第39章:評議会の秘密 - 父の嘘
平和な朝 - 城の書斎
祝賀パーティーから3日後。
朝の穏やかな光が、城の書斎に差し込んでいた。
私――ヴィカース――は、古代の地図を広げていた。
世界地図。
大陸配置。
未知の領域。
ラーヴァンが、書斎に入ってきた。
コーヒーカップを手に。
リラックスした様子。
「ヴィカース、何を調べている?」
「父上」
私が、地図を示した。
「世界の構造を理解しようとしています」
「この大陸の配置」
「力の中心」
「統治構造」
ラーヴァンが、頷いた。
「賢明だ」
「知識は、力と同じくらい重要だ」
私は、ふと思い出した。
知恵の書から得た情報。
世界統治に関する断片的な知識。
「父上」
私が、何気なく尋ねた。
「評議会について、ご存知ですか?」
ラーヴァンの内なるパニック
ラーヴァンの表情が――
一瞬、固まった。
(内心:評議会?何だそれは?)
彼の心の中で、警鐘が鳴った。
ラーヴァンの内なる独白:
(くそっ...評議会?)
(聞いたこともない)
(私は2000年以上、結界に封印されていた)
(世界がどう変わったか...全く知らない)
(だが...息子の前で無知を認められるか?)
(私は至高竜だぞ!)
(世界最強の存在だ!)
(何か...何か適当に言えば...)
だが、外見上――
ラーヴァンは、冷静に見えた。
コーヒーを一口飲んだ。
時間を稼ぐために。
「評議会...か」
ラーヴァンが、ゆっくりと言った。
「ああ、知っている」
嘘の始まり - 架空の評議会
私は、興味を持って聞いた。
「どんな組織ですか?」
ラーヴァンの心臓が、速く打った。
(何を言えばいい?)
(適当に...壮大に聞こえることを...)
「評議会は」
ラーヴァンが、権威的な口調で始めた。
「世界の...ええと...均衡を維持する組織だ」
(良いスタートだ、続けろ)
「7名の...いや、12名のメンバーがいる」
(なぜ数字を変えた!?)
私は、目を細めた。
(12名?)
だが、何も言わなかった。
「12名のメンバーですか」
私が、確認するように繰り返した。
「その通りだ」
ラーヴァンが、自信を持って言った。
(もう引き返せない)
架空のメンバー - 即興の名前
「そのメンバーは、誰ですか?」
私が、純粋な好奇心で尋ねた。
ラーヴァンの額に、冷や汗が浮かんだ。
(名前?くそっ、名前を作らなければ)
「ええと...」
ラーヴァンが、天井を見上げた。
「まず、議長は――」
「サー・レジナルド・ゴールドスワース三世だ」
(なぜそんなに長い名前を!?)
私は、内心で笑いそうになった。
(サー・レジナルド・ゴールドスワース...三世?)
(そんな名前...聞いたこともない)
だが、私は真面目な顔を保った。
「ゴールドスワース三世...」
私が、メモを取るふりをした。
「他には?」
ラーヴァンは、続けるしかなかった。
「副議長は...ええ...マダム・エリザベス・シルバーストーンだ」
(どこからこれらの名前が来ているんだ?)
「非常に...ええ...厳格な女性だ」
「魔法の達人で...」
「ええと...300歳くらいだ」
(300歳?適当すぎるか?)
私は、唇を噛んで笑いを堪えた。
(父上...完全に嘘をついている)
エスカレートする嘘 - 詳細な設定
「面白いですね」
私が、励ますように言った。
「もっと教えてください」
ラーヴァンは、罠にはまったと気づいた。
だが、引き返せない。
「戦闘部門の責任者は...」
ラーヴァンが、勢いをつけて言った。
「グランドマスター・ザンダー・アイアンフィスト」
「彼は...ええと...身長が3メートルある」
「素手で山を破壊できる」
(3メートル?山を破壊?荒唐無稽すぎるか?)
私の肩が、微かに震えた。
(父上...どんどん大げさになっている)
「3メートルですか」
私が、感心したふりをして繰り返した。
「はい」
ラーヴァンが、今や完全に嘘のモードに入っていた。
「そして、魔法部門には――」
「アーチウィザード・メルリヌス・スターゲイザーがいる」
「彼は...空間魔法を...ええと...10万回も詠唱できる」
(10万回?なぜそんな数字を?)
ヴィカースの内なる笑い
私は、完全に理解していた。
父上は、何も知らない。
完全に即興で作っている。
だが――
これが、愛おしかった。
至高竜ラーヴァン――
世界最強の存在――
息子の前で無知を認められず――
必死に嘘をついている。
(父上...あなたは本当に...)
私の心が、温かくなった。
(プライドが高すぎる)
だが、私は何も言わなかった。
父のプライドを守ることにした。
「すごいですね」
私が、真剣な表情で言った。
「他のメンバーも教えてください」
完全に作り話の領域へ
ラーヴァンは、今や止まれなくなっていた。
「財務部門には――」
「カウント・ゴールドバーグ・マネーポーチがいる」
(マネーポーチ?本当にそう言ったのか?)
私は、咳払いで笑いを隠した。
「彼は...世界の金貨の70%を管理している」
「諜報部門には――」
「シャドウマスター・ダークネス・ナイトシェードがいる」
「彼は...影そのものだ」
「誰も彼の本当の姿を見たことがない」
(それは便利な設定だな、父上)
「医療部門には――」
「ドクター・ヒーリングハンド・ライフセイバーがいる」
(ヒーリングハンド・ライフセイバー?)
私は、もう限界だった。
内心で大笑いしていた。
だが、顔は真剣。
「素晴らしい組織構造ですね」
ラーヴァンの追加設定
勢いに乗ったラーヴァンは、続けた。
「評議会の本部は...ええと...」
「浮遊島にある」
「誰も見たことがない」
「常に雲の中に隠れている」
(浮遊島?雲の中?)
「彼らは...月に一度会合を開く」
「いや、待て...3ヶ月に一度だ」
(数字がまた変わった)
「そこで、世界の重要事項を決定する」
「戦争を始めるか」
「平和を維持するか」
「経済をコントロールするか」
私は、頷いた。
「なるほど」
「それで、父上は彼らと...関係がありますか?」
これは、危険な質問だった。
ラーヴァンの壮大な嘘のクライマックス
ラーヴァンは、一瞬躊躇した。
(どう答える?)
(関係があると言えば、詳細を聞かれる)
(関係がないと言えば、なぜ知っているのかと聞かれる)
「ええと...」
ラーヴァンが、慎重に言った。
「かつては...ある」
「だが、私が結界に封印された時――」
(これは真実だ、良い言い訳になる)
「連絡が途絶えた」
「2000年以上も」
「だから、今の評議会がどうなっているかは...」
「正確には分からない」
(完璧だ!これで逃げられる)
私は、理解したように頷いた。
「なるほど」
「2000年は、長いですからね」
「多くが変わったでしょう」
ラーヴァンは、安堵のため息をついた。
(助かった)
ヴィカースの優しさ - 嘘を暴かない
私は、完全に理解していた。
評議会についての全て――嘘。
サー・レジナルド・ゴールドスワース三世――存在しない。
マダム・エリザベス・シルバーストーン――架空。
グランドマスター・ザンダー・アイアンフィスト――完全な作り話。
浮遊島の本部――想像上の場所。
だが――
私は、何も言わなかった。
なぜなら――
これは、父のプライドの問題だった。
至高竜ラーヴァン。
世界最強の存在。
だが、2000年間封印されていた。
世界の変化を知らない。
それを息子の前で認めることは――
彼にとって、難しいことだった。
だから、私は――
優しく微笑んだ。
「父上、ありがとうございます」
「貴重な情報でした」
「評議会について、もっと調査してみます」
ラーヴァンは、感謝の表情を浮かべた。
(息子は、信じてくれた)
(良かった)
「ああ」
ラーヴァンが言った。
「もし何か分かったら、教えてくれ」
「私も...興味がある」
(これで、もし評議会が存在しなくても、私のせいにならない)
書斎を出た後 - ヴィカースの独白
ラーヴァンが書斎を出た後――
私は、窓の外を見た。
微笑みながら。
「父上...」
私が、静かに呟いた。
「サー・レジナルド・ゴールドスワース三世」
「カウント・ゴールドバーグ・マネーポーチ」
「ドクター・ヒーリングハンド・ライフセイバー」
私は、声を出して笑った。
「父上の即興力は、素晴らしい」
だが、同時に――
温かい気持ちになった。
「父と息子」
「時には、嘘も愛情の一部だ」
「父のプライドを守ることも――
息子の役割だ」
廊下でのラーヴァンの独白
一方、廊下を歩くラーヴァン。
彼も、微笑んでいた。
だが、少し恥ずかしそうに。
「ゴールドスワース三世...か」
「我ながら、酷い名前だった」
「ヴィカースは...気づいたかもしれない」
「だが、何も言わなかった」
「良い息子だ」
彼は、空を見上げた。
「評議会...本当に存在するのか?」
「もし存在しなければ...私の嘘は無害だ」
「もし存在すれば...」
「いつか、ヴィカースが真実を知るだろう」
「その時は...」
「正直に話そう」
「今のところは――」
「父のプライドを守ってくれた息子に感謝だ」




