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国王と魔法等使いと神子


変わった。

カーシェとなずなが会ったという日から一週間。二人の様子が変わった。


閉じこもっていた部屋から出てきたカーシェは、ただ部屋でレガートを待つだけの毎日をやめた。

カーシェの立場は国王の寵姫、愛人だ。その立場でも何かできることはと模索を始めた。ずっと周りの目に怯えていたカーシェは、怯えていた周りへと自分から関わるようになった。

なずなは公務以外はめったに出てこなかった外に出てくるようになった。生活する棟から出て、友人と会ったり散歩をしたり。そうして微笑むのではなく笑うようになった。

彼女の友人の一人である国王親衛隊の男も侍女である友人も憂いを込めた表情が薄れ、なずなと一緒に笑うようになった。それがなずなの変化を如実に現わしていた。


変わった。

二人に一体何があったのか。

カーシェもなずなも部屋から出てきた時にはもう変化していた。レガートがただ手をこまねいている間に、二人は部屋の中で何を思い何を見つけたのか。


どうすればいいのかと。

二人が傷つく原因は己だと分かっているというのに何もできなくて。

なずなを手放してやるのが一番いいと分かっているのに、神子を失うわけにはいかなくて。

結局はどっちつかずの情けない状況だけが残って。


そんなレガートを置き去りに、愛した女と愛する女は立ち直った。今までとは違う方向を見始めた。

ならば残されたのはレガートだ。レガートだけが動けない。方向を定めたカーシェと、新たな方向に目をやり始めた様子のなずなと違って、レガートだけが元の位置に立ったままで。


立ったまま、で。


書類にサインする手を止めて窓の外を見る。

青く澄んだ空。けれどレガートの心は黒い雲に覆われたままだった。









やばい。

こういう時に一人暮らしというのはよくないのだと知る。

子供の頃は母親がいた。父親がいた。だから分からなかったけれど。


「あたま、いた…」


体が熱い。

薬を飲もうにも起き上がれないから、鳥達が何とか持ってきてくれる。ガシャンっという音が聞こえたから、恐らく薬瓶を落として割った。そして中身を加えて持ってきてくれたのだろう。ありがたいけれど、体が治った時に見るのが怖い。

水も鳥達が嘴に含んで与えてくれる。薬を飲むには足りないから、喉を潤すためだけにもらうのだけれど、足りない。

食べるものは鳥達が木の実を持ってきてくれるけれど食べる気力がない。それではいけないと分かっている。このままでは治らない。けれど。


「う…」


あの雨の日の行動を後悔してはいない。いないが、頭を拭くだけで放っておいた自分には後悔している。

この調子ではいつなずなに会いに行けるかは分からない。あまり長く会いにいかないのも心配や不安を与えるだけだろう。あんなことの後なのだから。


……とりあえず寝よう。


寝て治そう。

鳥達の心配そうな目が日に日に酷くなっていくから、早く良くならなければ。

両親の代わりに側にいてくれる彼らに心配をかけるのは本意ではないのだから。


そんなことをぼんやり考えていると、側に気配を感じた気がした。

何だろう、と目を上げて………思わず目を見開いた。


「あ、すり抜けた」


ここにいるはずがない。城にいるはずの王妃、神子、泣いて叫んだ女。


「な、ずな?」


一体どうして、そう思って気づく。体が透けている。ならばこれは実体ではない。意識体。

それにああ、と納得する。


神の干渉。


なずなをこの世界に召喚した神は、基本的にはそれ以外にこの世界に干渉することはできない。ただ気に入りの国を見守るだけの存在だからだ。

けれど男に声を届けたように、男になずなが崩れる様子を見せたように、波長の合うものの意識に干渉することはできる。とはいってもほんの触りくらいなのだが。

なずなの今の様子も神の干渉だ。なずなは神子だから、魔法使いよりも神に近い存在だからこういったこともできたのだろう。

が、だ。


「あ、ごめん。起こした?」

「いや…」

「気がついたらここにいて…えと」

「いい…わかって、る」

「え?」


どうしてわざわざ自分のところになずなを寄越したのか。見当もつかない。

というか、思考するのが辛い。


「熱、高い?私のせいでごめんなさい」

「ちが…」

「どうしよう。看病しようにも触れないし」

「いい」

「一人暮らしでしょう?お医者さん呼ばないと…」


どうしよう、となずなが眉を寄せて、ぎょっとしたように目を見開いた。

なんだ。凝視している方向を見て……ああ、と思った。


窓の下に鳥。乗れるだけの鳥が乗っていたからだ。そしてその後ろの木の枝に止まっていたからだ。たくさん。

男には見慣れてきた光景。けれど初めて見たなずなには恐怖だろう。

その鳥がぴぴぴと訴えてくるのに、ぼんやりした頭で、ああ、と頷く。


「あの鳥が、お前のところに行く、から」

「え?」

「手紙、持たせて、くれ」

「え?手紙?」

そうしたら医者のところまで持って行ってくれるからと伝えれば、はい?と目を白黒させた。

まあ当然だろう。どこの誰が鳥がそんなことをしてくれると思うだろうか。けれど大丈夫だ。幼い頃から鳥の声が聞こえて。人と交流するより鳥達と交流することの方が多い自分には分かる。この申し出は鳥達からのものだ。

「今、文字、が、かけなく、て」

代わりに書いてほしい。

言えばまだ戸惑っているのだろ。けれど辛そうに話すものだから、とりあえず頷いたようだ。それを見て、頼むと言って、ああ、やばい。意識が遠のいていく。焦ったようななずなの声が、遠い。

けれどこれで辛いこの状態から脱することができるだろう、と安堵した。


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