魔法使いと神子5
朝は聖堂で祈りを捧げる。
小一時間祈った後、神官と話をして聖堂を出る。外で待っているのは護衛の兵士二人。
彼らに守られながら城へ向かって歩く。辿りついた部屋で待っているのは友人である侍女。
彼女とおしゃべりして、お茶をして。時に散歩に出かける。
散歩の途中でもう一人の友人を見つけて、三人でおしゃべりして、またねと手を振る。
昼からは少し忙しい。王妃としての仕事が待っている。
孤児院や医療院などへの訪問が主な仕事だ。
人気取りといえば聞こえは悪いが、こういったことが国民を上がちゃんと思っているのだと安心させる要素になる。国民が国王を信頼すれば国も荒れない。
夜は夜会を開く。
貴族との繋がりを緩めないため。そして情報収集のため。
国を治める国王の支えとなるのが王妃だ。だから貴族の動き、噂話を把握することを疎かにしてはいけない。国を守るために必要なこと。
訪問の予定がない昼、夜会がない夜は一人部屋でのんびりと。
時には窓からの訪問者と話をして過ごす。
話。
外の話。
城の外の話。
慈善訪問をしているとはいえ、馬車に乗って目的地へ一直線だ。寄り道などしない。だから知らない、外の様子を訪問者は話す。
街道で盗賊が出たけれど無事捕縛されたという物騒な話から、パン屋の若奥さんが二人目を生んだという微笑ましい話まで実に様々。
そんな話を聞くのがいつしか楽しみになっていたけれど、同時に辛かった。
この世界に呼ばれるまでは当たり前だった。外に出て、街で遊んで、店の人と接する。何も特別じゃない、ごくごく当たり前のことだった。
それがこの世界ではできない。してはいけない。そういう立場にあるのだ。
それに気づけばあまりに違う故郷とこの国における自分の差。それを思い知らされて、唇を噛んだこともある。
そういう時、訪問者はぽん、と頭を撫でる。撫でながら話を続けるのだ。
訪問者はそうして一時間ほど話をして帰っていく。空へと高く高く上っていく。その度に手が伸びる。
…その手を引っ込めるまでの時間が延びてきたことに気づいたけれど、手が伸びる理由同様分からない。
何のつもりなのだろうか。何がしたいのか。
自分に向けての問い。そして訪問者に向けての問い。
それは日毎に色濃く脳裏に焼きついていくのだ。