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恋人と神子7


走る。

走る走る走る。


『私、はっ、陛下を、レガート様を愛して、います』


あなたがいらっしゃることを知りながら。

あなたから奪うことだと知りながら。

その手を取ってしまいました。


彼女は泣きそうな顔で、それでも必死にその想いを語った。

どれだけレガートを愛しているか。そのせいでなずなに与えた傷から逃げていた自分。ちゃんと向き合わなければいけなかったのにと。なずなの抱える思いを全部、受け止めなければいけなかったのにと。


怖かったのだろう。震える手を胸元で握って。なずなを揺れる目で、けれど逸らさずに見て。

その弱さと強さに、やめてと叫んだ。


『私、は!私はここしかいられる場所がないの、に!全部吐き出せるわけ、ないのに!』


まだそこまで行けない。まだそこまで行けないのだ。

受け止めなければと思っても、まだ受け止められない。だからといって抱える思い全て、なんて吐き出せるはずも、ない。


『神子は我が国の平和の象徴です。そして陛下の最愛の方。そんな民を裏切るわけにはいきません』


思い出す宰相の言葉。


『お前がどこにいても分かるように、魔法がかけられている』


思い出す男の言葉。


神子だから。

神子だから夫に裏切られても、城に留まれた。

神子だから夫に裏切られても、城に縛られた。

神子だからここにいられた。

神子だからどこにもいけない。


神子だから。

神子だから。

神子だから。




『勝手なこと言わないで!!!』




あなたはどこにだって居場所があるくせに。居場所を失った私と違うくせに。なのに唯一の居場所を奪われないために押し止めてる言葉を聞きたいだなんて。


それがどれだけ残酷なことなのか、知らないくせに。






目の前に回廊の終わり。この先はなずなの生活区域。なずなについてきてくれた人達が働いている場所。友人が笑っておかえり、と言ってくれる場所。


怯えたように足が止まる。

だめ、そう思った。

こんな状態で帰れない――だって絶対に心配させる。

誰にも会いたくない――だって何を言うか、自分でも分からない。





そう思った瞬間、叩きつけるような雨が降る庭へと飛び出した。



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