初詣
105回目の除夜の鐘が鳴り響いているお寺の境内。
空からはゆっくりと冷気が降りてきている。
私は、弟と妹と一緒に、そんな感じのところに初詣に来ていた。
「お姉ちゃん、人だらけだよ」
弟が私に話しかけてくる。
「そうだね。だから、しっかり手を離さないようにするんだよ」
まるで母親のような感じの私だが、弟は今年度小学校に入ったばかり、今年の4月に2年生に上がることになっている。
妹は、中学2年生で、私の2つ下だった。
「寒い~」
白い息を吐きながら、妹が私に話す。
「もうちょっとだから」
そんな私も、妹と同じように、白い息を吐いている。
106回目の鐘が聞こえてくる。
「あと2回?」
弟がきいてきた。
「そうだよ」
私は答えた。
その時、急に額に冷たい点を感じ、空を見上げた。
「雪だ…」
ちらちらと空から、白い妖精が舞い降りているような、そんな感じで雪が降り始めた。
「お姉ちゃん、雪!」
弟がキャッキャと喜んでいる。
「雪が降ってきちゃったねー」
妹は、けっこう興味がないようだ。
そして、さらに1回、鐘が衝かれた。
心の深くにまで響き渡る余韻を楽しんでいると、携帯にメールが入った。
妹側の手を離し、私の上着をしっかりと握らせて携帯を見た。
「ああ…なるほどね」
文面には、"あけおめ&ことよろ"とだけ書かれていた。
友人からのメールだと気付いたのは、そのメルアドを見れば一発だった。
ちょっと早めに送ったのだろう、年末年始はどこの携帯会社もサーバーのパンクを防ぐために、制限をかける。
その制限をかいくぐって、友人からメールが来たのだ。
「えっと、"あけましておめでとう・今年もよろしく"っと。絵文字は入れなくていいか」
そのまま送信し、再び妹と手をつなぐ。
「誰から?」
妹が聞いてくる。
「私の友達から」
妹にそう答えた。
その時、108回目の鐘の音が聞こえてきた。
「ああ、年が明けたね」
私が深く沁み渡っていく鐘の音を全身で感じながら、私は二人に話した。
「あけまして、おめでとう。今年もよろしくね」




