国王と神子5
何かが可笑しい、と思った。
馴染みのない香りがなずなの部屋でした。
けれどなずなは何のことだと言わんばかりに首を傾げた。だから気のせいかと思ったのだけれど。
少しの違和感。それをなずなから感じた。
それが一体何なのかは分からない。けれど確かに感じた。
なずなが微笑む。
扉を開けた時は困惑していたようであったのに。いつもならば浮かべる微笑も浮かべなかったというのに。
なのにいつものように微笑んで。いつものようにこちらを気遣って。いつものように。
それもこれも香りに気づいた時からだ。それからなずなはいつも通りになった。
始めに見せた困惑を綺麗に消して。
「何かを、誤魔化そうとした?」
いや、煙に巻こうとした。レガートの意識を逸らせようとした。何から?…香りから?
何故。どうして。あの香りに一体何の意味があるというのか。
気になるのは胸に痛みが走ったからだ。なずながレガートに何かを隠そうとした。それに傷ついたからだ。
…勝手だけれど。
ふ、と回廊から庭を見る。足を止める気などなかった。なかったけれど止まった。
見えるのはなずなだ。腕に抱きついているのはなずなの侍女。そしてまるで泣いているように腕で目をこすっている男。着ている制服は国王親衛隊のもの。
なずなが申し訳なさそうに笑って、男の頭を撫でた。侍女が腕を伸ばして男の頬をつねった。男が何かを叫んで、なずなと侍女が声を上げて笑う。
その姿に目を見開く。
あんなふうに笑うなずなは久しぶりに見る。レガートがまだなずなを裏切る前によく見た姿。
それに胸がざわついた。
なずなが笑う。
以前のように笑う。
それが意味することはなんだろう。
その切欠はなんだったのだろう。
胸が、ざわつく。