友人と神子4
数日前、激しい雨が降った。叩きつけるような激しい雨。
そんな中、意識を失ったなずなを抱き上げて帰ってきたのは知らない男。見るからに怪しい男が頭から被ったローブを落とせば、滅多に見ない美人。
驚いた。
これほどに造作の整った男をこの城で見たことがないけれど、城の人間でなければなずなと接触することもできないし、なずなの部屋に入ってくることもできない。
だから、窓から入ってきた男は王宮魔法士なのだろうかと思って。なずなはいつ男と知り合ったのだろうと思って。
本当なら人を呼ぶべきだった。いくら王宮魔法士とあたりをつけても、本当にそうだとは限らないし、怪しいことにも変わりはないのだ。
けれど意識がないにも関わらず、なずなが男を離さなかったことから、なずなが気を許しているのだろうと判断した。だからなずなから無理やり引き離すことも、人を呼ぶこともしなかった。なずなの無意識の引き止めは、ここにいてと言っているようだったから。
その男は熱を出したなずなに薬を作ってくれた。急なことで薬草を持ち出せなかったということで、男の代わりに薬草を貯蔵庫まで取りにいって。それを煎じてくれた。
そのおかげか、なずなの熱は明け方には下がって。
目を覚ましたなずなは…。
視線の先で、なずなが花を眺めている。楽しそうに楽しそうに、そしてふ、と空を見上げる。そうして何かを考えるようにして苦笑する。そしてまた歩いて花を見て、触って、ううん、と首を傾ける。
それを幼馴染と二人、眺める。
元気になったな、と幼馴染が言う。それにええ、と頷く。
「なずなをね、元気にしてくれる人に会ったの」
幼馴染が、え?とこちらを見下ろした。
それに笑う。笑ってその腕に額を押しつけると、びくっと幼馴染の体が震えた。驚いたように名前を呼ぶ幼馴染の名前を呼んで。
「もう大丈夫かもしれないわ」
なずなは毎日何かを考えている。空を見上げて、庭を眺めて。手を伸ばしたり、して。
一体何を考えているのだろう。聞いてみれば、これからどうするのか、かなあ?と首を傾げられた。
これから。
それは何を指すのだろう。国王のこと?その恋人のこと?それともそれ以外のこと?
分からなかったけれど、不安にはならなかった。
すっきりしたような顔をしているからだろうか。
何もかも受け止めるような微笑を浮かべなくなったからだろうか。
それとも、なずなが側を許していた男の存在を知ったからだろうか。
不安で心配で見ていたなずなを、安心して見ていられるようになった。
あの男がなずなとどういう関係なのかは知らない。甘い関係のようには見えなかったから、友人というところだろうか。直接聞こうとは思うものの、なずながあの人のことは秘密にしてね、と言うから口に出さないようにしている。どこで洩れるか分からないからだ。
秘密。どうして秘密なのか、とは聞かない。分かるからだ。なずながつきあう人間は調べられる。神子であり王妃であるのだからそれは仕方がないことだ。
なずなが友人と呼ぶ自分と幼馴染は側を許されているけれど、あの男は分からない。友人としてさえつきあいを許されないかもしれない。上流貴族の出ならばそうはならないかもしれないけれど。
…いや、そうでもないか。
「顔、凄くよかったものねえ」
「あ?」
道ならぬ関係にならないとは言い切れない、と判断される可能性は高い。
国王は他に恋人を作ったのだから、なずなもいいじゃない、と思うのだけれど、国王は男でなずなは女だ。国王以外とのもしもは避けたがるだろう。
「友人としてはむかつくこと限りないわ」
「いっ!?おまっ、何して…!爪立てるな!」
幼馴染がうるさい。
それをさくっと無視して顔を上げる。知らず浮かべた笑顔。幼馴染が惚けた顔した。
「いいのよ。私はなずなの味方なんだから」
お前、俺と会話する気あるのか?
何故か目元を赤らめて目を逸らした幼馴染に、首を傾げた。
そうして花を眺めていたなずなが、微笑ましそうにこちらを眺めていることに気づいて、また首を傾けた。