Ep,7 公園
投稿少し遅くなってすいません!
図書室を出て、僕とレイは下駄箱へと向かっていた。
今日の課題、自分の異能の遺伝子配列の推測レポート。
頭の中ではまだ、自分の「存在希薄化」とレイの「聴覚の異常なまでの発達」がぐるぐると渦巻いていた。
(僕の異能の遺伝子配列って、マジでなんなんだ、、、)
「……陽一の異能って、便利だね」
レイが突然、隣でぽつりと呟いた。
「ん?ああ、まあそうかな」
僕は曖昧に答える。便利、というよりは、今まで目立たずに生きていくための自己防衛みたいなものだった。
「…私だったら、あの図書室から、誰にも気づかれず、本を取ってくる、」
彼女の言葉に、僕は思わず吹き出した。
「おいおい、それ犯罪だろ」
レイは少しだけ首を傾げる。
その反応が、どこか世間ずれしているというか、純粋すぎて、僕は再び笑ってしまった。
「でも、レイの異能もすごいよ。人の心音まで聞こえるって、普通じゃ考えられない。それだけ聞けたら、嘘とかすぐ分かるんじゃないのか?」
僕が尋ねると、レイは一瞬、顔を伏せた。
「……分かる時もある」
その声は、なぜか少しだけ暗かった。
まるで、その能力が彼女にとって、良いことばかりではないとでも言いたげな。
「……ごめん、なんか嫌なこと聞いちゃったな」
「……別に」
レイはそう答えたが、どこか歯切れが悪かった。
僕はそれ以上深くは聞かず、下駄箱にたどり着いた。
寮に帰り、夕食を済ませてから、僕は今日のレポート課題に取り掛かった。
「存在希薄化」という異能が、具体的にどの遺伝子配列に関わっているのか。
僕はネットで関連情報を調べたり、教科書を読み返したりした。
しかし、これといった有力な情報はなかなか見つからない。
そもそも、こんな異能、過去に報告例があるのかどうかも怪しい。
時計の針は、すでに夜の10時を回っていた。
気分転換に、と僕はパーカーを羽織って外に出た。
夜の静かな寮の敷地内を、あてもなく歩く。
ふと、公園のベンチに人影が見えた。
こんな時間に誰だろう、と近づいてみると、そこに座っていたのはレイだった。
彼女は、膝を抱えるようにして、遠くを見つめていた。その猫耳は、夜の闇に溶け込むように、静かに佇んでいる。
「レイ?こんなところで何してるんだ?」
僕の声に、レイはびくりと肩を震わせた。
彼女が僕に気づかなかったのは、僕の異能が働いていたからだろうか?。
「……陽一」
レイは、少し驚いたような顔で僕を見上げた。
「気分転換に散歩してたんだ。レイこそ、どうしたんだ?」
「……宿題、全然わからなくて」
レイは、小さな声で呟いた。
その表情は、いつもの気怠げなものとは違い、少しだけ困惑しているようにも見えた。
「聴覚の異常な発達、か。確かに、遺伝子配列って言われてもピンとこないよな」
僕は隣に座った。夜風が、少しだけ冷たい。
「……なんか、聞こえすぎて、集中できない」
レイがぼそっと言った。その言葉に、僕はハッとした。
「もしかして、異能を発動したままだとか?」
レイは、無言で頷いた。
「いや、普段は使ってないって言ってたじゃん」
「……レポートの課題だから、使ってみた」
彼女は、少しだけ眉を下げて、困ったように僕を見た。
どうやら、レポートのために能力を使ってみたものの、そのせいでかえって集中できなかったらしい。
「そりゃあ、うるさいよな。心音とか聞こえてたら、普通に生活できないだろ」
僕は思わず苦笑した。この子、本当に純粋というか、不器用というか。
「よし、ちょっと試してみるか」
僕はそう言って、自分の異能を少しだけ発動させた。存在希薄化。自分の存在感を、可能な限り薄くする。
「……どうだ?何か変わったか?」
僕が尋ねると、レイは目を見開いた。
「……うん。なんか、陽一が、そこにいるのに、いないみたい」
彼女は、不思議そうに、しかし、どこか納得したように呟いた。
「周りの音はそのまま聞こえるのに、意識が、陽一の存在に吸い寄せられるみたい……」
レイの言葉に、僕はハッとした。
僕の異能が、レイの聴覚の過敏さを、意識の向け方という形で間接的に和らげているのかもしれい。
(ってことは、この能力には、意識、つまり脳の遺伝子配列が関係しているのか?、)
レイは、僕の顔をじっと見つめている。
その瞳の奥に、これまで見たことのない、好奇心のような光が宿っていた。
「……陽一の異能、すごい」
彼女は、心底からそう思ったのだろう。
小さな、しかし確かな感情が、その言葉に乗っていた。
僕は少し照れながら、「だろ?」とだけ答えた。
夜空には、満月が煌々と輝いている。
この異能向上高等学校での生活は、最初に思っていたよりも、少し、ほんの少しだけ、面白いものになるのかもしれない。
そう想った。
これからも、少し遅くなる可能性があります、、