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ラブコメ・恋愛

蛙化現象されたと思ったら、好き避けの限界突破だった


夏の放課後のグラウンド。夕日が沈んできて、体育館が影を作っていた。風が優しく吹き抜ける中、部活終わりのグラウンド整備をしていた。ベースランニング後の走塁の跡にトンボをかけていく。


 他の部員もだいたいの整備を終えて、トンボを片付けていく中、最後にバッターボックスにトンボをかけていた。あんまり急いで行っても、部室は着替えている部員であふれている。夕日の光が鮮やかで、グラウンドの色が空の色とオレンジに溶け合っていった。周囲は雑音もなくなって、西の茜色の空の余韻に、ぼんやりと目を奪われていた。やることが終わって、部活終わりの疲労が身体にじんわりと広がるような気がした。


「せ、先輩、そろそろ着替えませんか」


 振り向くと、後輩のマネージャーだ。今年加入したばかりの一年生。白崎しらさき夕凪ゆな。自分が夕日の光を遮っているせいで、彼女の輪郭は影でぼやけている。


「ああ、ごめんな。すぐ着替えるから」


「いえ、かまいません・・・・・・けど」


「鍵返しとくから、先に帰っておいていいよ」


 部室の鍵を最後は、体育館付属の事務室に返すことになっている。一応、部活中は鍵はマネージャーが管理することになっているけど、部員だったら、誰でも鍵を取りに行ったり、返しもしている。

 持っているであろう鍵を受け取るために手を伸ばしたけど、彼女は周囲をキョロキョロと見て、鍵を渡す様子ではない。

 何か言いたいことがあるようでーー。


「せっ、先輩……」


 彼女の頬が赤くなっている気がするけど、もう紫色に変化してきている空の色がなにもかもを深く染めていた。


「好きです。付き合ってください」


 小さな声だったけど、もう静かになったグラウンドでは、ハッキリと聞こえた。

 人生で告白なんてされるとは思っていなかった。しかも、今、こんな突然に。


「あ、ああ」


 と、生返事を返したあと、後輩が固まったままでいると、放課後の放送が鳴った。


『部活動終了時刻です。生徒の皆様は、すみやかに片付けを終えて、下校してください』


 固まっていたマネージャーはパッとひるがえって、部室の方に走っていってしまった。


 付き合うことになった?

 一年生の後輩と。


『繰り返します。ーー』



 部室のほうに、すこし時間を終えて向かうと、部室の鍵は、鍵穴にさされていた。

 誰もいなくなった部室で、いそいそと着替えた。

 残念なことに、すでに校門の門が閉められていたので、自転車ではなく校舎の壁を飛び越えて、歩いて帰ることになった。





 告白をされて、オッケーをして、しばらくが経った。もうそろそろ夏休みに入ろうとしていたが、あれっきり白崎夕凪とは部活で少し話す程度。それ以外は、逆に避けられてさえいるような気がする。

 本当に付き合っているのだろうか。まさか、俺が夕日にあてられて勘違いしただけだったり、やっぱり聞き間違いだったか。

 朝練が終わった後の教室で、半ば睡魔に襲われていた。


「眠そうだな」


 声で判断すると、修也しゅうやだ。

 修也が来たということは、そろそろチャイムが鳴るのだろう。いつも遅刻ギリギリで来るやつだから。


「なー、付き合ってるのに避けられることってあるかー」 


「蛙化か。まず彼女ができてからそういうことを言うんだな」


 できてしまったんだよな。

 この夏休みになると、うちの部活は、二年生は全員丸刈りだから、それまでにせめて彼女を作りたいと口にしたけど。絶対にモテなくなるから、その前に作りたいと。

 で――。


「かえる化ってなんだ」


「彼氏のダサい行為を見て、一気に気持ちが冷めちゃったっていう流行語」


 まさか、俺が部活中に見せた三振やエラーがマネージャーの白崎にとってダサすぎたと。それとも投げ方や打撃フォームか。汗の匂いとか。


「具体的には」


「長い商品名を全部言っちゃう、フードコートで席を探してうろちょろ、必死に自転車をこぐ姿。駅の改札口でつっかえる。

 まぁ、マンガだと突然メガネを外してイケメンだったがあるけど、現実はその逆ってことだな。ちょっとしたことで好意がただ下がり。ギャップ萌えの逆位置」


 そんなことで一瞬で熱が冷めるものなのか。女子は温まりやすく冷めやすいということか。女心と秋の空。つい、夕日の雰囲気にのまれて、告白してしまったけど、今頃、後悔しているとか。

 仕方ない、ちゃんと確認でもするか。

 こういうときは、女子マネに聴いてみるのがいいか。白崎と仲の良さそうな牧村にでも。




「おーい、牧村ー」


「あれ、先輩、どうかしましたか」


 学校の食堂で、ちょうど牧村を見つけた。同学年の女子数人と一緒に食事中だった。

 食堂価格の安い五目ラーメンを食べていた。


「食い終わった後でいいから、ちょっと時間いいか。話したいことがあって」


「いいですよ」


「急がなくていいから。俺もこれから食事だし」


「はーい」


 俺はとりあえず唐揚げ弁当を買って、その辺の学食のイスに座って食べ始めた。

 しばらくしたら、牧村は微糖のコーヒーを持って、対面のイスに座った。


「それで、先輩なんですか。今日の部活関連ですか」


「いや、その、なんだ。そうじゃないんだ。白崎のことなんだが、なにかきいてないか」


「うーん、なにも。もしかして、退部とか。でもそんなかんじなかったけど」


 どうやら牧村にも、俺に告白してきたことは伝えてはいないようだ。

 俺が、付き合っていることをばらすのは問題だろうか。

 しばらく返事を返さない俺に対して、牧村は怪訝そうな顔を向ける。 


「えっと、先輩」


「これは友達の友達の話なんだが――」


「はい?」


「告白をしてオッケーされたのに一切進展がないらしいんだ」


 しばらく話の脈絡に考えこんでいるような様子だったけれど、牧村はニマっと笑うと。


「…………それは、ただお互い何をしたらいいか分からないからじゃないですか。まずはデート、次にデート、そして、最後は――自主規制じゃないですか」


「つまり、デートすればいいと」


「そうですそうです。ここは男子の方が積極的に誘うべきですね。女子に告白までさせたんですから」


「ん、俺、女子からなんて言ったっけ」


「あっ、いえ、進展がないなんて、男子が全く行動しない系に違いないという女の勘です。と・に・か・く、友達の友達さんは、ショッピングとか映画とか定番な場所に一緒に行けばいいと思います」


「そうか。友達の友達にそう言っておくよ。でも、もしかしたら、告白したけど、嫌いになったっていう可能性がないか。自然消滅を狙ってるみたいな」


「それは考えすぎですね」


 牧村は確信をもっているかのように答える。


「何もなければ、そんなすぐに気持ちなんて変わりませんよ。着替えを覗いたり、変な趣味を見せつけたり――ではでは。そろそろ、チャイムがなりますので。次、体育なので、先に失礼しまーす」


「ああ。悪いな。昼休みなのに」


 俺は、牧村を見送った。

 飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱にいれていた。


 俺はその日の部活終わりに白崎に、次の日曜日に近くのショッピングモールに行かないかと、誘った。

 白崎は、こっちを見ずに、コクコクと首を縦に振ってくれた。

 





 市内に一つだけある大型のショッピングモールの一階。少し狭めのコーヒー豆を中心に扱っている食料品店で待ち合わせをしていた。店頭で提供している紙コップに入れられたコーヒーをチビチビと飲んでいると、白崎が来た。

 当たり前だが、部活や学校で来ている服と違っている。だけど、白崎らしいゆったりとした落ち着いた服装。白いUネックのTシャツに春らしいカーディガンを羽織っている。下はシンプルなロングスカート。首元には小さめのネックレス。あんまりじろじろ見るわけにはいかないが、花の形だということは分かる。


「ま、待ちましたか」


「ううん、全然」


 この店で、白崎は豆を200g買っていた。牧村に、らしい。マキちゃんはコーヒー好きらしい。 

 あとで、俺も買っておこうと思った。相談にのってもらったし。修也には何もいらないが。

 俺たちは、三階の映画館に行き、今ちょうどやっていた恐竜映画を見ることにした。人が食べられる描写もあるだろうし、大丈夫か訊いたけど、白崎は、特に問題ないと微笑んでくれた。

 映画のチケットを買うために端末をつつく。


「ここの席でいい」


「わたしはここで」


 一席、空けられていた。

 ん、俺、どこかで間違ったか。やっぱり、嫌われて――。

 このデートは最後の餞別的な意味、もしくは先輩だから仕方なく的な義務感。


「そ、そうか」


 あんまり、なんで席を一つ空けるんだと問い詰めるのはしづらい。パワハラかもしれないし。白崎は、映画にがっつり集中するタイプで、いつも女子の友達と見ているときも一席あけているのかもしれない。

 まさか映画館の端末操作がスムーズじゃないから蛙化されたとかないよな。映画館のエスコートなんて勉強してない。


 白崎のことが気になって映画に集中できなかった。

 彼女とのデートでありがちな手と手が触れあうとか、寝ちゃって肩に寄りかかられるとかもなかったのに。

 間に、他の人が座っていなかったのは、よかったけど。


 映画の内容を話の種になんとか会話をしながら、お昼までの時間をショッピングモールで潰そうと歩いていた。服のお店が多く、ホビーや楽器の店を過ぎて、本屋近くになった。


「寄っていっていいですか」


「うん」


 彼女はロングスカートを揺らして本屋の方に足早に進んでいった。

 思えば、白崎はよくマネージャーで暇なときには本を読んでいたなぁ。

 というか普通に置いてかれたな。


「おや、先輩じゃないですかー」


 白崎がちょうど本屋に消えたあたりで、牧村が、ああ……、カラフルな下着屋の方から歩いてきた。

 ラフな格好で、ショートパンツに丈の短いデニムのジャケットを着こなしていた。ボーイッシュなスタイルは、マネージャー仕事で日焼けをしている彼女によく似合っていた。


「ま、牧村、その、何買ったんだ」


 って、おい、俺。いったい、何を聞いているんだ。

 動揺しすぎだ。よかった、近くに白崎がいなくて。


「ああ、これですか。さっき寄った店で買った服です。見てみますか。可愛い系ですよ」


 やめてくれ。そのさっき寄った店の物を本屋で広げないでくれ。

 いたたまれないから、俺が。

 後輩に、下着を見せるようにする先輩。セクハラすぎる。


「って、なんで、目をつむるんですか。大丈夫ですよ」


 牧村がそう言うから、俺は目を開いた。


「ねっ、ちょっとだけミニなスカートです。可愛いでしょ」


 よかった、下着じゃなかった。

 いや、これはこれで、よかったですませるのか微妙だけど。

 

「それで、先輩はデートですか」


「い、いや、本屋で暇つぶしをな」


 白崎は、マネージャー友達にも伝えていないようだしごまかしておかないとな。


「なんだか気合い入ってそうな格好だったのに。それで、先輩、どうですか。本屋より、こっちの店で暇潰ししませんか」


 牧村が指さす、こっちの店とは、カラフルな下着屋だった。刺繍が入った胸筋サポーターたち。


「男性目線を勉強する良い機会ですから。赤や黒がいいですか、それともピンクとか水色」


「――すまないが、女子と下着屋で雑談できるほど恋愛経験ないから」


 そんなところで牧村としゃべっているところを見られた場合、確実に、白崎との恋愛関係が破綻する。


「先輩、でも、本屋でグラビア見てるって聞きますけど」


「いったい、誰が。いや、修也だな。それはフェイクニュースだから信じないように」


「で、どんな下着が好みなんですか」


 話がそれてくれない。なんで、そんなに下着の話をしたがるのか。


「なぁ、牧村。デートの映画で席を一つ空けられた場合、脈なしだと思うか」


 そらそう。下着談議だけはしたくない。背に腹は代えられない。


「えっと、先輩。もしかして、振られたんですか」


「友達の友達の話だ」


「ああ、友達の友達さん。…………まっ、大丈夫なんじゃないですか。パーソナルスペースってあるじゃないですか。それが広いだけですよ」


 そういえば、白崎遅いな。目当ての本がないのか。

 俺はキョロキョロと本屋を見回す。はたと、目があった。し、白崎。 


「まぁ、ゆっくり距離を縮めていけば上手くいくと思いますよ、わたしは」


「今、破綻するかもな」


「ん、なにか言いましたか。それじゃ、わたしは、これから友達と買い物なんで」


 牧村は嵐のように去っていた。

 そして、もう一個の静かな嵐がやってこようとしていた。


「先輩、お昼にしましょうか」


 白崎は、牧村のことを尋ねることなく言った。さっき買ったであろう本の袋を抱えて。


 


 東館の二階に行き、フードコートに。

 無言。白崎は後ろを着いてきてくれるけど。

 俺は、お昼時の混んだフードコートで席を探して――――。

 た、たしか、修也がフードコートで席をうろうろ探す姿で、蛙化するとか。

 

「なにか、苦手なものとかある」


「か、辛いのは、苦手です」


 って、フードコートだし好きな物選んで買うか。

 いかん、嫌な汗かいてきた。部活のときとは違って、芯が冷えるような。


「えっとな、牧村とは偶然会って、話していただけだから」


 なんか浮気の言い訳しようとしている男の気分だ。


「分かってます。なに、話していたんですか」


 主に、下着の話を――――言えるわけない。


「いや、とくに特別な話は」


 ああ、人の心が読めないのは不便だな。白崎、怒っているのか。それとも、全然気にしていない。

 分からない。

 白崎は内気で、あんまり感情が読めない。初デートってこんなものでいいのか。

 もしかして、すでに不合格認定でてたりする。デートめんどいし、本でも買っとこうだったり。


「俺、あっちの唐揚げ定食買ってくるよ」


「はい」


 白崎を席において、列に並ぶ。白崎は動かない。とくに、買う店を決めているようにも見えない。

 えっと、まさか食べないつもりか。ダイエット中か。いや、お昼にしようと言ったよな。

 フードコートはデートではアウトだったか。地下一階のレストラン街に行くべきだったか。

 そうこう考えながら唐揚げ定食を購入して、ブザーの出る機械を持って席に戻った。


「白崎、なにか食べないのか」


「食べます。わたしも買ってきますね」


 白崎は立ち上がって、俺が買ったのと同じ店に。

 えっと、俺と並ぶのが嫌だった。

 いやいや、きっと席取りでいたんだ。荷物おいておけば大丈夫だけど、白崎はセキュリティ意識が強かったんだ。

 白崎も同じ唐揚げ定食を買って、フードコートでの食事を終えた、黙々と。


 このままデートを終えるのもアレだったので、ショッピングモールをブラブラしていると、白崎と服屋に入ることになった。


「こ、こういうのは、どうですか」


「うん、似合ってるよ」


 さっきから似合っているとばかり答えていた。実際に似合っていたから。

 でも、こんな同じの無難な答えばかりしているのは、やっぱりマズいんだろうなぁ。

 そして、思っているんですが。

 徐々に、露出度が大きくなってきているような……。


「先輩、こういうのは――」


「……」


 ヘソ出しだった。顔、赤いよ。

 

「や、やっぱりナシで」


 白崎は、試着室のカーテンを閉めた。

 俺、どうすればいいんだ。分からない。白崎の行動が全く分からない。

 好かれているのか、嫌われているのか。

 二回目のデートはないから、せめての眼福にファッションショーでも見せられていたり。いや、それは悲観的すぎるか。


 ファッションショーが終わった後、白崎は一着購入。初めの方で試着した比較的落ち着いて服を。

 そして、なぜか、俺たちの距離は広がった。間に子供でも入りそうな距離に。

 うん、これはデート失敗の予感。





「牧村ー、友達の友達さんの話なんだが」


「わたし、お昼に先輩と食べていていいんですか」


 牧村を昼休みに部室に呼んで、一緒に食事をしていた。勘違いする人間に見られたら、恋人同士が昼休みの部室で密会しているように思われそう。


「大丈夫だ。なんも問題ない。それで、友達の友達の話なんだが、どうやら一回目のデートで失敗したようで、さらに距離を取られるようになってしまったみたいなんだ」


「えっ。えっ。そ、それは、誤解なんじゃ――」


「いや、きっと、友達の友達が一回目のデートであんまりにもスマートじゃなさすぎて、幻滅したんだと思う。蛙化されてしまったんだ。千年の恋も冷めるように」


「な、なにしたんですか」


「映画館の席の購入もスマートにできず、フードコートでは席を探すのに手間取り、さらには、彼女の試着に同じような答えばかりをしてしまった……らしい」


「えっと、それだけ?」


「きっと先輩という憧れ像とのギャップが激しくて憎さ百倍という現象なんだと思う。最近は、話しかけようとしても、全力で逃げられている……らしい」


「はぁ、この恋人たちは――」


 牧村は呆れたように何か呟いた。


「明日、また、ここで話しましょう。整理する時間が欲しいので」





 次の日。

 昼休みに部室に行くと――、白崎がいた。

 白崎は本を読んでいて、顔をあげて微笑んだ


「ま、まきちゃ……せ、せんぱいっ!」


「ご、ごめん」


「…………ま、まきちゃん、こ、これは困るよぉ」


 小声で白崎はなにか呟いている。本を閉じて、制服のスカートの上にのせる。


「えっと、どうして、部室に」


「――マキちゃんが、話したいことがあるっていうから」


 これは、牧村には全部バレているということか、さすがに。

 下手な言い訳だったし。

 後輩に告白させているわけだし、ここは、しっかり別れたいなら別れたいって言っていいよ、と言うべきなんだろうなぁ。そういうお膳立てか、牧村。


「白崎。その、蛙化したなら、そう言っていいからな」


「そう、ですね…………かえる化?……………………………してます」


「そうか。先輩補正だったんだな。じゃあ、別れるか。ありがとう」


 俺はそっとドアを閉じて、部室を去った。




 その日の部活は、やけにしんどく感じた。肉体的に、というより精神的に。

 普段と同じメニューなんだけど。

 ああ、もう夏も近いし、さっさと丸刈りにして恋愛とおさらばするか。

 いつかの告白現場のように、俺は一人、夕日の中トンボをかけていた。


「先輩」


 声をかけてきたのは、牧村だった。

 鍵のことだろう。


「あんまり変な用語を使わないように」


 全然関係ない雑談のようだった。


「変な用語?」


「蛙化です。白崎は読書は好きでも流行語なんて全然知らないんですから。あの子、蛙化ってどういう意味だと思っていたか知ってますか。温度をゆっくり上げれば気づかないうちに蛙が茹で上がること、だって」


「……?」


「だから、さっさと、復縁してこおおおおぉぉぉーーーーーーーーいッ!!」


 夕日に向かって、牧村マネは叫んでいた。

 はぁはぁと大声で息を切らしていた。


「スッキリした。あと、先輩、付き合ってるなら連絡先ぐらい交換しなよ」


 牧村は、部室に白崎を残しているから、あとは知らないと、そのまま駐輪場の方に歩いて行った。

 牧村のお膳立てパート2に従って、部室に行くと、白崎がいた。

 

「先輩、今度、流行語でも一緒に調べてみませんか」


「ああ、そうだな」


「その後、関係は順調そう?」

「うん、超ベリーグッド」

「流行語さかのぼりすぎて死語になってるよ、それ」

「そうなの」

「そういえば、前にプレゼントしたスカート着てみた」

「恥ずかしかったけど」

「そして、これ。最終兵器、童貞を殺すセーター」

「普通のセーターじゃあ…………えっと、背中は?」

「時代の軽量化についてこれなかった」

「わたしもついていけないよ」

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