友人と魔法使いと神子
ようやくなずなの部屋の掃除が終わった。
図書室に行くというなずなについていこうとして、命令を下されたせいでついていけなくなった。
友人とはいえ主。その命令に逆らうわけにはいかない。
けれど心配は心配。さっさと仕事を終わらせて迎えに行かなければ。
図書室はあまり人の出入りはない。身分が高ければ高いほど利用する人間は少ない。そういう人は自分では動かないからだ。だからなずなに会わせたくない国王やその恋人に会うこともないだろう。
…けれどもしもは否定できない。だから急いで仕事を終わらせて、なずなの部屋に背を向けた、ら。
バンッ
びくっとした。
振り向けば開いた窓から激しい雨が部屋の中を打ち付けていて。
風が開けたのだろうか。ああ、もう!早く迎えに行きたいのに!!
窓を閉めに踵を返して…足を止めた。窓からローブを頭から被った男が現われたからだ。
びしょぬれの男は絨毯の上に足を乗せると、驚きと恐怖で固まった侍女を見た。
「何か拭くものをくれないか」
それと着替えを。
言って、腕の中に抱いたものをこちらに見せるように動いた。
知らず落とした視線が捉えたもの。それに恐怖を忘れて目を見開いた。
「なずな!!」
駆け寄って男の腕の中で、目を閉じたまま動かない友人の頬に触れる。
ぞっとするほど冷たかった。
「な、ずな?なずな!?どうして、ねえ!目を開けて!なずな!!」
「ちょっ、待て!泣きつかれて眠ってるだけだから落ち着け!」
なずなを揺さぶる侍女から逃げるように男が後ろに下がった。その時になずなを抱きなおしたことから、どうやら落としそうになったらしい。
侍女は男の言葉に冷静になって、瞬きする。
泣きつかれて眠ってる?
死んで、ない?
揺れる目で男を見れば、男が頷いた。
また視線をなずなに戻す。
青白い顔。濡れた髪に濡れた頬。ぴくりとも動かない姿にやはり不安になるけれど、見えた。
男の胸元をしっかりと握る手。なずなの手。力が入ったその様子にようやく安堵。生きている。ほっと息をつく。
「それよりこのままだと風邪をひく。何か拭くものと着替えをくれないか」
「え…」
そして気づく。
頭から爪先まで乾いたところが一つもないなずなの姿に。
さああっと真っ青になって、慌てて頷いた。
ああ、一体何があったの。
どうして。一体どうしてそんな状態に?
ああ、ああ。こんなことなら命令に逆らってでもついていけばよかった!
不審人物でしかない男を疑うことも忘れて、男の言うとおりに動いた。