5 話
僕がキッチンに行くと祐樹が睨んできた。なんでだろう?
遅くなってごめんね、と謝りながら席に座った。
「それで、何かあったんですか?」
祐樹は置いといて、愛香さんが家に来たってことは何か話したいことがあるのだろう。
そんな僕の心を読み取ってかは知らないが、愛香さんは微笑んだ。
「ええ。貴方たちにはこの国から脱出してもらうわ」
「奈織。お母さんも……その方がいいと思うの。後で私たちも行くから先に行っててくれないかしら?」
「そんなっ! 一緒に逃げようよっ!」
「奈織。冷静になれ」祐樹が僕を落ち着かせるために声をかけてくるが、今の僕にはそれは逆効果だ。
「うるさいっ。……ねっ、母さんっ!」そんな僕を見た母さんはふう、と息を吐いて睡眠効果のある魔法を僕に掛けた。
「かあ……さん」そうして僕の意識が途切れた。
僕の意識が戻った頃には、馬車の中にいて夕陽が射し込んでいた。
僕は窓を覗きこんで周りを見渡す。
「なんで……。草原にいるの?」
「答えてよ。あれからなにがあったんだよっ!」
バスの乗っている全ての人が僕たちに視線を移した。
「あの、お客様。他の方のご迷惑になりますので……」
すみません、と言って僕は身体を小さくさせた。
目的地に着いたら話す、と祐樹が他の人に聞こえないように言ってくれたので暴動を起こそうとしたけれどその考えは捨てた。