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第6話 奪われた『G3』 ①


第S級汚染区域。

それは、シェルター等の普及が間に合わずにE.B.Bの侵攻が深刻化している地域を指す。

階級はメシアが定めた危険度であり、S~Dまでの5段階で選定されていた。

代表的にあげられるのは旧名でアフリカ大陸と呼ばれていた場所であり、自然に溢れかえっていた地が仇となり

最も多くのE.B.Bが発生し、深刻な被害に遭った地帯であった。


汚染区域にも、メシアの基地といったものは存在しており、E.B.Bの討伐活動は繰り広げられている。

その地に配属されたメシア部隊は、D支部と呼ばれる支部を中心に活動を続けていた。

メシアは他にも世界各地に支部を設けて、活れぞれの管轄地域で活動を行っている。


D支部では、E.B.Bの活動が活発である事から、激しい戦闘行動が繰り返し行われ続けている。

第S級汚染区域では、特に被害が酷く今や一般人がとても住める状態ではない。

そんな中、メシアの技術班が直接現場へ配属されてとあるHAの開発を進めていたことがあった。


第S級汚染区域用に作られた『大量破壊兵器』をコンセプトとした世にも恐ろしいHAだ。

大量破壊というものの、あくまでも対E.B.Bに特化した意味であり、毒ガスや爆発の類ではない。

熱源探知機と呼ばれるものを利用し、付近のE.B.Bを自動的に殲滅する『サマールプラント』と呼ばれる武装が採用されていた。


汚染区域におけるE.B.B討伐活動には、本部からも大きく期待されていた。

『G3(ジースリー)』と名付けられたHAは試作機が完成された時点で稼働実験が行われたが、

その時に悲惨な事件を引き起こしてしまった。


熱源探知機が制御できず、サマールプラントが暴走をしてしまったのだ。

ありとあらゆる『生命体』を鋭いコード状の槍で貫き、多くの人が犠牲となってしまった。

槍はコックピット内のパイロットを突き刺し、残虐な大量殺人兵器へと化してしまったのだ。

その姿はまさしくE.B.Bと酷似しており、人々を恐怖に陥れる結果をなった。


それ以来、G3は開発の中止を余儀なくされてD支部に封印をされていたという。

自然溢れるジャングル地帯では、いくつもの異形が蠢いていた。

獣から植物といったものが、禍々しさを漂わせている。

そんな中、3機のウィッシュがE.B.Bの討伐活動を行っていた。

無駄のない動作で次々とE.B.Bを仕留めていくが、それでも数が減る様子はない。


「状況は?」


「マシにはなりましたけど、まだまだいますよ」


「大型E.B.Bの反応は?」


「この付近にはいないようです、引き続き捜索を続けましょう」


D支部からの部隊である彼らは、汚染区域内での見回りを行っていた。

E.B.Bの状況を確認し、大型E.B.Bが出現していれば仲間を集結させて討伐を行う。

そんな日々を繰り返し送っていた。

いつまでたっても数を減らすことのないE.B.Bとの戦いは、想像を超える厳しさだ。

彼らは日々、この汚染区域で激闘を繰り広げているのであった。


「……ん、なんだこれは?」


隊長機は、ふとレーダーに目をやると突如レーダーがまともに動作しなくなってしまった。


「隊長っ! レーダーに異常を感知しましたっ!」


故障かと思ったが、他の隊員も同じような現象が起きている。

E.B.Bの新たな力だろうか?


「クッ……一度支部へ戻るぞ。 このままでは探索の続行は不可能だ」


「了解しました」


3機のウィッシュは一度支部へ戻ろうと、やむを得ず後退をした。

その時――


バシュンッ! と、ライフルの一撃が一機のウィッシュの動力部を貫いた。


「なっ――」


ズガァァァンッ! 突如、味方機が何者かの一撃を受けて破壊された。

もう一発、銃声が響き渡るとウィッシュが貫かれ倒れる。

何が、起きているのか?

今の銃声は、E.B.Bの仕業とは思えない。

HA……なのだろうか。


「……あれは?」


ふと、モニターから黒い影を確認する。

HAのように見えるが、見たことのないタイプだ。


「こちらD支部、第03部隊だ。 そこのHA、所属を名乗れ」


通信で呼びかけるが反応がない。

一体どこのHAだというのか。

その時、黒いHAがライフルを構えて、発砲した。


「クッ……仕掛けてきた、だと?」


隊長機は辛うじて一撃を避けたが、その後に懐へと飛び込まれる。

ゼロ距離からライフルを放たれて、音もなく倒れ……爆発した。


ギロリ、と黒いHAの背後に赤い光が無数に出現した。

数十機を超えるHAが、そこに集結していたのだ。









D基地支部付近。

E.B.Bの襲撃に備え、厳重な警備がされていた。

外には見張り用のウィッシュが複数機配属されている。

基地内にあるオペレーティングルームでは、汚染区域各地の状況を監視できるようになっていた。


部隊の者が何かしら異常を知らせると、支部全体にサイレンが鳴らされる。

例えば大型E.B.Bの発見等がそれにあたった。

今回もまた、支部全体にサイレンが鳴らされた。


「こちらD支部だ、03部隊、応答しろ」


D支部の司令官が、部隊からの連絡を受けてそう告げる。

第03部隊からの合図だったが、通信で連絡を取ることができない。

まさかE.B.Bにやられてしまったのか、と映像とレーダーを確認しようとした。


送られてきた映像データには、黒いHAの影が映っている。

それに、レーダーに異常が確認され現在どのHAでもまともに使えない状態となっていた。


「03部隊からの応答がない、誰か現場を確認しに行けるか?」


「既に06部隊を向かわせています……通信、入りましたっ!」


『こちら06部隊、未確認HAを確認した。 D支部のものではない、我々に仕掛けてきている、至急応援をよこしてくれ』


「未確認HAだと? まさかこいつが……」


03部隊から渡された黒いHAの映像を確認する。

D支部ではこのようなHAは扱っていない。

かといってメシアのデータベースには、このようなHAは存在しなかった。


ビービービービーッ!

再び、支部全体にサイレンが鳴り響いた。


「どうした、状況を報告しろっ!」


『な、謎の集団が支部内へ潜入っ! ア、アヴェンジャーですっ! 間違いありませんっ!』


「ア、アヴェンジャーだと……? まさか、狙いは『G3』かっ!?」


『お、終わりだ……あれを奴らに渡したら―――』


プツン

突如、通信が途切れてしまった。


「どうした、応答しろ……おいっ! ……総員っ! 格納庫へ迎え、何としてでも奴らを食い止めろっ!」


『こちら04部隊、現在黒ずくめの集団と交戦中。 中にバケモノが一人混じっている……かなり危険だ』


「バケモノだと? まさかE.B.Bも潜入したというのか?」


『違う、明らかに人間だが――』


プツン――

またしても、通信が途切れてしまった。


「一体……何が起きているというのだ?」


状況が理解できずに、司令官はただ混乱するばかりだ。


『こちら01部隊っ! 04部隊が……全滅していますっ!』


「なんだと……殺されたというのか!?」


「お、恐らくは……」


思わず耳を疑った。

支部内では、E.B.Bの襲撃に備えて武装をすることを義務づけられているはずだ。

何十回ともあったE.B.Bとの死闘を繰り広げてきた部隊が、いとも簡単に殺されてしまうことなど考えられなかった。


「……クソッ!」


司令官は成す術もなく、ただ虚しく通信機に向けて拳を振り下ろすだけだった。









D支部内格納庫。

黒ずくめの集団が、まとめてその中へと潜入した。

一人の男が先陣を切り、例のHAへの元へ歩みだす。


「バ、バケモノがっ!!」


バァンッ! と、対E.B.B用ライフルを隊員が放った。

男はバケモノのような右腕をさらけ出し、銃弾を弾き飛ばす。

隊員は、腰を抜かしてただその男に怯えるだけだった。


男の目の前には、巨大な緑色のHAが聳え立っていた。

何十枚にも重ねられた装甲に、ウィッシュよりも一回りも二回りも大きい外観だ。


「コイツで借りは返すぞ……『ι・ブレード』」


黒ずくめのマントの下には、全身に包帯が巻かれた『ガジェロス・G・ジェイロー』の姿があった。

かつて晶のクラスメイトを目の前で虐殺して見せた、あの男だった――















メシア本部内。

10席の椅子だけが用意された殺風景な部屋に、各支部の代表が集められた。

白一色で統一された、とてつもなく気味の悪い部屋だった。

世間を騒がせている『アヴェンジャー』に対する対応方針について、まさに今検討されている最中だ。

本部の方針により、メシアの活動方針が定められる。

ここで、アヴェンジャーに対しての対応が決まれば、それはメシア全体の意志となる。


「アヴェンジャーの非道な活動は現在もなお継続されている。 日に日に活動の過激さは増しており、もはや無視はできないレベルであろう」


「第1にあげられるのは、旧日本列島のシェルター地区襲撃の件だろう。 たかがHA一つの為に、シェルターの住民を犠牲にするのは限度を超えている」


「また、メシアの各支部でもE.B.B討伐による支障が発生しており、被害者が増す一方だ。

D支部の『G3』も奪われてしまった以上、このまま野放しにすることはできん」


各支部の代表が集まり、それぞれアヴェンジャーに対する意見を述べていた。

全員の意見はほぼ合致しており、アヴェンジャーの行為がいかに非道なものであるかを認識させた。


「君達、待ちたまえ」


突如、初老の男が会議の場へと姿を現す。

赤い瞳に白髪で白衣を纏った長身の男、世界で知らぬ者はほとんどいない。

かの天才科学者、アッシュベル・ランダーだ。


「貴様、どうやってここへ侵入した?」


「アッシュベル・ランダー、メシア内において君はただの技術者だぞ。 こんなところまで足を運ぶとは何事だね?」


「また世界の革新をここで宣言するか? アッシュベルよ」


「ふ、貴様らのような凡人には私の思想は理解できぬだろう……だが、私はそんなことを告げにわざわざこの場へ訪れたわけではない」


無表情で代表達に非難されようが、アッシュベルは一切怯まなかった。


「……聞こう」


「うむ、是非心して聞け。 確かにアヴェンジャーの行為は目に余る……非人道的であり、もはや完全な『テロリスト』だ。

だが、元々彼らは我々メシアから兵器を取り上げているのが何故か? 彼らが我々の技術を求める理由がわかるかね?」


「彼らにはE.B.Bと戦う意思はない。 考えられるとすれば、我々と争うことを考えているようにしか思えん」


「その通りだ、でなければ兵器を集め続ける理由が不明確すぎる。 自衛の為であれば、あそこまで過激な行動はとらないだろう」


アッシュベルは各代表の意見を耳にして、うむうむと頷き続ける。


「なるほど、凡人にしてはいい線ではある。 だが、そもそも人類を守っているはずの我々が何故兵器を奪われるのか? 疑問に思わないかね?」


「それはメシアの技術力がほしいだけだろう、HAの技術に関しては事実上独占状態にある」


「うむ。 そう、私が言いたいのはそれだ。 彼らは、我々が技術を独占しているのが気に入らないのだよ」


「どういうことだ?」


「何故我々がHAの技術を握っていることが気に入らないと?」


ニヤリとアッシュベルは笑みを浮かべた。

予想通りの反応すぎて、思わず甲高い笑いをあげたくなるほどだ。


「我々が不必要に力を持ちすぎているのだよ、各国では最近HAの開発ペースが急速に早まっている、技術面の進歩は素晴らしいとしか言えないがね。

だが、現状を考えればE.B.Bを討伐するにはウィッシュレベルで間に合っているはずだ。

なのに、人は技術を求め上を目指したがる……その結果、必要以上にHAが生み出されてしまっているのだよ。

例えば『G3』はいい例だろう、あれは行き過ぎた我々の技術によって最悪の殺人マシーンへと化けてしまったのだよ、諸君」


「何が言いたい、アッシュベル」


「我々が道を誤っていると言いたいのだよ、このままアヴェンジャーと交戦状態に入れば確実に『G3』のような兵器が生み出されてしまう。

勿論それはアヴェンジャーの奴らにも言えるだろう……お互いの技術力を出し合い、力尽きるまでHA同士で戦い続ける……それは我々にとっては、不本意なことではないか?」


「しかし奴らを野放しにはできん、策があるというのか?」


「我々が兵器を放棄する……もしくは、圧倒的な力でアヴェンジャーを掃討するしか手はないと言っているのだよ」


「バカな、メシアがHAを手放すなど有り得ない。 世界中のE.B.Bは誰が討伐すると?」


「勿論、現状を考えればそれは不可能だ。 だからこそ、私自身はアヴェンジャーを徹底的に叩き潰すことに関しては同意なのだよ。

だが、忘れないでほしい……我々のHAは決して人類同士で争う為に開発されたものではない、世界の為に、『希望』となるべく立ち上がったのだから」


「……貴様の告げたいことはよくわかった、もう出て行け」


「フフッ、私の話に耳を傾けてもらえたのは感謝しよう。 では、私も忙しい身でな。 失礼するとしよう」


不気味な笑いを浮かべながら、アッシュベルは静かにその場を去っていく。


「行き過ぎた技術は自らを滅ぼす、メシアの無能共はそれを理解しているのかね?」


アッシュベルは静かに、そう呟いた。












砂漠地帯で起きた大規模なE.B.B討伐から一週間近くが経過した。

フリーアイゼンの修理により、予定以上に基地へと滞在してしまったがようやく出航できた。

襲撃してきたレブルペインについては、既に艦長を通じて本部へと通達された。

どうやらレブルペインは世界各地にその姿を現したようだ。

同時期に、各支部が謎のHAによる襲撃を受けたと報告が絶えない。


フリーアイゼンは引き続き、遊撃部隊として活動を続ける。

次なる目的地は、日本地区の近くにある『メシア避難区域』だ。

晶や木葉のように故郷を失った者は、避難区域へ移住する権利を持つことができる。

メシアを通じれば手続きは簡単に済むので、移住には苦労することはない。

基本的に行動の自由を許されているフリーアイゼンだからこそ、避難区域へ人を運ぶ行為が許されているのだ。


だが、実際木葉は避難区域へ移住する事よりも艦内へ残る意志が強い。

今でも必死で入隊へ向けた勉強を艦内で続けていた。

晶もまた、パイロットとして日々厳しい訓練を耐え続けている。


「木葉、いるか?」


「あ、晶くん?」


少しだけ休憩時間をもらえた晶は、数日ぶりに木葉の元へ訪れた。

自室で山積みにされた資料に囲まれて、木葉は一生懸命勉強をしている。


「大丈夫、なのか?」


「うん、シラナギさんが資格とっちゃえばこっちのもんだって言ってたの。

だから今、メシア部隊向けの資格試験を受ける為に勉強しているの」


「た、大変だな……俺なんてこんな試験受けなかったのに」


「ううん、そんなことないよ。 晶くんは命をかけて戦っているけれど、私は違うから」


「でも一緒に戦ってくれんだろ、頑張ろうな」


「う、うん……頑張る」


木葉は顔を赤くさせながらそう呟いた。

色々と不安はあったが、木葉も新たな目標の為に頑張っている姿を見るとほっとする。

その時、晶の携帯が鳴った。


「はい」


『俺だ、すぐにブリッジへ来い』


「ど、どうしたんですか?」


電話の先はゼノスだった。

声からして緊迫した様子が伝わってくる。

まさかE.B.Bの襲撃があったのだろうか?

それとも、アヴェンジャー絡みか。


『詳しくはブリッジで話す、今はとにかく来てくれ』


「わ、わかりました」


ゼノスはそう告げると、通信を切った。


「お仕事?」


「あ、うん。 わかんねーけどさ、何か呼び出されたみたいで」


「応援してる、頑張ってね」


「ああ、木葉もその……頑張れ、よ」


晶は照れくさそうにそう告げると、急ぎ足でブリッジルームへと向かっていった――

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