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想いと神子

考えた。

朝と違って暗い空。煌く星。静かに光る月。柔らかい、けれど少し冷たい風が髪を揺らす中、窓に腰かけて星を見上げながら考えた。


いつもこの窓から入ってきて出て行く男。

その男に向かって昼間、思わず手を伸ばして窓から落ちかけた。それが何故なのか、どうして手を伸ばしたのか。それを考えた。


帰らないで。そう思ったわけではない。断言できる。

では何だったのか。どうして手を伸ばした。男が空へと舞い上がった瞬間、覚えたあの感情は何だったのか。


手を伸ばす。


この手は何を求めたのだろう。

手を伸ばして、何を握ろうとしたのだろう。


手の先に見える月。

思わず掴めそうな気がしてしまうけれど、決して掴めない月。

ゆっくりと手を握って、やはり掴めなかったそのことに苦笑して。






諦めた。






何を諦めたのか、分からないままに諦めた。

諦めた中でただ、思った。明日は笑おう、と。


ここが私の生きていく場所。私の唯一の居場所。

だから笑おう。


周りに心配をかけてはいけない。不安にさせてはいけない。

そうすればいづれ失うのだ。この居場所を。


思い出すのは召喚されたばかりの頃のこと。

突然のことに混乱して、与えられた理不尽に憤って。

泣いて泣いて泣いて、怒って怒って怒って。そうして与えられたのは不信の目。


知っている。

こんなのが神子なのかと言われていたことを。

間違いじゃないのか。そうでないのならこんな神子は御免だ。

そう言われていたことを知っている。

なずなの前では神子様と敬うふりをして。笑っているふりをして。そうして裏ではいつだって疎ましそうだった。


なずなが彼らが思う神子ではなかったからだ。

だから彼らはなずなを厭った。今ではそれもないけれど、それはなずなが神子になったからだ。彼らの中の神子という偶像に一致したからだ。だからなずなは受け入れられた。


それを知っているから思うのだ。

ただのなずなになってはいけないと。どんなに辛くてもこの居場所を失えば、もうどこにも行くところはないのだから。なずなは誰もが望むように神子として王妃としてここにいなければいけないのだ。


皆が皆そうではないと知っている。

部屋から出来てきたなずなを心配そうに見ていた友人の侍女。いつも遠くから見ていてくれる友人の国王親衛隊員。

彼らはただのなずなでいても側にいてくれる。笑ってくれる。それが力になる。


大丈夫。一人じゃない。


ずっとずっとそれだけが笑うための力になっていた。

それに、だ。




『だからお前を助けてくれと、俺に頼んだのか』




男に誰かがそれを頼んだ。

何からだろう。

どうしてだろう。

男は詳しいことは何も語らないけれど。


友人達じゃない誰かが案じている。

友人達だけじゃなく、誰かが案じてくれている。

裏切りはあったけれど。辛くて悲しくて仕方ないことばかりだけれど。

それでもそのことが、酷く嬉しかった、から。






「明日は、笑おう」






笑おう。


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