

……大型E.B.BとG3が、一直線に並んだ。

願ってもいないチャンスが、ついに訪れた――


「……行けよ、ιぁぁぁぁっ!!!」


ムラクモが赤い輝くに包まれた。


『あの光――っ!!』


バシュンッ―――

その瞬間、G3と大型E.B.Bに縦一直線の赤い閃光が走った。

一瞬にして大型E.B.Bのコアがむき出しにされ、切断されていく。

キシャァァァッ!! 奇声をあげた大型E.B.Bは、身の回りの黒い塊をまき散らしながら徐々に形を失っていった。


「はぁ……はぁ……うっ――」


突如、晶は激しい頭痛に襲われた。

ι・ブレードはバランスを失い、そのまま地へと倒れてしまう。

……まだ、敵は残っているというのに、

こんなところで、倒れる訳には――


『……まさかι・ブレードに、そんな秘められた力があったとはな』


「なっ――」


その時、晶は思わず目を疑った。

……G3が、無傷だったのだ。


『あと少し反応が遅れていたら……G3と言えど、持たなかっただろうな』


「そん、な――」


まさか、あれを回避したというのか。

またしても、G3を仕留められずに終わってしまう……?

認めたくない、まだ戦えるはずだ。

だが、晶は頭痛のせいで戦いに集中することが出来ない。


『さあ、大人しく戻ってもらうぞ……二度と変な気を起こさせないように、他の奴らは皆殺しにしといてやるよ』


『アハハ、腕取られちゃったときはビックリしちゃった。 でも、もうおしまいみたいね?』


「……クソッ」


晶は、残り一発だけ残されているブラックホークを向けた。

この銃だけでは、あのG3を仕留められるとは思わない。

だが、破壊力は凄まじい。 少なくともG3の持つ兵器を破壊するほどの力だ。

激しい頭痛で上手く照準が定まらない、幸いG3は動きを止めたままであった。

……このまま連れていかれるぐらいなら、最後まで抵抗をしてやる。

迷わず、晶はトリガーを引いた。


バキュンッ! ガァンッ!!

ブラックホークの弾は、G3の中心部へと見事に当たった。

予想通り、ブラックホークの威力は凄まじかった。

あのG3の装甲に、弾がめり込んでいた。

……だが、その傷が致命傷となる事はない。


『……チッ、まだ抵抗するとはな。 だが、この程度でG3を潰せると思ったら大間違いだ』


『それは、どうだろうな』


「え……?」


その時、ゼノスの声が晶の耳に入った。

バカな、あのゼノフラムが身動きを取れるはずがない。

まだ……まだ戦うというのか?

ビュンッ――

ι・ブレードの目の前を、ゼノフラムが通り過ぎた。

……ブーストハンマーを使い、無理やりその巨体を動かしていたのだ。

ブーストハンマーはハンマー自身に専用のドライブが詰め込まれているため、ゼノフラムがオーバーヒートを起こそうと問題なく動作する。

しかし、ハンマーの推進力だけでは機体の制御が上手くいくはずがない。

はっきりいって、その状態で戦うのは無謀としか思えなかった。


『相変わらずしつこい奴だ……ゼノフラム、今度こそ終わりだっ!』


『終わるのはお前だ、ガジェロス・G・ジェイロー』


ゼノスはハンマーの勢いに乗ったまま、G3へと向けて突進していった。


ガコォォォンッ!! 目の前に張り付いたゼノフラムは、先程晶が放った個所へ右腕をぶち込んだ。


『……テメェっ!!』


G3からはサマールプラントが一斉に出現し、容赦なくゼノフラムへと向けて突き刺されていく。


「ゼノスさんっ!! こ、これ以上は――」


『まだやる気か? もうテメェに打つ手は残されていねぇだろ?』


『……俺の、勝ちだ』


ゼノスがそう呟いた瞬間、ゼノフラムからは更に黒い煙がもくもくと上がり続ける。

ズガァンッ! ズガァァンッ!! と、激しい爆発が容赦なく発生し始めた。


「な、何をするんだよ……?」


『貴様、まさか――死ぬ気か?』


『俺は、死なない』


ゼノフラムから突如、紫色の輝きが発生する。

一体、何が起ころうとしているのか?

晶はただ、その光景を見届ける事しかできなかった。

その瞬間――


ズガァァァァァァンッ!!!

凄まじい爆発が発生し、辺り一面が紫色の光に包まれた。


「ゼノス、さん……? ゼノスさんっ!?」


いくら晶が呼びかけても、反応はなかった。

激しい爆発が発生し、辺りは砂埃が巻き散らかされて視界を奪われた。


「嘘、だろ……返事しろよ……ゼノスさんっ!!」


気が付けば紫色の光が消滅していた。

次第に砂埃も晴れて行き、視界がはっきりとしてくる。

……そこには、上半身を吹き飛ばしたゼノフラムの姿と、ボロボロに傷ついたG3の姿があった――


「……ゼノスさん、ゼノスさぁぁぁんっ!!!」


晶は叫んだ。

どうして、人類同士が戦わなければならないのか。

あまりにも理不尽な結末に、思わず涙を流した。


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