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魔法使いと神子4


とん、と箒から下りると、ドアの鍵を開けて中に入る。漂う香りは薬草の匂い。

部屋に吊るされたものは薬草を乾燥させたもので、棚に並んでいるものは薬草を煎じたもの。子供の頃から見慣れた光景だ。


手に持った箒を所定の場所に立てかけ、フードを落とす。

十分注意してはいるが、万が一姿を見られた時に顔を確認されないように被っているのだが、それだけではない。


城には結界が張られている。許しのないものが触れれば王宮魔法士に知れるように、だ。

男には当然だがその許しがない。普通に触れれば神子に会うどころではない事態になる。だからローブに結界に触れたことを知られないための魔法を織り込んだ。

そのおかげでまだ城に忍び込んだことを王宮魔法士に気づかれずにいる。


そんな優秀なローブを脱いで椅子の背にかければ、窓に下り立つ鳥が数羽目に入った。

つぶらな目が何かを訴えている。それにため息ひとつ。


毎日毎日訪れる鳥達が聞きたいことなど決まっている。けれどまだ三日だ。何の進展があるものか。

思いながら窓を開けるのは、男が神子を訪れるより前から、鳥達が神子に会いに行っていたことを知っているからだ。ずっと憂いていたことを知っているからだ。

だから鳥達が望むように神子の様子を語る。男が見た神子の様子。




男に切ないほどに訴えかけてきた声…神と同じように、この鳥達も男に訴えかける。




何故自分なのか。神とは何の関わりもなかった。声を聞いたこともなかった。存在することは知っていたが、どうでもよかった。むしろ憎んだ時期すらあったのだ。

その自分にどうしてあれほどまでに訴えかけてくるのだろうと思っていた。

鳥達にしても同様だ。

男が一人で静かに暮らしていることを知っているのに。権力者と一切関わったことがないと知っているのに。なのにそんな自分にどうして神子を助けてほしいなどと言うのか。神子を助けるための権力など何も持ち合わせていない自分に。


…それはもう分かった。神子と会って、分かった。

神が、鳥が望んでいることは切欠だ。切欠を与えてほしいのだ、男に。


「…大丈夫だろう」


初めて会った日は泣かせた。そして睨みつけられて、また泣かれた。

二日目はベッドから出てこなかった。それでも受け答えはした。

三日目、今日はベッドから顔を出した。出して、別れる頃には窓から落ちそうになっていた。

あれはどうしてそうなったのだろう。普通に見送っていただけのはずだが、どうして身を乗り出したのだ、あの神子は。


思い出して首を傾げる。

ピ?と鳥が鳴いて、一羽の鳥が首を傾けるような仕草をする。

その鳥の頭を指で撫でて、大丈夫だ、と微笑む。


神子は男を見た。まっすぐに。

泣きはらした目で、胸の内に渦巻くだろう様々な感情を抱いて、それでもまっすぐに見た。


だからきっと、









近い未来、神と鳥達が望むように、彼女は笑うだろう。



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