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     プロジェクト始動 ③


突如姿を現し、晶の前に立ちはだかるクライディア。

ただでさえ戦力が不足していると言うのに、こんなところで足止めを食らうわけには行かない。

かといって、クライディアを無視したまま作戦が遂行できるかと言えば、それこそ不可能に近いと言える。

ι・ブレードに負けない機動力を誇るクライディアから逃れるのは難しい。

俊の事だ、どれだけ逃げようともしつこく追ってくるはずだ。


『テメェがここに来るのはわかっていた、プロジェクト:エターナルを止める為に必ずやってくるはずだってな』


「俺達の目的を知っていたのか?」


『んな事はどうでもいいんだよ。 俺の目的はただ一つ、テメェとι・ブレードをこの手でぶちのめしてやりてぇだけだ』


「そこを退けっ! 俺達が行かなければ、世界は―――」


『世界がどうなろうが知ったこっちゃねぇっつってんだろうがっ! こんな状況だからこそ、戦いってもんを楽しもうじゃねぇかビリッケツゥゥゥッ!!!』


俊は聞く耳を持たなかった。

ただひたすら猛攻を繰り返し、晶はムラクモでギリギリ受け止めるだけで精一杯だった。

しかし、何処か違和感がある。

俊が以前のように、復讐心を剥き出していない事だ。

今目の前にいる俊は、かつてアヴェンジャーとして立ちはだかった俊に戻っている。

つまり、ただ純粋に戦いを楽しもうとしているだけにすぎなかったのだ。

どちらにせよ、今の晶にとっては『敵』である事には変わりはない。


―――戦って、勝つしかない。

晶は腹を括って、俊と戦う事を決意した。

バァンッ! すると、背後から銃声が響き渡る。

遅れてやってきた2機のブレイアス(ウィン)が援護に駆けつけてくれた。


『晶、無事かっ!?』


『厄介なのが現れたわね……3人で一気に叩き込むわよ』


シリアとラティアは晶にそう通信を送るが、晶は頷かなかった。

ここで3機も足止めを食らってしまえば作戦に支障が出てしまう。

フリーアイゼンの進路を確保する為に、出来る限り敵の注意を引き付けなければならないのだ。


「――いや、俺一人でやる」


『お、おい晶っ!?』


『やれるというのね?』


シリアが素っ頓狂な声を上げると、ラティアは冷静に晶にそう尋ねた。


「あいつは俺との戦いを望んでいます。 それに、こんなところで3機も足止めを食らっていては作戦に支障が出てしまうかもしれません。

だったた、俺が一人でアイツを引き受けます」


『わかったわ、その代わりすぐに追いつきなさいよ』


『……なら、ここは晶に任せるよ』


2機のブレイアス(ウィン)は飛行形態へと変形すると、その先へと猛スピードで飛び立っていく。

以前より俊の駆るHAを相手にしていた時は、いつも仲間の援護を受けて助けられていた。

だが、今度こそもう助けは期待できない。

自らの実力だけで、相手を打ち負かすしかない状況へと追い込まれてしまう。


『わかってるじゃねぇか、ビリッケツ。 やっぱケンカは、タイマンじゃねぇとなぁっ!?』


次の瞬間、クライディアがι・ブレードの懐へと飛び込んでくる。

辛うじて反応できた晶は、ムラクモで重い一撃を受け止めた。

危険察知で映像が見えていると言えど、一歩でも反応が遅れてしまえば爪の餌食となってしまう。


『さあ、最後まで楽しもうぜ……命を懸けた最高にスリルな戦いって奴をよぉっ!!』


「お前なんかに、お前なんかに負けるかァァァッ!」


決死の覚悟で晶は、クライディアへと立ち向かっていく。

幾度となく繰り返されてきた二人の決闘が今、始まった。









激しく銃声が鳴り響く中、2機のブレイアス(ウィン)が敵陣の中を飛び交う。

シリアはいつにもまして真剣な表情で操縦桿を握りしめていた。

ついにメシア本部と交戦状態に入った。

もはや引き返す事は出来ない、このままひたすら前へ突き進むしかない。

敵HAの数は尋常ではなく、一機ずつ確実に仕留めてもその数が減るどころか増えていく一方だった。

ι・ブレードが合流していたと言えど、あまり状況は変わらなかったかもしれない。

だが、少しでもフリーアイゼンの進路を確保する為に二人は必死で戦い続ける。

無理だとわかっていても、立ち向かうしかないのだから。


「チッ、たかがアイゼン級一隻にここまでするかッ!? 何て数だよこいつらっ!」


『こっちも生半可な覚悟で戦っているわけではないわ、フリーアイゼンの意地って奴を見せてやるわよ』


「ヘヘッ、言われなくてもっ!」


シリアは機体を急上昇させて、空高く突き進んでいく。

ブレイアスの部隊が整列してライフルを構えた瞬間、バァンッ! と数発の銃声が響き、HAが次々と大破していった。

人型へと変形したラティアのブレイアス(ウィン)による援護射撃だった。

上昇しきったところでシリアも機体を変形させて、ライフルを構えようとすると――猛スピードで量産型のι・ブレードが迫り来る。

迎え撃とうと両手にサーベルを取り斬りかかると、量産型ι・ブレードは一撃を回避し、一瞬でシリア機の背後を取った。


「こんのぉぉっ!!」


だが、シリアはサーベルを振り切らずに即座に背後へと振り向きサーベルで敵を薙ぎ払う。

しかし、驚異の装甲すら再現した量産型ι・ブレードは傷一つつくことなくただ吹き飛ばされていくだけだった。

追撃でライフルを数発撃ち込んでも、よろけるだけでどれも決定打とはならない。


「姉貴ッ!」


『ええ、わかってるわっ!』


シリアの合図を確認すると、ラティア機は飛行形態へと変形し上昇し始める。

そのままシリアはラティアと合流すると、即座にドッキングを行った。

すると、周囲にブレイアスの部隊が展開され、完全に包囲されてしまう。


「邪魔だ、どけぇぇぇっ!」


両手にサーベルを握りしめたまま、ブレイアス(ウィン)は強引に敵機のブレイアスを切り裂いていき、包囲網から抜け出す。

そしてそれを待ち構えていたかのように、先程の量産型ι・ブレードがロングレンジキャノンを構えながら待ち構えていた。

シリアは死角へ飛び込もうと、機体を急降下させて斬りかかろうとすると、量産型ι・ブレードはシリアの行く先に目掛けてロングレンジキャノンを発射させる。


「クソッ!」


間一髪で機体を急上昇させ、何とかロングレンジキャノンを避けきるとシリアは量産型ι・ブレードの背後へと回り込み、ライフルを構えた。


「姉貴、頼むッ!」


『一撃で仕留めるわ』


バシュゥゥンッ! ライフルから赤き閃光が走り、量産型ι・ブレードを貫いていく。

抵抗なく量産型ι・ブレードは激しい爆発と共に海の底へと沈んでいった。

いくらι・ブレードと言えど、圧縮砲を利用したライフルには敵わなかった。


「サンキュー姉貴ッ!」


『一旦分離させるわよ』


量産型ι・ブレードが大破していったのを確認すると、ブレイアス(ウィン)は一度分離をして別行動を取る。

背後には既にフリーアイゼンが合流しており、潜入ポイントへと向けて突き進んでいた。

周囲のHA部隊がフリーアイゼンを集中的に攻撃している。

あのままではポイントへ到達するまで持ちそうにない―――

少しでも敵の数を減らそうと、二人はフリーアイゼンの周辺に付き纏うHA部隊を迎撃しに行った。








ガキィン、ガキィンッ! ι・ブレードとクライディアの激しい攻防が繰り返されていた。

ひたすら懐へ飛び込まれて、ギリギリのタイミングで受け止める。

その隙を突かれて死角へと回り込まれの繰り返しと、クライディアの猛攻は止まらない。

いつまでも守りに回っていては、いつかはやられてしまう。

何とか反撃の糸口を掴もうと、晶は必死だった。


『どうしたビリッケツ、テメェの力はそんなもんじゃねぇはずだ。 見せてみろよ……テメェの本気って奴をなぁッ!!』


「もうやめろッ! こんな戦いに何の意味がある? こうしている間にも世界は今―――」


『意味がねぇだ? テメェは俺と戦う理由があるはずだ……テメェの親父を殺したこの俺となぁっ!!』


「確かに俺はお前に親父を殺された。 だけど、俺もお前の家族……シラナギさんを殺してしまったのも事実だ。

こんな不毛な争い、もうたくさんだっ! やられたからやり返す、奪われたから奪い返す……こんな事をしても、誰も救われるはずがないっ!」


『ゴチャゴチャぬかすんじゃねぇっ! テメェはただ、俺と戦えばいい。 どちらかがくたばるまで、永遠になぁっ!!』


クライディアは再びレイジングクローで仕掛ける。

晶はただムラクモで一撃を受け止めるだけで精一杯だった。


「俺は、こんなところでは死ねない……この先には木葉が待っているんだ、俺の助けを……待っているんだッ!!」


『そんなに死にたくなけりゃ戦えよ、テメェ自身を守る為に。 戦う理由としては、十分すぎるだろうがっ!』


俊の叫びが耳に飛び込むと同時に、ι・ブレードの目の前にグレネードが投げ込まれる。

咄嗟に退避した晶は、危険察知のおかげで爆発に巻き込まれずに済んだが、周囲は爆炎に包まれて何も見えない。

やはり、聞く耳を持たない俊を黙らせるには……戦いに勝つしかない。

だが、俊もアッシュベルによって人生を狂わされた被害者の一人だ。

本当にこのまま戦い続けてもいいのかと、晶の中には迷いが生じ続けていた。


煙に包まれた中、ズキンッと頭痛が起きると同時にクライディアの動きが頭の中に映し出される。

危険察知がある以上、煙に包まれた状態は決して不利ではないはずだ。

晶は動きを見切り、ブラックホークで迎撃しようと構える。

クライディアが姿を見せると同時にブラックホークを放つと、クライディアは直前になって急上昇をして弾丸を回避した。


『なぁ聞かせろよ、テメェは何でソイツに乗ったんだ? それはテメェが戦いを望んだからじゃねぇのか?

相手がHAだろうがE.B.Bだろうが関係ねぇ、テメェが気に入らない相手をぶちのめす力が欲しかったんだろ?』


「……俺は、戦いを望んだわけではない」


『なら、テメェは何の為に戦っているんだ?』


俊の言葉で、晶はふとι・ブレードを前にした事を思い返す。

ゼノスに守られながら決断を迫られたあの時、晶は何を思ってι・ブレードに乗ったのか。

当時晶は、クラスで落ちこぼれだった。

成績はいつも最下位で毎度補修を受け続け、緊急事態ですらも担任から出撃を許可されずに一般生徒と逃げ惑っていた。

そんな自分の前に突如姿を現したのは、父親が用意したι・ブレードだったのだ。

アヴェンジャーにι・ブレードは渡さないと、必死になってコックピットへ向かって走ったあの時。

こんな自分にも、何かを守れるかもしれないと思っていた。


「――守る、為だ」


晶は口から自然と、その言葉が零れる。


―― 俺の分まで、木葉の事を頼んだぞ。 約束だぞ、晶 ――


ι・ブレードに乗ったあの日、親友から託された言葉を思い返しながら。

始めはただの復讐だったかもしれない。

親友の命を奪ったアヴェンジャーを許せずに、俊と同じように復讐心で戦っていた。

だけど、今は違うとはっきり言える。

ι・ブレードに乗ってここまで戦えたのは、ただの復讐心ではない。

父親から託された『力』と親友から託された『願い』、そして自身が秘めていた『想い』であった。

その瞬間、コックピット内が白い輝きに包まれ始める。

ι・ブレードのコアが晶と共鳴反応を引き起こし、ラストコードが無意識のうちに起動されていた。


「こんな俺でも、何かを守れると思ったから……守りたいモノを守れると信じたから、俺は戦い続けたッ!」


『……くだらねぇ、他人の為の戦いに何の意味がある? 戦いってのは、自分の強さの証明にしかすぎねぇだろうがっ!』


「自分の事しか頭にないお前に、わかってたまるかぁぁっ!!」


晶はブラックホークを構えて、ひたすら乱射し続ける。

素早い動きで器用に弾を避け、クライディアは徐々に距離を詰めていく。

ムラクモを構えて晶は全神経を集中させた。

ι・ブレードを通じて伝わってくる俊の動きを捉えようと、静かに待ち構える。

すると、ι・ブレードの背後にクライディアが回り込んだ。


「そこだ―――」


『甘ぇんだよッ!!』


ι・ブレードが振り返った瞬間、斬りかかると見せかけたクライディアから近距離で無数のミサイルが発射された。

咄嗟の行動に回避が間に合わず、止むを得ず晶はι・フィールドを展開して一撃を凌いだ。

ミサイルの爆炎でクライディアを見失ってしまい、一度距離を取ろうと煙から脱出を計ろうとすると

正面からクライディアが姿を現し、レイジングクローでι・ブレードの右肩が掴まれてしまった。

ミシミシミシッと爪が右肩にめり込まれていく。


『おっと、右腕だけじゃすまさねぇぜ……次はその頭をぶち壊してやるよ』


クライディアは今度は左腕でι・ブレードのヘッド部を掴もうと手を伸ばす。


「やらせるかよっ!!」


咄嗟にι・ブレードは左手にブラックホークを持ちだし、クライディアのヘッド部へと突きつけて放った。

バリィィンッ! 鈍い金属音と共に、怪しく輝くクライディアの赤いレンズが砕け散る。

メインカメラを破壊した影響か、僅かにι・ブレードを拘束するレイジングクローの力が緩んだ。

その隙を狙い晶はι・ブレードを前進させて、体当たりを仕掛ける。

抵抗なくクライディアが吹き飛ばされ、ようやく解放されたが、ι・ブレードはそのまま速度を緩めず、拳を握りしめクライディアへと殴り掛かった。


『やるじゃねぇか、ビリッケツ……そうだ、俺をもっと楽しませろよォォッ!!』


ι・ブレードが目の前にまで迫った瞬間、クライディアの両腕に隠されていたマシンガンが姿を現し、ババババッ! と乱射された。

晶は咄嗟に一撃を受け止めようと、腕をクロスさせてヘッド部を守るように受け止める。


『死ねよ、ビリッケツゥゥッ!!』


クライディアは僅かに生まれた一瞬を狙い、ι・ブレードに目にも留まらぬ速さで飛び掛かっていった。


「まだ、だっ!」


ι・ブレードはムラクモを何とか構え、重い一撃を受け止めて見せる。

だが、クライディアの凄まじい出力でι・ブレードは徐々に海へと向けて押され続けていく。

このまま海へ突き落される前にと、晶はソードコアを射出させた。

それに気づいたのか、クライディアは回避しようと空高く上昇する。

しかし、晶は俊の行動を読み切ってソードコアを二か所に分けて展開させていた。

上昇した先にはクライディアを待ち構えていたかのように、ソードコアが驚異の速度で飛ばされる。


『こんなもん、きかねぇよ』


俊は強引にレイジングクローでソードコアを弾き飛ばした。

晶はその瞬間を狙い、ロングレンジキャノンを構えて照準を合わせる。

以前にも俊を相手にしたときに使った手段ではあるが、有用的なのは間違いない。

今でも十分に通じるはずだと晶の中に確信はあった。


『二度も同じ手が通じると思うんじゃねぇぞッ!』


予想よりも早く勘付かれてしまい、晶は止むを得ずトリガーを引いた。

バシュゥゥゥンッ! 激しい音共に、紫色の閃光が空へ向かって駆け巡る。

――しかし、クライディアに直撃はしていなかった。


『苦肉の策も終わりか? ビリッケツッ!!』


「そうやって相手を見下すから、お前はッ!」


クライディアが急下降し、ι・ブレードに迫り来る中……晶は静かにムラクモを構えて待ち構える。

するとムラクモが赤い輝きを放ち始めた。


「これで、終わりだァァァッ!!」


力任せにι・ブレードはムラクモで横一線を描くと、赤き光の刃がクライディアへ向けて放たれた。

―――ムラクモの解放、それが晶が最後の最後まで隠した切り札だった。

バギィィィンッ! クライディアの片腕と片足が赤き刃に巻き込まれ、吹き飛ばされていく。

バランスを崩したクライディアは、徐々に高度を落としていき、海へと向かって落下していった。


『―――チッ、俺の……負け、か』


「……気が済んだんなら、さっさと行けよ。 もうこれ以上、お前は戦えないはずだ」


『ああ、テメェの言う通りだ。 俺はお前に完敗した、さっさと……トドメをさしやがれ』


「トドメは、ささない」


晶は間髪入れずにそう返した。

俊は晶の父親を奪った張本人でもあり、晶の故郷を襲ったアヴェンジャーに手を貸した人間ではある。

しかし、俊も同じ被害者だと考えると……どうしても、非情になりきれなかった。


「お前はそこで見ていろよ……俺が、俺達が世界を変えてやる。 そうすれば、お前もきっと……救われる」


それだけ言い残し、晶はクライディアに背を向ける。

その瞬間、背筋がゾクッとするほどの殺意を感じ取った。


『だからテメェは甘ぇんだよ……非情になりきれねぇ奴が、戦場でデケェ面すんじゃねぇぇっ!!』


身体の半分を吹き飛ばされながらも、クライディアは信じられない速度でι・ブレードへと向けてレイジングクローを突き出す。

戦いが終わったと晶の中に生まれた油断が、一瞬にして自らの命を危険に晒してしまった。

こんなところでやられるワケにはいかないと、晶は無意識のうちにι・ブレードのムラクモを構えて、クライディアへと向けて突き刺した。

動力源を貫き、クライディアからミシミシッと音が鳴り始め、バチバチィッタ! と火花が鳴り響く。


『そうだ、それでいい……テメェの勝ちだ、ビリッケツ』


「―――お前、まさか」


この戦いで俊に感じた違和感。

それは晶に対しての復讐心がむき出しになっていなかった事だけではない。

俊は何かを、悟っていたのだ。

一度死んだはずのシラナギを自らの手で殺した事により、俊に変化が訪れた。

恐らくその変化こそが、今日俊と戦っていた時に感じた『違和感』そのものだったのだろう。


『クラスで最下位の野郎が、何で成績トップの俺に勝てるか疑問だった。 技術もねぇし、戦う度胸も覚悟もない臆病者にこの俺が負けるはずがなかった。

だが、それは俺の間違いだと気づいた。 テメェは技術も確かに持っているし、戦い抜く覚悟も持ち合わせていて……どんな困難にも立ち向かう度胸を備えていた。

―――俺が、勝てねぇのにも納得がいくぜ』


「俊……脱出しろよ。 お前はまだ、全てを失ったワケじゃないだろっ!?」


『そうだ、俺は全てを失ったわけじゃねぇ。 初めから何も、持っていなかった。 俺には生きる理由は何もなかった、ソノ姉が離れて行ったあの時から。

だが、そんな俺に生きる理由を見いだせたのが――『HA』だ』


「HAが、生きる理由だって?」


『俺はお前とは違って、戦う事でしか自分が生きている事を証明できねぇし……実感できねぇ。

だから俺は、HAで自分の気に入らねぇ全てをぶち壊してやろうと思った。

相手がE.B.Bだろうが人だろうが関係ねぇ、HAの腕だけで頂点に立ち、全ての者を見下してやろうと俺は誓った。

けどな、思っていた以上に――俺の夢は早く終わっちまった』


「――ダメだ、俊ッ!!」


晶は急いでコックピットのハッチを開けて、クライディアへ身を乗り出そうとする。

同時に俊がコックピットから姿を現し、割れたヘルメットを投げ捨てて銃を突き付けた。

身体中血だらけの俊が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。


「俺は戦いの中で生きて、戦いの中で死ぬ。 昔から決めていた事だ、テメェに邪魔をされる筋合いはねぇっ!!」


バァンッ!! 晶は俊に右肩を撃たれた。


「お前、死に場所を探していたのか? ふざけるなよ……こんな結末、俺は認めないぞッ!!

今すぐこっちに来いよ……お前のその顔、殴り飛ばしてやるからっ!」


激しく肩が痛む中、晶は右肩を抑えながら強く叫んだ。

だが、俊はただ無言で銃をもう一発放ったが、晶には直撃しなかった。


「言ったはずだ、俺には失うモノすらねぇ、戦う事だけが全てだとな。 テメェは戦いで俺を最高に楽しませてくれたな。

相変わらず気に入らねぇ奴だけどよ、その実力だけは認めてやる。 テメェはもう、ビリッケツなんかじゃねぇ」


「……どうしてだよ、何でそうなるんだよっ!? ワケわかんねぇよ……これじゃお前は、何の為に――」


「ソノ姉、俺は行くぜ――」


俊は最後にそう呟くと、自ら拳銃を左耳に突き付けてトリガーを引いた。

バァンッ! 血が飛び散り、風に流されながら俊はコックピットから落ちていく。

その直後、クライディアが激しい爆発を引き起こした。

ハッチは強制的に閉められ、晶はコックピットの中へ突き飛ばされる。

コックピット内からの激しい振動が止むと、晶は体を起こしてモニターで状況を確認した。

既にクライディアは木端微塵に砕け散り、海へと沈んでいた。


「こんな最後でよかったのかよ? お前は本当に……救われたのか? ――クソッ!!」


晶は力任せに、何度も何度も操縦桿を拳で殴りつけた。

だが、こんなところで立ち止まっている時間は晶にはない。

どんな悲しみも背負って、前へと突き進まなければならなかった。


「―――こんな悲しみ、あってはいけないんだ。 もう、誰も……死なせるものか」


ι・ブレードは沈んでいったクライディアを見送り、静かに立ち去った。


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