表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/46

友人と神子4


数日前、激しい雨が降った。叩きつけるような激しい雨。

そんな中、意識を失ったなずなを抱き上げて帰ってきたのは知らない男。見るからに怪しい男が頭から被ったローブを落とせば、滅多に見ない美人。


驚いた。


これほどに造作の整った男をこの城で見たことがないけれど、城の人間でなければなずなと接触することもできないし、なずなの部屋に入ってくることもできない。

だから、窓から入ってきた男は王宮魔法士なのだろうかと思って。なずなはいつ男と知り合ったのだろうと思って。


本当なら人を呼ぶべきだった。いくら王宮魔法士とあたりをつけても、本当にそうだとは限らないし、怪しいことにも変わりはないのだ。

けれど意識がないにも関わらず、なずなが男を離さなかったことから、なずなが気を許しているのだろうと判断した。だからなずなから無理やり引き離すことも、人を呼ぶこともしなかった。なずなの無意識の引き止めは、ここにいてと言っているようだったから。


その男は熱を出したなずなに薬を作ってくれた。急なことで薬草を持ち出せなかったということで、男の代わりに薬草を貯蔵庫まで取りにいって。それを煎じてくれた。

そのおかげか、なずなの熱は明け方には下がって。

目を覚ましたなずなは…。


視線の先で、なずなが花を眺めている。楽しそうに楽しそうに、そしてふ、と空を見上げる。そうして何かを考えるようにして苦笑する。そしてまた歩いて花を見て、触って、ううん、と首を傾ける。

それを幼馴染と二人、眺める。

元気になったな、と幼馴染が言う。それにええ、と頷く。


「なずなをね、元気にしてくれる人に会ったの」


幼馴染が、え?とこちらを見下ろした。

それに笑う。笑ってその腕に額を押しつけると、びくっと幼馴染の体が震えた。驚いたように名前を呼ぶ幼馴染の名前を呼んで。


「もう大丈夫かもしれないわ」


なずなは毎日何かを考えている。空を見上げて、庭を眺めて。手を伸ばしたり、して。

一体何を考えているのだろう。聞いてみれば、これからどうするのか、かなあ?と首を傾げられた。

これから。

それは何を指すのだろう。国王のこと?その恋人のこと?それともそれ以外のこと?

分からなかったけれど、不安にはならなかった。


すっきりしたような顔をしているからだろうか。

何もかも受け止めるような微笑を浮かべなくなったからだろうか。

それとも、なずなが側を許していた男の存在を知ったからだろうか。

不安で心配で見ていたなずなを、安心して見ていられるようになった。


あの男がなずなとどういう関係なのかは知らない。甘い関係のようには見えなかったから、友人というところだろうか。直接聞こうとは思うものの、なずながあの人のことは秘密にしてね、と言うから口に出さないようにしている。どこで洩れるか分からないからだ。


秘密。どうして秘密なのか、とは聞かない。分かるからだ。なずながつきあう人間は調べられる。神子であり王妃であるのだからそれは仕方がないことだ。

なずなが友人と呼ぶ自分と幼馴染は側を許されているけれど、あの男は分からない。友人としてさえつきあいを許されないかもしれない。上流貴族の出ならばそうはならないかもしれないけれど。

…いや、そうでもないか。


「顔、凄くよかったものねえ」

「あ?」


道ならぬ関係にならないとは言い切れない、と判断される可能性は高い。

国王は他に恋人を作ったのだから、なずなもいいじゃない、と思うのだけれど、国王は男でなずなは女だ。国王以外とのもしもは避けたがるだろう。


「友人としてはむかつくこと限りないわ」

「いっ!?おまっ、何して…!爪立てるな!」


幼馴染がうるさい。

それをさくっと無視して顔を上げる。知らず浮かべた笑顔。幼馴染が惚けた顔した。


「いいのよ。私はなずなの味方なんだから」


お前、俺と会話する気あるのか?

何故か目元を赤らめて目を逸らした幼馴染に、首を傾げた。

そうして花を眺めていたなずなが、微笑ましそうにこちらを眺めていることに気づいて、また首を傾けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ