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    奪われた『G3』 ③

夜が訪れ、フリーアイゼンは荒れ地の中心へ着艦した。

この地帯は、汚染区域程ではないが多くのE.B.Bが生息している。

艦内では夜間における万全の警備体制が敷かれていた。

E.B.Bを警戒するという意味が強いのは勿論だが、それ以上に危険視しているのは『G3』の存在だ。


アヴェンジャーがG3を使って、ιの鹵獲を狙っている可能性が非常に高い。

ブリッジルームにはいつでもフリーアイゼンを出せるようにライルとリューテの両名……そしてカイバラと艦長が待機をしていた。


「レーダーには注意しろ、以前奴らのHAが現れた時は異常を見せたはずだ」


「今のところ問題ありません、E.B.Bの反応すら出ていない状態ですから」


「しっかしG3ってのが本当にでてきたらどうすんだ? 相手は殺人兵器と恐れられるHAなんだろ?」


退屈そうにしていたライルが、艦長に向けてそう尋ねた。


「私達は毎日E.B.Bと戦っているというのに人間の兵器に怖がるなんておかしな話ですね、気持ちはわからなくもないですが」


「人間が作り上げたらこそ、やばいんだろ? E.B.Bには人間ほど賢い頭脳がないのさ、俺は殺人兵器を手にした人間のほうが怖いね」


「私語は慎めと言っている、ライル」


「チッ、そこのヤヨイさーんだって反応しただろうに」


ライルは口をとがらせて文句を垂れる。


「……これは?」


「どうした、カイバラ」


「新たにE.B.Bの反応を確認しました……数は少ないようですが」


ヤヨイは眉間に皺を寄せながら、報告した。

突如、全く別の方角からE.B.Bの出現を確認したのだ。

それだけであれば珍しくはないが、何かがおかしい。

レーダーからは、通常ある程度E.B.Bの種類やサイズが特定できるのだが――


「……unknown、です」


不安げに、ヤヨイはそう呟いた。

突如現れたE.B.Bは、unknownを示していた。

HAならともかく、E.B.Bでこの表記が出されることは非常に稀なパターンである。

E.B.Bとは生物が異形に変化した形であり、レーダーはその生体反応を感知して情報化しているに過ぎない。

つまり、このレーダーが意味するのは『ここにいるのはE.B.Bかもしれないし、そうじゃないかもしれない』という中途半端な情報だったのだ。


『艦長、俺が偵察に行きますっ!』


ブリッジルームの会話を聞いていたのか、晶が通信を入れてきた。


「……くれぐれも気を付けるんだぞ、アヴェンジャーが絡んでいる可能性もある」


『ιには危険察知もあるんだ、何とかして見せます』


「わかった、健闘を祈る」


「艦長……いいのですか?」


何処か不安げな表情を浮かべ、ヤヨイは艦長に訪ねた。

確かに未知なるE.B.B反応を前に、晶を単機で向かわせるのは危険すぎる。

だが、リスクを恐れていてはフリーアイゼンの艦長なぞ務まらない。

メシア内で最優先すべき事項は、E.B.Bの殲滅なのだから。


「……シリア、ιのサポートを頼むぞ」


『言われなくても行くさ、安心してそこで待ってな』


ι・ブレードに続き、イエローウィッシュが現場へと向けて発進された――








晶はレーダーの反応を頼りに機体を進めさせる。

確実に反応へと近づいてはいるが、いくらモニターで確認してもE.B.Bの姿はそこにはない。

闇に染まった荒れ地をιのライトが照らしても……乾いた地面と瓦礫の山が続くだけだ。


レーダーの誤動作、とも思えない。

まさか、目に見えないE.B.Bだというのだろうか。

丁度、反応が一番強い位置へと晶は訪れ、ιを着陸させた。


ズキンッ―――


その途端、頭に激しい頭痛が走った。

危険察知が発動したのだ。


見えてきたのは、突如地面から無数の触手が出現する光景だった。

E.B.Bが地中に存在する可能性が高い。

晶は迷わず、ιを上空へと向けて高く飛ばした。

すると地面を突き破り、無数の触手が天高く伸びあがった。


「き、危険察知がなかったら危なかった……」


間一髪で避けた晶は、ホッとしていたが……触手がその場で留まることない。

無数の触手が、上空へと逃げたι・ブレードを目掛けて襲い掛かってきた。


「し、下だっ!」


晶はスロットルを押し込み、触手を潜り抜けようと急降下させる。

襲い掛かるGを堪えながらも、必死で晶は降下を続けた。

その時、再び危険察知が発動する。

地上から、明らかに『HA』による砲撃と思われる弾丸を確認した。


「アヴェンジャーかっ!」


間違いなく、アヴェンジャーの仕業であると晶は確信した。

急降下させ続けたιの軌道を強引に曲げて弾丸を辛うじて回避させる。

想像以上にGが襲い掛かるが、それでも何とか耐えて見せた。


ようやく地上へ降り立つと、休み暇もなく危険察知が働く。

無数の触手が容赦なくιに襲い掛かろうとしていた。

晶はひたすら触手から逃れようと機体を前進させるが、その時……コックピットの『青い光』を感知する。


「まずい――」


ズガァンッ!

コックピットを大きく揺らす、重い一撃が晶に襲い掛かった。


「うわぁっ!? ちょ、直撃した……?」


今のは明らかに正面から狙撃されたとしか思えなかったが、モニターで確認しても敵影は見当たらない。

レーダーを確認すると、既にジャミングの影響でレーダーは使い物にならくなっていた。

これで確信した、アヴェンジャーのHAが近くに存在すると。


再度、危険察知が働く。

触手がしつこく、ιを追い続けてきた。

その映像は何度見ても、ιのコックピットを貫いている。

晶は、ここでようやくその『触手』の正体に気が付いた。

これはE.B.Bなんかではない。


「まさか、G3……!?」


ゼノスから、ある程度概要を聞いていた。

G3の主力武装は熱源探知機を利用した『サマールプラント』。

それは生命体の持つ熱に反応を示し、一度ターゲットにしたら死ぬまで追い続けるといった代物だ。

だからこそ、大量殺人という悪夢を生み出した。


バシュンッ! バシュンッ!

銃声が響くと、ι・ブレードの後ろを追っていた触手がまとめて撃ち落される。

背後を振り返ると、イエローウィッシュの姿があった。


『大丈夫か!? アヴェンジャーの奴ら現れたんだろ?』


シリアが声を荒げて通信を入れてきた。


「だけど、まだ敵の姿が――」


そう言いかけると、再び危険察知が発動する。

再度、HAによる狙撃がιに向けられた。

晶はその映像を凝視する。

僅かに、砲口のようなものを確認できた。


「あいつか……っ!」


迷わず、晶はムラクモを構えて狙撃を確認した位置へと機体を前進させた。

そして、闇夜に紛れていたHAの姿をようやく捕える。

ライトで照らされた『緑色』の巨体が、晒された。


「やるぞ、ι・ブレードっ!」


晶は勢いを殺さずに、ムラクモでG3を切り裂いた。

ガキィィンッ! と、コックピットまでに響く金属音が響く。

ビリビリと伝わる振動に一瞬だけ目を閉じたが、すぐにモニターを確認する。


目の前の光景に、思わず目を疑った

ムラクモは、頑丈な胴体部をほんの少しだけ傷つけただけだった。

今までどんなE.B.Bもいとも簡単に切り裂いてきたムラクモでも、傷つくことのない装甲。

晶の背筋には、ゾクリと寒気が走った。


同時に危険察知が発動される。

G3の中心部から、ウジャウジャと触手が出てきた。

よく見ると、一部の触手が地面へと埋まっている。

最初に見たE.B.Bの反応は、この触手のようなコード状の槍……『サマールプラント』の反応だったのだ。


「く、くそっ……」


やむを得ず、晶は一度G3から離れた。


『大丈夫か、晶っ!? 今ゼノフラムも出撃する、一旦退くんだっ!』


「りょ、了解しました――」


シリアの通信に応えて、晶は一度後退しようとする。

すると、突如ιに通信が入れられた。

……G3のパイロットからだ。


『久しぶりだな、ιのパイロット』


「……こ、この、声――」


ドクン――


晶の心音が、高まった。

まさか、そんなはずがない。

あの男は確かに、ι・ブレードで……ウィッシュもろとも爆発に巻き込まれてはずだ。

生きているはずがない。

だが、この声を忘れるはずがなかった。

聞き間違える、はずもない――


『この前の借りは、キッチリと返させてもらうぞっ!』


G3から2連砲と無数の触手がまとめてιに襲い掛かっていった。

危険察知を駆使しつつ、晶は何とか攻撃を避け続ける。


「まだ……まだ殺したりないのかよ、そんなに人殺しがしたいのかよっ!?」


『目的には手段を選ばん、それが俺たちのやり方だ』


「黙れよ……俺は必ず倒す、アンタをっ! もう二度と、あの悲劇は起こさせないっ!」


『そいつは無理な話だ』


ズキンッ――


ふと、聞き覚えのあるもう一人の男の声と共に危険察知が発動した。

目にも留まらぬスピードで、一機の黒いHAが切りかかってくる映像。

その速さは、以前に見たウィッシュとは比べ物にならなかった。


「ι・フィールド展開っ!」


咄嗟に晶は、ιフィールドを展開させる。

ガキィンッ! と、複数の触手と一機のHAが弾かれた。


『よう、ビリッケツ。 ワリィな、本当はサシでケリつけてぇんだけどよぉ』


「……お前っ!」


間違いなく『白柳 俊』の声だった


『何だよ、もう1機いやがったのかっ!』


シリアは、レブルペインに向けて発砲する。

だが、無駄のない動きで弾は避けられ、あっという間に距離を縮められていく。

咄嗟に、シリアは2本のソードで敵の重い一撃を受け止めた。


『へぇ、メシア部隊は伊達じゃねぇってか?』


『あんまりアタシをなめんじゃないよ……っ!』


ドンッ、とイエローウィッシュはレブルペインに蹴りを一撃かますと、相手は抵抗なく引きさがっていく。


「シリアさん、大丈夫ですかっ!?」


『バカ野郎、自分の心配だけしてろっ!』


シリアの怒声に耳を傷めながらも、無事であったことに安心した。


『アッハッハッハッハッハッ! ウヒヒヒヒィィッ!!』


突如コックピット内に、思わず耳を塞ぎたくなるような奇声が響き渡る。

どうやら、ιが何かの音声を拾ったようだが……この笑い方、正気とは思えない。

もう1機のHAが、イエローウィッシュへと目掛けて飛び込んできたのだ。

シリアは咄嗟に2本のソードで攻撃を受け止める

そしてその機体から逃げるように距離を置いた。


『クッソ、またテメェかよっ!』


『お姉さん、すっごーい。 どうして生き残ったの? ねぇ、教えて教えて。 私に、逢いたかったから? 私の為に、死ねなかったの?

ウヒヒ、私もお姉さんが生きてて凄く嬉しい。 嬉しくて嬉しくて、凄く興奮して、ウヒヒ……アッハッハッハッハッハッ!!』


「な、何ですかこの人!?」


『知るかっ! 何でアタシが狙われなきゃならないんだよっ!』


シリアは謎のHAの襲撃により、ιから遠く離れて行ってしまう。


『残念だなービリッケツちゃんよぉ……俺としては不本意なんだがねぇ、こっちも色々とめんどくせぇんだわ』


『痛い目に逢う前に、大人しく投降しろ』


ただでさえG3を意識することで精一杯なのに、それに加えて俊の乗るレブルペインにマークをされる。

頼みのシリアは、もう1機やってきたHAの襲撃を受けて引きはがされてしまった。

とてもじゃないが、晶一人では勝ち目は薄い。


その時、背後から『ガトリング』の銃声が聞こえた。

新手の攻撃かと思われたその銃声は、決して晶を襲う事は無く

今まさに攻撃を仕掛けようとしていたG3とレブルペインへと降り注ぐ。


『その機体で俺の邪魔をするか……ゼノス』


『悪いが逃がすつもりはない、G3と共に眠らせるぞ』


ゼノフラムが、ι・ブレードの背後から姿を現した。


「ゼノスさんっ!」


『悪いな、出撃に手間取った。 G3を逃がすわけにはいかん……戦うぞ』


「ああ……やってやるっ!」


ゼノスの到着を機に、晶は反撃を仕掛けようとするが、その瞬間に危険察知が働いた。

再び、サマールプラントがι目掛けて襲い掛かる。

晶は即上空へと飛び込むと、ゼノスは同時に背後へ後退しながらガトリング砲でサマールプラントを撃ち落していった。

その瞬間、コックピットが青く灯った。


『待ってました、ιちゃんよぉっ!!』


「ぐっ……!」


真正面から直下してきたレブルペインを、ムラクモで何とか受け止める。

反応はできたが……危険察知が発動した。

今度は動きを止めたことにより、サマールプラントがιブレードに襲い掛かろうとしていた。


「何なんだよ、これっ!」


晶は強引にレブルペインを退き、ブラックホークでサマールプラントを撃ち落しながら逃げ回る。

だが、何度も落としても無数の触手は次々とG3が生み出され、キリがない。


『いやぁ、楽しそうだなぁビリッケツよぉ……できれば俺はそっち側になりたかったね、絶体絶命の状況ってすっげー楽しそうじゃねぇか』


「ふざけんなよ……HAを玩具だと思いやがってっ!」


逃げ続けながらも、晶は隙を見つけてレブルペインに斬りかかろうとする。

だが、瞬時に動きを見切られてしまい、逆に死角へ回り込まれてしまうだけだった。

危険察知で何とか回避はできているが、かなりギリギリのラインだ。

一瞬でもミスをしたら……やられてしまう。


ズガァンッ!

突如、轟音が響き渡った。

ゼノフラムのブーストハンマーが、G3へと直撃していたのだ。

だが、G3は少し装甲をへこませるだけだ。

流石に最先端技術者が集まる場所で開発されたHAと言えるだろう。

ゼノフラムであっても、ここまでの装甲を実現するはできなかったというのに。


『晶、目標はG3だけだ。 もう1機のHAは無視しろ』


「でも、振り切るの難しいですよっ!」


『いいからやれ……俺の合図で、『G3』を貫いてくれ』


「……わ、わかりました」


ゼノスの合図を待ち、晶はひたすらG3のサマールプラントとレブルペインの猛攻を避け続ける。

何度も繰り返す危険察知に頭を痛めながらも、死にもの狂いで晶は機体を操作し続けた。

ガンッ! ガンッ! と、何度もハンマーがぶつかる金属音を耳にしながら晶はまだか、まだかとゼノスの合図を待つ。


チラリ、とゼノフラムの様子を見ると……そこには目を疑いたくなるような光景が広がっていた。

ゼノフラムに次々とサマールプラントが撃ち込まれ続けていたのだ。

幸い装甲のおかげでコックピットまでに到達はしていないようだが、それでも危険な状態には変わらない。

そこまでしながらもゼノスは、G3にひたすら猛攻を続けていたのだ。


『おいおい、いい加減楽になっちまおうぜ? お前が大人しく投降すりゃ、もうこんなに苦しまなくたっていいんだぞ?』


「だ、誰が投降なんて――」


危険察知が発動し、晶は攻撃を避けようとする。

だが、その時コックピット内が青く灯った。


「しまった――」


ガァンッ! と、重い衝撃がコックピットに伝わる。

レブルペインによるソードの一撃を、思い切り受けてしまった。


「ほらよ、俺が本気出せばこんなもんだぜおい? まぁ、もうお前死んだかもな」


俊がそう告げると、無数のサマールプラントが今にもιに飛び掛かろうと集まってきた。

コックピットの強い衝撃で、晶はそれに全く気付けずにいる。

触手がコックピット目掛けて、まとめて襲い掛かろうとした――


『晶ぁぁぁぁっ!!』


バシュンッ! バシュンッ! と、後方から銃声が響き渡る。

レブルペインに追われながら、イエローウィッシュがιに襲い掛かろうとした触手を全て撃ち落して見せたのだ。


「――ハッ……シ、シリアさん……た、助かりましたっ!」


『礼は後にしてくれ、さっさとG3を潰すぞっ!』


シリアは全力で背後をしつこく付き纏うレブルペインから逃れようとしていた。


『アッハッハッハッ! お姉さん、どうして逃げるの? 照れているの? ねぇ、ねぇってば。 私を愛して、くれないの?』


『しっつけぇんだよっ!!』


シリアは高く飛び上がり、後ろを永延とついてくるレブルペインを思いっきり蹴飛ばして見せる。


『よっしゃ、あっちのストーカーも任せなっ!』


続けてシリアは晶の近くを付き纏うレブルペインに向けて発砲する。

だが、俊敏な動きで避けられてしまった。


『晶、今だっ! G3の頭部をムラクモで貫けっ!』


「わ、わかりましたっ!」


晶は一瞬だけ自由になった機会を逃さず、空を高く飛び上がる。

地上の様子を見ると、ゼノフラムが強引にG3の動きを止めている光景を目にした。

決死の思いでG3の動きを止めているのだ、ここで仕留めなければゼノフラムが持たない可能性だってある――


「行くぞ、ι・ブレードっ!!」


必ず、勝つ。

その思いを胸に、晶はムラクモをG3に向けて、急降下を始めた。

無数の触手が追ってくるが、危険察知は発動しない。

つまり、あの触手がι・ブレードを貫くことは、ない。


俊の乗るレブルペインはシリアによって動きが止められている。

邪魔者はいない。

サマールプラント……恐ろしい兵器だった。

振り切っても振り切っても、しつこく迫ってくるのはある意味E.B.Bとにた恐怖がある。

……こんな兵器、存在してはいけない。

人間が開発しては、いけなかったのだ。


「消えちまえよっ!!」


晶はスロットルとペダルを全力で押し込み、最大速度で落下をし続けた。

だが、その時――

危険察知が発動した。


G3から無数のサマールプラントが、襲い掛かってくる。

背後からも追われており、回避するには強引に軌道を変えるしかない。


「クッ……たの、むっ――」


何とか晶はサマールプラントを回避しようと、機体を傾ける。

僅かに軌道をずらし、晶はG3の頭上付近へと無事に辿りつけた。

だが、同時にコックピット内に青い光が灯る――


ズガンッ!

コックピットが大きく揺れて、ι・ブレードの動きが止まった。

一体、何が起きたというのか?

晶がモニターから確認できたのはG3を前にして、ιが動きを止めてしまった程度にしか過ぎない。


だが、負傷を告げる機械のアナウンスと警告音がコックピット内に響き渡る。


「え――」


同時に、晶の目の前に無数のサマールプラントが襲い掛かってきた――









G3と睨み合ったまま、ゼノスは晶のι・ブレードに全てをかけていた。

いくら重装甲と言えど、ムラクモで頭部を一突きにしてしまえば、その機能を失うはず。

それにはG3の動きをどうしても、拘束する必要があった。

ゼノフラムの装甲であれば、サマールプラントの攻撃を耐え続けることはできる。


だが、それは決して長時間持つわけではない。

G3も何もせずにサマールプラントだけで攻撃を続けているわけではなかった。

何度もゼノフラムを砲撃し、直接腕で殴り掛かったりとし続けていた。

だが、それも乗り越え……ようやくゼノスはG3を捕えたのだ。


「……終わりだ、ガジェロス」


『終わり、だと? 笑わせるな、この程度でG3を拘束したつもりか?』


「例えゼノフラムが破壊されようと、この手を放すつもりはない」


ゼノスは強く、G3を睨み続けながらそう呟いた。


『詰めが甘いぞ、ゼノス……お前らしく、ないな』


「何?」


ゼノフラムはG3の両手を力強く捕えている。

流石のG3でも、ゼノフラムの力をそう簡単に振りほどくことはできない。

サマールプラントで串刺しにしようが、銃で撃ち続けようが

この両手を離さない限りは、動きが抑えられているも同然だ。

おまけに足には足枷のようにブーストハンマーを巻きつけてある。

飛び上がろうともすれば、ブーストハンマーの重さで機体バランスを失う可能性も高い上にリスクは高いが、最悪推進力を使って相手を強引に地上へ呼び戻すことだってできる。


『G3の力……甘く見すぎだ』


バキバキ、と音を立て……ゼノフラムの両腕に異常がきたした。

ゼノフラムの腕がもう長く持たない、そう悟ったゼノスは未だに上空にいる晶の到着を願う。

だが、距離はそう遠くはない。

もうひと踏ん張りで、G3は最期を迎えるはずだった。

その瞬間――ゼノフラムの両手が砕かれた。


『残念だったな、ゼノス……』


G3の両腕が自由になった途端、既に頭上にはιの姿があった。

だが、G3は瞬時に背中の巨大な槍を取り出し……ι・ブレードを貫いた。

ズガンッ! と、鈍い音が響き渡る。

一瞬だけ、時が止まったかのような静けさが訪れた。

その後、無数のサマールプラントがιの元へ集う。


「……晶、返事をしろ。 晶っ!」


間に合わない、そうわかっていながらもゼノスはガトリングを構えた。

だが、既に時は遅かった。

サマールプラントは容赦なく、ι・ブレードに襲い掛かる――


「晶ぁぁっ!!!」


いつも冷静を装っていたゼノスが、取り乱した。

滅多に出すことのない悲痛の叫びが、鮮明に響き渡った――


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