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恋人と神子3



「愛している」



そう紡いだ唇を、信じられない想いで見つめた。

本当?

そう紡いだ己の唇に、本当にと紡いだ唇が下りてきた。


流れる涙は歓喜。


誰よりも側にいてくれた人。

誰よりも守ってくれた人。

誰よりも守りたかった人。

帰ることができない故郷への寂寥を慰めてくれた人。


好きだった。

大好きだった。

愛していた。

たとえ打算が混じっていたのだとしても、彼を愛していたことは事実だった。


「愛している」


今は別の女性に紡がれるその言葉を紡いでみる。

一人、誰もいない部屋で紡いでみる。

受け止めるべき人のいない言葉を。


「馬鹿じゃないの」


帰りたい。

そう思った。

帰りたい。帰りたい。帰りたい!!


側にいてくれる友人がいる。

遠くにいても気遣ってくれる友人がいる。

彼らがいなければとっくに叫んでいた。






家に帰して!!






流れる涙。洩れる嗚咽。

愛する女性を腕に抱いて、愛する男性の胸に抱かれて。

そうして微笑みあう二人が脳裏に浮かんで。



「…かえり、たい」



呟いた時、ふ、と風に紛れて知らない匂いを嗅いだ。


何だろう。

香水、じゃない。花の香りでもない。

何だろう。

知らない…知って、る?子供の頃嗅いだことがあるような。

何だろう。何だろう。


そうだ。

これは。

これ、は。


綺麗な薔薇の庭。薔薇の香り。そうじゃなく。

綺麗に大切に手入れされた色とりどりの花。そうじゃなく。

神子だから。王妃だから。ここは王城だから。だから目につくはずもなく。触れられるはずもない。

そんな匂いがする。






草の、匂い。






家族で出かけたピクニック。

駆け回った草の上。

敷き詰められたシロツメクサ。

母親と二人で作った花冠。

笑う父親の頭に飾って。




駆け巡る思い出に心が逸った。

その匂いがどこから漂ってくるのか、探さずにはいられなくなった。

そうして顔を上げた先、




知らない男が、いた。



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