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    それぞれの決意 ④


汚染区域に指定されていると思われるこの森林地帯。

第何級かまでは判断できないが、これだけの自然に囲まれた地帯であれば、E.B.Bの浸食は相当進んでいると思われる。

晶が相手にしなければならないのは一機のHAだけではない。

戦いの最中に影から襲い掛かるE.B.Bにも対応しなければならなかった。


つまり、ここでの撃墜が意味することはほぼ死に直結する。

群がるE.B.Bから逃げる手段がなければ、あの時の親友達のように食い殺される――

晶は負ける訳にはいかなかった。

これ以上、アヴェンジャーの好きにさせない為にも。

自分を『パイロット』として受け入れてくれた、フリーアイゼンの為にも――


ガキィンッ!

レブルペインの2本のソードと、ι・ブレードのムラクモが火花を散らす。

小刻みな振動がコックピット越しにまで伝わると、すぐにレブルペインは視界から姿を消した。

多くの木々と、レブルペインの彩色が味方をして敵の姿を目視で確認するのは晶では難しかった。

おまけにレーダーはレブルペインのジャミングの影響で使い物にならない状態だ。


頼りになるのは、危険察知しか存在しない。

こうしている間にも、危険察知が発動した。

ι・ブレードの死角から射撃が放たれる瞬間だった。


「クソッ、隠れんなよっ!」


晶は映像を頼りに弾の軌道を読み、上手く避けながらブラックホークを放つ。

だが、その前に黒い影が上空へと飛び上がっていった。

空へ向けてブラックホークを放とうとするが、またしても危険察知が発動する。


相手から射撃の嵐が襲い掛かり、晶はやむを得ず機体を回避させた。

その時、コックピットに青い光が灯った――


「クッ……何処だっ!?」


相手が上空にいる以上、上だけを意識すればいい……だが、万が一E.B.Bの襲撃という可能性もある。

晶は出来る限り全方位に意識を集中させようとしたが、それが仇となってしまった。


『何処見てんだよ、クソがっ!!』


「うわっ!?」


文字通り、上空から直進してきたレブルペインがι・ブレードに飛び蹴りを決めた。

コックピットが大きく揺れたが、幸い大きなダメージには繋がらなかったようだ。


『なぁ、本気出せよ? そんな隙だらけじゃ、こっちも攻撃する気失せるっつーの』


「黙れよ……戦いを遊びと思ってるやつなんかに、言われたくないっ!」


『俺は真面目に遊んでんだっつーの、お前も真面目にやらねぇと死ぬぞ?』


「この、屁理屈野郎がっ!」


わざと隙を見せていたレブルペインに斬りかかろうとするが、あっさりと避けられてしまう。

それどころか、再び死角へ潜り込まれて危険察知が発動する状況に至ってしまった。

幸いにも敵の攻撃を避けたところで、再びレブルペインは静止したままだった。


『いいねぇ、ちょっと吠えるようになったじゃねぇか。 やっぱお前、HA乗ってる方が面白れぇ奴だな』


「クソッ……言わせておけ、ば――」


晶はふと、ι・ブレードの動きを止めた。

隙だらけのレブルペインに、力任せに攻撃したところでは軽々と回避されてしまう。

これは俊の策略だ、相手を言動で惑わせて行動そのものを単調化させようとしている事に晶は気づいた。


ゼノスとの訓練を思い出すんだ。

焦るな、惑わされるな。

あの時のように、神経を研ぎ澄ませれば……道は切り開けるはずだ。


『……おっと、もう学習したか? そうでなきゃ面白くねぇ、次はどうしてみる? 隠れるか? 不意打ちか?

何でもきやがれよ、何処から仕掛けてこようが叩きのめしてやるからよ?』


かといって、このまま俊が静止状態を保ってくれるはずもない。

この地形を利用して不意打ちを仕掛ける等、いくらでも仕掛けるチャンスが確かに存在する。

だが、相手が口で言ってくる以上、少なくとも何処から仕掛けてきても『全て防げる』という自信の表れとして聞こえた。

ハッタリの可能性もあるが、前回の俊の戦いが晶の頭から離れることはない。

ならば、相手が仕掛けるのを待ち危険察知を元に対応するか……或いは、確実に俊が動けない状況を作り出すのが鍵だ。


だが、どう作り出せばいい?

その、瞬間――危険察知が発動した。

仕掛けたのは俊ではない。 晶の勘がそう告げた。

予想通り、地中から無数のE.B.Bが飛び出す映像が映し出された。

ミミズともヘビとも言える長い巨体をさらけ出し、上空へと向けて吠えていた。


この瞬間を、利用するしかない――

映像では敵機の動きまでは映し出されていなかった。

だが、少なくとも今の位置より大きく変わることはない。

ならば大方予想はつく、レブルペインがどの方向へ逃げてどんな行動をしようとするのか。

そして自身が動く方向から、確実にレブルペインに仕掛けられるタイミングがないか?


……短時間で、ここまでの事を処理しきれる自信はなかった。

危険察知の映像も追え、間もなく地中からE.B.Bが出現する。

敵側に悟られないよう、晶はいかにも襲撃に気づいていないかのように装った。

その瞬間、一瞬だけ地震のような揺れを感知する。

同時にレブルペインは、後方へと下がっていった。


「間に合えっ!」


逃げるレブルペインを追いかけるように、晶はブラックホークを放った。

その後、スロットルを限界まで押し込み最大速度で空高く上昇する。

甲高い奇声を放ちつつ、地中から巨大なE.B.Bが姿を現した。

地上の木々は滅茶苦茶にされ、土煙が舞い上がる。

上空から晶はブラックホークをひたすら放ち続けた。


逃げた方向はある程度わかっているが、手ごたえは感じない。

だが、空にいれば敵側から飛び込んでくるのは間違いない。


ズキンッ――

その時、危険察知が発動した。

地上からのレブルペインの襲撃かと思いきや、大型E.B.Bの追撃であった。


ι・ブレードそのものを丸呑みしてしまうほどの巨大な大口を開き、襲い掛かってきたのだ。

何とか振り切ろうと、晶は高度を下げてE.B.Bの襲撃をやり過ごす。

追い打ちのように、危険察知が発動した。

今度こそ地上から猛スピードで突進してくる『レブルペイン』が姿を現した。


あの速さでは小回りは効かないはず、晶は突進を交わして横からブラックホークを放とうとする。

だが、その瞬間コックピットが青く灯った。

突如レブルペイン付近に爆発が発生し、その爆風によって『軌道』が強引に変更されたのだ。

あまりにも一瞬過ぎて、何が起きているかは理解できなかった。

だが、身の危険が迫っている以上……レブルペインが何かを仕掛けてくるところまでは読めた。


「……フィールド展開っ!」


咄嗟に、晶はιフィールドを展開させた。

ガキィンッ!

レブルペインのソードが弾かれる音が響き渡る。


やっと、捕えた――


すぐに晶はムラクモを構えて、レブルペインを斬りつけようとした。


「――ミサイルっ!?」


フィールドを解除した途端、晶の目の前には二つの小型ミサイルが飛ばされていた。

咄嗟の事で反応することもできなかった。

ズガァァンッ!

コックピットが大きく揺れ、警告音を響き渡る。

直撃を受けたι・ブレードは、そのままバランスを失って地へと吸い込まれて行く。


『おいおい、その程度かぁ? ま、地上じゃお前に勝ち目は確かになかった。

ったく、ι・ブレードも大したことねぇな……所詮、何に乗ってもテメェはただのビリッケツにすぎねぇってことさ』


「……まだ終わってねぇよ、ιがこの程度で沈むものかっ!」


『へぇ、まだやる気か? まぁお前根性ありそうだしな、3年間もずっとビリッケツの座を守り続けてた奴だ、そこだけは認めてやってもいいぜ?』


「誰がお前なんかに――!」


その瞬間、危険察知が発動した。

レブルペインが、ι・ブレードの目の前に姿を晒したのだ。


『確かにιってのはしぶてぇらしいからな。 弱い奴が生きるのもめんどくせーだろ、そろそろ楽にしてやるよ』


「そうやって、お前は人を見下してっ!!」


斬りかかってくるレブルペインの攻撃を交わした途端、再びコックピットが青く灯された。

ズガンッ!

今度はフィールドを展開させる暇もなく、晶は地へと突き落とされた。

コックピットに伝う衝撃が強すぎて、身体が完全に回復しきっていない晶にとってはかなり堪えてしまっている。


息が荒く汗がにじみ出る中、操縦桿だけは手放さないようにしっかりと握りしめた。

機体の損傷率は40%、これからフリーアイゼンの元へ駆け抜けるにはこれ以上機体の傷を負わせるわけにはいかない。


『立てよ、まだやれんだろ? それともタダのハッタリだったのか? 最先端の機体と言えど、万能にできちゃいねぇんだな』


怯まずに晶はブラックホークを構えて発砲しようとする。

カチッ……と、間抜けな音がした。


「弾切れかよ……」


予備のマガジンならいくつか積んであるはず、補充すれば問題はないが……問題は相手がそれを許すかどうか。

その時、危険察知が発動した。

先程の大型E.B.Bが再びι・ブレードに襲い掛かってきたのだ。

どういう訳か、何故か必要以上にι・ブレードが狙われている。


晶はふと、その事に疑問を感じた。

E.B.Bは基本的に『人間』という生命体をピンポイントで狙うはず。

だが、何故はこのE.B.Bはιばかりを狙っているように見えた。

レブルペインだって、人が操るHAだ。

パイロットの白柳 俊も、人間であり襲われる対象となってもおかしくはない。


……砂漠の戦いでも、そうだった。

アヴェンジャーの機体はE.B.Bの襲撃に紛れて、メシアの部隊に襲撃を仕掛けた。

その時、アヴェンジャーの部隊はE.B.Bに狙われていただろうか?


レブルペインとι・ブレードやウィッシュの違い……。

色や形、性能ではない……もっと決定的な違いがあるはずだ。

あの機体の何かが『E.B.B』を避ける仕掛けが施されている、そう考えるしかない。


「レーダー……そうだ、何でレーダーだけが?」


その間にも危険察知が発動した。

レブルペインの攻撃を必死に避けて、晶はひたすら考えた。


『おいおい、ボサッとしてんじゃねぇよ……戦意喪失でもしちまったか?』


「気が散る……話しかけるなっ!!」


晶は強引にレブルペインを引き離そうと、ムラクモを闇雲に振り回した。

当然ながら軽々と避けられてしまい、死角へと回り込まれる。

だが、今度は死角へ回り込むことを先読みして晶はムラクモを突き立てた。


『うぉっと、流石に二度も三度も同じ手は通用しないってか? 面白くなってきたじぇねぇか……』


「……クソッ、邪魔すんなっ!」


レブルペインに隠された秘密は何だ。

このレーダーの乱れは、決して『ジャミング』何かではない。

もし、本当にその類であれば音声通信にも異常をきたすはずだ。

今まで、このHAが登場してきた中で……そんな事象が起きたことはない。

レーダーだけが、異常をきたしていたのだ。


それは……まるであの時、レーダーから姿を消していた大型E.B.Bの時と同じではないか。

危険察知が発動する。

またしても大型E.B.Bがιに襲い掛かった。

やはり、レブルペインには見向きもしない。

その間にもレブルペインは、ひたすらι・ブレードに攻撃を仕掛け続けた。

コックピットが青く照らされても、晶では反応できずにダメージは徐々に蓄積されていく。

もう少し……もう少しで、あの機体の秘密が解けそうだというのに。

このまま、やられるしかないのか。


『おいおい、さっきから逃げてばかりで何もしてねぇじゃねぇかよ……テメェ何企んでやがる?

それとも、本当に手も足もだせねぇってか?』


「……お前のその態度、ずっと気に入らなかったんだよ。 努力も何もしてねぇ奴が……どうして、そんなに強いんだよ」


『考えるまでもねぇ、生まれながらの才能だろうがよ? 世の中に無能はいらねぇ、一握りの天才だけが生き残りゃいい、そういう社会にしちまえば楽だろ?』


「大切なのは互いに支え合う事だろうがっ!!」


人を見下し、弱き者を蹴落としていく。

白柳 俊とは、そういう男だ。

だが、晶はそんな考え方を認められなかった。

自分自身がたくさんの仲間に支えられ、あの絶望的な状況からここまで生きてこられた。

俊の言うことは、それを全否定しているのだ。

だったら、認めさせるしかない。

この手で、自分が見下した人物が、天才と名高いパイロットを打ち破る事で――


「頼むぞι……もう少しでいいんだ、持ってくれっ!」


コックピットは赤く灯された。

まだいける、と返事をしているように聞こえる。

晶はレブルペインを睨み付けた。

その時……ふと、レブルペインの持つ違和感に気づいた。


ι・ブレードやゼノフラム、そしてウィッシュにはなくて……レブルペインにだけ存在するのモノ。

そう、あのHAは何処か『E.B.B』と似た雰囲気が感じ取れるのだ。

今まで感じた禍々しさは、恐らくそれが原因であろう。

しかし、HAの動力源はお互いに共通した『エターナルブライト』だ。


E.B.Bを生み出す切っ掛けとなった『同じ動力源』を使いながら、どうしてここまで違いが出ているのか?

レブルペインのヘッド部に潜む、怪しい赤い輝き――

そう、晶はその光で『違和感』の正体に気づいたのだ。


『あーあ、またつまんねぇことで熱くなりやがって……わかったわかった、俺がテメェに希望を持たせちまったのが悪かったな。

……次で、本当に終わらせてやるよ』


「……!」


俊の声色が、突如変わった。

先程までのチャラけた様子とは違う。

ドスをきかせたその声だけで、思わず背筋がゾクッとなってしまう程だった。

……やはり、今までは遊んでいたのだろう。

戦いそのものを楽しむ為に、わざと相手をいたぶっていたという事、なのか――


『ったく、ウザってぇんだよ。 お前みたいに仲間だの親友だのとかホザいてる奴が、一番大嫌いなんだよっ!

弱いくせに調子に乗るんじゃねぇよ……テメェの何に価値があるんだ? 周りに迷惑かけてるって、いい加減気づけよ?』


「俺は……今まで俺を支えてきてくれた人達の為にも、アヴェンジャーを討つっ! フリーアイゼンを、助け出して見せるんだっ!」


『ああ、やってみろよビリッケツちゃんがよぉっ!!』


ズキンッ――

晶が身構えた瞬間に、危険察知が発動した。

映像は単純に、レブルペインが正面から突撃するだけだ。

しかし、あの俊が正直に正面を突っ切るはずがない。

かといって、先程のように素直に死角へ潜り込んでくるとも考えられない。


もっと、確実な手段で『ι・ブレード』を潰しにかかるはずだ。

晶は全神経を集中させ、レブルペインの動きにだけ注目した。

危険察知は役に立たないと思え、自分の感覚だけで戦うしかない。


だが、できるのか。

クラスで落ちこぼれだった晶に、そんな『俊』のような行動が取れるのか?

いや、やらなければならない。

やらなければ、敗北が待つだけだ――


映像の通りに動くレブルペインの一撃を交わすと、コックピットが青く灯った。

既にモニターからは姿を消している、だがギリギリまで目で追っていた晶は潜り込んだ方向を見逃さなかった。


「いけよっ!!」


晶は咄嗟に、逃げた方向へと向けてムラクモを突き刺した。

だが、そこにもレブルペインの姿はない。


『はいはい、よくできましたっと』


「なっ――」


ふと、地面に影が見えたことを確認した。

上空からだ……っ!


この距離では避けることはできない、晶はフィールドを展開させて凌ごうするが

だが、そのフィールド発生すらも間に合わなかった――


ズガァンッ!

鈍い音が響き渡り、コックピット内は警告を告げる赤い光と警告音が鳴り響く。

モニターを確認する暇もなく、晶はただ揺れるコックピット内でスロットルを握りしめることだけで精一杯だった。


「クッ……流石にもう、やばいか?」


コックピット内は必死で応えるように点滅するように赤く灯った。

やはり先程のミサイルが相当響いているようだ、いくらι・ブレードと言えどミサイルをまともに受けてしまえば無事では済まない。

ウィッシュ等の通常HAであれば、既に撃墜されてしまっていてもおかしくはなかった。

だが、それだけで俊の猛攻が終わる事はない。


危険察知が発動し、レブルペインの姿が確認できた。

ただ正面から蹴り飛ばされる映像だったのだが、映像の最中に襲い掛かる頭痛が突如激しさを増した。

頭痛は徐々に大きくなり、晶は映像どころではなく思わず頭を抱えて叫び声をあげる。

その時、再び機体が大きく揺れた。


『さぁて、問題だ。 お前が吹き飛ばされた先には、何がいるでしょう? 答えがわかったら、助かるかもしれねぇぜ?』


何を、言っているんだ――

と、晶はその時『奇声』のようなものを耳にした。

これは、あの『E.B.B』の奇声だ。


激しい頭痛のせいか、危険察知は発動しなかった。

しかし、晶には俊の言葉の意味をすぐ理解できた。


ι・ブレードの装甲は底知れず、自己修復機能まで搭載されている。

その為、レブルペイン一機では完全に機能停止に追い込むことは難しいと判断したのだろう。

だからこそ、『利用』したのだ。

あの『大型E.B.B』を――


後ろには、ι・ブレードを丸ごと飲み込もうと大口を開けて襲い掛かる大型E.B.Bが存在する。

激しい頭痛で意識が朦朧としているが、今置かれた状況だけは理解できた。

……何か、手はないのか。

この状況をひっくり返す手段は。


ι・ブレードを全力で加速させれば、この状況を抜けることは容易いかもしれない。

だが、俊から逃れることはできるのか?

おまけに危険察知が、まともに働かない状況でだ。

仮に発動したとしても、毎度この頭痛に襲われていては、冷静に状況の分析を繰り返すことはできない。


「……ここで、死ぬわけには――」


霞んでいく視界の中、晶は必死で操縦桿を握りしめこの状況を打破する方法を考えた。

だが、時間が足りなさすぎる。

E.B.Bの黒い影が背後から迫り、ιを覆っていた。

ふと、コックピット内に電子音が響き渡る。

サブモニターに『ムラクモ』を示す画像が出力されていた。


『ムラクモを『解放』してください』


解放……?

晶は、何の事かはさっぱりわからなかった。

だが、ι・ブレードはあの拠点へ訪れて以来……何かしらの改修がされているのはわかっている。

全体的にあげられた出力、疑似飛行時間の延長。

ただ、相手が相手なだけにその性能を実感出来ずにいただけだ。


……何を意味するかわからないが、今はそれにかけるしかない。

システム音声に従うまま、ι・ブレードはムラクモを手にした。


「俺は……諦めないっ!」


コックピット内の赤い光が、急速に強まった。

不思議と襲い掛かっていた頭痛も、ピタリと止んだ。

モニターからも、眩しいぐらい強い赤い光が差しかかる。

これは……『ムラクモ』が赤く光っているというのか?


「うわああああああああっ!!!」


晶は力任せに、ムラクモを大型E.B.Bに向けて振り下ろした。

ブォンッ! と、強烈な風圧が周りの木々を次々となぎ倒していく。

大型E.B.Bの中心に、縦一直線の赤き閃光が走る。

その時、時間が静止したかのように大型E.B.Bの動きは止まった。

同時に、ムラクモからの赤い輝きは失われた。

晶はモニターを見ずに、ただ下を向いたまま目を閉じていた。


キシャァァァァッ!

耳が痛くなるほどの奇声と共に、大型E.B.Bは真っ二つに切断されて行く――

丁度中心部にあったコアとされるものも、見事真っ二つにされていた。

大型E.B.Bは砂のように崩れていき、その形を徐々に失っていった。


『なっ……テメェ、何して……っ!?』


流石の俊もι・ブレードが成し遂げた行為を見て、驚きを隠せなかった。

それも当然だ、たった一機のHAが剣一本で大型E.B.Bを一刀両断にしてしまったのだから。


「……や、やったのか?」


晶は改めてモニターを確認すると、既に大型E.B.Bの姿はなかった。


『どんな仕掛けだぁ、今のはよぉ?』


あの俊から、動揺を感じさせるような言動を耳にするとは。

晶はすかさずブラックホークの弾を補充した。


「くたばっちまえよっ!!」


バンッ! バンッ!

2発、弾丸は静止するレブルペインのヘッドを目掛けて放たれた。

ズガァンッ!!


『なっ……しまったっ!?』


見事、晶の思惑通りレブルペインのヘッド部が破壊される。

すると不思議なことに、ι・ブレードのレーダーが正常な状態へと戻された。


『チッ……テメェ、許さねぇっ!!』


ヘッド部を破壊されても、まだι・ブレードに向かおうとするのか。

だが、俊とはそういう男だ。 二度も戦えば、晶は驚きもしない。

ヘッド部のメインカメラが破壊されてしまっても、臨時用カメラを使えば視界は復活する。

しかし、それ程性能がいいカメラは積まれているケースは珍しくなく、通常であれば戦闘を行うのは困難だ。


普通は退却を行うためのカメラとして割り切られてはいたが、この男にはそんなことは関係ない。

ただ、自分を傷つけられたことが許せない。 やられたらやり返す、徹底的に。

白柳 俊とは、そういう男なのだ。


「もう、終わりだっ!」


『終わっちゃいねぇっ!!』


上空に浮かぶι・ブレードへ向けて、レブルペインはその勢いを止めようとしない。

その時、複数のE.B.Bがレブルペインへと目掛けて襲い掛かった。


『邪魔すんな、クソがっ!!』


華麗な剣捌きで、レブルペインはあっという間に複数のE.B.Bを切り刻んだ。


『どうなってやがる……何で俺がE.B.Bに襲われてんだっ!?』


晶はヘッド部の赤い光を見て、E.B.Bのコアを思い出した。

あの赤い光とコアの色が酷似していたのだ。

コアはエターナルブライトとは別ではあるが、何らかの効力を持っていても不思議ではない。

学校の授業でも、E.B.Bコアの効力について学習したことはあり、HAへの採用も考えられているという話も聞いたことがあった。

過去に出現したE.B.Bでも、レーダーから姿を消すタイプは存在した。


あれはE.B.Bが進化の過程で身に着けた『E.B.B自身の力』だ。

……その力がコアに宿っていると考えれば、HAに搭載させることは不可能ではないかもしれない。

おまけにそのコアによって、E.B.Bが『人』と判別する前に『仲間』として判別するかもしれない。

全ては推測でしかないが、最終的に晶の予想が正しかったのは『レーダー』を見れば一目瞭然だ。


俊が狙われているこの隙を狙えば、あのレブルペインを落とすことはできるかもしれない。

だが、相手はそれ程甘くはない。

あのような男は、執念だけで勝利を掴むタイプだ。

深手を負っている以上……これ以上、俊と戦うことは危険だと悟った。


「……もう、十分だ」


晶はι・ブレードを加速させ、全力でその場を離れて行った。


『待ちやがれ……逃げんのかクソ野郎がっ!!』


「……これ以上戦って、何の意味があるんだよっ!?」


『テメェを叩き潰すまで……俺の戦いは終わらねぇっ!!』


「付き合ってられないって言ってんだよ……俺は行く、フリーアイゼンを助けにっ!!」


『クソがっ! テメェ……覚えてろよ、まぐれで頭吹き飛ばしたぐらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ?』


これ以上戯言を聞いている暇はない、晶は強引に通信を切った。

機体に傷を負いすぎてしまった。

弾薬も燃料もそんなに多く残されていない……だが、今更拠点に戻ったところで補給ができるはずはなかった。

それでも行くしかない。

フリーアイゼンを助ける為に――


「行くぞ、ι・ブレード……っ!」


晶は、空高く舞い……フリーアイゼンの元へと飛び立って行った――


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