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青春はほんの1ページ

作者: いづる

 三国 恭子は何か月も前から、なかなかはかどらない引っ越しの断捨離を実行していた。

放置していた鍵がかかった机の引き出しも、この機会にと整理していたら日記の前で手が止まった。


そのまま手に取った その瞬間


懐かしいという感情と同時に


あの頃に戻ったような思いが


私の心を急激に満たしていくのを感じた。


その日記の表紙には二匹のかわいい動物が、描いてあった。カバ、サルだ。

 思春期と言われる時期は、かわいいと言われているものにとても抵抗があった。ピンクの服や、レースのついたかわいいデザインのものも‥女の子らしさを前面に出すのが照れ臭かった。そんな私が、ぞっこんほれ込んだキャラクターだ。今ではとても懐かしい。


中学生の頃からつけ始めた日記


大人ぶりたかったのか


この日記にはすべての思い出が詰められている


◆◆〇〇◆◆


あの頃の思い出は


両親が離婚する?!


喧嘩するほど仲がいいという諺があるが


二人の会話をほとんど聞いたことがなかった。


仲が悪いとも思えなかったが、今思えば家族の溝が修復不可能なほどまでに広がっていたのかもしれない。


大、大、大、ショックだった。


私はどうすればいいの?


来年受験をひかえているというのに


こんな時期に親は何を考えている訳?


◆◆◆


今日の天気はどんよりとしていた。


雨を予兆したようにカラスの「カァーカァー」という鳴き声が


私には辛そうな悲鳴に聞こえていた。


その声は辺りに轟いている。


(今日はやけに、カラスが多いなあ)


ただでさえ勉強に集中できなかった私は、散歩に出かけるために外に出た。外は明らかに曇天の表情で暗く沈んでいた。


カラスの鳴き声を背に近くの公園についた。


ポツボツ‥

(雨?)

ポツポツ‥ 


「冷たっ!! あ~ やっぱり傘持ってくればよかったー。でも少しぐらい濡れてもいっかぁ」視線を公園側に移すと、同級生の見知った顔?が見えた。


桜庭 信二。うちの学校は校風が厳しいので有名なのだが、長髪で制服のシャツがいつも出ているのは彼だけだった。いくら強面の指導の先生に叱られようが職員室に呼ばれようが動じない彼は、クラスの中ではいささか不良のような目立つ存在だ。

(あっ、私に気が付いた?!)

でもほとんど目に覆いかぶさった前髪で、表情はわからなかったが。 


「三国か? おまえん家近いんだ?」近づいてくる信二は前髪を、かきあげながら話しかける。

「うん」

(どうしよう。人と話すの苦手だし特に男子とは、ほとんど話したことないのに‥。そうだ。さりげなく逃げよう)


「おい、待て。逃げるなよ。俺んち近いから今から来いよ、傘貸してやるから」と、なかば強引に連れてこられた。えっ、ここ? ここなの?

ここって。美容院『空』だった。平日でも列ができるほどの人気店で公園の真ん前。私の家からでも5分位しか、かからない。

高そうだからいったことはないけど‥。


店の横の階段を二階へと上がる。

「はい、傘」手すりにかけてあった傘を渡してくれる。


「あ、ありがとう」っていうか、帰った方が早いんだけど。


「今から、1時間ほど暇か?」


「暇じゃないです」


「おい即答かよ、それに同級生に敬語はやめてくれよ。ちょっとカットモデルを探してるんだ。協力してくれないか?」


(カットモデル?私の髪、これ以上どこを切るというの?)


厳しい校則にかからないように、前髪は眉毛の2㎝上。後ろ髪は、襟につかないようにバッサリと超短いおかっぱ頭。


その間を、察したのか。


「ちょうど今日店休みだし、もっとおしゃれにしてやるよ。えっ、いいの? ありがとう」


(いや。まだ、返事してないんだけど‥)

また押し切られて、お店の椅子に座っていた。

(優柔不断な私、嫌になる)

そして髪の毛がかからないようにと、首にタオルを巻いてケープを掛けてくれた。

信二は手早くいつも降ろしていた自分の前髪を髪留めで止めていて、後ろの長い髪も手慣れたようにゴムで結んだ。不思議。なんだかとっても様になっているし、隠れていた顔も鏡越しに初めてはっきりと見えた。


「おい、前を見ろ」と言いながら、慣れた手つきで水を霧吹きで髪全体に湿らしていく。


鏡に映った信二はとても、真剣だけど楽しそうでにやにやしてる。

「お前さ、俺の顔に見とれてるってか? あとここが、俺んちって知らなかっただろう?」器用にハサミを動かしながら、同時にパラパラと髪の毛が小気味よく落ちていく。

(すごい。しかも喋りながら切っていくんだ。プロじゃん)


「こんなに近くにいて、それはないよなあ。俺はずっと知ってたぜ。さっきはとぼけていたけど」


なんかすごくいい気分。さっきまで最悪だったのに。


「聴いてる?」


「あっ、ごめん。すごいなあって思って。プロの美容師みたいだなって」


「まあ、ガキの頃からなんだかんだ店手伝っているから。あと、一応カットモデルでもお金いるんだ」


(あっ、そういうことか)

「今、お金もっていないから後にしてくれる?」言葉を言い終わるか終わらないぐらいで即答する。


「でも、お前からは俺は取らない。その代わり、俺の髪を切ってほしいんだ」


「えっ、わっわっわたしが? 聞き間違い?」


「いや、聞き間違いじゃねぇ。もちろんカットハサミも持ったこともないのは知ってる、切るだけだ。修正は自分か親にしてもらうから。大丈夫だ」


「だ、大丈夫って! ちっとも大丈夫じゃないんだけど。それに、髪は切りたくないんでょ?」


「やったな!!今日初めてお前の言葉たくさん聞けたぜ」


「‥」言われて意識すると、顔が少しほてってくる。


「願かけって、知ってるか?」


「確か、願いが叶うまでは好きなものを食べないとか」鏡越しに、信二は首をさかんに縦に動かしてる。


「今日、俺の願いが叶ったから髪を切る」


(願いごと‥。そうだったんだ、先生達に歯向かってまで)


「ごめん、ちょっと椅子を回すね。後ろ髪確認して、どう?」お喋りしながらいつのまにか完成してた私の髪。自分でいうのもなんだけど。こけし頭から、すごい。すご過ぎる。鏡の向こうにはパーマをかけたわけでもないのに、全体的に毛先がウェーブしていていつもとは違う少し大人っぽい自分がいた。


「あっ。ありがとう」結局こんなありきたりな単語しか、出ないなんて情けない。


「いいよ。顔をみれば、満足してることがわかるから十分だよ」接客に慣れているからか、気のきいた言葉は同じ年とは思えない。


「さあ、少し休憩してからお前の番だ」


「‥」


◆〇◆〇


あの頃のことが、日記に何ページにもわたって書いてある。

私の髪を切り終わった後に信二は椅子に座りながら、ああでもない。こうでもないと、初めて人の髪を触る私に髪を何等分かに分けてピンの止め方を教えてくれた。それからハサミの持ち方や、切り方などを丁寧に教えてくれた。もちろん初歩の初歩だったとは思うけれど‥。


あれから、4年も経った。


両親は今でも会話は少ないけど、こういうのを仲が良いというのか‥。


私が4年前引き出しから見つけた数枚の離婚届けは、ガンを患った父が面倒をかけたくないから母に渡したものだったらしい。


母は失くしたといっては、父に何枚も取ってこさせた。

そのうち父も離婚をあきらめたみたいだ。

そのガンもいろいろ検査を進めていくうちに、良性だということが判明。


まったく人騒がせだ、と日記に書いてある。


ページをめくると私と信二君の髪を切る前の写真と、切った後の写真や信二君が、私の緊張を和ますための変顔とか、二人のピースサイン等の数枚の写真が挟まれていた。


髪を切った翌日。さっぱりしたショートの信二は、数日先生含め皆の注目をあびていた。そのおまけのように。私のお洒落な髪型も、こけし頭の女生徒に囲まれ質問攻めにあった。

今でも思い出す、走って逃げようとしたうぶな私。それからは信二君とは家が近いせいもあって、両親のこととか色んなことを話せるようになっていた。

最近になって願掛けの内容も、話してくれた。


家が近くて気になっている女生徒がいると、信二は大好きな婆ちゃんに小学生の頃相談したらしい。それが、願掛けの発端だった。そして、その女生徒が私だと言うことも‥。


全てが 私の中のほんの些細な


青春の一ページ  


日記を閉じる


「恭子、ご飯できたよー」母が、キッチンから呼ぶ声が聞こえた。


「待って、今行く~」


続きは、またそのうちに‥


                    END

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