魔法使いと神子2
放心したように男を見るなずなに、男は眉を寄せた。
うそ、と紡ぐ唇が歪んで、
笑った。
目から涙がぽろぽろと零れ落ちるのに、唇は笑みを作った。
「あなたの言ってることが、どうして本当だと信じられるの」
「信じる信じないはお前の自由だろう?」
神子。
国に平和をもたらすために召喚された少女。
民に希望を与え、疲弊した国に活気を取り戻し、平和を与えた少女。
国王と結婚して、幸せに笑っているはずの少女。
初めて神子が虜囚になっていると聞いた時は信じなかった。
国王と神子もまた感情ある一人の人間なのだと分かっていなかったのだろう。
めでたしめでたしから先があるなどと考えてもいなかったのだろう。
だから驚いた。
神子が住む城の一角には魔法がかけられていた。
神子に仕える使用人達もまた、魔法がかけられたものを見につけさせられていた。
そして神子の部屋にも、神子自身にもその魔法はかけられていた。
それは神子を逃がさないためのもの。
それは神子が余計なことを洩らさないためのもの。
神子の行動、言動の一部始終が誰かへと伝わるようにとつけられた監視の魔法。
それらが繋がる先は、と目を凝らせば見える。
城の中心にある部屋。机の上に置かれた水晶玉の中へと全て全て。
持ち主は、
王宮魔法士を統括する魔法士長。
「信じる?信じない?そんなこと」
なずなが呟く。
視線をなずなに戻せば、なずなが笑った。声を洩らして、笑った。
「だってどこかに行こうとしたら、誰かがくるの。必ず誰かが側にいるの。前はそんなことなかったのに」
それに、とうつむく。
「謝ったわ。腕輪を見て、目を伏せたわ。拳が震えて、たわ」
腕に嵌った腕輪を見るたびに、一瞬だけど目を逸らすの。
そう言ったなずなは、ぎゅううっと絨毯を握るように拳を作った。
神子は虜囚。
神子はどこにも行けない。
だから。
そう言った声に従ったことは、おそらくは正しかったのだ。
神子が床を叩いた。