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恋人と神子5


会いにきたわけではない。会うかもしれないとは思ったけれど、会いたいと思ったわけでもない。覚悟だけはしていたというだけのこと。

けれどその覚悟も脆いもの。心臓が跳ねた。だってこんなにすぐ会うなんて思っていなかった。


思わず足を止めて、けれどすぐに前へと進めた。

びくっと揺れた目でこちらを見ていたレガートの恋人、確かカーシェが体を震わせた。控えていた彼女の侍女達がカーシェを守るように場所を移動したのを視界に、ああ、彼女に何かするのではと疑われているのかと気分が落ちた。

確かに彼女になずなは夫を奪われた。彼女が奪おうと思って奪ったわけではないとしても、結果を見ればそういうことなのだ。だから彼女達は警戒する。夫を奪った女に何らかの報復を受けるのではと。今までなずなは彼女に近づきもしなかった。なのに今は近づいてくる。警戒は当然か。


そう思いはするものの、その事実はなずなを傷つけた。

そんな女になれたらよかった。怒って、憎んで。そうできれば感情を閉じ込めずにいられるだけ楽だった。でもなれなかった。なった先のことを考えて、閉じ込めた。


一歩一歩近づく。

カーシェの目が揺れて、揺れて。胸元の手が震えて。そしてゆっくりと目が閉じられた。まるで覚悟したように。憎しみを、罵倒を全て受け止めると言わんばかりに。

けれどなずなはそのまま横を通り過ぎる。

声はかけない。かけて話すことなど何もないし、口をついてでる言葉は恐らく恨み言だ。


憎んでいるわけではない。ただなずなの中にはたくさんの恨み言があるだけだ。彼女に対してだけではない。それにはレガートや宰相に対してのものも含まれている。

誰にも言わずに溜めているそれが堰を切れば、恐らくもう止められない。傷ついた表情を見ても、例え泣かれても、言い尽くすまで止まらない。


だから今まで会わなかった。姿を見るのが辛いから、惨めになるから。それだけではなく。

表に出さないようにしているものが溢れ出すのが怖いから。全て言い尽くした後が怖いから。


それでもいつまでもこうしているわけにはいかない、と思った。

ずっとずっと彼女を避けていられるわけではない。彼女の存在が国民に知れた時、彼女を庇うのならば接触は避けられない。少しずつ、少しずつ、彼女に近づくことに慣れなければ、と思った。

彼女に近づいても、彼女と言葉を交わしても笑っていられるようにならなければ、と思った。

少しずつ、少しずつ。少し、ずつ。






「み、こ…様…っ」






だから近づかないで、ほしかったのに。


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