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    絶体絶命 ③


シラナギに案内され、木葉はブリッジルームの入口へと辿り着く。

戦闘中は、本来であれば一般人は立ち入り禁止であるはずだが、シラナギの手に掛かればどうってことはない。


「さあ、行きますよ木葉ちゃんっ!」


「は、はい……」


シラナギが扉を開こうとすると――

ズガァァンッ! と、派手な音と共に艦内が大きく揺れた。


「きゃっ!?」


「木葉ちゃんっ!?」


木葉はバランスを崩して、思い切り尻餅をついてしまう。

幸い、怪我をすることはなかったが、やはり戦闘中の艦内が危険なことに変わりはない。


「い、今の揺れは……?」


「大丈夫です、今のは主砲の反動です。 物凄く強力過ぎるから、その分反動も強いんですよー。 全く、迷惑ですよねぇ」


呑気そうに語るシラナギを見ると、不安になって震えている自分がバカバカしく思えてくる。

木葉はシラナギを見習い、心の中で怖くない怖くないと、念仏のように唱えていた。

改めて、木葉はブリッジルームへと足を運ぶ。

そこには、想像以上の重たい空気が圧し掛かった。


「敵の状況は?」


「大型E.B.Bにダメージはありましたが、すぐに再生されてしまいます。 現在、ゼノフラムが大型E.B.Bと交戦状態。

同時にイエローウィッシュはアヴェンジャーと交戦状態に入ったようです」


「主砲はどうなっている?」


「へいへい、準備してますよ。 しっかし気持ち悪いなおい、思いっきり臓器見ちまったぞ……」


「呑気な事を言っている場合か、少しは真面目にやれ」


「やってるっつーの。 というか、お前も気を抜いて艦の調整ミスんじゃねぇぞ?」


木葉は、必死でE.B.B達と戦うクルーの姿を見つめていた。

自分は何もせずに、ただ晶がいなくなってしまっていた事に絶望をしていた。

だが、彼らは違う。 仲間の死を告げられても、目の前に現れた敵に立ち向かっている。

悲しむ暇もなく、生き残るために必死で戦い続けているのだ。


巨大なモニターには、不気味な塔が映し出されている。

黒い塔からは、黒い塊のようなものが次々と周囲に巻き散らかされていた。


「……見てくださいよ、あれもE.B.Bなんですよ?」


「え? ほ、本当ですか?」


木葉は驚きを隠せなかった。 あの塔みたいなE.B.B、どう見ても生物のようには見えないのに。

そこに、一機の赤いHAが立ち向かっている姿が見えた。

木葉もあの機体は知っている、『ゼノフラム』だ。

E.B.Bと比べて、ゼノフラムはまるで豆粒のように小さかった。

あんな小さな機体で、巨大な怪物と戦っている姿を見ると、木葉は胸を痛めた。


「あれだけじゃないんです、他にも小さいE.B.Bはたくさんいますし、アヴェンジャーという悪い奴も襲い掛かってきてるんですよ。

正直に言いますと、今とってもピンチなんです。 でも、皆逃げずに戦ってるんですよ?」


「……みんな辛いはずなのに、どうして戦えるの?」


「メシアは人類の希望ですからね、何が何でもE.B.Bを倒す使命があるんです。 じゃないと、たくさんの人が死んじゃいますから。

更なる悲劇を生み出さない為にも、一生懸命悪に立ち向かうんです」


「……立派なんですね」


必死で戦い続けるクルー達の姿を見て、木葉はそう呟く。

どんなに悲しい事が起きようとも、私情に左右されずに使命を全うするだけの強い心を持っている。

とてもじゃないが、今の木葉には真似ができないことだった。

木葉には胸を張れるような使命もない、皆が持つ守るべきものも全て失っていた。

かといって、晶のようにパイロットとして戦う覚悟を持っているワケでも、技術を持っているわけでもない。

シェルターが襲われてから、木葉はずっと晶に守られっぱなしだった。


「あんまり思いつめちゃダメですよ? 木葉ちゃんは一般人なんですからね」


シラナギの言う通り、木葉は何の力を持たない一般人だ。

本来であれば、こんな場所へ立ち入る事すらも許されない、戦いに全く縁がないはずだった。

だが、あの襲撃を受けて以来フリーアイゼンに留まる事になり、世界とE.B.Bの関係、そしてアヴェンジャーといった組織を知った。

シェルターの外では想像を絶する戦いが繰り広げられていて、木葉はそれを怖く感じた。

晶はそんな世界を目の当たりにしても、パイロットとして戦い続けて、木葉を守り続けてくれたのだ。


「……晶、くん」


やっぱり、駄目だった。

ここに来れば、何かが変わると思った。

皆が戦っている姿に刺激されて、僅かな希望を取り戻せると信じていたが、無駄に終わってしまった。

どうしても、この悲しみを絶つことが出来ない。

何故、晶が死ななければならなかったのか。

死ぬのは、私ならばよかったのに、と強く感じていた。


「……木葉ちゃん」


今にも泣きだしそうな木葉を、シラナギは優しく抱きしめた。

とても暖かくて、まるで母親のような温もりを感じる。

木葉は次第に心に落ち着きを取り戻していった。


ズドォォォォンッ!!

突如、艦内から爆発音が響き渡った。

同時に、今までにないぐらい艦内が激しく揺れる。

バタンッ!と、木葉とシラナギは、地面に叩き付けられるかのように倒れた。


「状況を報告しろ」


「はい、アヴェンジャー部隊より高エネルギー体を確認しました……これは、ロングレンジキャノンの反応です……!」


「ロングレンジキャノンだと? 奴らめ、早速奪った兵器を我々に向けたか……フィールド状態はどうだ?」


「辛うじて維持はできていますが、あまり長く持ちそうにありません」


ブリッジ内に、更なる緊迫感が広がった。

木葉は立ち上がると、ブリッジ内の騒々しさに、戸惑っていた。


「な、何……? 何が起きたの?」


「……木葉ちゃん、危ないからじっとしててくださいね」


事態の深刻さを察したシラナギからは、自然と笑みが消えていた。

ただ、ひたすら木葉を安心させようと静かに抱きしめる。


「大丈夫です、安心して、ください……」


逆に木葉を不安にさせる程の、力のない声だった。


「……? そんな」


「どうした、カイバラ」


「イエローウィッシュが、撃墜されました……」


「……っ!」


艦長の顔が、青ざめていた。

いや、艦長だけではない。 他のクルー達も、同じような表情を見せていた。

木葉もただ、その事実を耳にして顔をハッとあげる。

……イエローウィッシュと言えば、シリアが搭乗するHAだ。

それが撃墜された、という言葉が意味することは――


「いや、いやぁぁぁっ!!!」


思わず、木葉は泣き叫んだ。

晶に続いて、シリアまで……死んでしまったというのか。

どうして、こんな事に……?


「……脱出ポッドの確認を急げ」


「駄目です、ジャミングの影響で確認できません……」


「クッソッ……あいつら許さねぇっ!!」


ライルはガンッ! と、強く机に拳を叩き付けた。

すると、艦長の許可を待たずにアヴェンジャーに主砲を向け始めた。


「待て、ライルっ! 大型E.B.Bを優先しろっ!!」


「んな事言ってる場合かっ! 艦だって狙われてんだぞ、クソがっ!!」


「ライル……っ!」


「止めんなリューテっ! あいつら一人じゃ飽き足らず二人も俺達の仲間を奪ってったんだぞ……っ!」


「……だが」


「命令違反だろうが何だろうが関係ねぇ……あいつら消し飛ばしてやる……っ!」


ライルの怒りは収まる事はない。

アヴェンジャーの行為によって、理不尽に二人の命が奪われた。

各地を混乱させるだけ混乱させて、悪戯に命を奪っていくアヴェンジャーの行為を許すわけにはいかない。

もはや『E.B.B』よりも遥かに残酷で、恐ろしい組織と成り果てた。


「……第2射、来ますっ!」


「何だと? クッ……回避しろっ!」


「やってますよ……っ! ですが、このままだとバランス失って落ちる……っ!」


「……ゼノスっ! アヴェンジャーの持つロングレンジキャノンを破壊しろっ!」


『了解した。 すぐに向かう』


聞こえてくる会話だけでも、事態の深刻さが伝ってくる。

木葉は体を震えさせて、しゃがみこんだまま動けなかった。

このままだと、皆やられてしまう。

どうすればいいのかもわからず、ひたすら怯える事しかできなかった


ズガァァァンッ!! 再度、艦内が大きき揺れる。

バタンッと、木葉は床へ倒れた。


「状況はっ!?」


「左舷部に被弾を確認しましたが、直撃は免れたようです」


「畜生っ! これじゃ、主砲も使えねぇぞっ!?」


「クッ……援軍はまだなんですか!?」


ジャミングのせいもあり、メシアの援軍の到着は大幅に遅れている。

だが、このままフリーアイゼンとゼノフラム一機で戦うことは困難だ。

イエローウィッシュも失っている以上……これ以上、犠牲を出すわけにもいかない。

幸い大型E.B.Bの足止めにも成功している……当分の間は、身動きは取れないはずだ。


「……各位、撤退だ。 ゼノス、戻れっ!」


『無理だ』


「何……?」


『……アヴェンジャーの奴らは、どうしても俺達が邪魔らしいな。 どうやら、囲まれているらしい』


ゼノスからの通信を確認し、艦長はカイバラと目を合わせる。

艦内のカメラをフル活用し、周りの状況を確認していくと……ゼノスの言う通りだった。

フリーアイゼンを囲むように『アヴェンジャー』の部隊が待ち構えていたのだ。


『フリーアイゼンの艦長に告ぐ、我々に艦を明け渡せ』


突如、艦内に通信が入った。

交渉をしようというのか、今はアヴェンジャーの攻撃は止まっている。


「……断る」


『断れば貴様らに命はない。 勿論、周囲の民間人も無事で済むとは思わないことだな』


「艦長……」


ヤヨイは、深刻な表情で艦長の名を呟く。

艦を明け渡したところで、クルーの命が保証できるわけではない。

下手すれば全員この地に降ろされて、素手であのE.B.Bから逃げなければならない事も十分に有り得る。

かといって、抵抗をしようにもアヴェンジャーの部隊に囲まれている状態だ。

全方面からロングレンジキャノンの影が見えている、もし同時に放たれたらフリーアイゼンと言えど持つはずがない。


「……カイバラ」


「はい」


「敵の守りが薄いところは何処だ?」


「……東ですが、あちらには大型E.B.BとE.B.Bが存在します。 他は同じぐらい、と思っていいです」


丁度、フリーアイゼンが向いている方角だ。

ロングレンジキャノンが二つあると言えど、確かに敵兵の数は少なく見える。

他の方角に旋回するとしても、その間にロングレンジキャノンによって狙い撃ちにされる可能性は高い。

……ならば、迷うことはない。


「リューテ、全速力で進め。 できるだけ遠くへ逃げるんだっ!」


「ほ、本気ですか?」


「ライル、主砲を発射させろっ! ミサイルもありったけぶちかましてやれっ!」


「お、きたねきたね。 ま、何もしないで死ぬより全然マシだろ」


「この程度で我々を包囲した気でいるとは……我々を見縊ってもらっては困るっ!」


艦長に命じられるまま、リューテはフリーアイゼンを最大速度で前進させ始めた。

その間に主砲のチャージを行い、ライルは主砲を発射させる。

更にはありったけのミサイルと機関銃を発車させ、周りにまとわりつくE.B.Bを蹴散らしていく。


「ロングレンジキャノン、来ますっ!!」


「怯むな、突き進めっ!!」


その時、フリーアイゼンのモニターが紫色の光に包まれる。

ズガァァン、ズガァァァンッ! と、次々とロングレンジキャノンが襲い掛かった。

艦内は激しく揺れ、警告音が鳴り続ける。

バランスを失ったフリーアイゼンは、地へと向けて墜落していった。


「クッ……まだ、動けるか?」


「無理です、このまま不時着しますっ!」


「……まだだ、我々はまだ戦えるはずだっ!」


決死の特攻も虚しく、失敗に終わった。

幸い全弾浴びる事がなかったのが救いか、艦はまだ形を保っている。

当分の間は飛ぶことはできないだろう。


「大型E.B.Bが活動を再開……っ!」


『艦長、こいつは俺が止める。 アンタは生き残る事だけを考えろ』


この状況になっても、ゼノスは諦めてはいなかった。

それは艦長も同じ思いでいた。

しかし、アヴェンジャーの攻撃は止むことがない。

停止したフリーアイゼンに向けて、次々とロングレンジキャノンが発射され続ける。

艦内が激しく揺れ続け、フリーアイゼンの装甲が徐々に破壊されて行く。

もはや限界は近い、いつ大破してもおかしくない状況にまで追い込まれてしまっていた。


「艦長、これ以上持ちません……っ!」


「……主砲は、撃てるか?」


「いや、無理だな。 破壊されちまってるし、こりゃ白旗あげるか?」


「……すまんな、今回ばかりは奇跡は起きなかったようだ」


「この艦をアヴェンジャーの奴らに渡すより全然マシです」


結果はわかりきっていた、このまま無謀に突っ込んでも落とされる事は誰でも理解できていた。

だが、それでも艦長は……アヴェンジャーに艦を渡す事だけは避けようと考えていたのだ。

勿論、艦長としてはクルーの命を守る事を優先しなければならない。

しかし、あの状況で脱出をしたところで生き残れる保証もなければ、アヴェンジャーに引き渡したところで助かる保証もなかった。

……艦長らしからず、奇跡を起こすしかなかったのだ。

もっと早くアヴェンジャーの狙いに気づいていれば、素直に退くべきだったのかもしれない。

今更後悔しても、何もかも遅かった。


そんな状況を目の当たりにして、木葉は言葉を失っていた。

皆寂しい気持ちを堪えて、一生懸命戦っていたというのに、こんな結末はあまりにも残酷すぎる。

酷い、酷すぎる。 アヴェンジャーにそう訴えながら、木葉はひたすら涙を流し続けた。

モニター越しから、2機のレブルペインがロングレンジキャノンを構えている。

ゼノスは大型E.B.Bの相手を続けていて、あの2機までに手は回らない。

仮にあの2機を優先していたとしても、動き出した大型E.B.Bがフリーアイゼンを狙う恐れもあった。

木葉は目を閉じて、静かに願った。


誰か、助けて。

フリーアイゼンを、助けて。

このままじゃ皆、報われないから。

こんな結末、認めたくない。

だから、起こして。 奇跡を。


「―――晶くん、帰ってきてよっ!」


木葉の悲痛な叫びが、艦内に響き渡った。


「こ、これは……?」


「どうした、カイバラ?」


「ロ、ロングレンジキャノンが、次々と破壊されていますっ!」


「何……? まさか、援軍が来たのかっ!?」


木葉は、ハッと顔を上げた。

何処か、懐かしさを感じる。

だが、こうしている間にも目の前のレブルペイン2機のロングレンジキャノンのチャージは完了していた。

今の状態であの一撃を受けてしまえば、今度こそ終わりだ。

艦長は成す術もなく、ただ力強く拳を握りしめるだけだった。


バシュンッ――

その時、モニター越しから何かが高速で動いている姿を捕えた。

紫色の綺麗な弧が描かれると、レブルペインは音もなく真っ二つに切断されていく。

そこには、紫色の長い刀を持つ白いHAの姿があった。

既に激しい戦闘を乗り越えてきたのか、傷だらけであった。

多少形を変えようと、見間違えるはずもない。


「い、ι……ι・ブレードですっ!」


「な、何……? 誰が乗っているんだ、まさか敵じゃないだろうな!?」


艦長は警戒をしていたが、木葉はそんなものを全く抱かなかった。

何故なら、今の動きは間違いなくフリーアイゼンを救ってくれたから。


『遅くなってごめん……助けに、きたぞ』


「晶……晶だと? 本当かっ!?」


艦長は声を荒げてそう言った。

まさか、あの状況で生きたというのか。

信じられない、艦長は晶との再会を喜ぶよりも先に生きている事に驚きを隠せなかった。


『話は後だろ……まだG3の奴も大型E.B.Bだっていやがる。 ……全部、俺が片づけてやる』


間違いなく、晶の声だった。

木葉は嬉しさのあまりに、その場で泣き崩れていた。


「……ほら、諦めるのは早かったんですよ。 言ったじゃないですか、信じましょうって」


「あ、晶くん……よかったぁ、よかったよぉ……」


木葉の涙が止まる事はなかった。

それは先程までの悲痛な涙とは違う。

もっと暖かい、嬉しさに溢れた涙だった。


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