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アナタとメリークリスマス

作者: モンブラン

クリスマスということで、王道を征くラブコメです。

 少子化を嘆かれている今日に、同い年で異性の幼馴染がいる確率は、果たしてどのくらいなのだろうか。

 私、海野雪水うみのゆきみにも清川春矢きよかわはるやという幼稚園から高校にまで続く付き合いのあるお隣さんがいるのだが、その恐らくは貴重であろう関係性を、私はふいにしてしまっている。


 春矢は小学生の時からサッカーを続けていて、高校生になった今でも部活に励み大活躍らしい。

 一方私は、インドア気味でコミュニケーションにも積極的でない陰キャで、休み時間中にも一人涼しい顔でブックカバーをつけたライトノベルを読んでいるような奴だ。いやでも面白いんだって、2010年前後に刊行されていたラブコメラノベ!


 かように真逆の生活スタイルや、異性ゆえのよくある煩わしさから春矢とは次第に疎遠になっていった。

 かと思ったら、新しくできた友人たちが遠因となって、再び交友……とはいかないまでも会って話したりたまに一緒に帰るくらいの交流はするようになった。


 そんな折、春矢から12月24日に遊びに行かないかと誘われた。断る理由もないので了承したが、何かが起こるのか起こらないのか神のみぞ知る。

 春矢がどのような思惑を持とうと私には関係ない……はずなのに、どことなく落ち着かない気持ちになるのは何故だろう。

 とまれかくまれ、不可逆な時の流れには誰も逆らえない。


 そうして私たちはクリスマスイブ当日を迎えた。











 アラームよりも30分ほど早く目が覚めて、早起きは三文の徳を体感したことのない私は、いささか損した気分になった。

 穴空き銅貨3枚分の徳、というか得があると言われても、あまり唆られない。現代人の欲深さを舐めるなと言いたい。

 別に今日の予定を特別意識して早起きした訳では全然ないけれど、何となく視線はスマホの画面の日付に吸い寄せられる。


 12月24日。クリスマスイブ。


 キリストの生まれた日(とされている日)の前日というよりかは、クリスマスを口実に世の人々が浮かれ騒ぐ日である。宗教に関心のない人たちからしてみれば、クリスマスかクリスマスイブかの区別すらどうでも良いのではなかろうか。

 例年の私だったら厭世観たっぷりのモノローグをお届けできそうだったけれど、生憎今年は騒ぐ側の一員にならなければならない。


 この私、海野雪水は幼馴染の清川春矢とクリスマスデートに出かけることになっている。


 ……口にしてみて違和感がすごい。俗世から一歩引いたラノベ読み、もとい陽キャに混ざることのできない陰キャな私がクリスマスにデートだって?

 それ本当に私か? 暖房の効いた部屋で積読を消化しているのがあるべき私だろう。

 ありし日の私だろうーーけれど、どれだけウダウダ言葉を重ねようと、今日の春矢との約束はなくならないのである。

 ……まあ、約束を破るのは気分が悪いしドタキャンなんてしないけどさ。

 体調は健康であっても調子が狂うのは確かだ。









 支度を手早く終えて、家族から妙な勘繰りを入れられる前に家を出た。

 駅前に10時に集合、ということになっている。大体五分前に着く計算だから、慌てず騒がずてくてく歩いて行く。


 てくてく。

 こうも寒いとコートだけじゃなくて、スカートの下のタイツも欠かせないよねと、そんなことを思いつつ駅に到着すると。



「雪水、おはよう!」



 トレンチコートにデニムパンツ姿の春矢が既に来ていた。最近は制服か部活用のジャージ姿しか見ていなかったので、多少は新鮮味がある。



「おはよう。待たせた?」


「いいや、俺も今着いたばかりだよ」


「嘘。今着いたばかりなら、私が来る途中に会わなかったはずがないでしょう」



 お隣さんなんだから。



「あはは、何となくそういうの言ってみたくてさ。本当は30分前に来てた」


「ふぅん。運動部の呪われたサガかしら。でも、それなら私悪くないわね。ここは寒いから早く駅の中に入りましょう」



 私は春矢が肩を竦める気配を背中で感じながら、すたすたと駅に入る階段を上り始めた。









 電車に揺られて3駅移動したところにある、駅近くのショッピングモールにやって来た。方角的には東側。西方面にも大きなショッピングモールがあるけれど、こちらの方が比較的新しく最上階には映画館がある。


 そう、私たちがまず最初に用事があるのは映画館なのだ。

 冬の装いの人々で混み合ったモールに着いて、私たちはエレベーターで最上階を目指した。

 最上階の映画館まで来ると、大混雑とまではいかないまでも、まあまあ長い列ができていた。クリスマスに映画を観に行こうと考える人がこんなに居るのかと思ったけれど、私もその一員なのだと考えると人のことは言えない。

 

 チケットを買い、ジュースとポップコーンを携えて、私たちは劇場内に入った。

 ちなみに、これから私たちが観るのは、各メディアでも大好評と騒がれている某洋画だ。


 平凡な家庭に生まれた天才少年が、一人の少女との出会いをきっかけに自身の才能を発揮する道を見つけるという話らしい。


 普段触れないような内容だけれど、評判が良いらしく折角だから観てみようかということになった。

 私みたいな出不精は好きなアニメ映画で、その上劇場特典がないと映画館まで中々足を運ばないんだけどね。

 そうでもなければ、どうせ少し経ったらテレビ放送されるだろうし、配信サービスで有料とはいえ家で簡単に視聴できるのが現代だ。学割が効いているとはいえ、映画館で安くはない料金を支払ってまで観る必然性は薄いと思う。

 内容の方もそこまで期待してないし。



「雪水、さっきからフラグを構築してないか?」


「何のフラグよ」



 春矢がよくわからないことを言うけれど、それはさておき、損した気分にならない程度には面白ければ良いな。









「…………っ」


「……ハンカチ使うか?」


「……ありがと。でも持ってるから平気」


 いやいやいやいや!

 めっちゃ面白かったんですけど!

 泣くほど感情移入しちゃったんですけど!



「すごく良い映画だったけど、まさか雪水がここまで感動するなんてな」


「うっさい! なんでアンタはそんな余裕そうなのよ!?」


「隣で号泣されると泣けるものも泣けなくなるんだよ」



 理屈はわかるけれど、やっぱりムカつく。


 それにしても良い映画だった。

 天才って鼻につくものだと思っていたら、彼の視点から見ると自然で感情移入しやすかった。

 その上、ヒロインが可哀想な状況なのに本当に良い子で、そりゃあ好きになっちゃうなと。


 劇場映えするのはアクション系だけだと勝手に思っていたけれど、丁寧に描かれた人間ドラマも大きな画面と音響のおかげでより心に迫るものがあった。



「とりあえず、映画も終わったし劇場から出ようか」


「……うん」



 春矢にリードされる形で、私たちはゴミを処分しつつ最上階の映画館を後にしたのだった。



 







 そのすぐ下の階にはゲームセンターがあったーー最初に最上階で映画を観てから下の階へ下って行くという周り方になる。


 ゲームセンターに最後に来たのっていつになるんだろう。元々こういう騒がしい場所はあまり好きじゃない。春矢もそれを知っているのか、このフロアをスルーしようとしてくれていたけれど、興味もない訳じゃなかった。



「折角だから、ちょっと遊んで行く?」



 と、私の方から言ってみた。「折角だから」って良い言葉だ。及び腰な自分をほんの少しだけ前進させてくれる。


 春矢も空気を読んでくれて、「じゃあ、クレーンゲームあたりどう?」と乗ってくれる。部活という小さくないコミュニティで上手くやっているだけあって、結構良い奴なんだよね、この男は。

 しばらく離れていた間にその成長と感じられる。

 私と違って。



「あ、これ可愛い」



 クレーンゲームの筐体の中で鎮座するクマのぬいぐるみが目に入った。


 頭が大きく目がクリッとしていて、シンプルなデザインの服を着た茶色いクマ。個性が強過ぎず大き過ぎない分、どこにでも置けそうで私好みだ。



「ちょっとやってみる」



 あまりクレーンゲームの経験はないけれど、要は頭の部分を掴んで穴の方まで運ぶだけでしょう。そんなに難しいことじゃない。


 まずは右方向に動かして……あ、右過ぎたかな。あれ、これ左に戻せないの⁉︎ しょうがないから奥まで動かして、よし、頭のちょうど上のところに止められた。アームが下がってクマの首元に引っかかる。アームが再び上がって……え、ちょっ、なんでそんな簡単にアームが外れちゃうの⁉︎ あーあー、何も掴んでいないアームが戻ってきちゃった。



「どうなってるのよコレ⁉︎ アームの掴む力弱過ぎるでしょう! 壊れてるんじゃないの⁉︎」



 運営側からしたら簡単に景品を取られたら商売にならないだろうけれど、まさかこんな卑怯な手を使うなんて。



「ちょっと店員に抗議してくるわ」


「待て待て待て!」


 肩を怒らせカウンターの方へ向かおうとするのを春矢に止められた。



「クレーンゲームってこういうものだから! アームの掴む力はそんなに強くないんだよ。俺がやってみても良いか?」


「うん」



 私は「やれるものならやってみろ」とばかりに春矢に場所を明け渡した。



「このぬいぐるみの位置ならアレで行けそうなんだよな」



 そう言いながら、春矢はお金を入れてアームを操作する。右に動かしてクマの位置に合わせるところまでは同じ。しかし、奥に動かして止めたのは頭の中心よりも少し後ろの方だった。おいおい、取れそうな雰囲気を出していたけど口だけだったのかしら。案の定アームは頭の中心部分を外れて後ろ部分に当たっただけだった。そのまま掴めないものと思っていたところで、引っかかっていたアームが上がる勢いで頭が前に向かって倒れてきた。大きい頭が倒れることで全身が穴に向かって倒れ始めて……。



「よし、取れたぞ」



 春矢が嬉しそうに、私の前にクマを差し出した。



「くれるの?」


「ああ、俺が持っててもしょうがないし。雪水が欲しかったんだろ?」



 この時の私の心情をひと言で表すのは難しい。クマのぬいぐるみが手に入ったのは嬉しいけれど、私が取れなかったものをこうもたやすく取られてしまうのは何だか悔しい。



「…………」


「え、なに、怒ってるの? 嬉しいの?」



 私の表情がどうなっているかは鏡がないので知りようがないが、私の複雑な胸中が忠実に表れているらしい。


 でもまあ。

 私のためにわざわざ取ってくれたのにお礼も言わないのはおかしいよね。

 私は春矢からクマのぬいぐるみを受け取って、クマを胸の前でギュッと抱き締めた。



「ありがとう。大事にするね」



 私がそう言うと、春矢は少しだけ顔を逸らして照れ臭そうに頬を指で掻いた。


 今度の私はどんな表情をしていたんだろうね。









 ゲームセンターを出た私たちは、お昼を食べに下の階の洋食レストランにやって来ていた(クマは店員にもらった袋に入れて春矢が持ってくれている)。


 ピークタイムを過ぎていたおかげか、さほど並ばずに席まで通してもらえた。座って落ち着けたところで、メニューを開く。

 フードコートやファミレスを避けてのチョイスだから、値段設定は少しだけ高め。でも、騒がしい中で食べるよりも落ち着けて良い。


 春矢は特製チキンステーキとライスとスープのセット、私は和風パスタを注文した。



「アンタ、結構食べるのねぇ」


「まあな。運動部だから」



 身体を動かす分カロリー消費が激しいのだろう。

 少し待ってから注文した料理が提供された。


 いただきます。

 ……うん、特に期待を裏切ることなく普通に美味しい。



「昔から思ってたけど、雪水って食べ方綺麗だよな」


「そう?」


 

 別段気にしたことは……なくはないな。



「お母さんが結構そういうの厳しくてさ」


「あー、俺も昔おばさんから色々言われた気がする」


 昔は春矢と食事を共にすることも多かったからね。懐かしや懐かしや。

 でも、そういう春矢も特に行儀悪いこともなく、ボリューミィなメニューを次々と口に運んでいた。

 私なんかよりも、こんな風に食べている姿の方が絵になる気がする。









 その後は私たちがそれぞれ見たいお店にウィンドウショッピング。


 私はブティックで冬物を見たくて。特にワイドパンツを探していた。こういう所にあまり来たことのないらしい春矢がドギマギしながらついてくるのが面白い。探していたパンツと、さらに良い感じのニットも見つけたので試着してみることにした。


「私、今から試着してみるから、感想よろしくね」


「お、おう」


「あー、ただ『似合ってる』とかだけで済ませるのは禁止ね。具体的に細かくよろしく」


「ええっ⁉︎」


 たじろぐ春矢を残して、私は試着室で着替えた。着てみた感じだとサイズは良さそうだ。


 着替え終わってカーテンを開けた。

「どう?」私が訊くと、春矢は私のことを凝視しながら言葉を絞り出した。



「パンツが雪水の細身の体型によく似合ってる。ニットも温かそうで今の時期にちょうど良いんじゃないか。うん、すごく似合ってる」


「……さ、サンキュ」



 何とかそれだけ言い残して、私はカーテンを閉めた。

 細かく言えと言ったのは私だったけれど、いざここまで具体的に褒められると恥ずかしくなってきた。あー顔熱い。早く着替えよう。


 ……とりあえず今試着したものは購入決定。









 次は春矢が行きたがっていたスポーツ用品店。文学女子(自称)の私の興味を唆るものはないと思っていたけれど、意外と見ていて面白かった。


 内装がオシャレで、スポーツ用品専門店でありながらカジュアルな雰囲気だ。ショッピングモールの中だとこういう店もオシャレになるのか。……町にある地味な店のイメージを持っていたので、その偏見は撤回した方が良さそうだ。


 春矢は、やっぱりというか、サッカーのスパイクが置かれているコーナーに吸い込まれて行った。いくつか目星をつけていたようで、特定の靴の前で足を止めてじっくりと吟味している。



「スパイクの中でもやっぱり違いがあるの?」


「ああ。大きく分けて固定式と取替式の二つがあるんだ。スタッド……足裏についている粒々が取れるか取れないかの違いなんだけど」


「取れるか取れないかで何か変わる?」


「フィールドでの適性かな。固定式は固い地面や短い芝のグラウンド……大体のフィールドで使える。一方取替式はぬかるんだ地面や長い芝のグラウンドに適性があるんだ。後はスタッドの数の違いかな。固定式の方がスタッドの数が多くて、その分足腰への負担が取替式よりも少ないんだよ」


「へーえ」



 素直に感心してしまった。スパイクって粒々がついていればみんな同じようなものだと思っていたから。



「で、春矢はどっちのタイプのスパイクがお目当てなの?」


「今日は取替式の方。今度の練習試合先の芝が長めらしいから、この際取替式のスパイクも持っておきたいと思ってさ」


「そっか。良いものが見つかると良いね」



 熱心に見比べる春矢にそう声をかけた。








 ショッピングモールに居ると、自分たちはここまで買い物好きだったのかと思わされるほど、色々なお店を見て回った。雑貨屋を冷やかしたり、食品コーナーを覗いたり。そこで飲んだ生のフルーツジュースはとても美味しかった。お金も持てる荷物の量にも限りがあるので、1階まで戻ってきたところで私たちはショッピングモールを出た。


 時間はまだ夕方だけれど、陽の短い冬のため外はもう暗くなっている。


 電車に乗って、再び私たちの町に帰ってきた。

 駅の構内から商店街に繋がる歩道橋を歩く。それほど活気のある商店街じゃなくてもイルミネーションだけは気合が入っている。



「綺麗だね」



 半ば独り言、半ば語りかけるように言ってみたけれど、春矢からの返事がなかった。



「春矢?」


「雪水、どうしても伝えたいことがあるんだ」



 隣を歩く春矢が立ち止まり、私に真剣な眼差しを向けてきた。



「なに?」



 茶化して混ぜっ返すような雰囲気ではないことは弁えている。私はそのまま促した。



「今日はすげー楽しかった。雪水はどうだった?」


「私? 楽しかったよ」



 出不精な自分がここまで楽しめるのかってくらいに。



「俺、これからも雪水とこういう時間を一緒に過ごしたい」



 春矢は頬を真っ赤に染めながら、



「ずっと前から好きだった。俺と付き合ってください」



 私にその真っ直ぐな想いを打ち明けてくれたのだった。



 …………まあ、予想はできていた。予感がない訳じゃなかった。


 ラノベの鈍感主人公じゃないのだ、春矢が私のことを好きなんだろうなぁというのは以前から気づいていた。


 交流を再開してから薄々感じていたし、今日一緒に過ごしてみて確信したけれど、春矢は結構良い奴だ。風の噂でそこそこ人気があると聞いていて、なるほど納得できるくらいに。


 でも、だからこそ思ってしまう。



「ありがとう。でも、本当に私で良いの?」



 自分でもわかっているけど、私って嫌な奴だよ?

 マイペースだしノリも悪いし、大前提として性格悪いし。

 可愛げなんて以っての他だ。

 一緒に居て楽しいと思えない。



「ふはっ」



 私がそう言うと、春矢が急に吹き出した。



「何よ?」


「いや、まさか雪水がそんな殊勝なことを思ってるなんて。らしくないよ」



 ああ、その通りだとも。らしくないとも。急に笑われてイラつくくらいが私らしい。

 でも、春矢はそのままの朗らかさでこう続けた。



「確かに雪水より気配りができて、性格が良くて、可愛げのある女の子は他に居るかもしれない。でも、それじゃダメなんだ。俺は雪水らしい雪水が好きで、それが総てなんだ」



 え。どういうことよ?



「なに、アンタ、性格悪い陰キャが好みなの?」



 私が言うのも何だけど悪趣味だと思う。



「違うって! 俺が言いたいのは……あー、これはある人に教えてもらったことなんだけど、好きっていうのはもう感情そのものが理由なんだよ。性格が気配りがどうとか性格がどうとか、そういうのは後付けに過ぎない」


 

 好きはそのまま理由になる、か。わかるようかわからないような、でも、優しい考え方だと思う。



「だから、雪水が好きだから、雪水が好きなんだ」


「……ねえ、ところで、さっきから好き好き言ってて恥ずかしくならないの?」


「照れる……けど、今は一世一代の恥ずかしがっちゃいけないタイミングだろ」


「ふぅん。そっかそっか」



 今度は私が「ふふっ」と吹き出してしまった。

 笑っている場合じゃあないんだけれど、何だか楽しくなってしまって。

 でも、私も私なりにきちんとした答えを返さなければ。



「私は春矢ほどちゃんと好きって気持ちは持ててない。でも、今日も楽しかったし、アンタと一緒に居ても良いかなって思う。……ごめん、今はこのくらいの答えしか返せないんだけど、それでも私と一緒に居てくれる?」



 私が訊ねると春矢は緊張が解けたように身体の力を抜いて、それからまた私の方を真っ直ぐに向いて言った。



「もちろんだよ。ありがとう」



 私も安心した。春矢と一緒に居ることがもう私にとっての普通になってしまっていたからだ。そして、普通が乱されるのは平穏を愛する私には耐えがたいことである。

 ……どうして言い訳じみたことを言い連ねているんだろう、私は。



「そうだ、大事なことを言い忘れた。……雪水は俺が出会った女の子の中で一番可愛いよ」



 ふーん、……へへっ。



「ふふっ、それはどうもありがとう」



 こうして。

 世間でメリークリスマスと声高に叫ばれる日に。

 私は春矢と付き合うことになったのだった。

















 後日談。

 春矢との交際を公表する気は皆無だったのだが、春矢との仲を後押ししてくれた2人の友人にも言わないのは流石に不義理かと思って、他言無用を強調して伝えたら。



「うわーん、わたしの雪水ちゃんが清川くんに寝取られた〜!」

「まぁまぁ、そう嘆くことはないよ。私たちもこれで心置きなく2人のイチャイチャを揶揄うことができるじゃないか」



 爆速で後悔させられた。



「にしても、令和が誇るツンデレ美少女こと雪水ちゃんも、ようやくデレてくれたよね〜」

「誰が令和が誇るツンデレか!」



 美少女でもないし。



「ツンデレの人気も近頃は衰退気味だけど、素直になれない意地らしさが可愛らしいんだよ。流行は時を経て繰り返すものだから、ツンデレブームも再興すると思うんだ。雪水さん、当事者としてのコメントをどうぞ」

「いやだから、私をツンデレだという前提で話を進めるの辞めてもらえる⁉︎」



 早速2人のペースに巻き込まれている気がする。平穏と静寂を愛する私にとって、彼女たちはある意味大敵なのだった。



「ツンはわかるけど、私にデレ要素がないよね?」


「え?」「は?」


「2人揃って首を傾げないでくれる? お互いに相手の方に傾いてるから寄り添ってるみたいになってるし」


「「にこ〜♪」」


「無駄に可愛いなチクショウ!」



 これだから美少女は……。



「いやいや、雪水ちゃんも可愛いよ。超可愛いんだよ。美少女フリークのわたしが保証するっ!」


「そうだね。塩対応しがちだけど、特に想いを胸のうちに秘めがちな草食系男子たちにモテモテだよ」


「マジで⁉︎」



 具体的に誰のことを指しているのか知らないけど見る目ねえな。



 今さら言われてもどうにもならないしどうにもするつもりもないけど。



「そうだよね。雪水ちゃんは清川くんのことを好き好き大好き超愛してるんだもんね」


「そこまでじゃない」



 舞城王太郎作品の題をそんな簡単に引用しないで欲しい。



「えー、でもさ、清川くんのことを憎からず想ってるから、付き合うことにしたんでしょ?」


「うーん……。まあ、そうだね」



 そのくらいの表現の方がしっくり来る。



「何というか、明確に“好き”っていう感情が前面に出ているわけじゃないんだけど、まあ良い奴だなーとは思ってるし、最近ちょっと心配になることもあるんだよね」


「心配?」


「ニュースを見てると、スポーツ選手のケガとか頻繁に報じられているでしょう」


「あー、あるある」


「誰もケガをしたくて頑張っている訳じゃないだろうに、結構みんな痛ましい有様になっているでしょう。だから、春矢も……アイツも頑張ってるのはよくわかるんだけど、ケガをしないと良いのになぁ。無茶はしないで欲しいなぁって思って」


「…………」


「…………」


「え、何なの、2人してその沈黙は?」


「「……愛だねぇ」」


「はぁっ⁉︎」



 しみじみとした様子で呟く2人に困惑が漏れ出た。



「何が! どこが愛なのよ⁉︎」


「大好きな人の身を案じるところが正しくそうでしょ」


「これを愛と呼ばずして何と呼ぶ」


「…………あぅ、あぅ……」



 何か言い返してやりたいのに脳が沸騰したかのように顔も熱くなって言葉にならない。



「良かったじゃん。愛されてるようで」


「ほら、清川くんも何か言ってやりなよ」


「え゛?」



 2人のセリフと視線が私の背後に向かっていたので、咄嗟に後ろを振り返った。


 そこに立っていたのは、照れくさそうに頬を掻く春矢だった。



「……えっと、何というか、ありがとな」



 照れ笑いを浮かべる男に、しかし私は訊ねない訳にはいかなかった。



「アンタ、いつから私たちの話を聞いてたの?」


「いつからと言われたら、『うわーん、』からだな」



 なるほど、一部始終余すことなく聞かれていた訳ね。

 ……………………。



「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「……お、」


「「「お?」」」


「おぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」




 そんなこんなで。


 平穏と静寂を愛する私の願いも虚しく、騒がしくも愛おしい日々が始まろうとしていた。

お読みいただきありがとうございました!

今作は、拙作『兄妹シリーズ』(https://ncode.syosetu.com/n3270dl/)の中のサブキャラクターたちによる番外編を、大幅に加筆修正したものになります。

気軽にお勧めできる分量ではありませんが、もしよろしければそちらも読んでみていただけると嬉しいです。

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