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    アヴェンジャー ③

広大な夜の砂漠に向けて、晶はι・ブレードを発進させた。

レーダーで確認したウィッシュは、フリーアイゼンの目前にまで迫っている。

一体何が目的なのか、本当にアヴェンジャーの一員なのか?


『晶、異常はないか? すぐに俺達も出撃する、そのまま待機していろ』


「……了解」


コックピットの中で、スロットルを強く握りしめたまま、晶は額に汗を垂らす。


『見つけたぜぇ……ι・ブレードっ!』


突如、聞き覚えのある声が通信機から聞こえた。

この声は、まさか――


ズキンッ――


その途端、晶は頭痛に襲われた。

危険察知が働いたのだろう、目の前にはライフルを構えたウィッシュがι・ブレードに向けて発砲してくる映像が見える。


「やっぱり、仕掛けてくるのかよっ!」


晶はスロットルを押し込み、機体を大きく前進させる。

ギュンッと高く跳躍すると、迫ってくるウィッシュを飛び越して背後へと着地をした。


連続して、晶に頭痛が襲い掛かる。

着地した途端に、ウィッシュが180度回転してライフルを発砲させる映像だ。

そう簡単に背後を取ることはできない、だが危険察知に頼れば反撃チャンスはいくらでもあるはず。


今日の訓練内容を思い出し、晶は冷静に状況を分析した。

映像が終わった途端、晶は即座に左方向へ機体を移動させる。

以前のようにバーニアを噴かせすぎる失敗を、今回はしなかった。

こんなにも早く訓練の効果が出ているというのだろうか。

しかし、実感をしている場合ではない。

晶は即座にブラックホークを装着し、ウィッシュへと向けて発砲させた。


バンッ!


強い衝撃がコックピットに伝わると、再び晶に頭痛が襲い掛かった。

今後はグレネードが投げられ、周囲が砂埃に覆われて視界が奪われている。

その背後に、ウィッシュがロングサーベルでι・ブレードの背後を切り裂こうとしていた。


以前にも似たような手を使われたことがある、まさか同じパイロットでは?

しかし、何かが違うと晶は感じ取っていた。

映像の通り、ブラックホークの弾はいとも簡単に避けられ即座にグレネードが投げ込まれる。

急いで後退ものの、爆発から遠ざかることはできずに周囲の視界が奪われてしまった。


『いいねぇ……いいねぇっ! 本当にお前、ビリッケツちゃんかぁ?』


「ビリッケ……ツ……?」


聞き覚えのあるこの声。

そして、告げられた一言。

まさか、本当に――


いや、今は考えるな。

晶は背後からやってくるであろう、ウィッシュを待ち構える。

ムラクモを構えて、姿を現した瞬間に斬ってみせる。

大丈夫だ、できるはずだ。

晶はそう自分に言い聞かせた。


再度、晶に頭痛が襲い掛かった。

何度目だ、まだ戦いが始まってから数分経過していないというのに。

おまけに敵はまだ姿すら現していなかった。

これは一体どういうことなのか、今まで危険察知は例外なく映像通りの出来事が発生したというのに。

まさか直前に、相手が行動を変更したとでもいうのだろうか?


しかし、映し出されたのは、ほぼ同じだった。

砂埃の中、背後に出現したウィッシュがι・ブレードを切り裂く映像だ。


『何だお前、俺の事見えてんのか?』


「……っ!」


この時、晶は気づいた。

間違いない、相手が直前で行動を変えたんだ。

だから、危険察知が二度も連続で働いた。


迂闊に先読みをしては相手に気づかれてしまう、そうすると危険察知が無効化されてしまうのだろう。

ならば、本当に直前まで動かない以外方法はない。

晶の反応速度で、そこまで対処することができるのか?

だが、やるしかない。


危険察知の映像通りの結果が導き出されるのは、そう遠い未来ではない。

ならば、少しだけ反応を遅らせるだけで大丈夫なはずだ。

熟練のパイロットであれば、HAの駆動音等で判断はできるかもしれない。

しかし、今の晶にはとてもじゃないがそんなことはできなかった。

頼れるのは、『危険察知』しかないのだ。


「今だ――」


タイミングを計って、振り向いた瞬間……

再び、危険察知が働いた。

また、タイミングが早すぎたのか?

これではきりがない、晶は一旦機体を前進させようとスロットルを思い切り押し込んだ。


その途端――

ふと、コックピット内が青く点滅した。

以前にもみたこの青い光。

これは、一体――


ズガンッ!


突如、コックピットが大きく揺れた。


「うわぁっ!?」


何だ、何が起きたというのか?


『左腕、被弾しました。 左腕、被弾しました』


「被弾……だって?」


そんな馬鹿な。

晶は機械のアナウンスを聞いて、驚きを隠せなかった。

先程の危険察知の映像では、ウィッシュが何度も何度も斬りつける映像ばかりが繰り返されたというのに。

予想が……外れた?


『晶、どうした? 応答しろ』


「……」


通信機から聞こえるゼノスの声に、反応を示さなかった。

それよりも、今ここで起きた事実にただ呆然とするだけだったのだ。


『ようやく、捕まえたぜぇ……しっかしなんてHA乗ってんだお前……なんで傷一つついてねぇんだよ?』


「……白柳 俊?」


その声を聞く度に、晶の推測は確信へと変化した。

あの男なら、クラスメイトを置き去りにして一人で生き残るなんて、平然とやってのけるに違いない。

……何故、今になって目の前に姿を現したのか。


『おお? 覚えててくれた? どうだ、今猛烈に楽しくねぇか? かつてのビリッケツと成績トップが、こうやってHA同士で戦うなんてよ?』


「……クラスメイトは、竜彦は死んだんだぞ……お前はどうして生きてんだよ、皆を助けなかったのかっ!?」


晶は、感情的になって俊に向かって叫んだ。

もし、見捨てたというのなら

絶対に……許せない――


『ああ? ちげぇよ、俺が待てっつってんのに全員勝手に出撃しやがった。 ったく、命知らずが多いよな。

特に竜彦何てあいつら助ける為にわざわざ追いかけやがったんだ……バカヤロウだよ、命を投げ出したんだぜあいつ?』


「竜彦を、侮辱するなっ!!」


怒り任せに、晶は強くスロットルを押し込んだ。

ウィッシュに向けてムラクモを、無我夢中に振り回した。

こいつは、仲間を見捨てたんだ。

見捨てるどころか、竜彦の事まで侮辱をした。

絶対に、許すわけにはいかない。

気が付いたら晶は、怒りに捕らわれて我を忘れていた。


『侮辱してねーっつーの、ったくめんどくせー奴だな』


晶はウィッシュの姿を捕え、力任せにムラクモを振り回す。

だが、ウィッシュはギュンッと駆動音を立てて視界から姿を消した。


同時に、危険察知が発動した。

ι・ブレードの背後から、大振りでロングサーベルを振り下ろすウィッシュの姿があった。

これなら反撃は可能だ、晶は迷わず機体を反転させる。


「そこだぁぁっ!!」


映像を頼りに、晶は力任せにムラクモを振り回した。

だが、再びコックピットが青く点滅する。

その途端、ウィッシュは背を低くしてロングサーベルを脚部へ向けて振り下ろしていた。。


ズガァンッ!


先程よりも、より大きい振動がコックピット内に伝わった。


『脚部損傷率20%、脚部損傷率20%、戦闘継続可能です』


「ま、また……?」


またしても、危険察知が発動しなかった。

今のウィッシュの動きは、明らかに映像の時とは異なっている。

一体何が起きているのか、理解できなかった。


『おいおいどうしたぁ? さっきより動きが鈍くなってんじゃねぇか?

にしてもかってぇな、おい。 ウィッシュだったら脚ぶっ壊れてもおかしくねーだろ、これ』


「……どうして、だ?」


あの時確かに、危険察知は発動したはずなのに。

予想が外れることが、あるというのか?

それともまた、別の原因があるというのか?


『晶、おい晶っ!』


「……なんで、だよっ!」


ゼノスの通信を無視して、晶はスロットルを強く押し込んだ。

あんな奴に……負けたくない。

竜彦を侮辱した奴に、絶対に負けたくない――


「許せないんだ……あいつは親友を侮辱しやがったんだ……頼む、力を貸してくれよっ!」


晶が力強く叫ぶと、ふとコックピットに赤い光が灯る。


「次こそ脚をへし折ってやるぜぇ、ι・ブレードぉっ!」


ロングサーベルを構え、ウィッシュが最大速度で迫ってくる。

晶も負けまいと、力強くスロットルを限界まで押し込んだ。


「行けよ、ι・ブレードぉぉっ!!」


コックピット内の赤い光が、更に強い輝きを示した。


ガキィンッ!


目の前で、ウィッシュのロングサーベルが動きを止めた。

何処かで見た赤色の光……あの時の、フィールドだ。


『な、何だぁ? この光―ー』


「今だっ!」


フィールドが解除された途端、ι・ブレードは両手でムラクモを振り下ろした。


バキィンッ!


鈍い金属音と共に、ウィッシュの右腕とロングサーベルが宙へと舞う。

やった――

その時、晶は勝利を確信した。


だが……

同時に、コックピット内が青く灯った。

相手のウィッシュの左腕に、ロングサーベルが握られている。


晶はそれに気づき、必死でスロットルを戻して後退しようとした。

だが、相手のほうが早い。

晶がスロットルを握るよりも早く、動き出していたのだ。


ガタァンッ!

更なる衝撃が、コックピット内を襲い掛かった。


『損傷率40% 損傷率40% 自己修復機能、作動中』


アナウンスが虚しくも、機体が損傷を受けたことを知らせていた。


「な、何なんだよ……何者だよ、あいつ――」


ι・ブレードに搭乗しているというのに、まるで歯が立たない。

やっとの思いで腕1本を取ったというのに、思わぬ反撃を受けてしまう始末だ。


おまけに、何故か危険察知が働かない事態まで起きてしまっている。

……実力が、違いすぎるのか。

晶は、ただ悔しくてスロットルを強く握りしめるだけだった。


「まだ、戦いは終わってねぇよ……腕の1本とったぐらいで図に乗ってんじゃねぇぞ?

さっさとιを降りちまえよ、ビリッケツちゃんよぉっ!」


相手は、腕を一本失っても戦意を喪失することはなかった。

勇敢なのか、無謀なのか。

再びι・ブレードへと迫ってきた。


あんな奴に、勝てるのか?

こんな実力で……勝てる、のか?

晶は次第に、戦意を失っていった。

手が震えだし、迫りくる一機のHAにただ恐怖する。


『動きが鈍くなったな、ιぁっ! 面白くねぇぞ……もっと楽しませろよ、最高に楽しいゲームしてんじゃねぇか俺達よぉ?

なぁ、もっと楽しくさせろよ……何とかいえよ、ビリッケツっ!』


再び、頭痛が襲い掛かる。

迫りくるウィッシュが、ライフルを片手に何度も何度も発砲を繰り返してきた。

映像を頼りに、晶は必死でスロットルを動かす。

だが、再びコックピット内が青く灯った。


弾を辛うじて何発か避けることはできたが、一発だけ被弾をしてしまう。

……最後の一発だけ、映像とは明らかに違っていた。

何故だ、何故危険察知が外れてしまう?

一体、どうすれば――


『さっさとくたばっちまえよ、ι・ブレードっ!!』


ウィッシュが空高く舞い、ロングソードを片手に襲い掛かってきた。

またしても、危険察知が発動しない。

晶は、混乱したまま反応することができなかった。

そのまま呆然と立ち、ウィッシュが到着するのをただ黙ってみていることしかできなかった――


バァンッ!


突如、銃声が響いた。

その途端、降下を続けていたウィッシュは吹き飛ばされた。


「ハッ――」


我を取り戻した晶は、レーダーを確認する。

味方を識別するマークが2機……?


『……無事だったか、晶』


「ゼノス……さん?」


通信越しから、ゼノスの声が聞こえた。

レーダーを頼りに機体を確認すると、そこには赤いウィッシュと黄色いウィッシュの2機が土煙をあげながら向かってきていた。


『何も反応を示さないからやられたかと思ったじゃないか、あまりアタシを心配させんじゃないぞ?』


『……捕えるぞ、シリア』


『ああ、任せろっ!』


晶が呆然と立ち尽くす中、2機のウィッシュは敵機へと向かっていく。


『チッ……流石に3対1は厳しいな、クソッ。 続きはまた今度な、ビリッケツ。

……次はもうちと、楽しませろよな?』


俊は晶にそう言い残すと、全速力でフリーアイゼンから離れて行った。


『あちゃー……逃げられたか』


『深追いはするな。 全機、直ちに帰還しろ』


『了解っ』


どうして、危険察知が発動しなかったのか。

単純に機械の故障とは思えない、少なくともιシステムは正常に稼働していた。

相手が予想と違う動きをした?

しかし、そうであればあの時のようにもう一度危険察知が作動するはずだ。

だとすれば……『危険察知』が、追いつかなかったのだろうか?


『晶、聞こえたか』


「……あ、ああ」


晶は力なく、ゼノスの通信にそう答える。


『白柳 俊』……竜彦も教師も、腕は本物だと認めていた。


まさか、ここまで実力差があったとは。

晶はただ、悔しかった。

自分の腕のなさで、ιを傷つけてしまった事。

あれだけの性能差がありながらも、自身が負けそうになってしまったことが。


いや、もはや敗北と思ってもいい。

それだけ、相手の力量は晶を遥かに上回っていたのだから。


「クッ……」


静かにスロットルを握りしめ、晶はフリーアイゼンへと帰還をした――














戦闘を終えた後、格納庫へ戻ると晶はゼノスに呼び出された。

いつも無表情であるゼノスではあるが、この時の顔はいつもと違う。

鋭い目で、晶を睨み付けていた。


「HAと交戦状態になった件については咎めるつもりはない、だが……何故、通信を返さなかった」


「……」


「答えるんだ」


「……あのウィッシュには、俺のクラスメイトが乗っていたんだ」


あの時、晶はウィッシュのパイロットに気づいてしまい、結果的にゼノスの通信を無視してしまっていた。

ただ混乱すると同時に、怒りを覚えて……無我夢中だった。

その言葉を聞いて、ゼノスは表情を一変させた。


「やはり、お前の知り合いだったのか」


「ああ……成績が一番優秀な奴で……一番大嫌いな奴、だ」


俯きながら、晶はそう呟く。

今思い返しても実に腹立たしい。

試験の度に毎度遅れている癖に、いつも成績は1位を収めていた。

更には晶の事をビリッケツとバカにしていたことも。

そしてあの時、死んでいったクラスメイト……そして竜彦の事を侮辱したのが、許せなかった。


「奴は何故、お前を狙った?」


「……多分、ι・ブレードを狙ってた。 はっきりとした目的はわからないけど、俺との戦いを楽しんでるようにも……見えたんだ」


「ι・ブレードの事を、知っていたんだな?」


晶は無言で、頷いた。


「……恐らく、奴は『アヴェンジャー』の一員だ」


「なっ――」


「今のところ『ι・ブレード』の存在を知るのはメシアの一部とフリーアイゼン部隊の俺達、そしてアヴェンジャーの奴らだけだ。

あくまでも可能性の話だが、フリーアイゼンの位置を特定したことから……可能性としては十分高い」


晶は、言葉を失った。

まさか……どうして?

あいつらは故郷を襲った張本人だというのに。


「なんで、だよ。 なんであいつは、『アヴェンジャー』に?

あいつ、自分達の故郷潰されて何とも思わないのかよっ!?」


「奴らの目的は一切不明だ……だが、必要以上にι・ブレードを奪取しようとしている。

……俺たちはいずれ、奴らと戦わなければならん」


「……クソッ、クソッ! どうしてだ……どうして、なんだよ」


晶は、悔しかった。

ι・ブレードに搭乗しても、歯が立たなかったことが。

親友を侮辱されたのに、敗北してしまった自分を。

何よりも、自らの故障を壊した『アヴェンジャー』の一員となった奴に、負けてしまったことが許せなかった。


「今日は寝ろ、明日に備えるんだ」


ゼノスは無言で、その場を立ち去った。

晶は俯いたまま、拳を強く握りしめる。

誰もいない場所で、ただ悔しくてその場で涙した。

親友を侮辱され、無様にも負けた。

その現実を、認めたくなかった――


拍手にてフリーアイゼンがどうやって空飛んでいるんだろう的なコメントがあったので、この場で補足させていただきます。(描写の仕方も悪く、飛んでいることに気づかなかった方も多いかと思われますが……)


まずはロケットの打ち上げのように、莫大なエネルギーを噴射させて艦全体を浮かせます。

その時に動力源であるエターナルブライトが、特殊なフィールドを展開します。

フィールドが展開されている間、上にある物体を上昇させる力の向きが発生し

結果的に巨体な戦艦を浮かせることが出来ます。


また、力場の大きさによって高度の調整が可能で、

大きくすれば力が増して戦艦は上昇し、小さくすれば下降します。

下降しすぎると上昇が難しくなり、一度着陸してもう一度打ち上げなおす必要があるため、この作業の担当である航海士は、非常に神経を使う役割となっております。


一応こんな感じの設定にしてあります。

また、拍手での感想ありがとうございました。

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