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恋人と神子8


何てこと。ああ、何てことを…!!


部屋に閉じこもって涙する。

ひたすら自分を責めて、責めて、責めて。


ドンドンと激しく叩かれる扉。カーシェ!と呼ぶ愛しい人の声。それら全て無視をして。

侍女が呼んだのだろうか。誰も通すなと、誰にも知らせるなと言ったのに。

どうしたのだと、開けてくれと。その言葉にどうして答えられる?


全て受け止めるつもりだった。受け止めなければいけないと思っていた。それが自分がしたことの結果だから。

そう、思っていた。


「…っ」


神子の叫びを思い出す。

悲鳴のような叫びだった。夫を奪った女に対するものではなく、吐き出してほしいと告げたカーシェに対する叫び。非難。

その叫びから分かったことは己の醜さ。


カーシェは何も言ってはいけなかったのだ。神子が何も言わないのならば、カーシェもまた何も言ってはいけなかったのだ。

神子から夫を奪ったカーシェが、奪われた神子に堪える思い全てを吐き出してほしいなどと。


何て甘え!何て傲慢!


怖かったのだ。

国民に知られる日を思えば怖かった。誰も責めてこない状態が怖かった。

誰も責めない、けれど視線が告げる非難。それも次第に治まって。


安堵よりも不安。恐怖。

どうして誰も何も言わないの。ああ、いつか言われるのだろうか。安心したその瞬間に何か。


責められるのは怖い。いやだ。けれどそんな恐怖、不安を味わう毎日が辛かった。いっそ誰か口にして責めてほしいと。それを望む瞬間が確かにあった。

だからきっと…だからきっと選んだのだ。責めてくれる人を。お前が悪いと、お前のせいだと確実に責めてくれる人を。


そうすればこの苦しみから逃れられるとでも思ったのか。


よりにもよって神子を選んで。

確実に責めてくれるだろう、夫を奪われた妻を選んで。


彼女は通り過ぎようとしたのに。


呼び止めて、責めてほしいと願って。…ただ徒に傷つけた。

神子の目は大きく見開かれて、唇は青白く、小刻みに震わせて。顔色は青を通り越して真っ白に。次いで細められた目に怯えを見た。細い両腕は何かから身を守るように体を強く強く抱きしめて、ふらり、と後退った。

壁に背をぶつけた神子は、びくんっと体を震わせて。そうして泣き出しそうに顔を歪めて叫んだ。叫んで、回廊を走って去っていった。もう少しでも一緒にいたくないと言わんばかりに、一度も振り向くことなく。


「カーシェ!カーシェ!」


レガートの声が聞こえる。けれどそれには答えない。

だって、分かった。神子の表情、行動、悲鳴。それらが分からせた。




どれだけ自分が醜いことをしたのか。




そんな姿を見せたくなかった。そんな醜い自分をレガートに見せたくなかった。


自分が悪いのだとそう言いながら。神子の言葉を全て受け止めなければいけないなんて言いながら。結局は自分が逃れたかっただけだった。自分の中の恐怖を拭いたいだけだった。

嘘ではないのに。嘘ではない、のに。なのに本当は、本当の本当は。






責めて責めて責めて。そうして最後にはきっと、認めてほしかったのだ。自分という存在を。
















―――神の子である神子に、赦しを与えてほしかったのだ。



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