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第1話 ι・ブレード、始動 ①


許せない――

絶対に、許さない――


目の前に繰り広げられた光景は、まさに地獄絵図だった。

建物は破壊し尽され、突如湧き出した異形達がうじゃうじゃと街中を埋め尽くしている。


見覚えのある機体が、無残な姿に変わっていた。

数匹の異形が、エサに這い蹲る蟻達のように、

機体をグチャリ……グチャリと気味の悪い音を立てながら食している。

あれは間違いなく、学校が保有していた兵器だ。


人の姿はもうない、ずっと前に見たここの光景はたくさんの人で溢れかえっていたはず。

今となっては形すらわからない瓦礫の下に、埋もれてしまったんだ。


何故……こんな事態が起きてしまったのか。

わけもわからず、無我夢中になって機体に乗り込んで、

コックピット越しから広がる光景に、ただ絶望するだけかと思いきや

ふと、怒りに近い感情が湧き出した。


許せなかった。


まだこの世界に希望を持ち、平和に暮らしていた人々を巻き込んだことを奴らの事を――

平然と人の命を奪っていく、E.B.Bの存在を――


「……俺に力を貸してくれ、ι(イオタ)・ブレードっ!」


戦うことを決意した少年は、ただ力強くスロットルを押し込み、機体を前進させた。















西暦2000年。


『アッシュベル・ランダー』という天才科学者から、『エターナルブライト』という名の未知なる鉱石が発表された。

紫色の奇妙な輝くを放つ鉱石は、一見ただの綺麗な石でしかない。

だが、エターナルブライトには謎の超高エネルギー体が含まれており、それは地球上には存在し得ないものだった。


少量で莫大なエネルギーを持つことから、世界中から注目を浴びていた。

日本の近くに存在する無人島から発見されたエターナルブライトは、その日を境に無人島以外からでも発見されるようになる。

まるで世界がエターナルブライトを生み出しているかのように。


エターナルブライトが発表されてから3年後、その年を境に世界は大きな変革を遂げてしまった。

各国でエターナルブライトの研究を行っていた際、突如凶暴化した野生動物が研究員を襲う事件が多発した。

ネズミのような小動物1匹ですらも、人を噛み殺すほどの強大な力を手にしてしまったという。


原因は、世界各国で出現し続けているエターナルブライトにあった。

何らかの理由で、小動物等がエターナルブライトを体内に取り込み、その結果『未知なる生命体』へ進化してしまったのだ。


それらの凶暴化を遂げた生命体を、総称して『EternalBrightBeast(E.B.B)』と呼ばれるようになり

E.B.Bは日に日に数を増し、一部においては巨大化を遂げて国を滅亡にまで追い込んでしまうほど力を持った。

E.B.Bは人類に対して明らかに敵意を持ち、自らの意思で人類に無差別で襲い掛かっていた。

現代の兵器では太刀打ちする事ができずに、もはや人々に成す術はないと思われた。


そこで、メシアと呼ばれる組織が対E.B.B殲滅用人型兵器の開発に成功した。

『ホープアームズ(HA)』と名付けられた兵器は、『エターナルブライト』の持つ高エネルギー体を動力源とした対E.B.B用の兵器である。

人々はHAを使い、E.B.Bの殲滅を行おうと激しい戦いを繰り広げ続けた。

やがて自らを守る術を手にし、今は技術を応用したシェルター等を設けてE.B.Bの襲撃を回避しながら生活を行えるほど技術が進んだ。


だが、E.B.Bの脅威だけは完全に消えたわけでもなく、E.B.Bと人類の戦いは15年近く経っても続いている。

人とE.B.Bの戦いは、いつ終わるのか。

もしかするとこの戦いには、終わりが永遠にないのかもしれない――









「つまり、我々はシェルターの中で生活をしている身ではあっても、世の中にはシェルターが実装されていない地域も多々存在する。

その為にも、我が国ではHAの開発には積極的に取り込んでおり、E.B.Bの討伐も優先的に行っているわけだ」


教師から語られる話を退屈そうに聞いている少年の姿があった。

今更小学生でも知っているような歴史を、どうして聞かされなければならないのか。

退屈で仕方が無かった。


ボサボサな黒髪に黒い瞳、眠そうにしているせいか目付きは悪い。

だが、バッチリと目を開けば綺麗な瞳をしている。

本人は自覚も無く台無しにしていることにも気づいていない。


少年の名は『未乃みない あきら』。 今年で高校3年生を迎え、そろそろ進路にも悩みだす時期だ。

だが、晶は高校に入る時から既に進路を決めていた。

そう、今世間で話題となっているHAのパイロットだ。


晶の住む『第4シェルター東地区』では、HAの開発が進められているものの、住民はE.B.Bに対する関心が薄い。

シェルターが実装されてからは、驚くほどE.B.Bの襲撃はなくなり、住民からしてみれば世界が平和に戻ったのと同然であった。


晶が通う『第4東地区文京高等学校』には、東地区では唯一『パイロット専用コース』が特設されており、晶は迷わず入学を決め込んだ。

平和ボケしたこの地域では、パイロットを志願する者は少ないが、パイロットの需要は絶えない。

そのおかげもあってか、晶はすんなりと入学することに成功した。


キーンコーンカーンコーン


退屈な授業が終わりを告げた。


「今日の授業はここまでだ。 パイロット専攻の生徒はシミュレーター室へ移れ、すぐに試験を行うぞ」


歴史を担当していた先生は、晶のクラスの担任も兼ねていた。

今日は一ヶ月に一度だけ行うHAの適正試験実施日だ。

学生である彼らは、本物のHAに乗せてもらうことはできない。

代わりにシミュレーターでの訓練が基本カリキュラムとして組み込まれていた。


シミュレーターは限りなく本物に近い動作をする。

だから、実戦でもそこまで違和感無くHAを動かせるはずだ、といつも担任からは聞かされている。


「晶くん、今日こそ頑張ろうね?」


一人の女子生徒が、気怠そうにしていた晶にそう声をかけた。

黒髪を赤いリボンで束ねたポニーテールに、どこかおっとりとした雰囲気の少女だ。


彼女の名前は『早瀬はやせ 木葉このは

昔から晶の面倒をよく見てくれている幼馴染だ。


「……ああ、頑張るさ」


何処かやる気を感じさせない返事を返した。

成績に関わる重大な試験を前にしているというのに、何故こうもやる気をだしていないのか。


元々晶は、最初からこうであったワケではない。

1年目は何事も一生懸命取り込み、クラスでも優秀な成績を収めて良い評価を貰えていた。

但し、それは通常の学生としての評価でしかない。

パイロットとしての晶は、間逆の結果を生み出していた。


どんなに一生懸命シミュレーターを動かしても、成績はいつも最下位で毎度毎度補修を受けていた。

1年目、2年目と最下位を取り続けているものの、通常の成績がよかった点と欠かさず補修を受けていたことから

何とか進級だけはさせて貰えている。


努力が報われない、いくら頑張ってもシミュレーターの成績がよくならない。

晶は悔しくて仕方が無かった。

誰が悪いわけでもない、自分があまりにも才能が無かったのだから。

次第に試験そのものにやる気を感じなくなっていき、いつしか脱力した日々を送るようになってしまっていた。


「ダメだよ、晶くん。 今日は大事な試験なんでしょ? もっとはりきって受けないと、いい成績とれないよ?」


「……わかってるよ、俺は大丈夫だから心配しないでくれ」


「本当に大丈夫? 一緒にいってあげようか?」


「いや、いいって。 木葉は自分のことだけ考えてくれよ、俺のことで悩む必要もないさ」


木葉のお節介は毎度の事であるが、出来れば今は自身に関わってほしくないという思いがあった。

高校3年生は進路に関わる重大な時期でもあるし、そろそろ木葉には自分のことに専念してほしい。

今までも晶のことを考えて、高校まで一緒になってしまったのだから。

木葉は成績優秀で、もっとランクの高い高校だって狙えたはずなのに。

晶はそんな後ろめたい思いを、抱え込んでいた。


「じゃ、行ってくる」


「う、うん。 頑張ってね」


まだ何か言いたげな表情で、木葉が笑顔でそう告げる。

少しでも……良い成績を取って見せれば

木葉も自分のことに、集中できるはずだ。

晶は少しだけやる気を取り戻し、シミュレーター室へと移動をした。









シミュレーター室へ移動すると、既に晶以外の生徒は集まっていた。

……いや、一人だけ足りない。

クラスでも問題児とされている生徒だ。

授業にはほとんど顔も出さず、クラスメイトだって認識はあまりない。

だが、パイロット適正試験日だけは欠かさず姿を現すのだ。


何よりも気に食わないのは、シミュレーターの成績が常にトップであること。

自分自身がこんなに努力しても最下位だというのに、どうしてサボってばかりの奴に負けているのか。

晶は、その生徒の事がとても気に入らなかった。


「よう、晶。 どうした、遅かったじゃねぇか」


「まぁ、な」


親友である『高野 竜彦』が、真っ先の声をかけてくれた。

昔からいじめられやすい境遇にあった晶を支えてくれていて、今でも世話になっている。

木葉とも幼馴染であり、最近では減ってしまったが3人でつるむことは多かった。


「おいおいしっかりしろよ、これから試験始まるんだぞ?」


何処か力なく、晶は項垂れていた。


「どーせまた最下位で補修さ、あんまり気が乗らないんだよ」


「スコア自体は伸びてんだろ? お前のペースで進めりゃいいさ

言っとくけど前回よりスコア落としやがったら昼飯奢って貰うからな」


シミュレーターでの成績は、最終的に表示される5桁の数字で決まる。

操縦・反応・視野の3分野をそれぞれ数値化して、総合結果として計算される仕組みだ。

ある者は、操縦だけはトップクラス……ある者は反応だけがトップクラスという例も少なくは無い。

残念ながら、晶はどの観点においても最下位であるのは変わらなかった。


「あ、ズルいだろそりゃ。 お前が同じ事を言って受けるか?」


「俺なら受けるね、悪いけど今度こそトップを狙える自信はあるさ」


「毎度同じ台詞を吐いて、結局2位じゃないか」


「ハッハッハッ、そうだったな。 ま、お前が元気出して安心したわ。 頑張れよ、適正試験」


竜彦は決して晶のことを落ちこぼれだとバカにすることはない。

ただ、一歩ずつ前進をしている晶を誉めてくれていた。

それは決して上から目線ではなく、共にパイロットとして……成長していく仲間として

自分の成長を一緒に、分かち合ってほしいという想いがあった。


昔から、晶は竜彦に何処か憧れを示してた。

ケンカは強いし、スポーツも万能。

困ったときはいつでも助けになってくれて、とても心強かった。

勿論、シミュレーターの成績からその才能はパイロットであっても発揮されている。


「……絶対に、俺も一人前のパイロットになってやるんだ」


竜彦のおかげで、晶はようやく試験のやる気を取り戻したところで、教師が訪れた。


白柳しらやなぎがまだきていないようだが、試験を始めるぞ。 全員席に着け」


試験実施の準備を行うため、シミュレーター機へと搭乗する。

ちなみに白柳とは例の問題生徒であり、試験に毎度遅れるのはいつものこと。

教師自身もあまり気にしていなかった。


シミュレーターは実際のHAコックピット内を再現しており、両端のスロットルから各スイッチまで全て本物と同様だという。

機械には専用のヘルメットが搭載されており、そこから臨場感のある映像が出力される仕組みだ。

まるで本当に戦場でいるかのようなバーチャル技術は他の分野でも採用されており、

HA技術の発展は世界に貢献しているという証明にも繋がる。


「はじめっ!」


教師の合図と共に、試験は実施された。

試験の内容は、制限時間内にランダムに出現するE.B.Bをひたすら倒し続けるといった内容だ。

自機が撃墜されてしまえば、その時点でシミュレートは強制終了。 時間が残っていようが関係なくそこまでの結果が点数となる。


E.B.Bは攻撃を仕掛けてくる上に行動パターンは数億を超え、同じ行動は二度としないと思っていい。

つまり、実際に何をしてくるかわからないE.B.Bをその場の判断で対処して倒すというのが基本だ。

シンプルながら、かなりの実践向けの試験であるとも言えるだろう。


……晶は試験開始1分後に、シミュレートが強制終了された。

一人だけ虚しくヘルメットが外され、画面には5桁にも満たない数字が出力される。


「またか……」


晶は、落胆してスコア確認画面を見ようとしなかった。


「未乃、スコアを報告しろ」


「……8670点です」


しぶしぶと、画面に出力された数字を読み上げる。

何故こうも上手くいかないのか、ここまで才能が無いのも重症ではないか?

自分がパイロットに向いていないのかもしれない、それほどまでに晶は落胆した。


「また補修だぞ、未乃。 このままだと軍に引き取ってもらえん、もっと真面目に取り組むんだ」


「……どーせ俺には才能ありませんよ」


赤点ラインとして定められている数値は『10000』。

去年の今頃では確かスコアは『7000』ぐらいであったし、あがってるというのは確実だ。


だが、意味が無い。 結局赤点なのだから。

ちなみにクラスの平均は70000~80000。 とてもじゃないが、話にならない。


「才能のせいにするな、命を懸けて戦うことを自覚しろ。 今のお前はただ何となくシミュレーターを動かしている一般生徒と大差がない。

お前に足りないのは気持ちだ、本気になっていないんだ。 もっと自覚をしろ、お前はシミュレーターで何度死んでいると思っている?」


「……はい、すみません」


「今日の放課後は残れ、早速補修に取り掛かる。 1日でも早く追いつくように努力しろ。

もはや他の生徒と同じ事をやっても追いつかないんだ、人の倍以上に訓練を積め……死ぬ気で訓練しろ」


毎度ながら、同じような事を言われている晶だが、自身では努力をしているつもりだった。

1年生のときは、毎晩遅くまでシミュレーターに没頭していた。

シミュレーター以外にも体作りにしっかり取り込んだ、持久走だって筋トレだって何もかも真面目に取り組んでいったはずだ。


それすらも、認めてもらえない。 努力が報われることが無い。

晶はただ、今の自分に落胆するばかりだった。


「悪い先生、遅れた」


「遅いぞ、試験はとっくに始まっている」


晶が席を立つと同時に、ガラガラと教室のドアを開ける生徒が目に飛び込んだ。

茶髪に赤い瞳の何処か奇妙な雰囲気を持つ少年、例の問題生徒である『白柳しらやなぎ しゅん』だ。


「んじゃ、またハンデってことで」


教師にニカッと笑いかけながら、俊はシミュレーター席へと搭乗し早速試験を開始した。

既に3分ぐらいは経過しているはずではあるが、気にしてはいない。

毎度これくらいの時間を遅らせながらも、成績はトップを収めている。

普段からサボってばかりいるクセに、どうしてこうも成績がいいのかと考えると晶は腹立たしくて仕方が無かった。


数分後、全員が同時にヘルメットを外した。

途中で脱落したのは、晶だけ。

毎度ながらの光景であるといえど、晶にとっては辛い時間であることには変わりは無い。

その度に、自分のことが惨めだと感じてしまう。


「各自、スコアを報告しろ」


「78000です」


「俺は80000だっ!」


「65000……クソッ、今日はダメだった」


各自がそれぞれ結果を報告している。

どれも晶にとっては遠すぎる数値であった。

これ以上聞きたくない、と晶は目を閉じて耳を塞ごうとした。


「先生ー、またカンストしちまってるみたいなんですけど」


晶はハッとして、その声の主に目を合わせる。

やはり、白柳 俊だった。


「……なんでだよ、クソッ!」


ガタンッと大きく音を立て、晶は立ち上がる。

暢気に座って、笑いながらスコアを報告してる俊に向かって歩みだした。


「……お前、何なんだよっ!」


「ん? お、ビリッケツちゃんじゃないか。 どうしたー今日はスコア伸びたか?」


物凄い剣幕でやってきた晶に対して、まるで何も感じ取ってないかのようにそう返した。

その人をバカにするような態度、口調。

晶はその全てが、気に入らなかった。


「バカにしやがって――」


その顔面を殴り倒してやろうと大きく拳を振り上げた。

だが、ガシッと振り上げた手は押さえられてしまう。


「何だ、ケンカしたことねぇのか? やめとけって、お前じゃ俺に絶対かてねーから」


「クッ……この野郎っ!」


頭に血が上りきった晶は、我慢ならなかった。

何が何でも、こいつを殴り飛ばさないと気がすまない。

この手で、殴ってやりたいと強く願っていた。


ただの嫉妬でしかないのかもしれない、だけど晶は俊を許せなかった。

試験には毎度のように遅れて開始して、それなのに優秀な成績を収める彼のことを。

真面目に取り込んでいる竜彦が、こんな奴に負けてしまっていることが納得できなかった。


「どーせ不正でもしてんだろ、この機械に何かしてんだろっ!」


「はぁ? 何かと思ったら言いがかりかよ」


「お前みたいな奴が、こんな成績取れるわけ――」


「未乃、やめろ。 不正は無い、これは正真正銘の実力だ」


止めに入ったのは、教師だった。

二人の間に入り、晶自身にそう告げる。


頭の中では、そんな事はわかっていた。

この機械の技術は相当複雑な作りで、個人が不正を働かせるように細工をすることはまず不可能だ。

よほどシミュレーターに詳しくない限り、そんな事は実施できない。

それにシミュレーターは毎度ランダムだ、いつもピンポイントに自分の席だけに細工を行うなんて無理だった。


晶は、力なく拳を降ろした。

歯にギリギリと音を立てながら、血が滲み出るほど拳を強く握るだけだった。


「……なぁ、楽しくやろうぜ? お前だって、楽しんでるだろ?

高得点とって仲間と競い合う試験なんて、楽しすぎてしょうがねーだろ」


まるでゲームか何かと勘違いしてそうなその言葉に、ますます晶の怒りは膨らみ続けるばかりだ。


「悪いな白柳、晶はちと疲れてんだよ、試験前も調子悪かったみたいだからさ。 俺も後からアイツには言っとくぞ」


丁度隣に座っていた竜彦は、笑顔で俊にそう告げると「そうか」と満足そうに教室を出て行った。

何故ここまでバカにされて、竜彦は笑っていられるのだろうか。


「なぁ竜彦、お前は悔しくないのかよ。 その、あんなサボリ魔に負けちまってさ」


「んーまぁな、でもパイロットってのは何よりも実力が重視されるのさ。 性格に難があっても、あの腕なら間違いなくメシアに即採用だろうな」


メシアとはHAを用いてE.B.Bを討伐する軍の総称であり、パイロットコースの最終目標がその軍に採用してもらうことにある。

竜彦が言うには、白柳という男はもはや実戦に耐えうるだけの実力を持っているらしい。


「そんなに凄いのかよ、白柳って奴」


「あいつのシミュレーターの映像を見せてもらえば一目瞭然だ。 残念ながら、あいつは本物の天才さ」


「……そう、なのか」


親友の口から告げられるということは、事実なのは間違いない。

晶は眉間に皺を寄せながら、ただ頭を捻らすだけだった。

やはり、納得できるはずが無い。


ビーーーーーーッ!


突如、学校中に警告音が鳴り渡った。


『東地区にE.B.Bが大量発生しました。 繰り返します、東地区にE.B.Bが大量発生しました。

これは訓練ではありません、直ちに全校生徒は避難してください。 繰り返します――』


誰かの悪戯かと思いきや、校内放送がそれを真実であると告げていた。


「E.B.Bの大量発生だって? な、何を言ってるんだ?」


シェルターで完全に守られているこの地区に、E.B.Bが入り込めるはずが無い。

シェルター技術が導入されてから、約5年は経過するがそんな事態は一度も無かった。

シミュレーター室の生徒が、ざわつき始めた。


「落ち着け、勝手な行動はするんじゃないぞ。 私が今避難経路を確認する、各自は待機していろ」


教師は冷静に生徒達にそう告げると、部屋の通信機器を使って外部との連絡を取っていた。

だが、生徒が大人しくしているはずもない。

ざわざわと騒ぎ立てて、状況を理解できずにパニック状態に陥る者さえいた。


「晶、大丈夫か?」


「い、今ニュース確認してるよ」


晶はそこまで動揺しているわけでもなく、携帯を使って最新情報を確認していた。

丁度テレビでは、E.B.B襲撃に関する報道が取り上げられている。


『第4シェルター東地区にて、E.B.Bの襲撃っ!?』


太字のテロップで、そんなメッセージが出ていた。

学校の窓から外の様子を伺おうとしたが、別に異常は見受けられない。

まだ近くまでは来ていないようだ。


「何……そんなばかなっ!」


教師は突然、そう叫ぶと生徒は一瞬にして静まり返った。

表情は青ざめていた。


手に持った受話器を見つめ、そのまま目を閉じてたたき付ける様に電話を切る。

教師は数秒間その場から動かなかったが、やがて何かを決意したように振り返った。


「……お前達、政府からの出撃要請だ」


教師から告げられた一言を耳にし

晶を含む生徒達は、ただ呆然と立ち尽くすばかりだった。

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