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友人と神子5


なずなと幼馴染の二人が、自分達が生活する棟にじゃれあいながら帰っていったのを見送ると、待機所に戻ろうと通路を歩く。

そうして思い出すのは上機嫌だった幼馴染のこと。


無自覚なのか計算なのか。そう疑ってしまうが、限りなく無自覚だろう幼馴染の態度に一喜一憂する自分が虚しい。そう項垂れる。

あの態度はここ最近一番の機嫌の良さ故だろうか。周りに音符が飛んでいても可笑しくないくらいの上機嫌。一体何があったのだろう。なずなに何かあったようだけれど。


なずな、といえば、最近様子が変わった。

ようやく声を上げて笑うようになったなずなは、けれどまだどこか影を残していた。それが最近見えない。悩んでいる様子ではあるけれど、内に篭るような悩み方ではないようで。


「何があったんだか」


思わず口元が緩む。

なずなの現状は何一つ変わってはいない。それは自分にはどうすることもできないことで。もっと言えば、誰にもどうすることはできないことで。

どうすればいいのだろう、なんて誰にも分からないことだ。できるかもしれない人間がいるのだとしたら唯一、国王だけだと思っている。なずなと寵姫の間にいるのは国王で。

悔しいけれど、どうしてと思うけれど、なずなの夫で、寵姫の恋人である国王の一言が二人のこれからを決める。

今は国王が黙秘している状態だ。だからなずなは動けない。王妃の役割を果たしながら、真実王妃ではない状態のまま動けない。


「いっそさ、離宮与えて城から出すとかしてくれないかねえ」


そうすればなずなは裏切った夫と会うことも、恋敵と会うこともない。周りの目を耳を気にすることなく過ごせる。今よりも心穏やかに。

幼馴染に言えば、それができるなら、とっくにしてるでしょうが、と憐れみの目で見られるだろうか。

……偉い人の考えは自分には分からない。


そんなことを考えながら歩いていると、目の前に国王。後ろを歩いているのは宰相だろう。最近めっきり老け込んだ気がする。

以前幼馴染にそう言えば、まあ、色々大変よね、ああいう立場の人も、とどうでもよさそうに言われた。しかもスコーン食べながら言った。本当にどうでもよさそうだった。

そのせいか、幼馴染がいつか不敬なことをやらかさないか、少し心配になった。


しっかりと目視できる場所に国王と宰相がきたのに、すっと脇に避ける。

コツコツという靴音が側近くまでくると敬礼。後は通り過ぎるのを待つばかり…のはずが、何故だろう。国王が足を止めた。止めてこちらをじっと見てくる。


……俺、何かしたっけ?


思わず眉をしかめそうになって、けれど何とかとどめた。

宰相が、陛下?と怪訝そうに国王を呼ぶ。それにも答えない国王は、なずなの友人だったか、と言った。

え、と?俺、どうしたらいい?

予想外な出来事に軽く混乱するが、とりあえず先に跪いて、はい、と答える。…名乗るべきだろうか。名乗るような立場でもないのだけれど。

少し迷っていると、頭を上げるようにと言われる。本当に何なんだ。心臓が冷えたような心地だ。


「なずなの様子はどうだ?」

「はい。つつがなくお過ごしと伺っております」

「そうではない。友人であるお前の目から見て、どうだ」


は?と言わなかった自分を褒めてやりたい。

どうだ、と言われてもだ。元気だ。明るくなった。前を向いて歩き出したような感じだ。さて、どの道を歩こうか、と悩んでいる状態に見える。

が、それを言うわけにも行かないだろう。国王にしてみれば嫌味にしか聞こえない。不敬罪もいいところだ。なら何を言えと。

正直、頭がいい方ではない。国王が何を望んでいるのかなんて分からない。どう答えればいいのかも分からない。


「なずなは、笑っているか?」

「はい」

「それは、今もか?」

「はい」

気になる言い方だ。

国王はそうか、と目を伏せた。ならいい、と続けたその顔は、何と言えばいいのだろうか。様々な感情が入り乱れているようだった。

後ろに控える宰相が国王を見た。見たけれど、その目に感情が宿ったのは一瞬。もう見えない。

国王は時間を取らせたな、と言うなり再び足を進める。その後ろを宰相が歩く。残されたのは国王親衛隊員。戸惑ったように頭を掻いて、なんだあれ、と言葉を洩らした。


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