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第5章 真実と決意

真治と喧嘩別れした夜、美咲は何とか帰り着いた家で、ぼうっと隣の部屋の明かりを見ていた。

カーテンを締め切り、そこに居るはずの真治の様子は分からない。

いつも通りの近さ。そのはずなのに、何故か今日はとても遠く感じていた。

「……真ちゃん」

名前を呼んでも答えが帰ってくるはずが無く、美咲は少し空しくなってしまった。

いい加減寒くなってきたため、喧嘩したままの状態は嫌だったが、カーテンを閉める。

布団に入り、ぼんやりと天井を見上げる。

何故こんな事になってしまったのだろう。

ただ、一緒に居られればいいだけだったのに。

コン―――

何かが、窓に当たる音がする。

どうせ鳥か何かがぶつかったのだろう、と思い、気にしなかった。

コンコン―――

再び、窓に何かがぶつかる音。しかも今度は二つだ。

「……?」

少し眠たくなっていた美咲は無視した。今は鳥などに構っている暇はない。

「……まあ、今度音がしたら見てみようかな……」

そんな事を思っていると、突然携帯電話が鳴り出す。

慌てて起き上がり、通話状態にする。

「は、はいっ」

『お前気づけよ』

「え? し、真ちゃん……?」

『……ああ、俺だよ』

電話の相手はつい数時間前に喧嘩―― 一方的に怒鳴られただけだが――をした真治だった。

『……さっきはすまなかったな』

「え? あ、うん……私こそごめんね。プライベートなこと聞かれたくなかったよね」

真治の声に少しほっとして、美咲はカーテンを開けた。窓の向こうにある、部屋の窓から同様に真治がこちらを見ていた。

その顔は先程の元気の無い顔ではなく、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていた。

「あ、今開けるよ」

『……いい、本当にすまなかったな。なんだか受験でイライラしてたみたいだ……』

申し訳なさそうに、頭を下げる真治が見える。

それだけで、美咲の心のもやもやは一気に晴れた。案外単純なのである。

『昼間の子さ、俺と同じ場所受けてたんだ……』

「そうなんだ……」

『ああ、でも俺、落ちててさ……でも、あの子は受かってた。だから、ちょっとイライラしてた……』

「……ごめんなさい」

美咲は自分のデリカシーの無さを恥じ、謝った。気遣いが足りなかった。

どうして、自分はああいう場での気遣いが下手なのだろうと、俯いてしまう。

同時に、真治が出て行かなくていいのではないかと考える自分が居た。そんな自分が嫌になる。

『何で、お前が謝るんだよ。でも、あっちの滑り止めの大学には受かったから、結局ここから出て行くんだ』

「え? そ、そうなんだ……おめでとう」

『ああ、ありがとう』

心を見透かされたような言葉に動揺する。

屈託無く笑いながら言う、真治の御礼が胸に突き刺さる。

本当に嫌な女だ……。

『そんなわけでもうすぐ合えなくなってしまうんだよな』

「うん、そうだね」

『そうだねってつれないな、幼馴染なんだからもっと悲しがってくれよ』

「……うん、そうだよね」

結局離れなくてはならないと言う事実に、美咲は元気を出し、笑う事は出来なかった。

真治はもうすぐ居なくなるのだ。

どうしようもない、不甲斐無さと悲しみに襲われ、美咲はカーテンの陰に隠れた。

『ん? どうした?』

「ううん、何でもない」

そっか、と電話の向こうで心配してくれる真治に申し訳なくなる。

『あのさ、とりあえず、明日から忙しくて帰りも合えなくなると思うんだ、だから、明日からは一緒に帰れそうにない』

「……えっ?」

『急でごめんな……受かった大学、寮への移動が意外と早くてな、一週間後には入寮だから荷支度始めないといけないんだ』

だから、一緒には帰れそうに無い、と言う真治。

突然だった。

ただでさえ、別れは確実に訪れると分かっているにもかかわらず、このままでは普段会う事すら出来なくなってしまう。

『だから、ごめんな』

「……ううん、大丈夫……だよ……」

そう答えることしか出来なかった。

自分が我が儘を言えば、迷惑を掛ける。普段から迷惑を掛けているのだ、これ以上迷惑を掛けるわけにはいかなかった。

『それで、あのさ……』

「……え? 何?」

『ん~、やっぱり何でもない。んじゃおやすみ』

「うん、おやすみ……」

ぷつっ、と空しい音を立てて、電話は切れた。カーテンの隙間から部屋を伺うと、笑顔の真治が手を振っていた。

慌てて隠れてしまう。

「……何もかも突然すぎるよ……」

布団に飛込み、枕に顔を埋める。涙で枕を濡らしてしまう。

リミットはもうすぐそこまで迫っていた。

急で、勇気を出す暇もなく、真治は去ってしまう。

「どうしよう……」

このままでいいのか、と自問自答する。

このままで終わっていいはずが無かった。何時の間に芽生えたのか分からないが、この胸には真治への気持ちが詰まっている。

それをそのままにしておくは嫌だった。

確かに長期の休みには戻ってくるかもしれない。でも、もうすでに恋人がいては意味が無いのだ。

「……よしっ!」

美咲は飛び起き、机に向かった。

勇気の足りない自分が唯一心を素直に出せるもの。

想いを伝えるために、想いを手紙に託すために美咲はペンを手に取った。

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