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魔法使いと神子8


泣き声が小さくなる。

くた、と体に重みがかかる。

それに気づいてなずなを見れば動かない。耳元で聞こえるのは寝息だ。泣きつかれて眠ったらしい。


一体どれだけ気持ちを溜め込んでいたのだろうか。

ただ一つの居場所を守るためにと、この小さな体でどれだけ。

本当はいつだって言ってしまいたかったのだろうに。いつだって男に叩きつけたあの言葉を口にしてしまいたかったのだろうに。


「居場所、か」


この世界の人間ではないなずなにとって、それは何より重要なこと。

それを守るために必死で。それを守るために心を削って。そうして何が原因なのだろうか。爆発した。

そんな事態にならないように、と耐えてきたなずなには悪いけれど、それを幸いだと思う。このまま溜め込んでいてはいずれ精神が均衡を崩すだろうから。


「とりあえず、温めるのが先か」


いつまでもこうして雨に打たれているわけにはいかない。

今しなければいけないのは、思考に耽ることではなく、なずなから水を拭きとって体を温めることだ。


起こさないようにとなずなの足を掬って抱き上げ、今更ではあるけれど、これ以上冷たい雨に体温を奪われないように、と顔を守るようにしっかりと胸に抱く。

そうして横に落とした箒に爪先を乗せて力を流すと、箒がひとりでに浮き上がる。

男は腰より下に浮かぶそれに乗って、片手で箒の柄を握る。もう片手はなずなをしっかりと抱きしめる。

箒の二人乗りなどしたことはないが、できないことはないだろう。問題はこの雨だ。体を痛いほど叩く雨。そして上に上れば上るほど強くなる風。

一人でも大変だった。気を抜けば飛ばされ、箒から落とされるだろうほどに。

だがこれしか方法がない。なずな一人ならともかく、男が正規の手段でなずなの部屋に入れるはずがないのだから。


「少しでいい。がんばってくれ」


箒が空へと舞い上がった。
















居場所。

居場所を失った人を知っている。

失った…いや、奪われた?

この世界に生まれながら、それでも奪われた人を知っている。

その人をすぐ身近で見てきた。


その人にとっての幸いは何だったのだろう。

その人に重い肩書きがなかったことだろうか。前向きだったことだろうか。


何度も考えた。

何度も何度も考えた。


どうしてあの人は笑えたのだろう。

どうしてあの人は憎まなかったのだろう。


あの人となずなは違う。

違うけれど、あの人を知っているからこそ。考えたからこそ、神は己を選んだのだろう。







己が与えられるのは切欠。

それを考え、選ぶのはなずな。



―――神子ではなく、なずなが選ぶのだ。


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