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友人と神子3



人気のない場所で寝転がって空を見上げながら眉をしかめる。


最近なずなを見ない。幼馴染も現われない。これは何かあったんじゃないだろうか。

そう思えば今すぐにでも二人のところに行きたいと思う。

けれど気軽に部屋を尋ねられる立場にいない自分はそれもできなくて。こうして気を揉んでいるしかない。その現状がもどかしい。


国王親衛隊なんてものになって。守りたいものを守ろうと意気込んで。なのに今の自分は守りたいもののために動けなくて。

これでは何のために厳しい試験を受けてまで国王親衛隊になったのか分からない。

最近とみにそう思う。


国を治める国王。民の生活は国王の采配一つで定まるもの。

今代の国王は賢君と誉れ高い人だ。国が危機に陥った時も神子や臣下と共に乗り切ってくれた素晴らしい人。

その人を守ることは民を守ることに繋がるのだと。守りたい人達が心穏やかに過ごすために必要な人だと。そう思っていた、のに。


「違った」


国王親衛隊はあくまで国王を守るために存在するものだ。国王が最優先だ。他のことは二の次。それが当たり前だ。

違うのに。守りたいのは、本当の本当に守りたいのは国王ではないのに。その下で生活する人なのに。

両親に何かあっても、幼馴染が泣いていても、友人が苦しんでいても、国王に何かあれば国王が優先される。そんなことに気づかなかった。

そのせいで、なずなが姿を見せない。幼馴染が姿を見せない。そんな状況なのに国王親衛隊である自分は会いに行けない。

彼女達は神子とその侍女だ。国王からの寵愛を失った王妃とその侍女だ。だから会いに行くことは許されない。

泣いているかもしれないのに。苦しんでいるかもしれないのに。なのに側に行くこともできない。

そんなことをしたかったわけではない。そんな状況を甘んじる立場など望んでいなかったというのに。


「くそっ」


どんっと拳を地面に叩きつける。

空を睨んで歯を食いしばって、もう一度拳を地面から浮かして叩きつけようとした時、だ。




「久しぶり」




目の前に現われたなずなに驚いて目を見開く。

そして、あれ?と間抜けた声を上げれば、あははと笑い声。


「歩いてたらさぼってるの見ちゃったから」

「…さぼってないぞ」

体を起こしながら言えば、なずなが、へえ、と疑わしそうに見てきた。

「じゃあ何してたの?」

「睡眠という人間に必要な休息を」

「それをさぼってるって言うのよ、馬鹿」


なずなは前にいるのに後ろから頭を殴られた。

振り向けば思った通り、幼馴染がいた。

幼馴染はそのままなずなの隣に立ってなずなの腕に抱きついた。なずなが笑う。

その姿に目を細める。



ああ、前はよく見た光景だ。



そう思って首を傾げる。

そう、前はだ。なずなが部屋を移る前。なずなが声を出して笑わなくなる前。


「え…」


そうだ。そうだそうだ!けどなずなはさっき笑った。以前のように笑った。

え、え、え、と湧き上がる喜びと戸惑いに幼馴染を見ると嬉しそうに笑った。それに泣きたくなった。


何もできなかったけれど。側にもいられなかったけれど。

それでもずっとずっと願ってた。また笑ってほしいと。そんな日がきてほしいと。


だから笑った。











なずなが声を上げて笑う。

幼馴染に近づいて、驚かせて、そして楽しそうに笑う。

それがどんなに嬉しかっただろう。どんなに泣きたかっただろう。


なずなはある日、突然部屋に閉じこもった。閉じこもって部屋から出てこなくなった。

何があったのだろう。言ってほしかった。でもなずなは何でもないと、一人にしてと扉を開けてはくれなかった。


それから三日。国王からの先触れがきた。なずなに会いに行く、と。

なずなを心配した周りが現状を国王に報告してしまったからだ。

確かになずなが三日も部屋に閉じこもったことはなかった。それだけ辛い何かがあったのだと思えば気が気ではいられない。よく分かる。分かる、けれど。


そうして訪れた国王。

責められればどんなにいいだろうか。思いながらなずなの部屋に通して。

しばらくして戻ってきた国王がなずなを連れたって戻ってきた。


なずなは少しすっきりした顔をしていた。心配かけてごめんね、と笑った。

嬉しかった。嬉しくて、けれど悔しかった。結局この国王は未だなずなにとって部屋から連れ出せるほどに大きな存在なのだと思えば悔しかった。こんなにも思われてるくせに、と憎かった。


それからだ。なずなが以前のような姿を見せるようになったのは。

完全に、ではないけれど、それでも少しずつ。少しずつ。


これも国王の力なのだろか。そう思ったけれど、国王が去る前に見せた何とも言えない顔。何かを言いたいのに言えない。その顔が気になった。それに対したなずなのどうしたの?という顔が気になった。


一体何があったのだろう。なずなの部屋で何が。

何でもないとなずなは言う。言って笑う。散歩に行こうと腕を引く。

その姿を見ていると思う。


悔しいけれど。憎いけれど。ああ、今はそんなことはどうでもいいじゃないの、と。

だって、なずなが笑ってる。






何よりも大事なこと。






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