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神子と魔法使い13


「王妃の仕事を教えている?」

「うん」


医者を呼んでくれたなずなのおかげで風邪が全快して、久しぶりに会いにきてみれば思いもよらぬ言葉を聞かされた。

フードを被ったままの男は、それはまた、と驚いたように言葉を零す。それになずなは苦笑する。


友人達も驚いていた。え、何で、と言われた。

カーシェの味方作り。レガートの支えの増強。それだけではない。本当はそれだけではなく、自分のためでもあった。


「外に、出たいの」

「外」

「そう。この世界にくるまでは外に出るのに制限なんてなかったし、いちいち人の裏まで考えることもなかったの。レガートの側にいるためにはそれを甘んじなくちゃだめで。それでもいいって思ってた」


でもレガートの心が移って。残されたのは行動を制限される立場。制限を甘んじる理由の変化。居場所を失わないために耐える。

それはレガートを理由にしていた時と比べれば辛いばかりで。行動だけではなく心までもが制限されたようで苦しくて仕方がなかった。


本当は限界だった。男と会った頃は限界が近づいてきていて。

だから空へと手を伸ばしていたのだ。自由がほしくて。


「居場所がなくなるのが怖かったのに、自由になりたかった。自由になりたかったのに、居場所がなくなるのが怖かった」

「今も?」

「うん。だって怖いでしょ?私がいた世界と全然違う世界だから。そこに一人で放り出されたらって思ったら怖い」


それに気づいたから頑張った。

元の世界に還してと泣いて叫んで憤って。でも返された視線は困惑と嫌悪と失望。

ここを追い出されたらどうやって生きていけばいい。

そう気づいたから彼らが望む神子になろうと頑張った。怖いこともたくさんあって、辛いこともたくさんあった。でも与えられた視線は柔らかくなって、温かくなって。

還れないのならば。もうここにしかいられないのならば、そうだ。このまま神子でいなければ。彼らの神子を演じなければ。


「でもね、今の私は何も知らなかった私じゃないから。この世界のことだって知ってる。出ていこうと思ったらきっとできたの」

「それが怖かった?」

「うん。怖かった。だってここなら知ってる人ばっかりだから。助けてくれる人もいるから。だから一人で城から出て、新しい居場所を探すのが怖かった」


なのに辛いのだと泣いた。傷をつけた相手に憤った。

大切だった。守りたかった。一緒に戦った。愛していた。一緒にいたかった。レガートも、宰相も、友人達も、神子様と慕ってくれる人達も。

けれどそれ以上に恐れた。一人になること。そして離れている間に忘れられてしまうのではないかと恐れた。

初めて愛した人。この世界で初めて信頼した友人。離れている間になずなの記憶が薄れて、ああ、こんな人もいたな。そんな存在になることが怖かった。


「甘えてたんだと思う。全部全部人のせいにして、恨んで、責めて。自分が可哀想だって思って。なのに一人になるのが怖くて出ていかなかった」


責める権利はある。なずなの意志を無視して召喚して、好きだと言って求婚したくせに心変わりして。なのに神子を手放すまいと縛りつけて。挙句に監視までされていて。

そこまでされて責める権利がないとは言わないだろう。責めてもいいのだ。責める権利は十分に持っている。


ただ、それとこれとはまた別だ。そう思うようになった。

自分にできることをやる。それが残された居場所を守るために必要なこと。

選択肢はひとつではなかったのに、ひとつだと思い込んで。他の選択肢を見ないふりをして。なのに自分以外ばかりを責めるのは違う。


男が微妙な空気を発する。

何とも言い難い。そんな空気。それに話は戻るんだけど、と自嘲するように笑う。


「今は無理だと思うの。でもね、カーシェ様が皆に認められるようになればちょっとは出やすくなるかなって」


目を伏せる。

胸の内を渦巻く思いは相も変わらず様々で。

以前のようにひたすらに辛いだけではないし、苦しいだけではないけれど、きっとこのままずっと城に留まればまた以前と同じ状態になる。

ならば余裕ができた今、自分の望みを叶えようと頑張ってもいいのではないか。ここじゃないどこかに行きたいと願っても。もう神子でいるのは嫌だと願っても。


「結局逃げるってことなのかもしれないし、カーシェ様に押し付けるってことなのかもしれないって思ったけど。でも」

「いいんじゃないのか」


はっと目を開ける。

男の口元が笑みを刻んでいるのが見えた。


「今まで頑張ってきたんだ。その褒美にそれぐらいもらってもいいと思うが?」

「…そ、かな?」

「ああ」

「そっか」


そっか、と、もう一度繰り返して、笑う。

満面の笑み。

それに男が息を呑んで、そして笑った。




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