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     不死の軍団 ④


晶の前に立ちはだかった『ι・フェザー』。

フェザークイーンを連想させるその外見から、恐らく同じ系統の技術が使われているのだろう。

映像に映し出された映像から、ι・フェザーのパイロットが木葉である事は間違いない。

しかし、腑に落ちない点はいくつかある。

木葉は正式なパイロットでもなければ、学校でパイロットとしての訓練を受けたわけでもない。

同じ学校に通っていたと言えど、学科コースも違っていたし、シミュレーターを使う実技訓練も一般生徒が行っているはずはなかった。

つまり、木葉がHAを操れるはずがないのだ。


フェザークイーンに木葉が乗せられていた時は、木葉の意思とは関係なく小型のHAがコントロールされていたというケースもある。

今回も同じケースだと言うのならば、助けなければならない。

あの時、木葉をコックピットから連れ出した時のように。


「誰なんだ、誰が木葉をそんなものに乗せたんだっ!? ジエンスはもう死んだはずだっ!」


『違う、私は私の意思でここにいる』


「木葉、一体何をされたんだ? まさか、誰かに脅されて――」


『晶くん……私は貴方の敵として姿を現した。 だから、私と戦ってっ!!』


木葉が叫んだ途端、ι・フェザーの翼から羽のような物が射出される。

その瞬間、晶に頭痛が襲い掛かった。

ι・フェザーが繰り出された羽が一斉にι・ブレードに向けて発射されていた。

あれはソードコアを更に小型化させた武装、『フェザーコア』だ。

よく見ると先端が鋭利な刃物のようになっている。

一度晶は後退して、羽を回避するとブラックホークを構えて照準を合わせた。

しかし、中に木葉がいると考えると思わず手が止まってしまう。

撃ってはいけない、木葉と戦ってはいけないと強く言い聞かせた。


「何でだよ、何で戦うんだ? 何で木葉がHAに乗っているんだよっ!?」


『私にはもう、こうするしかないのっ!』


ι・フェザーは次々とフェザーコアが射出され、ι・ブレードをしつこく追い回す。

想像以上の速さで迫り来るフェザーコアは、とてもじゃないが危険察知が無ければ回避できる代物ではない。

ブラックホークで何とか撃ち落とし、ι・フェザーの攻撃は止まらない。

バァンッ! バァンッ! フェザーコアに加えて、ライフルの銃撃が加わり状況更に悪化していく。

せめてライフルだけでもどうにかできないかと、晶は隙を見てι・フェザーのライフルを撃ち落そうとブラックホークを構えた。

トリガーを引く瞬間、ふとι・フェザーが照準をずらすかのように微動し始める。


ブラックホークの一撃が避けられ、ι・フェザーはサーベルを片手に驚異の加速で接近し始めた。

今の動きは、まるでこっちの動きをわかっていたかのようにも見える……いや、あれは見えていた動きだろう。

間違いない、ι・フェザーも『ιシステム』を搭載しているのだ。

ガキィィンッ! 危険察知でι・フェザーのサーベルを読み切った晶はムラクモで一撃を受け止める。


「やめろ木葉っ! 俺達が争う理由なんてないはずだっ!」


『晶くんはプロジェクト:エターナルの邪魔をしようとしている……私はそれを阻止する為に、貴方の前に姿を出したの』


「何でだよ? プロジェクト;エターナルが何なのかわかっているのかよっ!?」


『晶くんこそ、何もわかっていないっ!!』


「何もわかっていない……?」


もしやプロジェクト:エターナルに隠された意味を、木葉が知っている?

だとしたら木葉は、アッシュベルに賛同しているというのか?


「何なんだよ、プロジェクト:エターナルって……俺達が争ってまでも、それは成し遂げなければならないのか?

そんなのおかしいだろ……あんなものが実現されたら、世界中の人間がエターナルブライトになるんだぞっ!?」


『……それの、何が悪いの?』


「え――」


ヘルメット越しから、木葉は悲しそうな表情を見せてそう呟いた。

人類全体をエターナルブライト化させる計画、そんな事が許されるはずがない。

それは人間が人間ではなくなることを意味するから、だから晶はプロジェクト:エターナルを否定していた。

だけど、木葉が呟いた言葉に頭の中が刺激される。


『私ね、もう長くないんだって。 長くても後、半年ぐらいしか生きる事ができないの』


「半年の、命?」


ゼノスは言っていた、エターナルブライトにって得た力の代償として『寿命』が削られると。

木葉も例外ではない……力を使う度に寿命が削られていき、身体はE.B.B化していく恐怖と毎日戦い続けていたはずだ。


『私、嫌だよ……晶くんのおかげで、せっかく生きたいって強く願えたのに……ずっと一緒にいたいと思っていたのに。

後半年だなんて、短すぎるよ……まだまだ私は生きたい、死にたくない……死にたくないのっ!!』


「一体誰からそんな事を聞いたんだ?」


『……アッシュベル博士』


「アッシュベルだってっ!?」


木葉とアッシュベルが繋がっている?

だとすれば、木葉はアッシュベルに利用されている可能性が高い。

しかし、寿命の話も嘘とは思えない。

かと言って木葉が自らの意思で戦っているのも、残念ながら事実だろう。

だが、問題はそこではない。

ここで襲撃を仕掛けてきたアヴェンジャーは、違う。

アッシュベルだ、全てはアッシュベルが裏で糸を引いていた。

機密事項にも書いてあった通り、アッシュベルはプロジェクト:エターナルの為に世界を混乱に陥れていたのだ。

アヴェンジャーを裏で操っていたとしても何も疑問には思わない。


『あの人は言った、死を恐れるなら死の概念を失くせばいいと。 プロジェクト:エターナルはその名の通り、人類に永遠の命を与える計画だって。

私……死ぬのが怖い、もっと……もっと生きたい、どんな形でもいい……だから、私は――』


「――それがアッシュベルの言う進化なのか?」


人類全てをエターナルブライト化し、人類に永遠の命を授ける。

これが、プロジェクト:エターナルの真意……?


『そうだよ、だから私は生きる為に、戦うと決めた。 例え、晶くんと敵対しようとも――。

お願い晶くん、今すぐフリーアイゼンを退かせて。 じゃないと私、晶くんを撃たなければいけないから』


「……なんだよ、それ」


頭の中がこんがらがって、晶は思わずヘルメットを外して頭を掻きむしった。

木葉は理不尽に家族や友人を奪われ、自分だけ生きてしまった事を苦痛に思い続け、強い自殺願望を持っていた。

だけど、エターナルブライトが埋められた身体では簡単に死ぬことが出来ずに、自殺は何度も未遂に終わっていたのだ。

そんな木葉が、やっと生きたいと願えたというのに――その先に待っていたのはあまりにも短すぎる寿命。

どうする事も出来ないのか? どうにかして、早すぎる死を回避する術はないのか?

いや、ないからこそ『プロジェクト;エターナル』にすがってしまったのだろう。


『見つけたぜ……ビリッケツ』


突如、コックピット内に届いた通信。

思わず背筋をゾクッとさせてしまうほどの低い声だった。


『奪って、やる……テメェの、全てを』


考えるまでもない、この声は――

その時、ι・ブレードの目の前を一機の黒きHAが通り過ぎていく。

間違いない、あれは『クライディア』だ。

悪魔のような翼を広げ、風の如く突き進んだ先には木葉の乗るι・フェザーの姿があった。


「やめろぉぉぉっ!!」


晶は無我夢中で、スロットルを最大まで押し込んでι・ブレードを加速させる。

今にもι・フェザーに襲い掛かろうとするクライディアに向けて、ブラックホークを放った。

銃声が響き渡ると、直前でι・ブレードの動きを察したのかクライディアが銃弾を回避する。

クライディアを狙ったブラックホークの弾はそのままι・フェザーへと目掛けて直進し続けた。

だが、ギリギリのタイミングでι・フェザーは銃弾を交わしたが、僅かにだがバランスを崩してしまう。

その隙を狙おうと、クライディアは右手を突き出しι・フェザーへと向けて全速力で突撃していた。


「クッ……させるかぁぁっ!」


ι・ブレードはムラクモを構えて、全速力でクライディアに斬りかかろうと直進していく。

凄まじいGが襲い掛かり、気を失い掛けながらも晶は強くスロットルを握りしめたまま進んだ。

ガァンッ! 激しい金属音が響き、ι・フェザーの左肩がクライディアのレイジングクローに捕らわれてしまう。

少し遅れてι・ブレードがスピードを緩めずに体当たりを仕掛けると、クライディアは吹き飛ばされてた。

ι・フェザーの左腕が宙へと舞いあがり、落下していく。


「やめろっ! お前の復讐に関係ない人まで巻き込むなっ!」


『言ったはずだ、テメェの大事な物を全てを奪い、破壊しつくしてやるってなぁっ!』


「だから……だから、親父を殺したのかっ!?」


『家族だけじゃねぇ、お前に関わった奴ら全員皆殺しにしてやる……テメェの母艦も、仲間も何もかもだ』


「させるものか、お前なんかにっ!!」


晶はクライディアにブラックホークを放ち続ける。

しかし、想像を絶する機動力についていけずに照準を合わせることが出来ない。

せめて牽制してι・フェザーへと近づかせないようにすることだけが精一杯だった。


『何をしているの? 私は晶くんの敵だよ?』


「俺は木葉とは戦えない、俺は木葉を守りたいんだ。

例え敵として立ち向かってきたとしても、襲われそうになったところを放っておけるわけないだろうがっ!」


『――晶くん』


クライディアは俊敏な動きでι・フェザーの死角へと潜り込む。

自身へ危険が及ばない以上、危険察知には頼れない。

晶は必死でクライディアの動きを捉え、ムラクモでクライディアのレイジングクローを受け止めた。

ガキィィンッ! 耳がキンとなるほどの金属音が響くと、ι・ブレードとクライディアの動きが共に止まった。


「木葉、逃げろっ! アイツの狙いは木葉なんだっ!」


『……』


木葉を守る事で無我夢中な晶は、咄嗟にそう叫んでいた。


『私、は―――ただ、生きたいだけなの』


静かに木葉がそう呟くと、ι・フェザーは戦域を離脱していく。

クライディアを自由にさせてはいけないと、ι・ブレードは両手でクライディアの動きを必死で抑え込んだ。


「いい加減にしろよっ! 親父だけじゃ飽き足らず、木葉まで狙いやがって……っ!」


『テメェはソノ姉を殺した、その手でっ! 恨むんなら、テメェ自身を恨みやがれッ!』


「これ以上お前の復讐に、仲間を巻き込まれてたまるかぁぁっ!!」


『そんなに死にたきゃ殺してやるよ、ビリッケツゥゥゥッ!!!』


二人の叫びが戦いの合図となり、ガキィンっ! と金属音が鳴り響くと、2機のHAは互いに距離を取る。

そして、ほぼ同時に凄まじい速度でHA同士が激しく衝突し合った。












シリアはリビングデッドの動きを捉えようとひたすら背後を追い続けた。

スペック的にはブレイアス(ウィン)の方が優れているはずだが、ちょこまかと動き回るHAを捉える事が出来ずに苦戦を強いられている。

ライフルも避けられ、隙をついてサーベルで斬りかかっても常にギリギリのタイミングで避けられていた。

常時オーバーブースターを利用した状態では、パイロットスーツがあると言えど身体に尋常ではない負荷がかかり続けてしまう。

シリアはエターナルブライトを埋め込んでいる自身ならともかく、生身であるラティアの負荷が気がかりだった。


「クッ……姉貴、大丈夫かっ!?」


『私の心配をしている余裕はあるの? 貴方は……戦いにだけ集中して』


「姉貴……」


少し会話を交わしただけでわかる、苦しそうにしながら言葉を絞り出すラティアの声が更にシリア自身を焦らせる。


「一旦分離して二人で追い詰めよう、そうした方がいいだろっ!?」


『――ダメよ、このまま行って』


「姉貴っ!?」


『圧縮砲で、あのHAのコアを撃ち抜く。 貴方は機動性を活かして、相手の隙を作り出す事だけを考えて』


「チッ、わかったよっ!」


モタモタしている暇はない、ラティアが気を失う前に決着をつけなければ。

リビングデッドがライフルを放ちながら迫り来ると、ブレイアス(ウィン)は弾を避けながらライフルで迎撃しようとする。

隙を見て、一気に距離を詰めようと加速させると、リビングデッドから無数のミサイルが飛び出す。

一度空高く上昇し、ミサイルを振り切ろうとすると、上空にはリビングデッドが先回りしていた。


『アハハ、アッハッハッハッハッハァッ!!』


「その笑い、やめやがれぇぇっ!!」


シリアはそのままサーベルを天へと向けて突き上げ、全速力で機体を加速させる。

それを察したのか、リビングデッドはさらりとブレイアス(ウィン)の一撃を交わし、ライフルを構えた。


『させないわよっ!』


一瞬の隙をつき、ラティアがミサイルを発射させるとミサイルが一気に爆発した。

煙で視界が悪い中、シリアは一度距離を取ろうと機体を下降させる。

バァンッ! 銃声が響き、シリアは咄嗟にライフルを構えて上空へと向けた。

だが、煙が晴れた先にリビングデッドの姿がない。


何処へ消えた? と、後ろへ振り返った瞬間――背後にリビングデッドが巨大なサーベルを片手に迫って来ていた

ガキィンッ! 咄嗟にライフルを投げ捨て、ブレイアス(ウィン)は二本のサーベルで重い一撃を受け止めた。

ガガガッ! するとサーベルから鈍い金属音が響き渡り、ガキィンッ! と弾かれてしまう。

リビングデッドにはトリッドエールのように、回転刃式の大型サーベルが装備されていた。

ブレイアス(ウィン)の持つ通常のサーベルでは、いとも簡単に弾かれてしまうだけだった。


「うおらぁぁぁっ!!」


だが、シリアは弾き飛ばされながらもすぐに立ち直り、そのままスロットルを最大まで押し込んだ。

ブレイアス(ウィン)が凄まじい加速力を乗せた渾身の体当たりが、リビングデッドへと直撃する。


「今だ、姉貴ぃぃっ!!」


『ええ、わかっているわっ!』


ブレイアス(ウィン)は、背中に備わっていた2本のレールガンを組み合わせて一本の大型ライフルへと変形させる。

するとライフルの先端から赤き光が徐々に集い始めていく。


『圧縮砲、発射っ!』


バシュゥゥンッ!!

ゼノフラムのと比べると、遥かに細い赤き光の線が一直線に突き進んでいった。

しかし、僅かに発射が遅れてリビングデッドが微動してしまう。

ブレイアス(ウィン)が放った圧縮砲は、見事にリビングデッドを貫いていった。


「命中した? や、やったのか?」


『いえ、僅かにだけど……狙いがずれたわ』


シリアは息を呑んでリビングデッドの様子を伺う。


『アーッハッハッハッハッハッハァッ!!』


次の瞬間、耳が痛くなる程の高い声を発しながら、リビングデッドがブライトソードを片手に迫ってきた。

何とかもう一度受け止めようと、サーベルを構えるが……先程よりも遥かに増した推進力で、ブレイアス(ウィン)は激しく吹き飛ばされてしまう。

ザバァァンッ! 勢いが弱まることなく、ブレイアス(ウィン)は海の中へと叩き落されてしまった。


「クッ……何でまだあんなにピンピンしてんだよっ!」


ブレイアス(ウィン)は水中での戦いを想定した造りではない、急いで地上に飛び出そうとシリアはブースターを全開にさせて、空へと高く舞い上がる。


「姉貴、もう一度圧縮砲を――」


シリアはラティアに通信を送ろうとして、何か違和感を感じ取る。


「姉貴? おい、姉貴っ!?」


ラティアの反応がない、まさか身体に限界が?

バァンッ! バァンッ! リビングデッドがライフルを数発放ちながら、再び迫り来る。


「しっかりしろ、姉貴っ! 目を覚ましてくれ、姉貴……姉貴ィィッ!!」


シリアが力強く叫んだ途端、ふとコックピット内から赤い光が灯され始める。

何処か暖かいこの光……これは一体?


『シリ、ア……シリア』


「声、声が聞こえる……?」


通信機ではない、頭の中に直接語りかけられているかのような声。

誰かがシリアに話しかけているとでもいうのか?


『私を愛してくれた、シリア。 ウヒヒ……また、逢えたね』


「お、お前――」


間違いない、語りかけているのはフィミアだった。

やはりあのリビングデッドを操っているのはフィミア本人だったのだろうか?


『私の心は、シリアと共にある。 トリッドエールに残された私の魂を、貴方が拾ってくれた』


「トリッドエールに残された、魂?」


その言葉を耳にしてシリアは思い返す。

ブレイアス(ウィン)には確か、トリッドエールのコアが流用されているはずだ。

まさか、その事を言っているのか?


『あのHAに乗る私は、空っぽな私。 私の抜け殻、戦う為だけに……エターナルブライトによって無理やり生き返された……可哀想な私。

自身で考える事も出来ず、自分の感情も伝えることが出来ず、ただただひたすら戦い続けるだけの私』


エターナルブライトは死者を蘇らせる?

あの鉱石はそんな信じられない事まで可能だというのか。


『お願い、私を……殺して。 抜け殻となった私を、シリアの手で殺してほしいの』


フィミアは以前とは異なり、落ち着いた口調で優しくシリアにそう語りかけていた。

いや、これが本来のフィミアの姿なのだろう。

母親を求めて戦闘狂となったフィミアの姿が異質だったのだ。

今、目の前にいるリビングデッドがそのフィミアの慣れ果て。


「――誰なんだ、こんな趣味の悪い事をしやがったのは。 許せない、アタシは絶対に……許さないっ!!」


その瞬間、リビングデッドは巨大なサーベルを片手に襲い掛かる。


「こんのぉぉぉぉっ!!!」


シリアは力強くサーベルを振り回すと、スロットルを限界まで押し込む。

するとコックピット内が真っ赤な光に包まれていき、ブレイアス(ウィン)が一瞬だけ凄まじい加速を叩き出す。

ガァンッ! 力で押し勝ち、リビングデッドは勢いよく吹き飛ばされていく。

だが、体勢を取り戻すと自ら海へ飛び込んでいき身を隠した。


「チッ、隠れやがって……」


シリアはサーベルを構え、周囲を警戒する。

海から飛び出したところを狙い、一気に仕掛ける。

長いようで短い沈黙を迎えると、ザパァァンッ! と水音が耳に飛び込んだ。


「今だぁぁっ!!」


リビングデッドが姿を現したと同時に、シリアは全速力で飛び掛かる。

しかし、動きを読まれていたのかあっさりと交わされてしまい、一気に後ろへと回り込まれてしまう。


「クッ!」


急いでシリアはライフルで迎え撃とうとするが、リビングデッドの速度の前では間に合わない。

このままでは、やられてしまう――その時だった。

バシュゥゥゥンッ!!

翼に設置された2本のライフルから、赤き閃光が走る。

放たれた2本の圧縮砲が、リビングデッドの両腕を引きちぎっていった。


『今よ、サーベルでコアを貫いてっ!!』


「あ、姉貴っ!? あ、ああっ!!」


ラティアは気を失っていたはずだ。

もしやあの状況から目を覚まし、即座に圧縮砲を放ったというのか?

シリアはサーベルを構え、リビングデッドのコアへと向ける。


「ごめん、アタシは……アンタを二度、殺すっ!!」


ブレイアス(ウィン)は、激しくブースターを噴かせながら、槍の如く一直線に突き進んでいく。

バギィィンッ!! サーベルは見事、リビングデッドのコアを貫いていった。


『ウヒヒ、ありがとうシリア。 大好き――』


ズガァァァァンッ!! リビングデッドは凄まじい爆発を引き起こし、木端微塵に砕け散った。

バラバラになり、海へと落ちていく欠片を見つめて、シリアは悲しい目を見せる。


「……悲しすぎるだろ、自ら二度の死を望むなんて。 アッシュベルなのか、こんな事をしやがったのはっ!?」


ブレイアス(ウィン)は、サーベルを片手に握りしめたまま、沈み行くリビングデッドを静かに見送っていた。


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